2016年06月13日更新 黄熱の発生状況(更新6)

2016年6月9日付けで、WHOより黄熱の発生状況が公表されています。ここでは、概要、リスク・アセスメント、感染対策を取り上げます。アンゴラ、コンゴ民主共和国、ウガンダ、その他の国での個別の発生状況も掲載されていますので、詳細は原文でお確かめください。

概要

  • 2015年12月15日に流行が始まってから2016年6月8日までに、アンゴラでは、328人の死亡者を含む2,954人の疑い患者が報告されました。これらのうち、819人が検査によって確定診断されました。いくつもの地域に予防接種キャンペーンを拡大しているにもかかわらず、このウイルスの感染伝播は続いています。
  • 2016年6月8日現在、アンゴラでは新たに3つの州で地域感染が報告されており、ルアンダを含めて地域感染の報告数は合計で11州33地域からもたらされています。
  • 2016年4月11日以降、アンゴラでは報告される患者の数が増加し続けていますが、確定診断される患者の数は安定しています。これは、ほとんどの州で調査活動が強化されたことによるとみられます。
  • コンゴ民主共和国(DRC)保健省は、2016年3月22日の流行の開始から6月8日までに、感染の可能性の高い患者3人と確定診断患者57人を報告しました。このうち、51人はコンゴ中部州、キンシャサ、Kwango(クワンゴ州:旧バンドゥンドゥ)で報告されたアンゴラからの感染輸入患者で、2人は北部の州の森林型黄熱患者、4人はNdjili(ヌジリ)、Kimbanseke(カンバンセク)、コンゴ中部州Matadi(マタディ)及びクワンゴ州で報告された国内感染患者です。
  • ウガンダの保健省は、2016年4月9日の流行の開始から6月8日までに、感染の可能性の高い患者3人と確定患者7人を含む黄熱疑い患者68人を報告しました。報告された県は、Masaka(マサカ県:5人)、Rukungiri(ルクンギリ県:1人)、Kalangala(カランガラ県:1人)からでした。その後の結果によれば、これらの集団感染はアンゴラとは疫学的に関係がありません。
  • アンゴラやコンゴ民主共和国でのウイルスは大半が主要都市に集中しています。両国では地方各地への感染伝播の拡大リスクと地域内での感染伝播のリスクが高くなっています。国境を接する国々、特に、黄熱に対するリスクが低いと分類されている国(ナミビア、ザンビア)においても、そこには黄熱ワクチンを接種していない住民、旅行者や外国人労働者がいるために、潜在的に拡大へのリスクが高くなっています。
  • コンゴ民主共和国(確定患者51人)、ケニア(確定患者2人)、中国(確定患者11人)の3か国では、アンゴラから持ち込まれた黄熱の確定患者が報告されました。これは、予防接種を受けていない旅行者を介して国際的にリスクが拡大していることを強く示唆しています。
  • さらに、エチオピア(感染の可能性の高い患者1人)、ガーナ(疑い患者4人)、コンゴ民主共和国(疑い患者1人)の3か国で黄熱が疑われる患者が報告されています。以前にサントメ・プリンシペから報告された2人は、感染が否定されました。
  • 2016年5月19日に招集された緊急委員会(EC)からの助言に基づき、事務局長は、アンゴラとコンゴ民主共和国における都市型黄熱の流行が国としての行動を結集し国際支援を強化することを確保すべき公衆衛生上の深刻な事態であると判断しました。しかし、この事態は、現時点では国際的に脅威となる公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)には該当しないとも判断しました。

図1.黄熱患者の分布図[アンゴラ、コンゴ民主共和国](2016年6月8日現在)

