2016年02月09日更新 ジカウイルス感染症の発生状況

WHOよりジカウイルス感染症(いわゆるジカ熱)に関する発生情報が報告されています。2016年2月5日付けの世界保健機関(WHO)の情報によりますと、ジカウイルス感染症の発生情報の発生状況は以下のとおりです。

註:初めて発出された情報のため、今回はほとんどの原文を訳しました。次回からは、内容を簡潔に伝えるために、内容を絞って掲載いたします。

要約

  • 国際保健規則(IHR)に則り、2016年2月1日に事務局長によって緊急委員会が召集されました。事務局長は、委員会の進言に基づき、ブラジルで最近報告されている小頭症とその他の神経障害の集団発生は国際的な懸念に対する公衆衛生上の緊急事態にあると発表しました。
  • 緊急委員会は、まだ科学的には証明されていないものの、妊娠中のジカウイルス感染と小頭症との間には強い因果関係が疑われることで意見が一致しました。すべての専門家が、この関係性のさらなる調査と解明に対し、早急に世界で協調して取り組むことが必要であるという意見で一致しました。
  • 2014年1月から2016年2月5日までに、国内での感染伝播が合計33か国で報告されています。さらに6か国でも、局所的な感染伝播の間接的な証拠が見つかっています。
  • 2015年にアメリカ大陸で初めて感染が確認されて以降、ジカウイルスの地理的な分布は着実に拡大しています。地理的に、この病気を媒介する能力をもつネッタイシマカおよびヒトスジシマカなどのヤブカ属(ヤブカ属)が棲息する国では、さらに(感染が)拡大する可能性が考えられています。
  • 7か国では、ジカウイルスの流行と同時に、小頭症および/またはギラン・バレー症候群の発生数の増加が報告されています。
  • 調査活動、対策活動および研究に基づいて、WHOによる世界規模での予防と感染制御の戦略が開始されました。

一般知識

ジカウイルス

  • ジカウイルス感染症(いわゆるジカ熱)は、ネッタイシマカおよびヒトスジシマカなどのヤブカ属が媒介するウイルスによって引き起こされます。その他の感染経路は、まだ調査の段階です。
  • ジカウイルス感染症に感染した人々は、通常、軽度の発熱、皮膚の発疹(丘状疹)や、結膜炎を示します。これらの症状は、通常2-7日程続きます。
  • 現時点では、適応できる特定の治療法やワクチンはありません。予防ための最善の方法は、蚊に刺されることから身を護ることです。
  • ジカウイルスは、アフリカ、南北アメリカ、アジア、太平洋地域で感染伝播していることが知られています。
  • 2007年にミクロネシア31人の感染が発生するまでは、ジカウイルスは散発的に人に感染症を引き起こすことが知られているだけでした。

小頭症

小頭症は、赤ちゃんの頭囲が年齢や性別の平均値による予想よりも小さいことに基づく稀な状態です。その状態は、通常、適切に発達するはずの脳が発育障害を起こした結果であり、可能性として、子宮内で毒素、放射線、感染への曝露などの遺伝的または環境的要因によって引き起こされます。小頭症は、単に状態として存在することもあり、痙攣、発育遅延、や摂食困難などその他の症状を伴うこともあります。

ギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome:GBS患者)

典型的なギラン・バレー症候群の症状は、下肢から、両側に対象性に機能欠如を起こす急性の病態です。ギラン・バレー症候群の発症前には、ほとんどの場合に感染症の既往があります。GBS患者の年間発生率は、人口10万人あたり推定で0.4から4.0の間です。北米や欧州では、GBS患者は、一般的に成人に多く、年齢とともに着実に増加します。いくつかの研究では、男性が女性よりも発症しやすいことが示されています。

疫学情報

ジカウイルスの発生

  • 2007年から2016年2月5日までに、ジカウイルスの伝播は、合計で44の国と地域で記録されています。ここには、2015年から2016年までに感染伝播が報告された33か国、感染伝播の間接的な証拠のある6か国、ジカウイルスの感染伝播の記録があるが、現在はその報告のない5か国が含まれます。
  • 2015年から2016年にかけて、ジカウイルスの地理的な分布は着実に拡大しています。2014年後半に、ブラジル北東部でジカウイルスに関連する発熱性発疹の集団発生が認められました。ジカウイルスとの関連は、2015年4月に確認されました。2015年10月までに、ブラジル北東部(バイーア州)1州だけで、ジカウイルス感染症の疑似患者56,318人が報告されました。ブラジル政府は、感染発生のあまりの大きさに、ジカウイルス感染患者を数えることを中止しました。ブラジルの国家当局は、流行が始まって以来、ジカウイルスの感染者数は497,593人から1,482,593人に上ると推定しています。
  • ブラジルの後、コロンビアでは、2015年10月に同国初の患者が確認されて以降、2016年1月23日までに20,297人の患者が報告され、これまでに(確定患者数において)最も感染の影響を受けた国となっています。
  • ウイルスは急速な地域への広がりを見せました。2016年2月4日までに、ウイルスの局地的な伝播が報告されたアメリカ大陸の国と地域は26となりました。
  • 2015年10月には、西アフリカ沖の島カーボベルデで、ジカウイルスの発生が報告されました。2016年1月17日までに、7,081人の患者が報告されています。

