2016年03月14日更新 中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)の発生(更新6)

2016年3月10日に公表された世界保健機関(WHO)の情報によりますと、カタールの国際保健規則(IHR)国家担当者は2月21日に新たに中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)感染者1人をWHOに報告しました。また、サウジアラビアの国際保健規則(IHR)国家担当者は2月17日から25日にかけて新たなに中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)感染者7人をWHOに報告しました。

症例の詳細情報

カタール

66歳男性。サウジアラビアに約2か月間滞在中の2月18日に発症しました。2月19日、患者はサウジアラビアのEl-Hassa市にある病院を受診し、症状に対する治療を受けて、帰りました。2月20日、患者はさらに症状を進行させ、同日、症状が悪化したため、カタールのドーハにある病院に救急搬送されました。患者は、重度の喫煙者で、合併症も持っていました。2月21日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しましたが、3月7日に亡くなりました。

患者は、サウジアラビアでラクダ小屋を所有しており、頻繁にその地を訪れていました。彼は、頻回にラクダとの接触機会があり、その生乳も飲んでいました。発症までの14日間にその他に既知のリスクファクターとの接触はありません。

カタール保健省は、患者の調査と接触者の追跡を行いました。呼吸器スワブ検体が家族と医療関係の接触者から採取されましたが、検査結果はMERS-CoVに対して陰性でした。家族内の接触者は、患者との接触からの期間14日間が終了するまで観察下に置かれました。

適切な予防措置に関する健康教育上の諸注意が接触者全員に周知されました。彼らは推奨されるMERS-CoVの予防措置を遵守し、如何なる呼吸器症状の発現も保健当局に報告することが助言されました。感染の予防と制御の対策が保健省によってすべての医療施設で強化されました。

サウジアラビア

1.56歳男性。Hail(ハイル)市の住民で、2月20日に発症し、2月23日に入院しました。彼に基礎疾患はありません。2月24日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。現在、彼は重篤な容態でICUに収容されています。発症までの14日間に既知のリスクファクターと接触した機会について、調査が行われています。

2.60歳男性。Najran(ナジュラーン)市の住民で、2月20日に発症し、2月22日に入院しました。彼には基礎疾患がありました。2月24日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。現在、彼は安定した状態で病棟の陰圧室に隔離されています。彼は、ヤギ、ヒツジ、ウシを所有しています。発症までの14日間にその他に既知のリスクファクターとの接触はありません。

3.53歳男性。サウジアラビア国籍を持たないリヤド市の住民で、2月11日に発症し、2月20日に入院しました。彼には基礎疾患がありました。2月22日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。現在、彼は重篤な容態でICUに収容されています。発症までの14日間に既知のリスクファクターと接触した機会について、調査が行われています。

4.74歳男性。Afif(アフィーフ)市の住民で、2月15日に発症し、2月21日に入院しました。彼には基礎疾患がありました。2月22日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。彼は、ラクダを所有し、頻回に接触の機会があり、その生乳も飲んでいました。その他に発症までの14日間に既知のリスクファクターとの接触はありません。農業省にも通知され、現在調査が行われています。

5.28歳女性。サウジアラビア国籍を持たないAlkarj(アルカルジ)市の医療従事者で、MERS-CoV が確定診断された患者(2月29日付け、No. 1, No. 2)との接触者追跡を通して確認されました。彼女に基礎疾患はありません。2月18日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。現在、彼女に症状はなく、自宅で隔離が行われています。その他に発症までの14日間に既知のリスクファクターとの接触はありません。

6.24歳男性。サウジアラビア国籍を持たないリヤド市の住民で、2月14日に発症し、2月16日に入院しました。彼に基礎疾患はありません。2月17日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。現在、彼は重篤な容態でICUに収容されています。発症までの14日間に既知のリスクファクターと接触した機会について、調査が行われています。