図.黄熱の確定診断患者の分布図

リスク・アセスメント

  • アンゴラの集団感染は以下のような理由で大きな懸念があります。
    • 800万人以上の人々がワクチン接種を受けているという事実があるにもかかわらず、ルアンダでは国内感染が持続しています。
    • 国内感染はルアンダ州を含む人口が密集する11州で報告されています。新たな州および新たな地域への流行が拡大しています。最近では、Kuanza Norte(クアンザ・ノルテ)、ルンダ・ノルテ、クネネ、Malenge(原文どおり記載)から感染伝播が報告されました。
    • 地域感染患者が報告されていない地域で、伝播が確立するリスクがあります。
    • 近隣諸国への拡大のリスクが高まっています。国境では、実質的に社会生活および経済活動が国境を越えて、自由に行き来できるため、さらなる感染伝播の危険性を排除できません。ウイルス血症となった旅行者は、地域感染の確立させるリスク、特に、適度に媒介する蚊が生息し、感染を受けやすい住民が住んでいる国ではそのリスクをもたらします。
    • 国内感染患者が報告されていない他州でも、地域の感染伝播が確立されるリスクがあります。
    • カビンダ(アンゴラの飛び地)のように感染が波及し難い地域でも感染継続への疑いの高い指標が示されています。
    • 新たな感染源や患者の発生地域を確認するための調査体制が不十分です。
  • 4月の現地調査からは、コンゴ民主共和国には黄熱の地域感染のリスクが非常に高いと結論付けられています。流行が、既に3州に拡がっています。利用できるワクチンに限りがあり、キンシャサにある大きなアンゴラ人の地域集団、アンゴラとDRCとの間に存在する流動性、媒介するシマカ属の蚊の生息と活動性を考えると、この国では厳密に発生状況を監視する必要があります。流行は、特に、カサイ、カサイ中央、ルアラバなどのその他の州に及ぶ可能性があります。
  • アンゴラやコンゴ民主共和国でのウイルスは大半が主要都市に集中しています。両国ではその他の地方への感染伝播と地域内の感染伝播に対するリスクが、深刻な懸念となっています。このリスクは、国境を接する国々、特に、黄熱に対するリスクが低いと分類されている国(ナミビア、ザンビア)において、そこに黄熱ワクチンを接種していない住民、旅行者や外国人労働者がいるために、拡大の可能性が高くなっています。
  • ウガンダと南アメリカ大陸の一部の国(ブラジル、ペルー)では、黄熱の集団発生や黄熱の散発的な患者発生に直面しています。これらの発生事例はアンゴラの流行発生とは関係ありませんが、これらの国には黄熱ワクチンの備蓄状況が限られており、ワクチンが必要です。

感染への対策

  • 黄熱に関する緊急委員会(EC)が、WHO事務局長によって招集され、国際保健規則(IHR 2005)に則り2016年5月19日に開催されました。緊急委員会(EC)からの助言に基づき、事務局長は、アンゴラとコンゴ民主共和国における都市型黄熱の流行が国としての行動を結集し国際支援を強化することを確保すべき公衆衛生上の深刻な事態であると判断しました。しかし、この事態は、現時点では国際的に脅威となる公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)には該当しないとも判断しました。
  • 事務局長は、加盟各国に以下の助言を行いました。
    • アンゴラとコンゴ民主共和国において、調査活動、集団予防接種、リスク情報の伝達、住民への注意喚起と地域活動、媒介昆虫の駆除・制御、患者の管理などの対策を促進すること
    • アンゴラとコンゴ民主共和国に出入国するすべての渡航者、特に、移民労働者に黄熱ワクチンを確実に接種すること
    • 黄熱リスク国や現在の流行国と国境を接している国々においては、調査活動および、渡航者の黄熱予防接種証明書(イエローカード)の確認、リスク情報の伝達などの対策への準備を強化すること
  • 5月19日の緊急委員会の直後に、続いて記者会見が開かれました。声明は、WHOのウェブサイトで公開されています。
  • アンゴラでは、予防接種キャンペーンがルアンダ州で2月の初めに始まり、ベンゲラ州とウアンボ州でも4月半ばに開始され、さらに、5月16日にはCuanza Sul(クアンザ・スル)、Huila(ウイラ)、Uige(ウイジェ)の各州で始まりました。予防接種キャンペーンはCuango(クアンゴ)の地域でも始まり、ヌンダ・ノルテのChitato地区でも計画されています。
  • 6月9日には、1,268万回分のワクチンが、アンゴラに出荷されました。このワクチンの費用は、アンゴラ保健省、ICG(黄熱ワクチン供給国際調整グループ)、GAVI Alliance(ワクチンと予防接種のための世界同盟)、CERF(国連中央緊急対応基金)からの基金で賄われています。
  • コンゴ民主共和国とウガンダは、GAVI Alliance(ワクチンと予防接種のための世界同盟)の適格国となります。そのため、これらの国での予防接種キャンペーンはGAVI Allianceによって行われています。
  • 220万本のワクチンおよびその付属機器がDRCに到着しました。ワクチン接種キャンペーンは5月26日から6月4日にかけて、11の衛生行政地区で実施されました。
  • ウガンダには、70万本の黄熱ワクチンが到着しました。5月19日から22日までにワクチン接種キャンペーンが行われました。これまでに提出された報告による接種率は、マサカ県で88%、ルクンギリ県で97%となっています。
  • ワクチン4.5万回分が、ナミビア政府に向けて出荷されました。ザンビア政府にも旅行者向けに黄熱ワクチン5万回分が出荷されました。
  • 現在の黄熱の流行に関する情報がWHOのウェブサイトで更新されています(http://www.who.int/features/qa/yellow-fever/en/)。
  • 一連の情報には、ワクチンの備蓄、ICGの支援体制、ワクチンの供給および配給されるワクチンの潜在的な使用に関することが用意されています。
  • WHOは、アンゴラとコンゴ民主共和国のWHO国事務所を支援するために通信職員を派遣しました。

出典

WHO.Situation Report, Emergencies. 9 June 2016
Situation Report; Yellow fever
http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/208880/1/yellowfeversitrep_9Jun2016_eng.pdf?ua=1[PDF形式:758KB]