2016年09月23日更新 ジカウイルス感染症の発生状況 (更新32)
2016年9月22日付けでWHOより発表されたジカウイルス感染症(いわゆるジカ熱)の発生状況に関する報告です。ジカウイルス感染症の発生状況は以下のとおりです。
情報更新の要点
- 先週は、セントクリストファー・ネーヴィスで新しく蚊の媒介によりジカウイルス感染症が報告されました。
- 西太平洋地域のシンガポール、フィリピン、マレーシア、ベトナムで、新しい患者発生の報告が続いています。東南アジアのタイでも、最近、ジカウイルス感染症の患者が報告されました。最近になって報告されるジカウイルス感染症の患者数が明らかに増加していることが、実際の発生率の増加によるものか、調査活動、検査が強化され注意が喚起された結果によるものか、は明らかではありません。
- マレーシアから報告されたジカウイルスの感染者2人からの決定された遺伝子配列は、ともに「アジア」系統由来ですが、わずかにウイルス株の配列が異なることが示されています。最初に感染輸入された患者は、2013年にフランス領ポリネシアで流行したウイルス、すなわち、2007年以降の「アジア」系統株に類似していました。(一方)国内で感染した2番目の患者は、この「アジア」系統以前に流行した東南アジア株と類似していると報告されました。
- また、シンガポールの患者での遺伝子配列の分析では、この「アジア」系統の古いウイルス株からのウイルスによる国内感染事例に加えて、ブラジルへの旅行で輸入感染した患者が、現在、アメリカ大陸で流行している「アジア」系統株に類似のウイルスによって発症したことが確認されています。
- 先週は、グアテマラで新しくジカウイルス感染症と関連する可能性のある小頭症や他の中枢神経系(central nerve system: CNS)の奇形が報告されました。
- 先週は、エクアドルで新しくジカウイルス感染症と関連するギラン・バレー症候群(GBS: Guillain-Barré syndrome)が報告されました。
- ブラジルのリオデジャネイロでの2016年夏季パラリンピックが、9月18日に閉幕しました。WHOは、パラリンピックから帰ってきた旅行者でのジカウイルスへの感染のリスクは低いと評価していますが、ゼロではありません。これまでのところ、WHOにはこの大会に関連したジカウイルス感染者の公式な報告は届いていません。WHOのガイダンスに従い、帰国した男性も女性もこれまで以上に安全な性生活を心がけ、帰国後6か月間は性交渉を控えることも検討する必要があります。また、さらなる感染伝播のリスクを下げるために、帰国後少なくとも3週間は防虫剤を使用しておく必要があります。
分析
- 全体として、世界におけるリスク評価は変わっていません。
- 2つの主要な系統、「アフリカ」系統と「アジア」系統があります。アフリカでは「アフリカ」系統のみが報告されており、最近、「アフリカ」系統はギニアビアウで報告された一連の7人での確定患者の分析によって同定されました。「アジア」系統は、ウイルス株の分布がアジア、西太平洋地域、アメリカ大陸地域、カーボ・ベルデからの報告で構成されています。
- 「アジア」系統のウイルスは、以前に東南アジアで流行していたウイルス株から進化した可能性のあることが、シンガポールの患者から分離されたウイルスの遺伝子配列の分析で示されています。したがって、南米から輸入された結果ではないようです。予想されるように、ブラジルへの旅行で感染輸入された患者での遺伝子配列の分析結果からは、現在、アメリカ大陸で流行しているウイルスと類似のウイルスであることが示されています。
- 現在のところ、神経学的合併症は、2007年以降の「アジア」系統のウイルス株にのみ関連しています。これらの2007年以降のウイルス株は、2013年以降フランス領ポリネシアから、2015年以降アメリカ大陸地域から、そして2016年にカーボ・ベルデから分離されています。これまでに、東南アジアでジカウイルス感染症症例に関連する神経学的合併症は報告されていませんが、ウイルスの進化と神経学的合併症に及ぼす影響の間の明らかな関係は確認されていないために、引き続き警戒体制を維持することになります。現在の発生状況では、東南アジアもアフリカも、小頭症やその他の先天性奇形およびギラン・バレー症候群の可能性を明らかに除外できる十分なジカウイルス感染症の調査数ではないため、神経学的合併症の証拠が存在しないことで、(これらが)起こらないと考えるべきではありません。
発生状況
- 73の国と地域で、2007年以来(2015年から71の国と地域です)蚊が媒介するジカウイルス感染伝播のエビデンスが報告されています。
- 56の国と地域で、2015年以降流行発生は報告されました。
