2017年07月14日更新 アメリカ大陸の黄熱の発生状況(更新16)

2017年7月10日付で汎米保健機構(PAHO)より、アメリカ大陸での黄熱の発生状況に関する情報が更新されました。

アメリカ大陸での黄熱の発生状況

2017年第1週から第26週までに、ブラジル、コロンビア、エクアドル、ペルー、ボリビア、スリナムで、黄熱の疑い患者や確定患者が報告されました。

ブラジル、ボリビア、エクアドル、ペルーから、発生状況に関する情報が更新されています。その他の国で、報告された患者数に変化は報告されていません。

ブラジルでは、2016年12月始めの流行発生以降、2017年5月31日までに、黄熱を疑われた患者3,240人(確定患者792人、診断破棄1,929人、検査中の患者519人)が報告されました。このうち、死亡者が435人(確定患者274人、診断破棄124人、検査中37人)でした。確定患者における致死率(CFR)は35%でした。

感染(が拡がっている)可能性が高い地域として、407行政地区から感染が疑われる患者が報告されました。このうち、確定患者は8州(エスピリト・サント州、マット・グロッソ州、ゴイアス州、ミナス・ジェライス州、パラ州、リオ・デ・ジャネイロ州、サンパウロ州、トカンティンス州)130行政地区と連邦特別地区に分布していました。

診断確定患者と感染の可能性が高かった患者が死亡した地域は、エスピリト・サント州(85人)、ゴイアス州(1人)、マット・グロッソ州(1人)、ミナス・ジェライス州(165人)、パラ州(4人)、リオ・デ・ジャネイロ州(7人)、サンパウロ州(10人)でした。5人以上確定患者における各州の確定患者の致死率は、サンパウロ州で50%、リオ・デ・ジャネイロ州で41%、ミナス・ジェライス州で34%、エスピリト・サント州で33%でした。

先月、エスピリト・サント州、ミナス・ジェライス州、サンパウロ州、リオ・デ・ジャネイロ州で、新たな行政地区からは、新たな黄熱患者は確認されませんでした。直近の確定患者の発症日は、ミナス・ジェライス州で2017年4月18日、サンパウロ州で4月19日、エスピリト・サント州で4月29日、リオ・デ・ジャネイロ州で5月10日でした。

パラ州では、2017年第13週に確定患者4人が報告され、トカンティンス州では、2017年第16週に確定患者1人が報告されました。また、黄熱のリスクが知られている地域から、ゴイアス州で患者1人が、マット・グロッソ州でも患者もう1人が確定診断されました。

バイーア州では、2017年初めより5月8日までに、新たな確定患者が報告されていないものの、動物での集団感染の発生255件が78行政地区から報告されました。これらの動物での集団感染54件のうち、RT-PCR法検査によって28行政地区で陽性と判明し、州内の大都市Salvador(サルバドール)に隣接する4行政地区でも陽性の結果がでました。

これまでのところ、ネッタイシマカが感染の伝播に関わっていることは報告されていません。しかし、エスピリト・サント州Vitori(ビトリア)、バイーア州Salvador(サルバドール)といった大都市でも動物での集団感染の発生が確認されており、感染伝播サイクルの変化に対するリスクが高まりをみせています。

流行の開始以降、2017年5月31日までに、人以外の霊長目による動物での集団感染が合計で3,850件報告されました。このうち642個体で黄熱への感染が確認されました。96個体では診断が棄却され、1,448個体では検査が続けられています。ブラジルで発行されている黄熱に関する報告書第41号から第43号までに、人以外の霊長目による動物での集団感染の件数は190件増えました。

人以外の霊長目による集団感染は、連邦直轄地区と、アラゴアス州、アマゾナス州、バイーア州、ゴイアス州、エスピリト・サント州、マット・グロッソ州、マット・グロッソ・ド・スール州、ミナス・ジェライス州、パラ州、パライバ州、パラナ州、ペルナンブーコ州、リオグランデ・ド・ノルテ州、リオグランデ・ド・スール州、リオ・デ・ジャネイロ州、ロンドニア州、ロライマ州、サンタ・カタリーナ州、サンパウロ州、セルジッペ州、トカンティンス州から報告されています。

現在も、アルゼンチン、ボリビア、コロンビア、ガイアナ、パラグアイ、ペルー、スリナム、ウルグアイ、ベネズエラと国境を接する州で調査が続けられている人以外の霊長目による集団感染の発生報告は、国境を接する国々、特に共通する生態系をもっている地域に、ウイルスが拡がるリスクのあることを示しています。

ブラジル保健省によって実施されている感染対策として、選択的にワクチン接種戦略を強力に推進するため、2017年1月から5月までに、バイーア州、エスピリト・サント州、ミナス・ジェライス州、リオ・デ・ジャネイロ州、サンパウロ州の1,050行政地区に、延2,630万人分の黄熱ワクチンが配布されました。5月31日の時点で、192行政地区が95%以上のワクチン接種率を達成し、381行政地区が75~94.9%を達成しました。477行政地区では、接種率が75%未満(これらの行政地区のうち126地区は接種率50%未満)でした。

