2017年08月23日更新 抗菌薬への耐性についての10の事実(ファクトファイル)

前世紀(20世紀)における医療の躍進の多くが、抗菌薬への耐性が広がることで失われる可能性があります。これまで、治療が可能であった感染症が、治療できなくなり、世界中に拡がっているかもしれません。これは、現実に起こり始めています。

報告書「抗菌耐性:世界の調査報告2014年」は、抗菌薬への耐性はどこにでも存在し、あらゆる国で、どの年齢層の誰にでも発生する可能性があることを示しています。

2015年4月に、WHOは「抗菌耐性への対策:世界における発生状況の分析」を公表しました。たくさんの取り組みが進められており、多くの政府がこの問題に取り組むことを約束しています。しかし、一方で、WHO(が管轄する)6つの地域すべてにおいて必要とされる取り組みには、大きな違いがあることが明らかになりました。

このファクトファイルでは、薬剤耐性の脅威、その主な原因のいくつか、そして、WHOがどのように世界での対策を導こうとしているのかを述べています。

事実1:抗菌薬への耐性とは何か
抗菌薬への耐性は、抗菌剤(抗生物質、抗ウイルス薬、抗マラリア薬)が微生物(細菌、ウイルス、いくつもの寄生虫など)に作用することを阻止してしまう(病原)微生物の能力です。その結果、通常の治療には反応せず、感染症が持続し、他人に拡げる可能性を作ります。

事実2:薬剤耐性は世界規模の問題です
過去、何年にもわたって、抗菌剤の使用と誤用が、抵抗する微生物の数と種類を増やしてきました。その結果、今日、たくさんの感染症を制御できなくなりました。世界の貿易と国際旅行者の拡大に伴い、耐性微生物は世界のどんなところにでも、直ぐに拡がることが可能になっています。

事実3:何が薬剤耐性を起こすのか
薬剤耐性は、進化に伴う自然現象です。微生物が抗菌薬に曝されると、感受性のある多くの微生物は死滅しますが、その背後で、一部が抗菌薬に耐えて生き残ります。その後、これらの微生物は分裂増殖の際に耐性(能力)を受け渡します。

事実4:薬剤の不適正な使用が薬剤への耐性を悪化させます
抗菌薬の不適切が薬剤への耐性を推し進めます。薬剤の過剰投与も、用量不足も、誤用も、この問題に関係します。適正な抗菌薬を、適正な用量で投与することの大切さが確実に患者に伝えられるには、処方する者、薬剤師、調剤師、製薬会社、国民、患者、そして政策の立案者が、行動を起こすことが必要です。

事実5:品質の保証された薬剤の不足も薬剤への耐性に関係します
ほとんどの薬剤で、品質の保証体制が弱い状態です。これは、粗末な品質の薬剤によって、患者を適正濃度に満たない抗菌薬に曝すことを誘発します。その結果、薬剤耐性を進展させる条件を創り出してしまいます。いくつかの国では、抗菌薬の利用環境が整っていないために、患者が治療を不完全なままに終わらせ、通常は使わない薬剤を含む代替医療を探すことを余儀なくされています。

事実6:家畜は抗生物質への耐性の発生源となっています
抗生物質の治療濃度以下での使用が、影で、病気の予防や成長の促進のために行われています。これは、人に拡がる可能性のある耐性微生物を発生させます。

事実7:感染の予防や管理を疎かにすると、薬剤耐性は増幅されます
感染の予防や管理を疎かにすることで、薬剤に耐性の感染症が拡がります。入院患者は、耐性微生物の大きな温床のひとつです。耐性微生物を運ぶ患者は、他の人への感染源としての役目を果たします。

事実8:調査体制の弱さは、薬剤耐性の拡大と関係します
薬剤耐性の結核やHIV感染症の出現に対する調査(能力)が向上していますが、現在、薬剤耐性について、関係するデータを定期的に集め、確り報告するように確立されたネットワーク(情報網)は、ほとんどありません。いくつもの国で、耐性微生物を正確に検出できる検査施設が不足しています。このことは、耐性の出現を検出し、速やかに対処行動を取る対応力を低下させます。

事実9:薬剤耐性に取り組む新しい器材の(開発)路線は、ほとんどが乾ききっています
抗生物質と抗寄生虫薬の存在、重要度はやや下がりますが、抗ウイルス薬の存在は、その効力を失いつつあります。同時に、新たな抗菌薬の開発への投資が不十分です。また、耐性微生物を検出する新しい診断法も、感染症を予防し制御する新たなワクチンへの新しい研究も不十分です。もし、この傾向が続くならば、耐性微生物と戦うための対抗手段の倉庫は、直ぐにも、使い尽くされるでしょう。

事実10:WHOは、薬剤耐性に取り組むことを関係者に呼びかけています
薬剤耐性の脅威が増してきています。緊急に取り組む必要があり、そして、すべての者がその役割を果たさなければなりません。2015年5月の第68回WHO総会で、各加盟国は抗菌薬への耐性に取り組むための世界規模での行動計画を承認しました。世界規模での行動計画の草案のゴールは、できる限り(早く)、品質の保証された有効かつ安全な薬剤を、責任のある方法で使用し、感染症を予防し、治療を成功させることを確実に継続し、それを必要とする者すべてが利用できるようにすることです。各国は、世界規模での行動計画の目的の達成を支えるために、自国での計画を作成することを要請されています。これまでに、79か国が自国での行動計画を作成しました。さらに、49か国が計画を作成しています。

出典

WHO.Fact files, Media centre.Updated August2017
10facts on antimicrobial resistance
http://www.who.int/features/factfiles/antimicrobial_resistance/en/