2016年03月23日更新 ギラン・バレー症候群の発生 -アメリカ合衆国

2016年3月21日付けで公表されたWHOの情報によりますと、2016年3月10日に、アメリカ合衆国の国際保健規則(IHR)国家担当者は、ジカウイルスへの感染が確認されたギラン・バレー症候群(GBS)患者2人をPAHO/WHO(汎米保健機構/世界保健機構)に報告しました。いずれの患者も、GBSに対するブライトン・コラボレーションの症例定義を満たしているかどうかを判定するための検討が行われています。

報告の詳細

1.最初の患者は、米国在住の高齢男性です。最近、中央アメリカを旅行しました。彼は短期間で米国に戻った後に急性熱性疾患を発症しました。その後、四肢の脱力と深部反射の低下が進行したために1月に入院していました。患者は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法検査によって、ジカウイルス感染に陽性と判明しました。彼は治療によって回復し、退院の準備をしていましたが、突然に動脈瘤破裂によりクモ膜下出血を起こし、死亡しました。

2.もう1人の患者は、ハイチ在住の成人男性です。1月上旬に、突然、顔面の動かしにくさ、嚥下困難、指のしびれを発症しました。先行する病態は報告されませんでした。数日後、彼は、さらに高度な医療を求めて米国へ渡たりました。脳脊髄液ではタンパク質が上昇し、白血球は正常範囲にありました。身体所見では、中等度の脱力と深部反射の低下を認めました。彼は、血清学的検査によりジカウイルスへの感染に陽性反応を示しました。彼は、免疫グロブリン点滴療法で改善し、退院しました。

WHOのリスク評価

これまでに、9つの国と地域でGBSの発生率の増加および/またはGBS患者でのジカウイルス感染の検査確認が報告されました。これは、ジカウイルスを媒介する蚊のいない国でGBSとジカウイルスへの感染を同時に発症した患者が発見された初めてのことです。これらの患者は、ジカウイルスとGBSの間の因果関係に対する可能性にさらなる証拠となります。GBSの病態生理において、最近のジカウイルス感染症とともに、既に存在していたデング熱の影響を理解するために、さらなる調査が必要とされています。

現在、国内でのジカウイルスの感染伝播が報告されている国では、今後数ヶ月の間に大規模なGBS患者の増加に直面する可能性があります。それでも、これらのすべての国において、このGBS発生率の増加が、単に調査活動が強化されたからではなく、現実の変化の結果であることを確かめることが重要です。WHOは、利用可能な最新の情報に基づいて、疫学的な発生状況を監視し、リスク評価を行っています。

WHOからのアドバイス

WHOはジカウイルスの流行が発生したが、発生しやすい環境の加盟国に、次のことを勧めています。

  • 予想されるベースライン値に対する変化を見極めるために、神経疾患、特にGBSの発生率と傾向を調査すること
  • ギラン・バレー症候群の患者の急激な増加によって生じる医療施設の負担増加に対応するために、患者を十分に管理できるプロトコルを作成し、実施すること
  • 医療従事者間で注意を喚起し、公共と民間領域における公衆衛生サービスと臨床医の間の連携を強化すること

人の居住地での媒介蚊が繁殖する地の近くは、ジカウイルス感染に対して大きな危険因子となります。感染の予防と制御は、感染源の削減(繁殖地の除去および環境改善)を通して媒介蚊の繁殖を減らすことと、媒介蚊と人との接触機会を減らすことに依存します。これらは、自然及び人工の貯水池での蚊の幼虫の生息地の数を減らし、リスクのある地域で蚊の成虫個体数も減らし、防虫剤、網戸、戸や窓の遮断、長袖の衣服の着用などの防御を行うことで、達成することができます。シマカ属(感染伝播において主となる媒介昆虫)は日中に活動するため、昼寝をしている人、特に幼児、病人および高齢者に対して保護のために殺虫剤で処理された蚊帳を使用すべきことが勧められています。蚊取り線香やその他の噴霧式殺虫剤も蚊に刺される可能性を減らすことができます。

感染流行の発生中は、飛来する蚊を殺すために殺虫剤の空中散布がWHOによって作成された技術要綱にしたがって実施されることがあります。技術的に記載されている場合には、(WHOの農薬評価事業計画による推奨の)適正な殺虫剤が比較的大きな貯水容器を処理するための幼虫の殺虫剤として使用されることもあります。

危険性の高い地域を旅行する人々、特に妊娠中の女性では、防蚊対策への基本的な注意が払われるべきです。これらには、明るい色の、長袖の上下衣服の着用、防虫剤の使用、確実に蚊が部屋は入るのを防ぐための網戸の設置などがあります。

WHOは、現在利用できる情報に基づく限り、ジカウイルスが流行する国への旅行と貿易への制限を推奨してはいません。

出典

WHO.Emergencies preparedness, response.Disease Outbreak News. 21 March 2016
Guillain-Barrésyndrome- United States of America
http://www.who.int/csr/don/21-march-2016-gbs-usa/en/