2016年06月22日更新 中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)の発生(更新18)

2016年6月21日に公表された世界保健機関(WHO)の情報によりますと、サウジアラビアの国際保健規則(IHR)国家担当者は、6月16日から6月18日にかけて中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)感染者22人をWHOに報告しました。

現在、MERS-CoVの集団感染がリヤド市内の病院で発生しています。この集団感染の発端となる患者は、6月15日にWHOに報告された49歳の女性です(6月19日、No.1参照)。患者には基礎疾患がありました。彼女は、6月10日に別の疾患症状のために病院に入院しました。彼女は症状に対する救急部での治療が優先されました。その後、彼女は血管外科病棟に入院となりました。MERS-CoVへの感染は考えられていませんでした。彼女は隔離されることなく、複数の患者と同じ部屋で治療を受けていました。この間に、49人を超える医療従事者と患者が(ウイルスに)曝されました。

彼女がMERS-CoV感染の患者であることが確認された後は、速やかに対応チームが派​​遣され、大規模な接触者の追跡が開始されました。これまでに、病院と家族の関係者で検査を受けたうちの20人でMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。このうち17人が医療従事者、3人が家族内接触者です。20人のうち18人には、症状がありませんでした。

血管外科病棟は閉鎖され、選択される診療科の手順は再編成となりました。必要となる感染制御の対策が配備されています。

また、アラブ首長国連邦(UAE)の国際保健規則(IHR)国家担当者は、6月16日に新たにMERS-CoV感染者1人をWHOに報告しました。

  • 患者の詳細情報
    サウジアラビア
    1. 1.55歳女性。リヤド市の住民で、別の疾患のために、現在MERS-CoVの集団感染が続いている病院に、6月10日に入院しました。彼女に症状はなく、医療従事者の接触者追跡を通して発見されました。彼女には基礎疾患があります。6月18日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。同じ病院で発見された他の患者との関連の可能性について調査が行われています。その他に確認までの14日間における既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、彼女は安定した状態で病棟の陰圧室に隔離されています。
    2. 2.64歳女性。リヤド市の住民で、別の疾患のために、現在MERS-CoVの集団感染が続いている病院に、5月19日に入院しました。彼女に症状はなく、医療従事者の接触者追跡を通して発見されました。彼女には基礎疾患がありました。6月18日に、MERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。同じ病院で確認された他の患者との関連の可能性について調査が行われています。その他に発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、彼女は安定した状態で病棟の陰圧室に隔離されています。
    3. 3.28歳女性。サウジアラビア国籍を持たない(非サウジ国籍)リヤド市の医療従事者で、現在MERS-CoVの集団感染が発生している病院に勤めていました。彼女に症状はなく、医療従事者の接触者追跡を通して発見されました。彼女には感染の発端となる患者との担当歴がありました。6月18日に、MERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。その他に確認までの14日間における既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、彼女は安定した状態で、自宅で隔離の下に置かれています。
    4. 4.38歳女性。非サウジ国籍のリヤド市の医療従事者で、現在MERS-CoVの集団感染が発生している病院に勤めていました。彼女に症状はなく、医療従事者の接触者追跡を通して発見されました。彼女には感染の発端となる患者との担当歴がありました。6月18日に、MERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。その他に確認までの14日間における既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、彼女は安定した状態で、自宅で隔離の下に置かれています。
    5. 5.47歳女性。非サウジ国籍のリヤド市の医療従事者で、現在MERS-CoVの集団感染が発生している病院に勤めていました。彼女に症状はなく、医療従事者の接触者追跡を通して発見されました。彼女には感染の発端となる患者の担当歴がありました。6月18日に、MERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。その他に確認までの14日間における既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、彼女は安定した状態で、自宅で隔離の下に置かれています。
    6. 6.82歳男性。Najran(ナジュラーン)市の住民で、6月14日に発症し、6月17日にリヤド市内の病院に入院しました(現在、集団感染が続いている病院ではありません)。彼には基礎疾患がありました。6月18日にMERS-CoVの検査結果が陽性であると判明しました。発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触についての調査が行われています。現在、患者は重篤な容態で、ICUに収容され人工呼吸器を装着されています。
    7. 7.48歳男性。Taif(タイーフ)市の住民で、6月11日に発症し、6月15日にタイーフ市内の病院に入院しました。彼には基礎疾患がありました。6月16日にMERS-CoVの検査結果が陽性であると判明しました。彼は頻繁にラクダの生乳を飲んでいました。その他に発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、彼は安定した状態で病棟の陰圧室に隔離されています。農業省にも報告され、ラクダの調査が行われています。
    8. 8.77歳男性。リヤド市の住民で、6月16日にMERS-CoVの検査結果が陽性であると判明したために、現在MERS-CoVの集団感染が発生している病院に入院しました。彼に症状はなく、医療従事者の接触者追跡を通して確認されました。同じ病院で確認された他のMERS患者との疫学的な関連について調査が行われています。その他に確認までの14日間における既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、彼は安定した状態で、自宅で隔離の下に置かれています。
    9. 9.61歳女性。リヤド市の住民で、別の疾患のために、現在MERS-CoVの集団感染が発生している病院に、6月12日に入院しました。彼女に症状はなく、医療従事者の接触者追跡を通して発見されました。6月16日にMERS-CoVの検査結果が陽性であると判明しました。同じ病院で発見された他の患者との疫学的な関連について調査が行われています。その他に確認までの14日間における既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、彼は安定した状態で、自宅で隔離の下に置かれています。