小頭症の発生

  • 2015年10月に、ブラジル保健省はブラジル北東部にあるペルナンブコ州で小頭症患者数が異常に増加していることを報告しました。2001年から2014年の間には、年平均の小頭症患者数は163人と記録されています。(ところが、)2016年1月30日時点で、保健省は死亡者76人を含む小頭症および/または中枢神経(CNS)奇形4,783人を報告しました。
  • ブラジル政府は、小頭症の報告例4,783例のうち1,113例で調査を終結しました。(このうち、)709例では調査ができず、17例ではジカウイルスの感染が検査で確認され、387例では先天性感染症と一致するX線所見を得ました。検査確認例のうち、2例は流産で、残る15例は生きて誕生しました。全員がブラジル北東部の州での出生でした。
  • 先天奇形による死亡が報告された76件のうち、ジカウイルスが5例の胎児組織から検出されました。すべてがブラジル北東部からでした。ブラジルの小頭症患者が時間的・空間的にジカウイルス感染症の流行と一致しているため、より厳格な調査と研究が、この潜在する関連をより深く理解するためには必要とされます。
  • ブラジルで報告された小頭症の発生数の増加に関連して、フランス領ポリネシアで行政当局による出生データの見直しが行われました。2014年3月から2015年5月までの間に生まれた子どもで、小頭症の症例は例年が全国平均で0~2例であることに対し、小頭症9例を含む中枢神経系奇形18例への増加を示していました。
  • 2016年1月8日には、ハワイ州健康局が、最近、オアフ島の病院で小頭症の赤ちゃん2人で過去にジカウイルスの感染があったことが米国疾病対策センター(CDC)の検査室で確認されました。母親は2015年5月にブラジルでジカウイルスに感染した可能性があり、彼女の新生児も子宮内で感染したようです。ハワイでは、ジカウイルスの国内感染は報告されていません。

図1-AおよびB. 2006年から2016年までにジカウイルスの国内感染が発生した国と地域

図1-A.ウイルスの感染伝播の徴候が示された地域、国内での感染伝播が報告された地域.jpg

図1-B.ウイルスの感染伝播の徴候が示された地域、国内での感染伝播が報告された地域.jpg

この地図において使用されている国境と名称並びに呼称は、WHOの役割において、いかなる国、領土、都市や地域のあるいはその行政当局に関して法的状態に意見を表明するものではありません。地図上の点線と破線はまだ完全な合意が形成されていない可能性があるためにおおよその国境線を示しています。データは2016年2月5日まで。

ギラン・バレー症候群(GBS患者)の発生

  • ジカウイルスが、ブラジル、コロンビア、エルサルバドル、スリナム、ベネズエラで流行する中で、2013-2014年にフランス領ポリネシアで観察されたことと同様に、ギラン・バレー症候群(GBS患者)の増加が報告されました。
  • 2015年7月には、ブラジル政府がバイーア州で最近ジカウイルスに感染した既往のある者での神経症候群の患者を確認したと報告しました。神経症候群が確認された76人のうち、患者42人(55%)がGBS患者と確認されました。確認されたGBS患者のうち、26人(62%)にジカウイルス感染症と一致する症状の既往がありました。また、神経症候群を呈する7人の患者からは、2015年11月にジカウイルスの感染に陽性であることが確認されました。2015年にはGBS患者が全国で1,708人登録されており、全州で発生数の増加が報告されたものではないものの、前年(GBS患者1,439人)よりも平均で19%の増加を示しました。
  • 2016年2月には、コロンビアの国際保健規則(IHR)の国家担当者(NFP)が、GBS患者の増加を報告しました。コロンビアではGBS患者の年間平均例数は242例と報告されていました。しかし、2016年1月30日までの5週間で、すでにGBS患者 86例の報告がありました。登録された総症例のうち、49例(57%)は男性で37例(43%)が女性でした。年齢データが入手可能であった58例を対象とした平均年齢は43歳でした。
  • 2015年12月1日から2016年1月6日までに、エルサルバドルでは死亡者2人を含む46人のGBS患者が報告されました。一方、年間の平均発生数は169人です。報告された25人(54%)が男性で、35人(76%)が30歳以上でした。すべての患者が入院し、血漿交換または免疫グロブリン療法を受けました。患者情報が利用できた22人のうち、12人(54%)はGBS患者に一致する症状を発症する15日前までに発熱性発疹を発症していました。感染の原因を特定するために、調査が続けられています。2015年11月にジカウイルスの最初の感染例が確認されてから2015年12月31日までに、エルサルバドル保健当局は、ジカウイルス感染症疑似患者3,836人を報告しました。
  • 2016年1月29日には、スリナムの保健当局は、調査システムが2015年にGBS患者の発生数の増加を検出したことを報告しました。スリナムでは年間平均で4例のGBS患者しか登録されませんが、2015年に登録されたGBS患者は10人で、2016年には最初の3週間でGBS患者2人が報告されました。国家当局は、さらなる情報を積極的に収集しています。
  • マルティニーク(フランス)では、GBS患者、神経学的または免疫学的な症候群の異常な増加は報告されていないものの、2016年1月にGBS患者2人でマルティニークでのジカウイルスの存在が生物学的に確認されました。両患者の尿サンプルから、RT-PCR法検査でジカウイルスに陽性の結果を得ました。いずれの患者も、免疫グロブリン療法が行われました。
  • フランス領ポリネシアでは、定点調査システムからジカウイルスの疑似患者が8,750人報告され、このうち383人が検査で確認されました。74人の患者はジカウイルス感染と一致する症状の後に神経症候群または自己免疫症候群を示しました。これらのうち、42人は、GBS患者に分類されました。これら42人の患者のうち、88%はジカウイルス感染に一致する症状を報告しました。後向き調査(血清中和試験)では、42例全てで、デング熱およびジカウイルス感染に陽性であったことが示されました。

