2015年11月16日更新 中東呼吸器症候群(MERS)の発生状況 (更新79)

2015年11月13日に公表された世界保健機関(WHO)の情報によりますと、サウジアラビアの国際保健規約(IHR)国家担当者は10月26日から11月1日の間に、新たに死亡者1人を含む中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)感染者7人をWHOに報告しました。

症例の詳細情報

  1. 1.28歳女性。サウジアラビア国籍を持たない(非サウジ国籍)Hofuf(フフーフ)市の医療従事者で、10月18日に発症し、同日、自宅での隔離となりました。10月23日に症状が悪化したために、彼女が勤めていた病院に入院しています。彼女に基礎疾患はありません。10月28日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。現在、彼女はICUで重篤な容態です。彼女はMERS-CoV感染が集団発生した病院に勤めており、MERS-CoV感染が確定診断された患者(10月29日付、No. 5および7)の世話を担当していました。発症までの14日間にその他に既知のリスクファクターとの接触はありません。
  2. 2.56歳女性。リヤド市の住民で、症状はなく、接触者の追跡調査で発見されました。彼女には基礎疾患がありました。10月26日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。現在も、彼女は症状がなく安定した状態で、自宅で隔離されています。彼女にはMERS-CoV感染が確定診断された患者(10月29日付、No. 2)と接触の機会がありました。発症までの14日間にその他の既知のリスクファクターとの接触はありません。
  3. 3.24歳女性。非サウジ国籍のリヤド市の医療従事者で、10月23日に発症し、10月24日に入院しました。彼女に基礎疾患はありません。10月26日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。現在、彼女は安定した状態で、自宅で隔離されています。彼女にはMERS-CoV感染が確定診断された患者(10月29日付、No. 3)との接触機会がありました。発症までの14日間にその他に既知のリスクファクターとの接触はありません。
  4. 4.81歳男性。フフーフ市の住民で、別の疾患のために9月18日から入院中、10月22日に発症しました。この病院ではMERS-CoV感染が集団発生していました。彼には基礎疾患がありました。10月27日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。現在、彼はICUで重篤な容態です。この病院に入院していたMERS-CoV患者並びに担当していた医療従事者との疫学的な関連の可能性について調査が行われています。発症までの14日間にその他の既知のリスクファクターとの接触はありません。
  5. 5.54歳男性。フフーフ市の住民で、10月15日から慢性疾患のために入院し、10月22日には退院していました。この病院ではMERS-CoV感染が集団発生していました。彼は、10月24日に発症し、10月25日に別の病院に入院しました。10月26日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。最初の病院に入院していたMERS-CoV患者並びに担当していた医療従事者との疫学的な関連の可能性について調査が行われています。発症までの14日間にその他の既知のリスクファクターとの接触はありません。
  6. 6.61歳男性。フフーフ市の住民で、別の疾患のために2007年より入院中、10月20日に発症しました。この病院ではMERS-CoV感染が集団発生していました。彼は10月22日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しましたが、10月30日に死亡しました。この病院に入院していたMERS-CoV患者並びに担当していた医療従事者との疫学的な関連の可能性について調査が行われています。発症までの14日間にその他の既知のリスクファクターとの接触はありません。
  7. 7.36歳女性。非サウジ国籍のフフーフ市の医療従事者で、10月15日に発症し、10月16日に勤めていた病院に入院しました。彼女に基礎疾患はありません。10月23日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。現在、彼女は安定した状態で、病棟の陰圧室に隔離されています。彼女はMERS-CoV感染が集団発生していた病院に勤めており、MERS-CoV感染が確定診断された患者(10月29日付、No. 5および7)の世話を担当していました。発症までの14日間にその他の既知のリスクファクターとの接触はありません。
    これらの患者に対して家族と医療施設の接触者への追跡が行われています。

WHOは、2012年9月以降、少なくとも579人の関連する死亡報告を含む、検査で確定された1,618人のMERS-CoV感染の患者報告を受けています。

WHOからのアドバイス

WHOは、現状および利用可能な情報に基づいて、加盟国すべてに対して、急性呼吸器感染症に関するサーベイランスを継続し、また、いかなる異常な症状を示す患者についても注意深く調査することを勧めています。

感染予防と制御の対策は、診療施設においてMERS-CoVが拡がる可能性を防ぐために極めて重要です。他の呼吸器感染症と同様に、MERS-CoVの初期症状は非特異的なため、通常、早い時期に患者をMERS-CoVと診断できるものではありません。したがって、医療従事者は、診断にかかわらず、すべての患者に対して常に一貫した標準感染予防対策を適用する必要があります。急性呼吸器感染症の兆候を呈している患者の治療にあたる場合には、標準感染予防対策に加えて、飛沫予防対策を行うことも必要です。また、MERS-CoV感染の可能性がある患者、あるいは確定診断された患者の治療にあたる場合には、接触予防対策および眼の防護策を追加すべきです。さらに、エアロゾル(微粒子)が発生するような処置を行う場合には、空気感染の予防対策を行う必要があります。

今後、MERS-CoVに関して解明が進むまでは、糖尿病、腎不全、慢性肺疾患、免疫不全のある人は、MERS‐CoV感染で重篤化するリスクが高いと考える必要があります。したがって、これらの人は、ウイルスの存在する可能性がある農場、市場あるいは家畜小屋のある地域を訪れる場合、動物に近づくこと、特にラクダと濃厚接触することを避けなければなりません。動物に触れる前、触れた後には必ず手洗いを行い、病気の動物との接触を避けるという一般的な衛生習慣をしっかりと守るべきです。

食品に対する衛生習慣に注意するべきです。ラクダの生乳あるいは尿を飲むこと、また、調理不十分の肉を食べることは避けるべきです。

WHOは、警戒体制をとりながら、発生状況を監視しています。地域住民の中で人から人へ持続的に感染が伝播していることの証拠は得られておらず、WHOは、この事象に関連して渡航や貿易を制限することを勧めてはいません。感染の影響を受けた国からの、また、影響を受けた国へ行く、渡航者において、MERS-CoVに対する注意を向上させておくことは、実践的な公衆衛生上のよい習慣となります。

出典

WHO.Global Alert and Response(GAR). 13November2015
Middle East respiratory syndrome coronavirus(MERS-CoV) - Saudi Arabia.
http://www.who.int/csr/don/13-november-2015-mers-saudi-arabia/en/