2016年05月24日更新 黄熱の発生状況(更新3)
2016年5月20日付けで、WHOより黄熱の発生状況が公表されています。ここでは、概要、リスク・アセスメント、感染対策を取り上げます。アンゴラ、コンゴ民主共和国、ウガンダ、その他の国での個別の発生状況も掲載されていますので、詳細は原文でお確かめください。
概要
- 2015年12月後半に、アンゴラでの黄熱の集団発生が発見され、2016年1月20日にダカール・パスツール研究所によって確認されました。その後、黄熱患者の急激な増加がみられています。
- 5月19日現在、アンゴラでは、298人の死亡者を含む2,420人の疑い患者が報告され、そのうちの736人が検査によって確定診断されました。ルアンダ州でのワクチン接種キャンペーンにもかかわらず、Huambo(ウアンボ)州とBenguela(ベンゲラ)州では、このウイルスがまだ各地で流行しています。
- コンゴ民主共和国(確定患者42人)、ケニア(確定患者2人)、中国(確定患者11人)の3か国では、アンゴラから感染輸出された黄熱患者が報告されました。これは、予防接種をしていない旅行者を介して国際的にリスクが拡大していることを強く示しています。
- コンゴ民主共和国(DRC)の保健省は、2016年3月22日に、アンゴラと関係する黄熱患者を報告しました。DRC政府は、4月23日に、公式に黄熱の流行発生を宣言しました。5月19日までに、DRCでは感染の可能性の高い患者5人と確定診断患者44人が報告されました。このうち、42人はコンゴ中部州(旧バ・コンゴ州)とキンシャサで報告されたアンゴラからの感染輸入患者で、2人はキンシャサのNdjili(ヌジリ)とコンゴ中部州Matadi(マタディ)で報告された国内感染患者です。キンシャサとコンゴ中部州で国内感染した可能性のある少なくとも8人の感染者が、分類されないままに検査結果を待っています。
- ウガンダの保健省は、2016年4月9日に、Masaka(マサカ)県で黄熱患者が報告されました。5月19日までに、マサカ、Rukungiri(ルクンギリ)、Kalangala(カランガラ)の3県で、確定患者7人を含む黄熱疑い患者60人が報告されました。その後の結果によれば、これらの集団感染はアンゴラとは疫学的に関係していません。
- アンゴラやコンゴ民主共和国でのウイルスは大半が主要都市に集中しています。アンゴラ、DRC、ウガンダの他方面への感染伝播と地域内での感染伝播のリスクは、深刻な懸念となっています。国境を接する国々、特に、黄熱に対するリスクが低いと分類されている国(ナミビア、ザンビア)において、そこには黄熱ワクチンを接種していない住民、旅行者や外国人労働者がいるために、拡大の可能性へのリスクが高くなっています。
- 国際保健規則(IHR:2005)に則り、黄熱に対する緊急委員会会議が、WHO事務局長によって招集されました。緊急委員会(EC)からの助言に基づき、事務局長は、アンゴラとコンゴ民主共和国における都市型黄熱の流行が国としての行動を結集し国際支援を強化することを確保すべき公衆衛生上の深刻な事態であると判断しました。しかし、この事態は、現時点では国際的に脅威となる公衆の保健上の緊急事態(PHEIC)には該当しないとも判断しました。
図1. 黄熱患者の分布図[アンゴラ、コンゴ民主共和国](2016年5月19日現在)
リスク・アセスメント
- アンゴラの集団感染は以下の理由で大きな懸念が残されています。
- ほぼ700万人がワクチン接種を受けているという事実があるにもかかわらず、ルワンダ州で国内感染が持続しています。
- 国内感染はルアンダ州を含む人口が密集する7つの州で報告されています。
- 新たな州および新たな地域への流行の拡大が続いています。
- 近隣諸国への拡大のリスクが高まっています。既に、コンゴ民主共和国、ケニア、中国でアンゴラから旅行してきた確定患者が発生しています。国境では、実質的に社会生活および経済活動が国境を越えて、自由に行き来できるため、さらなる感染伝播の危険性を排除できません。ウイルス血症となった旅行者は、地域感染の確立させるリスク、特に、適度に媒介する蚊が生息し、感染を受けやすい住民が住んでいる国ではそのリスクをもたらします。
- 新たな感染源や患者の発生地域を確認するための調査体制が不十分です。
- カビンダ(アンゴラの飛び地)のように、感染が発生することが難しい地域でも感染の継続が疑われる高い指標が示されています。
