2015年07月30日更新 中東呼吸器症候群(MERS)の発生状況 (更新57)

2015年7月29日に公表された世界保健機関(WHO)の情報によりますと、サウジアラビアの国立国際保健規約(IHR)担当者は7月16日から25日の間に、死亡者1人を含む新たな中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)感染者8人をWHOに報告しました。

●症例の詳細情報

  1. 1.30歳男性。リヤド市の住民で、7月22日に発症し、同日に入院しました。この患者には基礎疾患はなく、7月24日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。現在、この患者は安定した状態で、病棟の陰圧室で隔離されています。患者は検査室検査で確定したMERS-CoV患者(下の症例7を参照)との接触がありました。発症までの14日間における他のリスクファクターとの接触について調査が進められています。
  2. 2.28歳男性。サウジアラビア国籍を持たないリヤド市の住民で、7月22日に発症し、7月23日に入院しました。患者には基礎疾患はなく、7月24日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。現在、この患者は安定した状態で、病棟の陰圧室で隔離されています。この患者は検査室検査で確定したMERS-CoV患者(下の症例7を参照)との接触がありました。患者にはラクダの生の肉の摂取歴はありませんでした。発症までの14日間における他のリスクファクターとの接触について調査が進められています。
  3. 3.54歳男性。サウジアラビア国籍を持たないリヤド市の住民で、MERSとは関係のない慢性疾患で7月20日から入院していますが、7月20日に発症しました。7月22日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。現在、患者はICUに収容され、重篤な容態です。同じ病院に入院したか同じ医療従事者が担当した検査室確定MERS-CoV症例(下の症例5と、7月24日にDONに掲載された症例2を参照)と、疫学的な関連の可能性について調査が進められています。
  4. 4.52歳女性。リヤド市の住民で、7月17日に発症し、同日に入院しました。患者には基礎疾患があり、7月21日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明し、7月22日に死亡しました。患者の家族に検査室確定MERS-CoV患者(下の症例5を参照)がいました。
  5. 5.56歳男性。リヤド市の住民で、7月13日に発症し、7月15日に入院しました。患者には基礎疾患があり、7月19日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。現在、患者はICUに収容され、重篤な容態です。患者は頻繁にラクダとの接触機会があり、生乳も飲んでいました。
  6. 6.60歳女性。リヤド市の住民で、7月12日に発症し、7月19日に入院しました。患者には基礎疾患があり、7月21日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。現在、この患者は安定した状態で、病棟の陰圧室で隔離されています。この患者はラクダ農場が数か所ある地域に住んでいますが、ラクダとの接触歴やラクダの生乳の摂取歴はありませんでした。発症までの14日間における他のリスクファクターとの接触について調査が進められています。
  7. 7.32歳男性。サウジ国籍を持たないリヤド市の住民で、7月15日に発症し、7月19日に入院しました。患者には基礎疾患はなく、7月20日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。現在、患者はICUに収容され、重篤な容態です。発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触について調査が進められています。
  8. 8.93歳男性。フフーフ市の住民で7月12日に発症し、同日に入院しました。患者には基礎疾患があり、7月16日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。現在、この患者は安定した状態で、病棟の陰圧室で隔離されています。この患者は自分のラクダ農場を所有していますが、ラクダとの接触歴やラクダの生乳の摂取歴はありませんでした。発症までの14日間における他のリスクファクターとの接触について調査が進められています。

これらの患者に対して、家族と医療機関の接触者追跡が行われています。

サウジアラビアの国立国際保健規約(IHR)担当者は、DONに報告した以前のMERS-CoV症例、7月24日*(症例4)と7月23日(症例2)の2例が死亡したことをWHOに報告しました

WHOは、2012年9月以降、1,382人の検査確定したMERS-CoV感染の患者報告と、少なくとも493人の関連する死亡報告を受けています。

●WHOからのアドバイス
WHOは、現状および利用可能な情報に基づいて、加盟国すべてに対して、急性呼吸器感染症に関するサーベイランスを継続し、また、いかなる異常な症状を示す患者についても注意深く調査することを勧めています。

感染予防と制御の対策は、診療施設においてMERS-CoVが拡がる可能性を防ぐために極めて重要です。他の呼吸器感染症と同様に、MERS-CoVの初期症状は非特異的なため、通常、早い時期に患者をMERS-CoVと診断できるものではありません。したがって、医療従事者は、診断にかかわらず、すべての患者に対して常に一貫した標準感染予防対策を適用する必要があります。急性呼吸器感染症の兆候を呈している患者の治療にあたる場合には、標準感染予防対策に加えて、飛沫予防対策を行うことも必要です。また、MERS-CoV感染の可能性がある患者、あるいは確定診断された患者の治療にあたる場合には、接触予防対策および眼の防護策を追加すべきです。さらに、エアロゾル(微粒子)が発生するような処置を行う場合には、空気感染の予防対策を行う必要があります。

今後、MERS-CoVに関して解明が進むまでは、糖尿病、腎不全、慢性肺疾患、免疫不全のある人は、MERS‐CoV感染で重篤化するリスクが高いと考える必要があります。したがって、これらの人は、ウイルスの存在する可能性がある農場、市場あるいは家畜小屋のある地域を訪れる場合、動物に近づくこと、 特にラクダと濃厚接触することを避けなければなりません。動物に触れる前、触れた後には必ず手洗いを行い、病気の動物との接触を避けるという一般的な衛生習慣をしっかりと守るべきです。

食品に対する衛生習慣に注意するべきです。ラクダの生乳あるいは尿を飲むこと、また、調理不十分の肉を食べることは避けるべきです。

WHOは、警戒体制をとりながら、発生状況を監視しています。地域住民の中で人から人へ持続的に感染が伝播していることの証拠は得られておらず、WHO は、この事象に関連して渡航や貿易を制限することを勧めてはいません。感染の影響を受けた国からの、また、影響を受けた国へ行く、渡航者において、 MERS-CoVに対する注意を向上させることは、公衆衛生の実践におけるよい習慣となります。

大きな集会を予定しているホスト国では、MERS-CoVに関してWHOから発行されたすべての勧告とガイダンスが十分に考慮されており、すべての関係職員にそれらが利用可能であることを、公衆衛生当局が確認しておく必要があります。また、公衆衛生当局は、多くの人々が集まる期間中に、来訪した人々に対して医療システムが確実に対応できるように、急激な患者増加の際の収容能力に対して計画しておく必要があります。

正誤表
*2015年7月29日に更新。データは7月2日から24日に修正された。

出典

WHO.Global Alert and Response(GAR).
Middle East respiratory syndrome coronavirus(MERS-CoV) - Saudi Arabia. 29 July 2015.
http://www.who.int/csr/don/29-july-2015-mers-saudi-arabia/en/