    10. 10.51歳女性。リヤド市の住民で、6月12日に、現在MERS-CoVの集団感染が発生している病院に入院し、6月15日に退院しました。彼女に症状はなく、医療従事者の接触者追跡を通して発見されました。6月16日にMERS-CoVの検査結果が陽性であると判明しました。同じ病院で確認された他のMERS患者との疫学的な関連について調査が行われています。その他に発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、彼女は安定した状態で、自宅で隔離の下に置かれています。
    11. 11.69歳女性。リヤド市の住民で、別の疾患のために、現在MERS-CoVの集団感染が発生している病院に、2月24日に入院していました。彼女は、入院中の6月14日に発症し、6月16日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。同じ病院で確認された他の患者との関連の可能性について調査が行われています。その他に発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、彼女は安定した状態で病棟の陰圧室に隔離されています。
    12. 12.51歳男性。非サウジ国籍のリヤド市の医療従事者で、現在MERS-CoVの集団感染が発生している病院に勤めていました。彼女(原文どおり記載)に症状はなく、発端となる患者と医療従事者との接触者追跡を通して確認されました。彼女(原文どおり記載)には感染の発端となる患者の担当歴がありました。6月17日に、MERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。その他に確認までの14日間における既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、彼女(原文どおり記載)は症状のないまま、自宅で隔離の下に置かれています。
    13. 13.33歳女性。非サウジ国籍のリヤド市の医療従事者で、現在MERS-CoVの集団感染が発生している病院に勤めていました。彼女に症状はなく、発端となる患者と医療従事者との接触者追跡を通して確認されました。6月17日に、MERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。その他に確認までの14日間における既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、彼女は症状のないまま、自宅で隔離の下に置かれています。
    14. 14.59歳女性。非サウジ国籍のリヤド市の医療従事者で、現在MERS-CoVの集団感染が発生している病院に勤めていました。彼女に症状はなく、発端となる患者と医療従事者との接触者追跡を通して確認されました。6月17日に、MERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。その他に確認までの14日間における既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、彼女は症状のないまま、自宅で隔離の下に置かれています。
    15. 15.35歳女性。非サウジ国籍のリヤド市の医療従事者で、現在MERS-CoVの集団感染が発生している病院に勤めていました。彼女に症状はなく、発端となる患者と医療従事者との接触者追跡を通して確認されました。6月17日に、MERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。その他に確認までの14日間における既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、彼女は症状のないまま、自宅で隔離の下に置かれています。
    16. 16.36歳女性。非サウジ国籍のリヤド市の医療従事者で、現在MERS-CoVの集団感染が発生している病院に勤めていました。彼女に症状はなく、発端となる患者と医療従事者との接触者追跡を通して確認されました。6月17日に、MERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。その他に確認までの14日間における既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、彼女は症状のないまま、自宅で隔離の下に置かれています。
    17. 17.30歳女性。非サウジ国籍のリヤド市の医療従事者で、現在MERS-CoVの集団感染が発生している病院に勤めていました。彼女に症状はなく、発端となる患者と医療従事者との接触者追跡を通して確認されました。6月17日に、MERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。その他に確認までの14日間における既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、彼女は症状のないまま、自宅で隔離の下に置かれています。
    18. 18.58歳男性。リヤド市の住民で、無症状のまま、発端となる患者の家族内接触者への追跡を通して確認されました。6月16日に、MERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。その他に確認までの14日間における既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、彼は症状のないまま、自宅で隔離の下に置かれています。
    19. 19.20歳女性。非サウジ国籍のリヤド市の医療従事者で、無症状のまま、発端となる患者の家族内接触者への追跡を通して確認されました。6月16日に、MERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。その他に確認までの14日間における既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、彼女は症状のないまま、自宅で隔離の下に置かれています。
    20. 20.31歳女性。リヤド市の住民で、無症状のまま、発端となる患者の家族内接触者への追跡を通して確認されました。6月16日に、MERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。その他に確認までの14日間における既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、彼女は症状のないまま、自宅で隔離の下に置かれています。
    21. 21.57歳女性。非サウジ国籍のリヤド市の医療従事者で、現在MERS-CoVの集団感染が発生している病院に勤めていました。彼女に症状はなく、発端となる患者との接触者追跡を通して確認されました。6月16日に、MERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。その他に確認までの14日間における既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、彼女は症状のないまま、自宅で隔離の下に置かれています。
    22. 22.55歳女性。非サウジ国籍のリヤド市の医療従事者で、現在MERS-CoVの集団感染が発生している病院に勤めていました。彼女に症状はなく、発端となる患者との接触者追跡を通して確認されました。6月16日に、MERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。その他に確認までの14日間における既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、彼女は症状のないまま、自宅で隔離の下に置かれています。