7.53歳男性。リヤド市の住民で、2月13日に発症し、2月16日に入院しました。彼には基礎疾患がありました。2月17日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。現在、彼は安定した状態で、自宅で隔離が行われています。発症までの14日間に既知のリスクファクターと接触した機会について、調査が行われています。

これらの患者に対して家族内および医療者における接触者の追跡が行われています。

WHOは、2012年9月以降、世界中で少なくとも591人の関連する死亡報告を含む、検査で確定された1,652人のMERS-CoV感染の患者報告を受けています。

WHOによるリスクアセスメント

MERS-CoVは、致死率が高く、人から人への感染力を持つ重症感染症を引き起こします。これまでのところ、確認された人から人への感染伝播は、主に医療施設の環境下で発生しています。

この新たな患者の報告による全体のリスク評価の変更はありません。WHOは、MERS-CoVへの新たな感染者が中東から報告されること、動物や動物製品(例えば、ヒトコブラクダ)もしくは感染者(例えば、医療施設内)と接触した後に感染した者が、今後も他の国に感染輸出するであろうことは想定しています。WHOは、疫学的な発生状況を監視し、入手可能な最新の情報に基づいてリスク評価を行っています。

WHOからのアドバイス

WHOは、現状および利用可能な情報に基づいて、加盟国すべてに対して、急性呼吸器感染症に関するサーベイランスを継続し、また、いかなる異常な症状を示す患者についても注意深く調査することを勧めています。

感染予防と制御の対策は、診療施設においてMERS-CoVが拡がる可能性を防ぐために重要です。他の呼吸器感染症と同様に、MERS-CoVの初期症状は非特異的なため、通常、早い時期に患者をMERS-CoVと診断できるものではありません。したがって、医療従事者は、診断にかかわらず、すべての患者に対して常に一貫した標準感染予防対策を適用する必要があります。急性呼吸器感染症の兆候を呈している患者の治療にあたる場合には、標準感染予防対策に加えて、飛沫予防対策を行うことも必要です。また、MERS-CoV感染の可能性がある患者、あるいは確定診断された患者の治療にあたる場合には、接触予防対策および眼の防護策を追加すべきです。さらに、エアロゾル(微粒子)が発生するような処置を行う場合には、空気感染の予防対策を行う必要があります。

今後、MERS-CoVに関して解明が進むまでは、糖尿病、腎不全、慢性肺疾患、免疫不全のある人は、MERS‐CoV感染で重篤化するリスクが高いと考える必要があります。したがって、これらの人は、ウイルスの存在する可能性がある農場、市場あるいは家畜小屋のある地域を訪れる場合、動物に近づくこと、特にラクダと濃厚接触することを避けなければなりません。動物に触れる前、触れた後には必ず手洗いを行い、病気の動物との接触を避けるという一般的な衛生習慣をしっかりと守るべきです。

食品に対する衛生習慣に注意するべきです。ラクダの生乳あるいは尿を飲むこと、また、調理不十分の肉を食べることは避けるべきです。

WHOは、警戒体制をとりながら、発生状況を監視しています。地域住民の中で人から人へ持続的に感染が伝播していることの証拠は得られておらず、WHOは、この事象に関連して渡航や貿易を制限することを勧めてはいません。感染の影響を受けた国からの、また、影響を受けた国へ行く、渡航者において、MERS-CoVに対する注意を向上させておくことは、実践的な公衆衛生上のよい習慣となります。

出典

WHO.Emergencies preparedness, response.Disease outbreak news. 10 March 2016
Middle East respiratory syndrome coronavirus(MERS-CoV) - Qatar
http://www.who.int/csr/don/10-march-2016-mers-qatar/en/

WHO.Emergencies preparedness, response.Disease outbreak news. 10 March 2016
Middle East respiratory syndrome coronavirus(MERS-CoV) - Saudi Arabia
http://www.who.int/csr/don/10-march-2016-mers-saudi-arabia/en/