感染への取り組み

  • ジカウイルスが拡がる可能性のある地域で監視と評価を引き続き実施するために、世界規模での取り組みが必要となります。取り組みには、ジカウイルスと関連する可能性のある小頭症および神経疾患のリスクについての(住民との)意思疎通を行う各国の支援、感染予防と感染制御および集団発生の対策への対応能力の構築、深刻な合併症に苦しむ人々への介助と医療支援の提供、科学的根拠に基づく同意の形成、各国が(現状と)知見とのギャップを減らすために研究を実施することの奨励と誘導、が挙げられます。
  • 科学的な解明は進んでおらず、したがってリスクは十分に理解されていないため、ジカウイルス感染症がもつ衝撃、特に、神経症候群や自己免疫症候群およびその他の合併症による衝撃を理解し軽減するために、調和と十分な人的・物的余裕をもって世界規模での取り組みが実施される必要があります。
  • WHOは、世界が協調して取り組むための支援組織を通じて、事態に対処する管理体制を活性化しています。

戦略の目的と目標

全体的な戦略目標は、社会全体での感染の影響への理解を確立し、新たな感染制御の対策を作成するまでの間、感染の影響を受けた地域でジカウイルス感染への暴露のリスクの軽減と感染伝播の衝撃の減弱することにあります。

世界規模での感染対策の戦略

調査活動

  • ヤブカ属、ジカウイルス感染症、神経症候群および先天奇形に対する調査活動の強化

感染対策

  • ジカウイルス感染症に関連するリスクを伝え、健康管理への行動を促進し、不安を軽減し、偏見に対処し、風評や文化的な誤解を払拭するための地域社会の参画
  • ヤブカ属の拡散を制御するための努力の強化と、個人的な保護対策の提供を受けられる利用環境の増強
  • 妊婦および妊娠を考える女性、並びに小頭症や先天奇形、神経症候群の影響を受けた子どもに対する指針と医療支援の提供

研究

  • 小頭症、神経症候群の原因およびジカウイルスに感染した結果と関連する可能性に対する調査と、新たな医薬品(例、迅速診断法、ワクチン、治療薬)に対する研究と開発の最優先での実施

緊急委員会の推奨事項

ジカウイルスを媒介する蚊の生息規模の縮小

ジカウイルスを媒介するネッタイシマカおよびヒトスジシマカなどのヤブカ属は、デング熱、チクングニア熱、黄熱も媒介します。蚊の制御計画には、他の方法(清掃、水の廃棄、被い蓋)では取り扱うことのできない水回りの対策のために幼虫駆除剤(幼虫の段階で蚊を殺す殺虫剤)の使用が含まれます。

自分と家族の感染防御

WHOは、以下の方法で個々人が蚊刺されから身を守ることを勧めています。

  • 防虫剤の使用
  • できるだけ多くを被う(できれば明るい色の)衣服を身につけること
  • 網戸、ドアや窓からの遮断など物理的な障壁を利用すること
  • 蚊帳の中での就寝、特に、ヤブカ属が最も活動する日中には蚊帳の中で寝ること
  • 水を貯めることができる、バケツ、植木鉢、植木皿などの貯水物は、蚊がそれらを使って繁殖できないように水をカラにしておくか、カバーをしておくこと

妊娠中の女性および妊娠を計画している女性

ジカウイルスと遭遇した可能性があると考える妊娠女性は、自身の妊娠を綿密に管理するために医療者に相談することを勧めます。

旅行者に対する推奨

委員会は、旅行や貿易を制限することの正当化は認めていません。しかし、ジカウイルス感染者が発見されている地域へ旅行する者には、蚊に刺されることからの防御対策を強く勧めます。感染の影響を受けている地域への旅行を検討している妊娠女性は、旅行の前と後に、自分自身の医療担当者に相談することを勧めます。また、この人たちは、自分自身と家族が蚊に刺されることから防ぐことも実践すべきです。

出典

WHO. ZIKA Situation Report. 5 February 2016
Neurological Syndrome and Congenital Anomalies
http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/204348/1/zikasitrep_5Feb2016_eng.pdf?ua=1[PDF形式:633KB]