2017年04月21日更新 顧みられない熱帯病に対する今までにない進展-WHO報告

2017年4月19日に、WHOは顧みられない熱帯病Neglected Tropical Diseases:NTDs)の対策を世界的に支援する組織との会議を開催しました。顧みられない熱帯病に関する現状と、これまでの活動による進展がまとめられています。

顧みられない熱帯病は、大都市のスラム街や世界で最も貧しい地域に暮らす何億もの人々に対して、視力を奪い、治ることのない傷を付け、身体を変形させ、弱らせていく病気です。

かつては感染が大きく拡がっていましたが、現在では、これらの病気は、清潔さを確保できない飲料水、不十分な上下水道の衛生環境、粗末な住居環境を有する熱帯や亜熱帯地域に限られています。遠隔の地、農村部、都市のスラム街、紛争地域などで暮らす貧しい人々が最も危険にさらされています。

顧みられない熱帯病の発生が報告される国や地域の70%以上が、低所得国や低から中程度の所得国にあります。

WHO報告

WHOは、2007年以降の顧みられない熱帯病(NTD)への取り組みの目覚ましい成果を報告しています。2015年だけで、約10億人が治療を受けました。

「WHOは、眠り病や象皮症など、古くから跪くしかなかった惨劇にいままでにない進展を見せてきました。現代の公衆衛生に対し最も効果をもたらした世界のパートナーシップ(連携)のひとつによって、この十年間で何百万人もの人々が身体の障害や貧困から救われました。」と、WHO事務局長Margaret Chan博士は述べています。

世界の健康維持と増進に向けて顧みられない熱帯病(NTD)についてまとめたWHOの報告書は、これらの疾病への罹患が最も多い国において、力強い政治支援、惜しみない医薬品の寄付、向上した生活環境などが、どれ程多くの疾病対策プログラムの拡大の継続をもたらしたかという事実を示しています。

2007年以降、世界のいくつもの支援組織が顧みられない熱帯病(NTD)に取り組むことに合意しました。さまざまな地域と国際的な支援組織が、感染の常在する国の保健省とともに、質の高い医薬品を届け、医療支援と長期管理を行ってきました。

2012年に、各支援組織は、WHOが画く顧みられない熱帯病(NTD)に対するロードマップ(工程表)を承認し、最も頻度の高い10のNTDを撲滅するための新たな支援と人的・物的資源を提供してきました。

達成された主な業績は以下のとおりです。

  • 2015年だけで10億人が少なくとも1つの顧みられない熱帯病(NTD)の治療を受けました。
  • 5億5,600万人が、リンパ系フィラリア症(象皮症)の予防的治療を受けました。
  • オンコセルカ症(河川盲目症)の治療を受けた人は1億1,400万人を超えました。これは、治療を必要とする人々の62%に達します。
  • 2016年にメジナ虫症(ギニア虫症)が報告されたのは、25例であり、根絶に至りつつあります。
  • ヒト・アフリカ・トリパノソーマ症(眠り病)の患者は、1999年には新規患者が37,000人もありましたが、2015年には3000人で大幅に減少しました。
  • メキシコ、モロッコ、オマーンでは、公衆衛生上の問題として、世界でも最も多い感染による失明の原因であるトラコーマが撲滅されました。世界で、185,000人を超えるトラコーマ患者が睫毛乱生症の手術を受け、2015年だけで5,600万を超える人々が抗生物質を服用しました。
  • 内臓リーシュマニア症は、2015年に、インドでは小区域の82%で、バングラデシュでは小区域の97%で、ネパールでは100%の区域で撲滅の目標が達成されました。
  • 2015年には、WHOアメリカ大陸地域で狂犬病での死亡が報告されたのは12人だけでした。この地域では、2015年までに人における狂犬病を撲滅する目標をほぼ達成することができました。

しかし、この報告書では、この他の地域でもさらに活動を拡大することの必要性が強調されています。

「顧みられない熱帯病(NTD)との闘いで得られる新たな恩恵は、継続を可能とする目標をより広く進展させることに左右されます。」と、顧みられない熱帯病の担当主幹Dirk Engels博士は述べました。水と衛生環境に関する世界目標を達成することが鍵となります。WHOは、洗面所も下水道のないトイレさえもなく、基本的な衛生環境をもたない人々が24億人いるとみています。また、(溜まり水など)表面水のような清潔さが保てない水源からの水を、6億6,000万を超える人々が飲むことを続けています。