- 4月の現地調査からは、コンゴ民主共和国には黄熱の地域感染のリスクが非常に高いと結論付けられています。利用できるワクチンが限られているため、キンシャサにある大きなアンゴラ人の地域集団、アンゴラとDRCと間に存在する流動性、媒介するシマカ属の蚊の生息と活動性を考えると、この国においては、綿密に発生状況を監視する必要があります。
- アンゴラやコンゴ民主共和国でのウイルスは大半が主要都市に集中しています。3か国のその他の地方への感染伝播と地域内の感染伝播のリスクは、深刻な懸念となっています。このリスクは、国境を接する国々、特に、黄熱に対するリスクが低いと分類されている国(ナミビア、ザンビア)において、そこには黄熱ワクチンを接種していない住民、旅行者や外国人労働者がいるために、拡大する可能性が高くなっています。
- ウガンダと南アメリカ大陸の一部の国(ブラジル、ペルー)では、黄熱の集団発生や黄熱の散発的な患者発生に直面しています。これらの発生事例はアンゴラの流行発生には関係していませんが、これらの国には限られた黄熱ワクチンの備蓄状況でもワクチンが必要性となります。
感染への対策
- 黄熱に関する緊急委員会(EC)が、WHO事務局長によって招集され、国際保健規則(IHR 2005)に則り2016年5月19日に開催されました。緊急委員会(EC)からの助言に基づき、事務局長は、アンゴラとコンゴ民主共和国における都市型黄熱の流行が国としての行動を結集し国際支援を強化することを確保すべき公衆衛生上の深刻な事態であると判断しました。しかし、この事態は、現時点では国際的に脅威となる公衆の保健上の緊急事態(PHEIC)には該当しないとも判断しました。事務局長は、加盟各国に以下の助言を行いました。
- アンゴラとコンゴ民主共和国において、調査活動、集団予防接種、リスク情報の伝達、住民への注意喚起と地域活動、媒介昆虫の駆除・制御、患者の管理などの対策を促進すること
- アンゴラとコンゴ民主共和国に出入国するすべての渡航者、特に、移民労働者に黄熱ワクチンを確実に接種すること
- 黄熱リスク国や現在の流行国と国境を接している国々においては、調査活動、渡航者の黄熱予防接種証明書(イエローカード)の確認、リスク情報の伝達などの対策への準備を強化すること
- 予防接種キャンペーンが、ルアンダ州で2月の初めに始まり、ベンゲラ州とウアンボ州でも4月半ばに開始されました。
- 1,170万回分(原文どおりに記載)が、アンゴラに5月18日までに出荷されました。
- DRCとウガンダは、GAVI Alliance(ワクチンと予防接種のための世界同盟)の適格国となるため、これらの国にはGAVI Allianceによって予防接種キャンペーンが行われる予定です。
- 220万本のワクチンおよびその付属機器が5月中旬までにDRCに到着する予定です。これらは、コンゴ中部州の7つの衛生地区およびキンシャサ行政区のN'djili(ヌジリ)地区を対象として緊急のワクチン接種キャンペーンが行われる予定です。
- ウガンダには、70万本の黄熱ワクチンが到着しました。5月19日にワクチン接種キャンペーンが開始される予定です。
- ナミビア政府は黄熱ワクチンを旅行者と避難民を対象とする黄熱ワクチン45万回分(10回分/1バイアル)を要求しています。ザンビア政府は、黄熱ワクチン5万回分を要求しています
- 黄熱に対する国際メディアの注目度、特に、ワクチンの供給、旅行時の助言、緊急委員会の招集への注目度が高まっています。
- 緊急委員会の直後に引き続き、記者会見が開催されています(5月19日)。
- 現在の黄熱の流行に関するQ&AがWHOのウェブサイトに掲載されています(http://www.who.int/features/qa/yellow-fever/en/)。
- WHOは、流行に関する問い合わせに共同歩調で対処するために、情報の発信や情報源に関して国連を通してリーダーシップをもって情報伝達を纏めてきました。
- WHO本部の情報通信チームと地域事務局の通信主担当者との間で、週二回、連絡会議が開催されています。
出典
WHO.Situation Report, Emergencies. 20 May 2016
Situation Report; Yellow fever
http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/206548/1/yellowfeversitrep_20May2016_eng.pdf?ua=1[PDF形式:707KB]