2016年07月26日更新 中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)の発生(更新22)

2016年7月25日に公表された世界保健機関(WHO)の情報によりますと、サウジアラビアの国際保健規則(IHR)国家担当者は、7月2日から14日までの間に、新たに中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)感染者9人をWHOに報告しました。このうち2人が死亡しています。

患者の詳細情報

  1. 1.86歳男性。Al Aflaj市の住民で、7月8日に発症し、7月11日に入院しました。彼には基礎疾患がありました。7月12日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。彼は、発症までの14日間にラクダとの接触機会がありました。その他には発症までの14日間に既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、彼は安定した状態で病棟の陰圧室に隔離されています。農業省にも報告され、ラクダの調査が続けられています。
  2. 2.44歳男性。Najran(ナジュラーン)市の住民で、6月30日に発症し、7月9日に入院しました。彼には基礎疾患がありました。7月11日に、MERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触についての調査が行われています。現在、彼は安定した状態で病棟の陰圧室に隔離されています。
  3. 3.73歳女性。Najran(ナジュラーン)市の住民で、7月5日に発症し、7月7日に入院しました。彼女には基礎疾患がありました。7月8日に、MERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。彼女は、発症までの14日間にラクダとの接触機会がありました。その他には発症までの14日間に既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、彼女は重篤な容態で、ICUに収容されています。農業省にも報告され、ラクダの調査が続けられています。
  4. 4.24歳男性。Al Duwadimi市の住民で、7月4日に発症し、7月6日に入院しました。彼には基礎疾患がありました。7月7日に、MERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触についての調査が行われています。現在、彼は安定した状態で病棟の陰圧室に隔離されています。
  5. 5.80歳女性。ジッダ(Jeddah)の住民で、6月28日に発症し、6月29日に入院しました。彼には基礎疾患がありました。7月1日に、MERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。彼にはMERS-CoV感染が検査確認された2人の患者(7月6日公表、No. 12、13)との接触機会がありました。彼女は7月10日に亡くなりました。
  6. 6.74歳男性。ナジュラーン市の住民で、6月25日に発症し、7月2日にナジュラーン市内の病院に入院しました。彼には基礎疾患がありました。7月4日にMERS-CoVの検査結果が陽性であると判明しました。彼は頻繁にラクダと接触し、その生乳を飲んでいました。その他に発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、彼は安定した状態で病棟の陰圧室に隔離されています。農業省にも報告され、ラクダの調査が行われています。
  7. 7.67歳男性。リヤド市の住民で、6月21日に発症し、6月28日に入院となりました。彼には基礎疾患がありました。6月30日にMERS-CoVの検査結果が陽性であると判明しました。発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触についての調査が行われています。現在、彼は安定した状態で病棟の陰圧室に隔離されています。
  8. 8.24歳男性。サウジアラビア国籍を持たないAl Duwadimi市の住民で、6月23日に発症し、6月27日に入院しました。彼に基礎疾患はありません。6月30日にMERS-CoVの検査結果が陽性であると判明しました。彼は頻繁にラクダと接触し、その生乳を飲んでいました。その他に発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、彼は重篤な容態で、ICUに収容されています。農業省にも報告され、ラクダの調査が行われています。
  9. 9.74歳女性。Alkharj(アルカルジ)の住民で、別の疾患病態のため6月18日から入院していました。入院中の6月26日に、彼女は発症しました。彼女には基礎疾患がありました。6月28日にMERS-CoVの検査結果が陽性であると判明しました。彼女はラクダとの接触機会がありました。彼女は7月5日に亡くなりました。農業省にも報告され、ラクダの調査が行われています。

これらの患者の家族内および医療者における接触者の追跡が行われています。

サウジアラビアの国際保健規約(IHR)国家担当者は、以前に報告されたMERS-CoV患者4人の死亡をWHOに報告しました。患者は、7月6日に報告された3人(No. 2、6、13)と6月22日に報告された1人(No. 3)です。

WHOは、2012年9月以降、世界中で少なくとも640人の関連する死亡報告を含む、検査で確定された1,791人のMERS-CoV感染の患者報告を受けています。

WHOによるリスクアセスメント

MERS-CoVは、致死率が高い重症感染症を引き起こし、人から人への感染力を示しています。これまでのところ、確認された人から人への感染伝播は、主に医療施設の環境下で発生しています。

この新たな患者の報告による全体のリスク評価の変更はありません。WHOは、MERS-CoVへの新たな感染者が中東から報告されること、動物や動物製品(例えば、ヒトコブラクダとの接触後)もしくは感染者(例えば、医療施設内)と接触した後に感染した者が、今後も他の国に感染輸出されるであろうことは想定しています。WHOは、疫学的な発生状況を監視し、入手可能な最新の情報に基づいてリスク評価を行っています。

WHOからのアドバイス

WHOは、現状および利用可能な情報に基づいて、加盟国すべてに対して、急性呼吸器感染症に関するサーベイランスを継続し、また、いかなる異常な症状を示す患者についても注意深く調査することを勧めています。

感染予防と制御の対策は、診療施設においてMERS-CoVが拡がる可能性を防ぐために重要です。他の呼吸器感染症と同様に、MERS-CoVの初期症状は非特異的なため、通常、早い時期に患者をMERS-CoVと診断できるものではありません。したがって、医療従事者は、診断にかかわらず、すべての患者に対して常に一貫した標準感染予防対策を適用する必要があります。急性呼吸器感染症の兆候を呈している患者の治療にあたる場合には、標準感染予防対策に加えて、飛沫予防対策を行うことも必要です。また、MERS-CoV感染の可能性がある患者、あるいは確定診断された患者の治療にあたる場合には、接触予防対策および眼の防護策を追加すべきです。さらに、エアロゾル(微粒子)が発生するような処置を行う場合には、空気感染の予防対策を行う必要があります。

今後、MERS-CoVに関して解明が進むまでは、糖尿病、腎不全、慢性肺疾患、免疫不全のある人は、MERS-CoV感染で重篤化するリスクが高いと考える必要があります。したがって、これらの人は、ウイルスの存在する可能性がある農場、市場あるいは家畜小屋のある地域を訪れる場合、動物に近づくこと、特にラクダと濃厚接触することを避けなければなりません。動物に触れる前、触れた後には必ず手洗いを行い、病気の動物との接触を避けるという一般的な衛生習慣をしっかりと守るべきです。

食品に対する衛生習慣に注意するべきです。ラクダの生乳あるいは尿を飲むこと、また、調理不十分の肉を食べることは避けるべきです。

WHOは、警戒体制をとりながら、発生状況を監視しています。地域住民の中で人から人へ持続的に感染が伝播していることの証拠は得られておらず、WHOは、この事象に関連して渡航や貿易を制限することを勧めてはいません。感染の影響を受けた国からの、また、影響を受けた国へ行く、渡航者において、MERS-CoVに対する注意を向上させておくことは、実践的な公衆衛生上のよい習慣の実践となります。

出典

WHO.Emergencies preparedness, response.Disease outbreak news. 25July 2016
Middle East respiratory syndrome coronavirus(MERS-CoV) - Saudi Arabia
http://www.who.int/csr/don/25-july-2016-mers-saudi-arabia/en/