その一方で、最近のジカウイルス感染症の発生とそれに伴う合併症に対して起きた世界的な懸念は、媒介する昆虫の制御・駆除を向上させることへの取り組みを再び活性化させました。今年5月の世界保健総会では、世界での新しい媒介昆虫に対する制御・駆除への取り組みに対して提案がなされる予定です。動物に対する公衆衛生を促進させるために、部門間の横断的な協力を優先させることへの明るい見通しもあります。

世界の支援組織との会議

世界の健康維持と増進に向けて顧みられない熱帯病を集約させることが、2017年4月19日にジュネーブで開催された顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases:NTDs)の世界支援組織会議で発表されています。

この会議には、「協力、加速、撲滅」への取り組みが讃えられる予定です。また、医療の関係者、産業界の代表者、支援組織、慈善運動、寄付、利害関係の組織などで活動する名の知られた中心人物などが参加する予定です。

10年間にわたる多数の利害関係者の協力に加えて、この会議では、ロンドン宣言と同様に、数々の病気に対し、世界における制御、撲滅、根絶に向けた目標と試金石を確立させたWHOのNTDロードマップ(工程表)の5周年を祝います。

顧みられない熱帯病、それぞれの概観

以下は顧みられない熱帯病についての簡単な説明です:

  • デング熱:蚊が媒介するウイルス性疾患でインフルエンザ様の病態を引き起こします。重症型デング熱と呼ばれる死の危険を伴う合併症に発展することがあります。
  • 狂犬病:感染した犬に咬まれることで人に伝播するウイルス性疾患です。一度、発症してしまうと、間違いなく死に至ります。
  • トラコーマ:目や鼻水に直接触れることで感染します。元に戻ることのない角膜混濁や失明を引き起こします。
  • ブルーリ潰瘍:消耗性の皮膚感染症で、皮膚、骨、軟部組織に重度の破壊を引き起こします。
  • フランベジア:主に皮膚と骨に影響を及ぼす慢性細菌性感染症です。
  • ハンセン氏病:主に皮膚、末梢神経、上部気道の粘膜および眼に感染を引き起こします。
  • シャガース病(アメリカ・トリパノソーマ症):媒介昆虫(サシガメ)との接触や、(寄生虫の)付着した食物の摂取、感染血の輸血、先天性、臓器移植または実験室や検査室での事故などによって伝播する感染症です。
  • ヒト・アフリカ・トリパノソーマ症(眠り病):寄生虫への感染はツェツェバエの咬傷で広がります。速やかに診断し治療をしなければ、ほぼ100%、死に至ります。
  • リーシュマニア症:原虫を持った雌のサシチョウバエに刺されて感染します。最も重篤な病型(内臓リーシュマニア症)は、臓器を侵襲します。最も一般的な(皮膚に起こる)病態は、顔面の潰瘍、瘢痕による変形や機能障害です。
  • 条虫症および神経嚢胞症:条虫症は人の腸管内で成熟した条虫により引き起こされる感染です。嚢胞症は、人が条虫の卵を接種し、(虫卵が)組織内で幼体に成長させたときに発症します。
  • メジナ虫症:ミジンコの入った水を飲むことで感染する糸状虫感染症です。
  • エキノコックス症:条虫の幼体が病原性のある嚢腫を形成する感染症です。人は、犬や野生動物の糞便から出てきた虫卵を取り込んでしまうことで感染します。
  • 食品由来の吸虫症:吸虫症の幼体が付着した魚、野菜および甲殻類などを摂取することで罹る感染症です。
  • リンパ系フィラリア症:リンパ系組織に生息し、増殖した成虫が、四肢や生殖器に異常な腫大を引き起こす感染症で、蚊によって伝播されます。
  • 真菌腫(Mycetoma):真菌または細菌が皮下組織に入り込むことによって引き起こされると考えられている細菌/真菌性の消耗性皮膚感染です。機能障害を起こします。
  • オンコセルカ症(河川盲目症):寄生虫をもったブユが刺咬することで伝播する眼および皮膚の寄生虫症です。目に重度のかゆみや病変を引き起こし、視覚障害や永久失明を引き起こします。
  • 住血吸虫症:吸虫の幼体による感染症です。感染は、淡水性の巻き貝から幼虫形態の病原体が水の中に放出され、人の皮膚と接触して侵入することで起こります。
  • 土壌伝染性蠕虫症:人の糞便から排出された(蟯虫を含む)土壌を介して伝播する一群の腸管内の蠕虫感染症です。

出典

WHO.Media Centre. 19 April 2017
Unprecedented progress against neglected tropical diseases, WHO reports

http://www.who.int/mediacentre/news/releases/2017/ntd-report/en/