ボリビアでは、2017年第25週に、新たに黄熱患者1人が確認されました。これで、2017年に確認された患者数は2人に増えました。新たな患者は、Cochabamba(コチャバンバ)県Villa Tunari行政区で感染したようでした。この県では、2013年以降に患者の発生はありませんでした。以前の患者が感染した可能性のある場所は、La Paz(ラパス)県Caranavi市政区でした。両県ともに、感染場所は、これまでにも黄熱のリスクのある地域に当たります。

エクアドルでは、黄熱患者3人が確認されました。2017年第8週、第20週、第26週での患者3人で、全員がSucumbíos(スクンビオス)県に住む成人男性で、ワクチン接種歴はありませんでした。

ペルーでは、2017年第24週までに、死亡者3人を含めて、合計で20人の黄熱確定患者と疑い患者が報告されました。2016年と同様に、ほとんどの患者はJunín(フニン)県で発生しました。

PAHOからの勧告事項

ブラジルでは2017年5月以降、新たな患者は確認されておらず、ボリビア、エクアドル、ペルーといった国では、黄熱ウイルスが存在する地域であり、ワクチンを接種していなければ感染のリスクの高いことが示されており、散発的に患者は報告されています。こうしたことから、PAHO / WHOは、黄熱患者を発見し、確認し、速やかにかつ適切に治療するための取り組みを続けることを、加盟国に要請しています。この目的のために、医療従事者は常に最新の情報を把握し、特にウイルスの伝播が確認されている領域においては、患者を発見し、治療するためにトレーニングしておくことが必要です。

PAHO / WHOは、黄熱の予防接種が要求され、情報が提供され、ワクチン接種が行われている地域に向かう旅行者に対し、加盟国が必要な措置を講じていくことを要請しています。

黄熱ワクチンの接種について
黄熱ワクチンは安全で高くはない価格であり、ワクチン接種した者には10日後に80~100%、30日後には99%の幅で免疫の効果が現れるようになります。接種は単回で生涯にわたり免疫保護を得るのに十分であり、(免疫力の)増強のための追加接種は必要ありません。
入手できるワクチンの量には限りがあり、合理的な使用を念頭に置く必要があるため、PAHO/WHOは、次のことを繰り返し各国の保健当局に勧告しています。
1)リスクのある地域では、行政地区のレベルでこの地域に暮らす住民のワクチン接種率が少なくとも95%を維持していることの評価を実施すること
2)現在、感染の流行が発生していない国では、予防接種キャンペーンを行うべきではありません。感染の可能性の高い人々にワクチン使用の優先順位が与えられるべきであり、再ワクチン接種を避けるべきです。
3)感染が常在する地域へ向かう全ての旅行者は、少なくとも旅行の10日前に、確実に予防接種を行うべきです。
4)ワクチンが利用できる状況に応じて、加盟国は感染の流行に対処するために小規模の備蓄をして置かなければなりません。
5)十分にワクチンが入手できる状況になるまでは、感染が常在していない地域での小児に対する定期予防接種は延期してください。(このとき)入手できる状況になったら、ワクチン接種スケジュールを完了するために、追加の(接種)キャンペーンを実施してください。

注意事項
ワクチン接種を受けたことのない60歳以上の人で、有害事象が発生するリスクに直面している場合には、黄熱に罹患したときの疫学的なリスクを個別に評価することが求められます。
•予防接種を必要とするCD4陽性細胞数≧200 cells / mm3で、症状のないHIV感染者には、ワクチン接種の求めに応じることができます。
•妊娠女性は、緊急性のある状況で予防接種を受けるべきであり、保健当局の勧告に従う必要があります。
•乳児にワクチンのウイルスを伝播させるリスク(黄熱は生ワクチンである)は、母乳育児中の女性での予防接種の効果よりも低いため、感染が常在する地域で暮らす授乳中の女性にも予防接種は推奨されます。
•黄熱が流行している地域への旅行を予定する妊娠中または授乳中の女性に対しては、旅行を延期するか、避けるかを検討し、それができないときには予防接種が推奨されます。彼女らには、予防接種の潜在的なリスクとベネフィットについてのアドバイスを受け、情報に基づいて意志決定される必要があります。母乳育児によるメリット(受益)は、代替の栄養食品によるものよりも優れています。

次のような人には、黄熱ワクチンは禁忌となっています。
•免疫不全の病態にある人(胸腺疾患患者、症候性のHIV感染者、悪性新生物の治療中の患者、免疫抑制治療中の患者、免疫を調節治療している患者、最近の臓器移植した患者、現在または最近の放射線療法を受けた患者など)。
•鶏卵や鶏卵から作る製品に対し重度のアレルギーのある人

出典

PAHO.Epidemiological Update. 10 July 2017
Yellow Fever
http://www.paho.org/hq/index.php?option=com_docman&task=doc_view&Itemid=270&gid=40841&lang=en