2017年02月17日更新 マラリア患者の発生増加 -アメリカ大陸
アメリカ大陸でマラリアの患者が増加しているために、汎米保健機関(PAHO)は2017年2月15日付で注意喚起のための疫学情報を発表しました。
概況
2016年に、アメリカ大陸のいくつもの国のマラリアが常在する行政地域でマラリアの伝播が大幅に増え、何人もの(マラリアを)保有する患者において熱帯熱マラリア原虫を保有する患者が増えていました。世界保健機関(WHO)の地域事務所である汎米保健機関(PAHO)は、アメリカ大陸地域の加盟国に対し、流行の発生、流行地域でのマラリア伝播の増加、感染伝播が遮断されていた地域でのマラリアの再流入の可能性について警告しています。PAHO / WHOは、加盟国に対して、監視体制や感染制御の活動、特に、患者の発見、治療、および追跡の遅れや失敗が起こるような地方レベルでの障害に取り組む努力を続けるために、これらを強化することを要請しています。
アメリカ大陸でのマラリアの発生状況
2015年に、アメリカ大陸では合計で451,242件のマラリア感染事例が報告されました。これは、2000年に報告された事例と比較して62%減少していましたが、過去40年間でマラリア事例の報告された件数が最低であった2014年と比較すると16%増加していることが示されました。2015年には、常在国である21か国のうち、ベネズエラ、コロンビア、ドミニカ共和国、エクアドル、グアテマラ、ホンジュラス、ニカラグア、ペルーの8か国で、前年と比べて患者の増加が報告されました。
2016年には、いくつもの国でマラリア患者数の増加傾向が続いています。マラリア患者の増加が報告されているコロンビア、エクアドル、ベネズエラでは、三日熱マラリア原虫による患者よりも熱帯熱マラリア原虫による患者の割合が増えていることが報告されています。また、ホンジュラスとペルーでは、三日熱マラリアがこの国の主要な感染伝播の地域とされていたにもかかわらず、三日熱マラリア原虫による患者に関連して、熱帯熱マラリア原虫を原因とするマラリア患者の割合が増えていることが報告されました。
一部の国では、熱帯熱マラリア原虫への罹患率は、感染が発生している地域の人種構成による影響を受けますが、(これらの)地域における熱帯熱マラリア原虫の割合が増えていることは、治療の実施および媒介する蚊の制御方法、双方への対処能力を低下させるかもしれません。さらに、熱帯熱マラリア原虫による患者数の増加は、マラリアによる合併症へのリスクの増加も示しています。
コスタリカとキューバでは、2016年第48週と2017年第2週にマラリア患者が報告され、それぞれの国で、感染流入のリスクと、地域レベルで素早い警戒を行い、対処することへの機能を維持しておくことが重要であると強調されました。
この地域のいくつもの国でのマラリア伝播の増加は、歴史的に、アメリカ大陸でのマラリアを周期的に発生させている環境上の決定要因と関係しているのかもしれません。しかし、2015年と2016年には、マラリアの感染伝播に好都合な生態系を持つ地域へ鉱山労働者や移住民の流入が増加するなど、この地域での社会的・経済的要因が、この病気の感染伝播に関係しています。この他にも、この2年間のマラリアに関する重要な要因に、一部の国でマラリアの診断ネット・ワークが弱体化していることが挙げられます。
熱帯熱マラリアの原虫によるマラリア患者が流入するリスクや、異なるプロファイルをもつ抗マラリア薬に耐性のマラリア原虫種の系統の拡散のリスクが、国内および国際間の人々の移動によって影響を受けます。この点に関して、中米およびカリブ海諸国で(マラリア原虫が)好む生態系をもつ地域に南アメリカから熱帯熱マラリア原虫の(耐性)種が流入してくるリスクには、特に注意を払う必要があります。
マラリア発生状況の要約
一部の国からのマラリア発生状況の要約が示されています。
コロンビアでは、2016年第1週から第52週までに、マラリア患者83,356人が報告されました。そのうち、57.2%(47,497人)が熱帯熱マラリア、39.7%(33,055人)が三日熱マラリア、3.3%(2,804人)が両者の混合感染症でした。2013年には、三日熱マラリア原虫による患者(66%、n = 33,345)がほとんどでしたが、この割合は2014年に変化を始めました。現在では、熱帯熱マラリアの患者が最も多くなっています。さらに、2016年に報告された熱帯熱マラリアの患者と混合感染の患者は5つの県で94%(49,533人)を占めていました。5つ県は、チョコ県(62%)、ナリオ県(21%)、アンティオキア県(5%)、ブエナベントゥラ・カウカ県(3%)で、これらは過去5年間よりも多い患者数が報告されました。
コスタリカでは、第48週に、国際保健規則(IHR)国家担当者(NFP)から、Limón(リモン)州Matina (マティナ)地方Carrandi のSabohío地域で、現地で感染した三日熱マラリア患者2人がPAHO / WHOに報告されました。これらの患者は、3年間、現地での感染患者が報告されていなかった地域での報告でした。これらは外界との接触のない患者で、最近はコスタリカの国外に旅行したことはありませんでした。また、2016年第50週には、新たに患者2人が報告されました。患者はすべてSaborío地域からでした。これまでのところ、それ以上に新たな患者は報告されていません。
キューバでは 2017年第2週に、国際保健規則(IHR)国家担当者(NFP)から、Cienfuegos(シエンフエゴス)州Rodas(ロダス)行政地区で、現地で感染した三日熱マラリア原虫による患者2人がPAHO / WHOに報告されました。これらの患者2人はガイアナからの感染輸入患者と関係していました。2016年には、マラリア輸入患者71人が報告されました。このうち、66%(47人)が熱帯熱マラリア、31%(22人)が三日熱マラリア、3%(2人)は四日熱マラリアでした。
