2016年09月20日更新 中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)の発生(更新24)
2016年9月16日に公表された世界保健機構(WHO)の情報によりますと、サウジアラビアの国際保健規則(IHR)国家担当者は、2016年7月20日から8月18日までの間に、新たに中東呼吸器症候群(MERS)の感染者8人をWHOに報告しました。このうち1人が死亡しています。また、以前報告されたMERS患者のうち、2人の死亡者が報告されました。
患者の詳細情報
- 1.39歳男性。リヤド地区のAlkharj市の住民で、8月11日に発症し、8月16日に入院しました。8月17日に鼻咽頭スワブを採取し、8月18日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。彼には基礎疾患はありませんでした。ラクダとの接触歴があり、その生乳を飲んでいました。その他の既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、患者は安定した状態で、病棟の陰圧室に入院しています。農業省に報告され、ラクダの調査中です。
- 2.36歳男性。リヤド地区のHuraymila市の住民です。8月4日に発症し、8月7日に入院しました。患者には基礎疾患がありますが、8月8日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。既知のリスクファクターとの接触についての調査が行われています。現在、患者は安定した状態で、病棟の陰圧室に入院しています。
- 3.76歳男性。メディナ地区(Madinah)のメディナ(Madinah)市の住民で、7月31日に発症し、8月2日に入院しました。患者には基礎疾患があり、8月3日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。既知のリスクファクターとの接触についての調査が行われています。現在、患者は安定した状態で、病棟の陰圧室に入院しています。
- 4.49歳男性。アルハサ地区(El Hasa Region)のフフーフ市(Hofouf city)の住民で、7月24日に発症し、7月31日に入院しました。患者には基礎疾患があり、8月2日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。彼にはラクダとの間接的な接触歴がありました。その他に発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、患者は安定した状態で、病棟の陰圧室に入院しています。農業省に報告され、ラクダの調査中です。
- 5.52歳女性。東部地区のジュバイル市(Jubail city)の住民で、7月31日に発症し、8月1日に入院しました。患者には基礎疾患はなく、8月2日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。彼女は2016年7月29日にWHOに報告された症例(下記、No.6)の看護をしていた経歴があります。その他に発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触はありません。現在、患者は安定した状態で、自宅に隔離されています。
- 6.58歳男性。東部地区のジュバイル市(Jubail city)の住民で、7月19日に発症し、7月27日に入院しました。患者には基礎疾患があり、7月28日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。彼はラクダとの間接的な接触歴があり、その生乳を飲んでいました。その他に発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触はありません。現在患者は重篤な容態で、ICUに収容され人工呼吸を行っています。また、農業省に報告され、ラクダの調査中です。
- 7.27歳男性。Qassim地区のブライダ市(Buridah city)の住民で、7月17日に発症し、7月20日に入院しました。7月22日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。患者には既往歴はありませんでした。発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触はありません。現在患者は重篤な容態で、ICUに収容され人工呼吸を行っています。
- 8.49歳男性。ナジュラーン地区(Najran Region)のナジュラーン市(Najran city)の住民で、7月16日に発症し、7月17日に入院しました。患者には基礎疾患があり、7月19日にMERS-CoVの検査結果が陽性と判明しました。発症までの14日間における既知のリスクファクターとの接触について調査中です。患者の容態は重篤で、ICUに収容され人工呼吸を行いました。彼は7月20日に亡くなりました。
これらの患者の家族内および医療者における接触者の追跡が行われています。
サウジアラビアの国際保健規則(IHR)国家担当者は、以前に報告されたMERS-CoV患者2人の死亡をWHOに報告しました。患者は、6月22日に報告された人(No.6)と7月25日に報告された人(No.3)です。
WHOは、2012年9月以降、世界中で少なくとも643人の関連する死亡報告を含む、検査で確定された、1,800人のMERS-CoV感染の患者報告を受けています。
WHOによるリスクアセスメント
MERS-CoVは、致命率が高い重症感染症を引き起こし、人から人への感染力を示してきました。これまでのところ、観察されたヒト-ヒト感染は主に医療の現場で発生しています。追加された通知症例では、全体的なリスク評価は変わりません。
WHOは、中東から新たなMERS-CoV感染患者が報告されることや、動物やその動物生産物(例えば、ヒトコブラクダと接触した後)もしくは感染源となる人(例えば、医療施設内で)と接触することで感染した可能性のある個々人が他の国に輸入することはあり得ると考えています。WHOは、疫学的な状況の監視を続け、入手可能な最新の情報に基づいてリスク評価をおこなっています。
WHOからのアドバイス
WHOは、現状および利用可能な情報に基づいて、加盟国すべてに対して、急性呼吸器感染症に関するサーベイランスを継続し、また、いかなる異常な症状を示す患者についても注意深く調査することを勧めています。
感染予防と制御の対策は、診療施設においてMERS-CoVが拡がる可能性を防ぐために重要です。他の呼吸器感染症と同様に、MERS-CoVの初期症状は非特異的なため、通常、早い時期に患者をMERS-CoVと診断できるものではありません。したがって、医療従事者は、診断にかかわらず、すべての患者に対して常に一貫した標準感染予防対策を適用する必要があります。急性呼吸器感染症の兆候を呈している患者の治療にあたる場合には、標準感染予防対策に加えて、飛沫予防対策を行うことも必要です。また、MERS-CoV感染の可能性がある患者、あるいは確定診断された患者の治療にあたる場合には、接触予防対策および眼の防護策を追加すべきです。さらに、エアロゾル(微粒子)が発生するような処置を行う場合には、空気感染の予防対策を行う必要があります。
今後、MERS-CoVに関して解明が進むまでは、糖尿病、腎不全、慢性肺疾患、免疫不全のある人は、MERS-CoV感染で重篤化するリスクが高いと考える必要があります。したがって、これらの人は、ウイルスの存在する可能性がある農場、市場あるいは家畜小屋のある地域を訪れる場合、動物に近づくこと、特にラクダと濃厚接触することを避けなければなりません。動物に触れる前、触れた後には必ず手洗いを行い、病気の動物との接触を避けるという一般的な衛生習慣をしっかりと守るべきです。
食品に対する衛生習慣に注意するべきです。ラクダの生乳あるいは尿を飲むこと、また、調理不十分の肉を食べることは避けるべきです
WHOは、警戒体制をとりながら、発生状況を監視しています地域住民の中で人から人へ持続的に感染が伝播していることの証拠は得られておらず、WHOは、この事象に関連して渡航や貿易を制限することを勧めてはいません。感染の影響を受けた国からの、また、影響を受けた国へ行く、渡航者において、MERS-CoVに対する注意を向上させておくことは、実践的な公衆衛生上のよい習慣の実践となります。
出典
WHO.Emergencies preparedness, response.Disease outbreak news. 16September2016
Middle East respiratory syndrome coronavirus(MERS-CoV) - Saudi Arabia
http://www.who.int/csr/don/16-september-2016-mers-saudi-arabia/en/