2016年09月09日更新 ジカウイルス感染症の発生状況 (更新30)

2016年9月8日付けでWHOより発表されたジカウイルス感染症(いわゆるジカ熱)の発生状況に関する報告です。ジカウイルス感染症の発生状況は以下のとおりです。

情報更新の要点

  • 先週は、新しく蚊の媒介によりジカウイルス感染症が報告された国と地域はありません。
  • 2014年に以前ジカウイルス感染の報告のあったマレーシアで、先週、新たに報告がありました。
  • 先週は、新しくジカウイルスの感染との関係が示唆される小頭症やその他の中枢神経奇形が報告された国や地域もありません。
  • 先週は、新しくジカウイルスの感染と関係するギラン・バレー症候群(GBS)が報告された国や地域もありません。
  • オランダから、先週、初めてジカウイルスの人から人への感染伝播が起きていたこと(恐らく、性交渉による感染)が報告されました。
  • WHOアメリカ大陸地域事務局からは、感染対策の運用計画が更新されました。
    • WHOは、神経合併症の臨床管理について、バルバドスで研究集会を開きました。
    • WHO/PAHO(汎米保健機構)からブラジルに出された、検査への評価に対する技術上の行動および各州のジカウイルスの診断に対する検査処理能力の強化が8月に完了しました。
    • WHOは、媒介する蚊の調査と駆除に関する作戦計画を更新するために、パナマで2回の会議を行いました。
    • WHOは、コロンビアとエルサルバドルで組織作りを行い、「蚊に対する啓発週間」を始めるための支援を行いました。
    • ハイチでは、WHOと公衆衛生省および、住民に関する疫学、検査、調査研究の部局(DELR)が、8月に、ジカウイルスとその合併症の疫学調査に対する3つの訓練者養成の研究集会を開きました。
  • シンガポールでのジカウイルス感染者からの遺伝子配列の解析の結果では、ウイルスがアジア系統に属しており、おそらくは以前に東南アジアで感染伝播していたウイルス株から変異したものであることが示されています。最近発生したシンガポールの患者は、南米から感染輸入されたウイルスが原因であることは示していません。
  • 2016年夏季パラリンピック・リオデジャネイロ大会が9月7日に開催されました。WHOは、すべての選手、ボランティア、観光客や住民に対して、2016年夏季パラリンピック大会ができるだけ安全なものとなるように、引き続き保健省への技術支援を提供しています。全ての人が、ジカウイルスへの感染を避けるためのガイダンスを引き続き守っていく必要があります。
  • 2016年9月1日に第4回緊急委員会が開かれました。提示された科学的証拠を踏まえ、委員会は、地理的には拡大が続き、このウイルスへの理解とその結果の間にはかなりの解離があることから、ジカウイルスの感染およびこれに関係する先天障害や神経障害が国際的な懸念に対する公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)の状態にあるという見解で一致しました。
  • 文献の系統的な再検討が行われ、WHOは妊娠中のジカウイルスへの感染が小頭症を含めて先天的な脳障害の原因であり、ギラン・バレー症候群(GBS)の引き金になっていると結論づけました。
  • 性行為感染からの予防に関して改訂された指針が、2016年9月6日に公表されました。

分析

  • 全体として、世界のリスク評価は変わっていません。
  • フィリピンやマレーシアで見られたように、西太平洋地域の国々で、新たな患者が報告されました。隣国のシンガポールでは、2016年8月に、新たに流行が始まったと報告されました。東南アジアでは、以前に流行したことがあったために、この地域には流行に対して免疫力をもつ一定の集団がいる可能性があります。
  • シンガポールの保健省は、シンガポールにおけるジカウイルス感染者の遺伝子解析では、このウイルスがアジア系統に属しており、おそらくは以前に東南アジアで感染伝播していたウイルス株から進化したものであり、南米からウイルス(このウイルスもアジア系統ではあるものの)の輸入感染とは異なるとの見解を示しています。東南アジアでのジカウイルス感染者では、これまでに神経学的合併症は報告されていませんでした。しかし、ウイルスの変異と神経学的合併症との確実な関係は明らかとなっていないため、引き続き、警戒は必要です。
  • ギニア・ビサウでアフリカ系統(ウイルス)によって引き起こされた患者の知見と同様に、神経学的合併症の証拠がないことが、起こらないことの証明であると考えるべきではありません。東南アジアでもアフリカでも、小頭症、その他の先天奇形、GBSの可能性を明確に排除できるためには、現在の状況では、調査されたジカウイルス患者の数は不十分です。もし、何年もかけてこの地域でウイルスの感染伝播が明らかに確立されていたとすれば、シンガポールでの突然の患者数の増加(8月27日以降に250人)が何によるものかは明らかではありません。