エクアドルでは、2016年第1週からから第52週までに、マラリア患者926人が報告され、そのうちの69%(639人)が三日熱マラリア、31%(287人)が熱帯熱マラリアでした。2016年第17週以降は、2014年および2015年と比べて、マラリア患者数が増加していました。2016年のマラリア患者数は、Morona Santiago(モロナ・サンティアゴ県)が38%(355人)、Pastasaza(パスタサ県)が24%(220人)、Orellana(オレリャナ県) 17%(159人)、Esmeraldas(エスメラルダス県)が14%(126人)でした。
(他の国と)同様に、2015年に報告された患者数と比べると、熱帯熱マラリア原虫による患者の報告数は増加していました。熱帯熱マラリア原虫による全マラリア患者のうち、国の東部に位置するMorona Santiago(モロナ・サンティアゴ県)およびPastaza(パスタサ県)の患者が49%(142人)を占めており、これは、2015年に報告された両州での熱帯熱マラリア患者8人と比べて、大きな増加となっていました。
国の公衆衛生省が示すように、2016年のエクアドルで患者数が増加したことは、国境地域の住民の移動が増加したことで説明することができます。
ベネズエラでは、2010年からマラリア患者の増加がみられています。2016年には、患者が240,613人となり、前年の同期(136,402人)よりも76%増加しています。そのうち75%(179,554人)が三日熱マラリア、19%(46,503)が熱帯熱マラリア、6%(14,531人)が両者による混合感染でした。
マラリア患者は全国24州のうち16州で報告されていますが、全国のうちの最大患者数がBolívar(ボリバル州)Domingo Sifontes(ドミンゴ・シフォンテス市)から報告(報告総数の43%)されています。ここでは、金鉱の開発の波と、これに伴いマラリアの感染伝播を助長する条件を根付かせる他州や他国からの人々の移動が感染に関係しています。
各国の保健当局へのアドバイス
PAHO / WHOは、流行の発生リスクのある加盟国に対し、常在地域での患者数や死亡者数の増加や、以前は感染伝播が阻止されていた地域でのマラリアの再流入の可能性について警告を発信しています。この病気の監視体制と感染制御への活動が維持され強化されなければ、この地域でマラリアを撲滅するための成果は損なわれる可能性があります。
PAHO / WHOは、寄生虫学的な診断による早期発見および治療に関連する取り組みを強化することを促しています。マラリアを感染制御するための主軸となる介入は、症状発現から、患者の治療、および調査と対策までの行動の時間を短縮することにあります。
PAHO / WHOは、既に感染伝播が知られている地域では、疾病調査、医療機関での患者の発見、リスクのある住民に対して積極的な患者調査を行う各活動の強化を勧めています。地域での感染伝播の力学を理解することが、患者発見への努力を最適化することにつながります。
感染伝播の弱い地域では、新しい患者の発生は、それぞれの患者の疫学調査を行い、感染輸入の状況を把握し、感染の流入なのか、国内感染なのかを判断することが必要です。感染伝播の速やかな阻止を指示しなければならないことから、対策への素早い行動を取るために、患者の診断から数日以内に調査を実施することが重要となります。このような発生状況では、この調査を一緒に住んでいる人、患者に関係のある人、患者の集団などの比較参照するような患者に対応した操作が、対策における重要な手段となります。
PAHO / WHOは、寄生虫学的な診断の質を確保し、医薬品が不足することを防止するよう加盟国に要請しています。薬剤管理と患者管理の方針として、クロロキンに対する熱帯熱マラリア耐性種の流入リスク、並びに、恒常的な薬剤の利用環境、重症マラリア治の治療へのスタッフの訓練に取り組む必要があります。
媒介する蚊の駆除への介入は、患者の発見と治療への戦略を補完できるものでなければなりません。室内での残留性の薬剤散布や大集団での蚊帳の大量使用は、マラリアを媒介する蚊の駆除に対する重要な介入手段となります。生き残った蚊に主に影響する対策(各家々の残留性のスプレー散布や薬剤が含まれる蚊帳)は、蚊の幼虫の駆除や殺虫剤の空中散布の採用など、媒介する蚊の密度を下げようとする活動よりも、感染伝播の阻止に大きな影響力をもっています。マラリアの幼虫の駆除は、蚊の繁殖場所が永続的または半永続的で、容易に発見でき、対策の取れる場所にあり、住民の人口密度が高く、対策物資がこの種の活動の必要と認められる状況に適用されます。殺虫剤の空中散布は、マラリア対策への効果が限られているため、現在は推奨されていません。
感染伝播が盛んな地域でのマラリア対策とマラリア拡大への予防には、予防対策としての感染伝播への条件の決定要因や、(経済活動、農業や鉱業地域への人々の移動など)の感染伝播の条件、並びに、感染の影響を受けた住民の前後関係で適応されることとなる他の要因への疫学調査が必要です。
PAHO / WHOは、国によるマラリア(撲滅)計画や各国の保健省庁が、患者の発見や治療、さらには患者の追跡に遅れが生じる可能性がある地方レベルでの障害に対処するために、各国で対策の調整を図ることを促しています。国全体のレベルで、この病気の脅威と感染伝播のリスクを減らすには、感染伝播の主要な分野でマラリアを感染制御することが重要です。PAHO / WHOは、地域での感染伝播の阻止、患者の発生率と関連する死亡率を減少させるために、加盟国に対しマラリア撲滅行動計画(2016-2020)の目標を達成するための努力を続けることの必要性を強く説いています。
出典
PAHO/WHO.Epidemiological Alert. 15February2017
Increase in cases of malaria
http://www.paho.org/hq/index.php?option=com_docman&task=doc_view&Itemid=270&gid=38146&lang=en