2016年06月20日更新 黄熱の発生状況(更新7)
2016年6月16日付けで、WHOより黄熱の発生状況が公表されています。ここでは、概要、リスク・アセスメント、感染対策を取り上げます。アンゴラ、コンゴ民主共和国、ウガンダ、その他の国での個別の発生状況も掲載されていますので、詳細は原文でお確かめください。
概要
- アンゴラでは、2016年開始以降、報告された患者数が増えました。6月15日現在、確定患者847人を含む患者3,137人が報告されました。報告された死亡者は345人に上り、そのうち112人は確定患者から報告されました。疑い患者は全ての州から報告され、確定患者は18州のうち16州、121地域のうちの78地域から報告されました。
- 集団予防接種キャンペーンは、ルアンダ州から始まり、現在では、感染が発生している他の地域のほとんどを網羅するまでに拡大しており、最近では、国境地域にこのキャンペーンの焦点が当てられています。ワクチン接種への努力が続けられているにもかかわらず、ウイルスの流行は続いています。
- コンゴ民主共和国(DRC)では、2016年6月15日現在、確定診断患者61人を含む疑い患者1,044人(死亡者71人)が、国内22の衛生行政地域から報告されています。確定患者61人のうち、53人はアンゴラからの感染輸入患者で、2人は森林型黄熱患者、6人は国内感染患者でした。
- 調査活動への努力が強化され、DRCでのワクチン接種キャンペーンがキンシャサとコンゴ中部州で集中して行われています。
- コンゴ民主共和国(確定患者53人)、ケニア(確定患者2人)、中国(確定患者11人)の3か国では、アンゴラから持ち込まれた黄熱の確定患者が報告されました。これは、予防接種を受けていない旅行者を介して国際的にリスクが拡大していることを強く示唆しています。
- 現在、7か国(ブラジル、チャド、コロンビア、エチオピア、ガーナ、ペルー、ウガンダ)では、アンゴラの流行と関係のない黄熱の流行や散発例が報告されています。
- 2016年5月19日に招集された緊急委員会(EC)からの助言に基づき、事務局長は、アンゴラとコンゴ民主共和国における都市型黄熱の流行が国家体制で活動を結集し国際支援を強化することを確保すべき公衆衛生上の深刻な事態であると判断しました。しかし、この事態は、現時点では国際的に脅威となる公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)には該当しないとも判断しました。
図1.黄熱患者の分布図[アンゴラ、コンゴ民主共和国](2016年6月15日現在)
リスク・アセスメント
- アンゴラの集団感染は以下のような理由で大きな懸念があります。
- 800万人以上の人々がワクチン接種を受けているという事実があるにもかかわらず、ルアンダでは国内感染が持続しています。
- 国内感染はルアンダ州を含む人口が密集する12州で報告されています。最近では、Zaire(ザイーレ州)とHuambo(ウアンボ州)から感染伝播が報告されました。
- 流行は、新たな州および新たな地域への拡大が続いています。
- 近隣諸国への拡大のリスクが高まっています。国境では、実質的に社会生活および経済活動が国境を越えて、自由に行き来できるため、さらなる感染伝播のリスクを排除できません。ウイルス血症となった旅行者は、地域感染を確立させるリスク、特に、たくさんの媒介する蚊が生息し、感染を受けやすい住民が住んでいる国ではそのリスクをもたらします。
- 国内感染患者が報告されていない他州でも、地域の感染伝播が確立されるリスクがあります。
- カビンダ(アンゴラの飛び地)のように感染が波及し難い地域でも感染継続への疑いの高い指標が示されています。
- 新たな感染源や患者の発生地域を発見するための調査体制が不十分です。
- 4月に行われた現地調査から、コンゴ民主共和国では黄熱の地域感染のリスクが非常に高いと結論付けられています。流行が、既に3州に拡がっています。利用できるワクチンに限りがあり、キンシャサには大きなアンゴラ人の地域集団が、そして、アンゴラとDRCとの間は流動する人々が存在するとともに、媒介するシマカ属の蚊が生息し活動しています。流行は、特に、カサイ、カサイ中央、ルアラバなどの他州に及ぶ可能性があります。
- アンゴラやコンゴ民主共和国でのウイルスは大半が主要都市に集中しています。しかし、両国ではその他の地方への感染伝播と地域内の感染伝播に対するリスクがあります。このリスクは、国境を接する国々、特に、黄熱に対するリスクが低いと分類されている国々(ナミビア、ザンビア)において、そこには黄熱ワクチンを接種していない住民、旅行者や外国人労働者がいるために、拡大の可能性が高くなっています。