発生状況

  • 2007年以降、合計72の国と地域で蚊の媒介によるジカウイルスの感染伝播の証拠が報告されています(2015年以降は、70の国と地域です)。
    • 56の国と地域で、2015年以降に初めてジカウイルスの流行発生が報告されました。
    • マレーシアは、これまで、カテゴリー3(流行が終息している地域)に分類されていましたが、ジカウイルスの国内感染が9月3日に報告されました。この患者は、マレーシア国外への渡航歴はありませんでした。
    • 2016年に、国内感染の高い可能性、又は蚊の媒介によるジカウイルスの感染伝播の証拠が4か国(インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナム)から報告されました。
    • 12の国と地域では、2015年までや2015年に地域内での蚊の媒介によるジカウイルスの感染の証拠が報告されていました。しかし、これらの国では、2016年には感染伝播が報告されていないか、又は流行が終息しています。
    • マレーシアがこのカテゴリーから外されました。
  • 2016年2月以降、12の国でジカウイルスの人から人への感染伝播が起きていた証拠が報告されました。
  • ジカウイルス感染症と関係する可能性の高い、又は先天性の感染が示唆される小頭症やその他の中枢神経奇形が、20の国と地域から報告されました。20か国のうち4か国では、国内でジカウイルスの発生がなく、最近、ジカウイルス感染症が発生している国への旅行したことのある母親から、小頭症新生児が生まれたことが報告されています。
  • アメリカ合衆国では、ジカウイルスへの感染の可能性が検査確認された妊娠女性で、次のような事例がありました。
    • 先天性障害のあった新生児16例
    • 先天性障害による流産5例
  • アメリカ合衆国の管轄地域では、ジカウイルスへの感染の可能性が検査確認された妊娠女性で、次のような事例がありました。
    • 先天性障害のあった新生児1例
    • 先天性障害による流産1例
  • 18の国と地域で、ギラン・バレー症候群(GBS)の発生率の増加、および/またはGBS患者でのジカウイルス感染の検査確認が報告されています。
  • ギニア・ビサウでは、報告された5人の小頭症患者の調査が続けられています。
  • 2016年9月1日に第4回緊急委員会が開かれました。提示された科学的証拠を踏まえ、委員会は、地理的には拡大が続き、このウイルスへの理解とその結果の間にはかなりの解離があることから、ジカウイルスの感染およびこれに関係する先天障害や神経障害が国際的な懸念に対する公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)の状態にあるという見解で一致しました。委員会は、パラリンピック大会を開催するブラジルの都市を含めて、ジカウイルスの感染伝播が起きている国と地域への旅行およびその地域との貿易には一般制限を行うべきではない、とした以前の進言を再度確認しました。ジカウイルスの影響は長期的な問題であることを理解し、委員会は長期的かつ効果的な対策を確実に行うためには、WHOがさらに歩調を合わせて責任をもち、適切な体制基盤と計画の作成を考えるべきことを、事務局長に勧めました。委員会は、ジカウイルスの疫学、臨床としての疾患、および予防について、科学的に理解をいっそう深める必要性があることを強調しました。ジカウイルス感染症とその合併症が医療体制の弱体化に与える影響への理解から、委員会は、医療体制が脆弱で対処能力が弱い国に対し、ジカウイルス感染症の効果的な調査体制や管理に関しての適切なガイダンスを提供することもWHOに進言しました。この会議は3か月毎に開かれます。
  • 2016年5月30日までの文献を系統的に検討した結果に基づき、WHOは妊娠中のジカウイルスへの感染が小頭症を含めて先天的な脳障害の原因であり、ギラン・バレー症候群(GBS)の引き金になっていると結論づけました。入手できる因果関係の科学的証拠の長所と欠点を評価するために、WHOが2016年2月に作成した因果関係の骨組み調査から得られた知見は、研究の間での結果に解離があることを示し、さらなる活動の方向性を提供しました。
  • WHOは、ジカウイルスの性行為感染に関する新たな証拠を検討し、その予防についてガイダンスを暫定的に更新しました。着目すべき点は、次のとおりです。
    • WHOは、ジカウイルスの感染伝播が活発な地域では、妊婦と胎児に対する有害な事象が起こる可能性を回避するために、妊娠の有無やいつ妊娠したかについての情報の判別ができるように、性的に活動性の高い男女は全ての避妊の方法について、正確に指導を受け、情報の提供 を受けることを勧めています。
    • WHOは、ジカウイルスの感染伝播が活発でない地域でも、感染伝播が活発な地域から戻ってきた男女は、6か月間は性生活を控えるか、より安全な性生活を送ることを勧めています。

出典

WHO. Situation Report, Emergencies. 8 September 2016
Zika virus, Microcephaly and Guillain-Barré syndrome
http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/250049/1/zikasitrep8Sep16-eng.pdf?ua=1[PDF形式:731KB]