これらの患者の家族内および医療者における接触者の追跡が行われています。

アラブ首長国連邦(UAE
37歳男性。UAE国籍をもたないアブダビの住民で、6月9日に発症し、6月11日に入院しました。患者に基礎疾患はありません。6月16日に、MERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。発症前の14日以内に既知のリスクファクターとの接触について調査が行われています。現在、患者は重篤な容態で、人工呼吸器の装着の下でICUに収容されています。家族内接触者、仕事と共にしていた者、医療従事者の接触者についても調査が行われています。

WHOは、2012年9月以降、世界中で少なくとも629人の関連する死亡報告を含む、検査で確定された1,762人のMERS-CoV感染の患者報告を受けています。

  • WHOによるリスクアセスメント

MERS-CoVは、致死率が高い重症感染症を引き起こし、人から人への感染力を示しています。これまでのところ、確認された人から人への感染伝播は、主に医療施設の環境下で発生しています。

この新たな患者の報告による全体のリスク評価の変更はありません。WHOは、MERS-CoVへの新たな感染者が中東から報告されること、動物や動物製品(例えば、ヒトコブラクダとの接触後)もしくは感染者(例えば、医療施設内)と接触した後に感染した者が、今後も他の国に感染輸出されるであろうことは想定しています。WHOは、疫学的な発生状況を監視し、入手可能な最新の情報に基づいてリスク評価を行っています。

  • WHOからのアドバイス

WHOは、現状および利用可能な情報に基づいて、加盟国すべてに対して、急性呼吸器感染症に関するサーベイランスを継続し、また、いかなる異常な症状を示す患者についても注意深く調査することを勧めています。

感染予防と制御の対策は、診療施設においてMERS-CoVが拡がる可能性を防ぐために重要です。他の呼吸器感染症と同様に、MERS-CoVの初期症状は非特異的なため、通常、早い時期に患者をMERS-CoVと診断できるものではありません。したがって、医療従事者は、診断にかかわらず、すべての患者に対して常に一貫した標準感染予防対策を適用する必要があります。急性呼吸器感染症の兆候を呈している患者の治療にあたる場合には、標準感染予防対策に加えて、飛沫予防対策を行うことも必要です。また、MERS-CoV感染の可能性がある患者、あるいは確定診断された患者の治療にあたる場合には、接触予防対策および眼の防護策を追加すべきです。さらに、エアロゾル(微粒子)が発生するような処置を行う場合には、空気感染の予防対策を行う必要があります。

今後、MERS-CoVに関して解明が進むまでは、糖尿病、腎不全、慢性肺疾患、免疫不全のある人は、MERS-CoV感染で重篤化するリスクが高いと考える必要があります。したがって、これらの人は、ウイルスの存在する可能性がある農場、市場あるいは家畜小屋のある地域を訪れる場合、動物に近づくこと、特にラクダと濃厚接触することを避けなければなりません。動物に触れる前、触れた後には必ず手洗いを行い、病気の動物との接触を避けるという一般的な衛生習慣をしっかりと守るべきです。

食品に対する衛生習慣に注意するべきです。ラクダの生乳あるいは尿を飲むこと、また、調理不十分の肉を食べることは避けるべきです。

WHOは、警戒体制をとりながら、発生状況を監視しています。地域住民の中で人から人へ持続的に感染が伝播していることの証拠は得られておらず、WHOは、この事象に関連して渡航や貿易を制限することを勧めてはいません。感染の影響を受けた国からの、また、影響を受けた国へ行く、渡航者において、MERS-CoVに対する注意を向上させておくことは、実践的な公衆衛生上のよい習慣の実践となります。

出典