- チャド、ウガンダ及び南米大陸の一部の国(ブラジル、ペルー、コロンビアなど)も、黄熱の集団発生や散発的な患者発生に直面しています。これらの発生事例はアンゴラの流行発生とは関係ありませんが、これらの国では黄熱ワクチンの限られた備蓄に新たな歪みをもたらす程にワクチンを必要としています。
感染への対策
- 黄熱に関する緊急委員会(EC)が、WHO事務局長によって招集され、国際保健規則(IHR 2005)に則り2016年5月19日に開催されました。緊急委員会(EC)からの助言に基づき、事務局長は、アンゴラとコンゴ民主共和国における都市型黄熱の流行が国家体制で活動を結集し国際支援を強化することを確保すべき公衆衛生上の深刻な事態であると判断しました。しかし、この事態は、現時点では国際的に脅威となる公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)には該当しないとも判断しました。
- 事務局長は、加盟各国に以下の助言を行いました。
- アンゴラとコンゴ民主共和国において、調査活動、集団予防接種、リスク情報の伝達、住民への注意喚起の地域活動、媒介昆虫の駆除・制御、患者の管理などの対策を促進すること
- アンゴラとコンゴ民主共和国に出入国するすべての渡航者、特に、移民労働者に黄熱ワクチンを確実に接種すること
- 黄熱リスク国や現在流行が発生している国と国境を接している国々においては、調査活動および、渡航者の黄熱予防接種証明書(イエローカード)の確認、リスク情報の伝達などの対策への準備を強化すること
- 5月19日の緊急委員会に続いて、記者会見が開かれました。声明は、WHOのウェブサイトで公開されています。
- 現在の黄熱の流行に関する情報がWHOのウェブサイトで更新されています(http://www.who.int/features/qa/yellow-fever/en/)。
- 一連の情報には、ワクチンの備蓄、ICG(黄熱ワクチン供給国際調整グループ)の支援体制、ワクチンの供給および配給されるワクチンの潜在的な使用に関することが用意されています。
- WHOは、アンゴラとコンゴ民主共和国のWHO国事務所を支援するために通信職員を派遣しました。
- アンゴラでは、予防接種キャンペーンがルアンダ州で2月の初めに始まり、ベンゲラ州とウアンボ州でも4月半ばに開始され、さらに、5月16日にはCuanza Sul(クアンザ・スル)、Huila(ウイラ)、Uige(ウイジェ)の各州で始まりました。予防接種キャンペーンはCuango(クアンゴ)の地域でも始まり、ヌンダ・ノルテのChitato地域でも計画されています。
- 6月11日の時点で、ICGは9つの州(ビエ、クネネ、ベンゲラ、ウイラ、クアンザ・ノルテ、ウイジェ、ナミベ、クアンザ・スル、クアンド・クバンゴ)の12地域でワクチンを接種するために黄熱ワクチン230万回分を承認しました。
- 集団予防接種のために、243,690回分のワクチンが、サイーレ州で国境を接するSoyo地域に送られることになっています。集団予防接種のキャンペーンは今週始められる計画です。追加された1,036,500回分の黄熱ワクチンが受けとられ、Coango、Chitato、Soyo地域に使用が指定されています。ルンダ・ノルテ州の)国境地域にあるChitatoとCoangoで集団予防接種キャンペーンが進められています。
- DRCでは、11の衛生地域での予防接種キャンペーンが6月4日に終了し、接種者は約210万人に達しました。キンシャサとKwango州で新たに感染が発生している衛生地域でのワクチン接種キャンペーンのために、新たなワクチンの要求がICGに求められました。
- ウガンダでは、対策のための集団予防接種キャンペーンがKalangala(カランガラ県)で行われ、住民の93.5%がワクチン接種を完了しました。ワクチン接種率は、マサカ県で88%、ルクンギリ県で97%となっています。
- ICGを通じて緊急に対応できるワクチンの数は680万本となっています。すでに流行への対策に割り当てられたワクチンの本数は含まれていません。示されたワクチンの本数は、現在の備蓄数と生産が計画されているワクチン数となっています。
出典
WHO.Situation Report, Emergencies. 16 June 2016
Situation Report; Yellow fever
http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/242438/1/yellowfeversitrep-16Jun2016-eng.pdf?ua=1[PDF形式:786KB]