2016年12月19日更新 マラリア対策-世界から取り残され改善半ばのアフリカ
世界のマラリア報告書(World Malaria Report2016)が公表されました。それを紹介する記事がWHOから出されています。
WHOが公表した世界のマラリア報告書(World Malaria Report2016)では、サハラ以南のアフリカの子どもたちや妊娠女性がマラリアの感染制御の効果を得るための利用環境の大幅な改善が示されています。この地域では、この5年で、子どもたちや妊娠女性への診断テストと予防的治療の実施が大きく増加したことが報告されました。マラリアの危険にさらされているすべての住民に、殺虫剤で処理された蚊帳の使用が急速に普及しました。
しかし、この地域の多くの国では、計画での普及率と現実との間にギャップが残っています。資金の不足と医療体制の脆弱性が、全体での対策の進展を徐々に崩れさせ、世界全体での目標達成を危うくしています。
マラリアの感染対策の規模拡大
サハラ以南のアフリカは、世界でのマラリアに対し脅威が極端に高い地域となっています。2015年には、マラリア患者の90%、マラリア死亡者の92%がこの地域に住む人々でした。特に、5才未満の子供たちが弱く、すべてのマラリア死亡者の約70%を占めています。
マラリアの早期診断と早期治療は、疾患を減少させ、死亡を未然に防ぎます。2015年の報告で示された新しい調査結果では、アフリカ22か国で発熱のため医療施設を受診した子どもの約半数(51%)がマラリア診断のための検査を受けました。この割合は、2010年には29%でした。
アフリカの感染伝播が中等度から高度の地域では、女性を保護するために、スルファドキシン・ピリメタミンで「妊娠中の間歇的な予防的治療」(IPTp)を行うことが、WHOから推奨されています。予防治療は、妊娠第1期に検診を受けた後、出生前の3半期の定期検診毎に行われ、これにより、妊娠中の母胎と胎児の死亡、貧血、この他のマラリアの有害な影響を防ぐことができます。
入手できたデータによれば、アフリカの20か国で推奨される3回もしくはそれ以上の予防内服を受けた女性の割合は5倍に増加しました。予防内服投与の普及率は、2010年の6%から、2015年には31%には上がりました。
殺虫剤処理された蚊帳(LLIN)は、アフリカでのマラリア感染防止活動の基礎となります。報告書では、2015年にはサハラ以南のアフリカで(マラリアの)危険にさらされている住民の半数以上(53%)が防虫処理された蚊帳の中で睡眠をとれるようになったことが示されています。2010年には30%でした。
先月、WHOは5か国での5年の主な評価結果を発表しました。この調査での長期間にわたり効果の続く殺虫剤処理の蚊帳は、殺虫剤ピレスロイド(LLINsで使用される唯一の殺虫剤類)に対し耐性を示す蚊がこれら全地域で確認されているにもかかわらず、蚊帳を使用しなかった人々よりもかなりマラリアへの感染率が低かったことが示されました。
今後に向けた課題
マラリアが深刻な公衆衛生上の問題であることに変わりはありません。特に、サハラ以南のアフリカでは深刻な問題です。報告書によれば、2015年には、世界で新たに2億1,200万人がマラリア患者となり、429,000人が死亡しました。
まだ、主力となるマラリアの感染管理ツールの普及には、相当なギャップがあります。2015年でも、サハラ以南のアフリカ住民の約43%には、マラリアを媒介する蚊の制御の主力方法である殺虫剤処理された蚊帳や屋内への殺虫剤の噴霧による保護が実施されていません。
多くの国では、医療制度は人的・物的資源が不足し、マラリアの危険に対して、これらのほとんどを利用できる環境にはありません。2015年でも、アフリカの23か国では発熱した子どもたちのかなりの割合(36%)が、医療支援のために医療施設を受診しませんでした。
「我々は、はっきりと進展している姿を見ています」、「しかし、世界は、この病気に打ち勝つために必要となる高い水準での計画の普及率を達成することに、まだまだ苦しんでいます。」と、Pedro Alonso博士(WHO世界マラリア計画・企画長)と注目を促しています。
世界の目標
2015年5月に、WHOグローバル技術戦略(2016-2030)が世界保健総会で採択されました。この戦略では、2030年に向けた大胆な目標が、5年毎の進展への道程となる到達目標とともに示されています。
2020年に向けた到達目標は、少なくとも10か国でマラリアを撲滅することです。報告書では、この目標への到達に明るい見通しがあることが示されています。2015年には、10の国と地域で国内感染したマラリア患者が150人に満たなかったこと、また、9か国では患者数が150人から1000人であったことが報告されました。
WHOは、国内感染したマラリア患者が少なくとも3年連続で発生しなかった国に、マラリアの撲滅の認定を適応できるとしています。WHO事務局長は、ここ数か月でも、キルギスタンとスリランカがマラリアを撲滅したことを、確認しました。
しかし、その他の鍵となる目標への進展は、急がなければなりません。戦略では、基準線となる2015年と比較して、2020年までにマラリア患者の発生率が40%縮小することを求めています。報告書によれば、この到達目標を達成するために順調に進んでいる国は、マラリアが常在する91ある国と地域のうち半数以下(40か国)です。特に、マラリアに対し強い脅威のある国では、ゆっくりした進展でした。
今まで以上に必要性を増す早急な資金調達
マラリア対策のために継続できて十分な資金の調達は深刻な問題です。2000年から2010年には、世界のマラリアへの資金投入が急増しましたが、それ以降、資金は頭打ちとなっています。2015年でのマラリアへの資金は29億ドルでしたが、2020年に向けた資金調達の到達目標(64億ドル)の45%にすぎません。
注目の話題
RTS、S/AS01マラリア・ワクチン
先月、WHOは、世界で初めてのマラリア・ワクチンをサハラ以南のアフリカ3か国でのパイロット計画に使用すると発表しました。予防接種は2018年に開始されます。RTS、Sとして知られるこのワクチンは、世界で最も致死性のあるマラリア原虫であり、アフリカで最も流行しているP.falciparum(熱帯熱マラリア原虫)に作用します。先行する臨床試験では、RTS、Sが幼児でのマラリアに対し、ある程度の保護してくれることが示されています。
LLIN(長時間持続性殺虫ネット)に関するWHOに加盟する複数の国での評価
2016年11月16日に、WHOは、ベナン、カメルーン、インド、ケニア、スーダンの5か国340か所での(LLINの)5年間の評価結果を発表しました。この研究の結果は、マラリアの危険にさらされているすべての人々に普遍的にLLINを普及されるというWHOの勧告を再認識させるものとなっています。
出典
WHO.News release, Media centre. 13December,2016
Malaria control improves for vulnerable in Africa, but global progress off-track
http://www.who.int/mediacentre/news/releases/2016/malaria-control-africa/en/