- 5つの国と地域で、2016年に、蚊が媒介するジカの感染の地域感染の可能性やエビデンスがあります。
- 12の国や地域では、2015年までや2015年に地域で蚊が媒介するジカの感染のエビデンスが報告されています。しかし、これらの国や地域では2016年に症例の報告されていないか、または流行発生が終息しています。
- 2016年2月以降、12の国でジカウイルスのヒト-ヒト感染のエビデンスが報告されました。
- 21の国や地域で、ジカウイルス感染症と関連する可能性の高い、または先天性の感染が示唆される小頭症や他の中枢神経奇形が報告されました。21か国のうち4か国で、国内でジカウイルスの発生がなく、最近、ジカウイルス感染症が発生している国へ旅行したことがある母親から、小頭症新生児が生まれたことが報告されています。
- 19の国と地域で、ギラン・バレー症候群(GBS)の発生率の増加、および/またはGBS患者でジカウイルス感染症の検査確認が報告されています。
- ギニア・ビサウでは、報告された5人の小頭症症例の調査が続けられています。
- (WHOの感染対策の)運営状況が更新されています。
- 東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国の保健省の閣僚が、2016年9月19日に集まりました。共同声明では、各閣僚がこの地域でジカウイルスへの備えと対策を強化することで合意しました。合意内容は次のようになっています。
- WHOを含む世界の加盟国の技術支援とともに、国内での疾病調査活動の強化と感染の発生地域のリスク評価体制を活性化させること
- 国際保健規則(IHR2005)およびその他これまでの報告体制を通じて正確にリスクを評価するために、加盟国間で情報共有を向上させること
- ASEAN緊急オペレーションセンター(ASEAN-EOC)ネットワークとASEANプラス3地域の疫学研修ネットワーク(APT-FETN)を含む既存のネットワークを通して、ジカウイルスおよびその他の新興・再興疾患に対する地域調査活動および対策への有効性を向上させること
- 媒介する蚊への対策、ジカウイルスの検査機会を利用できる環境の確保、全国の検査施設のネットワークの強化、適切なリスクの情報伝達などを強化することによって、リスク管理に対し適正な対策を取ること
- 世界健康安全保障アジェンダ(GHSA:Global Health Security Agenda)を含めたAPT-FETN、SEAMEO-TROPMEDおよびその他これまでの情報収集基盤などASEANを基盤とする協調体制を通して、ジカウイルスに関する知識と最適な実践行動の調査・研究を行い、これらを共有すること
- ハイチでは、PAHO/WHO(汎米保健機構)が米国疾病予防センター(CDC)と共同で、活動を定義し、ジカウイルスに関連する家族計画(FP)プロジェクトに対して活動を定義し、予算を取ることを準備しています。活動の計画では、家族計画チームの移動診療所解説、家族計画における研修と相談対応、健康管理スタッフのための支給物やデータ管理などがあります。
- PAHO/WHOとCDCは、(蚊の)繁殖地の発見、燻蒸、その他の媒介する蚊への駆除対策に関する研究集会をハイチで開催しました。ジカウイルスとその合併症の調査活動に関する2つの研修セッションが9月下旬に開催されます。
- PAHO/WHOは、ジカウイルスの調査活動に焦点を当て、9月上旬にペルーで行われた医療従事者のための研究集会を支援しました。
- WHO/PAHOは、ブラジルで各州の検査施設のジカウイルス診断能力の評価と強化に対する技術指導を行いました。
- WHO/PAHOは、殺虫剤に耐性を示すシマカ属の蚊の評価を含め、媒介昆虫の調査活動、ジカウイルスやその他のアルボウイルスからの予防や管理を保健省が検討することを支援するために、ニカラグアで技術会議を行いました。
- WHO/PAHOはグアテマラにZikaのリスクコミュニケーションのワークショップや他の健康の緊急事態を開催しました。
- WHO/PAHO、CDCおよびジョンズ・ホプキンス大学は、10月初めにドミニカ共和国での会議を計画しています。そこでの目的は、ジカウイルス感染症が関与する可能性のある致命的な神経学的合併症の症例の診断分析についてです。
出典
WHO. Situation Report, Emergencies. 22 September 2016
Zika virus, Microcephaly and Guillain-Barré syndrome
http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/250143/1/zikasitrep22Sep16-eng.pdf?ua=1[PDF形式:914KB]