2017年08月18日更新 中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)の発生報告(更新14)

2017年8月17日に公表された世界保健機関(WHO)の情報によりますと、2017年7月4日から8月12日にかけて、サウジアラビアの国際保健規則(IHR)国家担当者から、新たに死亡者6人を含む中東呼吸器症候群(MERS)の患者26人が報告されました。また、前回報告された患者2人が死亡したことも報告されました。

患者の詳細情報

患者に関する情報は、下記のリンク先から閲覧することができます。
MERS-CoV cases reported between 4 July and 12 August 2017.[XLS形式:45KB]

新たに報告された患者26人のうち13人が、サウジアラビアAl Jawf(ジャウフ)州の病院での集団感染に関連しています。感染の発端となった患者(51歳)は、2017年8月2日に報告されました。これまでに、接触者の追跡を通して、感染者12人が発見されています。これらの患者には、感染の発端となった患者が治療された病院の医療従事者8人(すべて無症状)、病院での接触者1人(70歳、男性)、家族内接触者3人が含まれています。医療従事者、病院と家族内での接触者への健康監視が続けられています。

WHOは、世界中で少なくとも720人の関連する死亡報告を含めて、検査で確定された2,066人のMERS-CoV感染の患者報告を受けています。

公衆衛生上の取り組み

サウジアラビアの保健省は、個々の患者とその接触者を評価し、さらなる人から人への感染を限定し、中東呼吸器症候群(MERS)の発生を制御の下に置くための対策を実施しています。公式にサウジアラビア保健省によって取られている対策は、次のとおりです。

  • 医療施設と地域社会におけるリスクの階層化と積極的な接触者の追跡が行われています。リスクの高い接触者(例えば、患者と感染防御せずに接触した、飛沫が発生する場所で仕事に携わったなど)には、症状の有無にかかわらず、PCR法による検査が行われます。医療従事者は、感染管理の専門家による許可が出るまでは、仕事から外れます。
  • 医療施設に関して訓練を受けた疫学者が、感染が特定されてから24時間以内に現場に配置されました。
  • 感染の発生した場所では、環境の滅菌および徹底した清掃に対する遵守が厳格かつ徹底して行われています。
  • 救急部門と外来部門での呼吸器疾患に対する視覚的トリアージを実施し、呼吸器症状のある患者を早期発見するために訓練された看護師を24時間体制で確保し、トリアージ書式への適切な記録を行っています。
  • 早期発見のための診断定義、隔離予防の対策の実施、個人防護服の適切な選択および着脱、手指消毒および環境の清掃と消毒など、これらを医療従事者全員に拡大して訓練を行っています。
  • 手洗い用の消毒剤、個人防護服、表面消毒剤、携帯型HEPAフィルター、消毒薬散布装置などの感染予防用の物品を(直ぐに)使用できるように確保しています。
  • 他国にウイルスを拡散させることを防ぐために、強いて、医療従事者が医師の許可なく旅行することを禁止する政策を実施しています。
  • すべての医療従事者に、高い効率で呼吸用防護具を使用できるように適正な装着(フィット・テスト)検査(の訓練)を経験させています。
  • 感染の発生した医療施設で働く医療従事者には、彼らの医学的な安全が確認されるまで、Hajjのため移動すること、就労すること、いかなる医療施設での立ち入ることも許可しない方針を実施します。

WHOによるリスクアセスメント

MERS-CoVは、致死率が高い重症感染症を引き起こし、人から人への感染力を示してきました。これまでのところ、人から人への持続性のない感染が見られましたが、主に医療の現場での発生でした。
新たな患者の報告で、全体的なリスク評価が変わることはありません。WHOは、中東から新たなMERS-CoV感染患者が報告されることや、動物やその家畜生産物(例えば、ヒトコブラクダとの接触後)もしくは感染源となる人(例えば、医療施設内で)と接触することで感染した可能性のある人々が他の国に感染輸入されることはあり得ると考えています。WHOは、疫学的な状況の監視を続け、入手できる最新の情報に基づいてリスク評価をおこなっています。

WHOからのアドバイス

WHOは、現状および利用可能な情報に基づいて、加盟国すべてに対して、急性呼吸器感染症に関するサーベイランスを継続し、また、いかなる異常な症状を示す患者についても注意深く調査することを要請しています。
診療施設においてMERS-CoVが拡がる可能性を防ぐためには、感染予防と制御の対策が重要です。他の呼吸器感染症と同様に、MERS-CoVの初期症状は非特異的なため、通常、早い時期に患者をMERS-CoVと診断できるものではありません。したがって、医療従事者は、診断にかかわらず、すべての患者に対して常に一貫した標準感染予防対策を適用する必要があります。急性呼吸器感染症の兆候を呈している患者の治療にあたる場合には、標準感染予防対策に加えて、飛沫予防対策を行うことも必要です。また、MERS-CoV感染の可能性がある患者、あるいは確定診断された患者の治療にあたる場合には、接触予防対策および眼の防護策を追加すべきです。さらに、エアロゾル(微粒子)が発生するような処置を行う場合には、空気感染の予防対策を行う必要があります。
今後、MERS-CoVに関して解明が進むまでは、糖尿病、腎不全、慢性肺疾患、免疫不全のある人は、MERS-CoV感染で重篤化するリスクが高いと考える必要があります。したがって、これらの人は、ウイルスの存在する可能性がある農場、市場あるいは家畜小屋のある地域を訪れる場合、動物に近づくこと、特にラクダと濃厚接触することを避けなければなりません。動物に触れる前、触れた後には必ず手洗いを行い、病気の動物との接触を避けるという一般的な衛生習慣をしっかりと守るべきです。
食品に対する衛生習慣に注意するべきです。ラクダの生乳あるいは尿を飲むこと、また、調理不十分の肉を食べることは避けるべきです。

WHOは、この事態に対して入国時に特別なスクリーニング検査を行うことをアドバイスしてはおらず、現在のところ、如何なる渡航や貿易に対しても(これを)適応させることを勧めてはいません。

出典

WHO. Disease outbreak news, Emergencies preparedness, response. 17 August 2017
Middle East respiratory syndrome coronavirus(MERS-CoV) - Saudi Arabia
http://www.who.int/csr/don/17-august-2017-mers-saudi-arabia/en/