2016年04月21日更新 ジカウイルス発生状況について -セントルシア

2016年4月20日付けで公表されたWHOの情報によりますと、4月7日にセントルシアの国際保健規則(IHR)国家担当者は、国内感染によるジカウイルス感染症の患者2人をPAHO/WHO(汎米保健機構/世界保健機構)に報告しました。

報告の詳細

1. 1人目の患者は、Castries(カストリーズ)地区に住む25歳男性です。彼は、3月16日に、発熱、痛み(関節、頭、腰)、頚部硬直、リンパ節腫脹を自覚しました。3月17日に、血液検体が採取されました。

2. 2人目の患者は、セントルシアのカストリーズ地区に住む28歳の妊婦です。彼女は、3月6日に、発熱、発疹(胸、手、手首、指、足の裏)を自覚しました。発症時、彼女は妊娠9週目でした。3月10日に、血液検体が採取されました。

血液検体は、3月29日に検査のためにカリブ保健機関(CARPHA)に送られ、4月6日には、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法検査により、検体がジカウイルスに陽性であることが確認されました。いずれの患者も、最近の渡航歴はありません。

公衆衛生上の取り組み

現在までに、セントルシア保健省は、次のような公衆衛生の対策を実施しています。

  • 以下の関係者との協議
  • 公共機関と民間機関、並びに、蚊によって媒介される疾患に詳しい非政府組織との間
  • ジカウイルスによる経済や健康に影響する可能性を減らすための共同行動計画を作成すべき
    観光分野(観光局、観光庁、セントルシアのホテル、観光協会など)
  • 居住地の内外およびその地域社会で蚊の繁殖地を減らす行動を取ることを国民全体に奨励する啓発キャンペーンの実施
  • 蚊の繁殖地の除去と、蚊によって媒介される疾患を予防するための情報の普及に対し、民間と公共の担当組織が協力していける掃討キャンペーン組織の編成
  • PAHOの支援を受けて、地域レベルで産科診療所に防蚊ネットを提供し、新生児の健康に対するジカウイルスからの精神的影響を軽減するための出産前の医療支援強化
  • 医療従事者の訓練および潜在する先天奇形など(例えば、ギラン・バレー症候群や小頭症)に対処するための施設の準備
  • 主要な2つの公立病院における、ジカウイルス、小頭症およびギラン・バレー症候群を対象とした調査活動の強化
  • 定期的な媒介昆虫を駆除する対策の実施

WHOによるリスク評価

ジカウイルスの国内感染患者の発見は、これまでに感染の発生のなかった地域(セントルシア)にもウイルスが地理的に広がっていることを示しています。新たな国からの国内での感染伝播の報告による全体でのリスク評価には変更ありません。媒介能力をもつシマカ属の蚊が生息する地域におけるジカウイルスの拡がりは、世界中のさまざまな地域にこれらの蚊が広く地理的に分布していることが重大であることを示しています。WHOは、利用可能な最新の情報に基づいて、疫学的な発生状況を監視し、リスク評価を行っていきます。

WHOからのアドバイス

人の居住地での媒介蚊が繁殖する地の近くは、ジカウイルス感染に対して大きな危険因子となります。感染の予防と制御は、感染源の抑止(繁殖地の除去および環境改善)を通して媒介蚊の繁殖を減らすことと、媒介蚊と人との接触機会を減らすことに依存します。これらは、自然及び人工の貯水池で蚊の幼虫が生息できる場所の数を減らし、リスクのある地域で蚊の成虫個体数を減らし、防虫剤、網戸、戸や窓の遮断、長袖の衣服の着用など感染防御を行うことで、達成できます。ネッタイシマカおよびヒトスジシマカなどのヤブカ属(感染伝播において主となる媒介昆虫)は日中に活動するため、昼寝をしている人、特に幼児と子ども、病人および高齢者には、保護のために防虫処理された蚊帳、また防虫処理されておらずとも、その中で休息することが重要です。

感染流行の発生中は、WHOによって作成された技術要綱にしたがって、飛来する蚊を殺すために殺虫剤の空中散布が実施されることがあります。技術的な記述がある場合には、比較的大きな貯水容器を処理するために(WHOの農薬評価事業計画が推奨する)適正な殺虫剤が幼虫の殺虫剤として使用されることもあります。

危険性の高い地域を旅行する人々、特に妊娠中の女性では、防蚊対策への基本的な注意が払われるべきです。具体的には、防虫剤の使用、明るい色で長袖の上下衣服の着用、確実に蚊が部屋は入るのを防ぐための網戸の設置などがあります。

性交渉を通じてジカウイルスが感染伝播するリスクは極めて限られてくると考えられていますが、WHOは、基本原則に基づいて以下のことを勧めています。

  • ジカウイルス感染症に罹患した患者とその性的パートナー(特に妊婦)は、ジカウイルスには性交渉による感染伝播するリスクが潜在していることから避妊対策やより安全な性交渉についての情報を入手しておくべきであり、可能ならばコンドームが準備されるべきです。ジカウイルスへの感染が懸念される無防備な性交渉を行った女性、妊娠を希望していない女性も、緊急避妊のための支援や相談を容易に利用できる環境を備えておくべきです。
  • 地元でのジカウイルスの感染伝播の発生が知られている地域に住んでいるか又は、そこから戻ってきた妊娠女性の性的パートナーは、妊娠期間中は性交渉において、より安全な性行為を行うか性行為を控える必要があります。
  • ほとんどのジカウイルス感染者は無症状です。そのため、以下の注意が必要です。
  • ジカウイルスの感染伝播の発生が知られている地域に住んでいる男女は、より安全な性行為を行うか性行為を控える必要があります。
  • ジカウイルスの感染伝播の発生が知られている地域から戻ってきた男女は、少なくとも帰宅後4週間はより安全な性行為を行うか性行為を控える必要があります。

ジカウイルスに関する考慮とは別に、WHOは、HIVや他の性感染症への感染、また望まない妊娠を防ぐために一貫して正しくコンドームを使うことを含めた、より安全な性行為の実践を進めています。

WHOは、ジカウイルスを発見するためにルーチンで精液を検査することは推奨していません。

WHOは、現在利用できる情報に基づく限り、ジカウイルスが流行する国への旅行と貿易への制限を推奨してはいません。

出典

WHO.Disease Outbreak News, Emergencies preparedness, response. 20 April 2016
Zika virus infection- Saint Lucia
http://www.who.int/csr/don/20-april-2016-zika-saint-lucia/en/