2018年03月15日更新 リンパ系フィラリア症の撲滅- エジプト

WHOは、2018年3月12日に、エジプトに対して、東地中海地域で初めてリンパ系フィラリア症が撲滅されたことを認証しました。

リンパ系フィラリア症の撲滅- エジプト

エジプトは、公衆衛生上の問題として、リンパ系フィラリア症(LF)が撲滅されたことが認証されました。これは、WHO東地中海地域で初めての国、世界で最も新しく認証された国となります。

エジプトの成功は、約20年にわたる地道な感染管理や予防対策(大規模な住民への治療など)を実施してきたことや、感染の発生地域や感染リスクのある地域で調査活動を実施してきたことの結果です。

エジプトは、この認証基準が達成されたとして、既にWHOによって検証されている他の10か国に加わります。WHOによって推奨された大規模な治療キャンペーンが実施された後、エジプトは撲滅が検証されるまで、少なくとも4年間の調査活動を続けました。

「これは、エジプト人の将来に希望の光を与え、健康を向上させる画期的な成果です。」「エジプト政府は、感染してしまった人々の病気の管理を改善し、感染伝播ゼロを確実に維持するために、適正な調査活動を続けています。」と、WHO東地中海地域事務局長Jaouad Mahjour博士は述べました。

エジプトは、2000年に、国を上げて大規模な薬物療法(MDA)に基づいた撲滅プログラムを実施した世界で最初の国のひとつでした。これは、1997年に開催されたWHA(世界保健機関総会)でのリンパ系フィラリア症についての決議(WHA 50.97)に沿ったものでした。ここでは、2020年までにリンパ系フィラリア症を世界で撲滅することが求められました。

「この戦術は、高いレベルでの責任ある約束、地域社会の参画、WHOを通じて提供される医薬品を無償で入手できる可能性に左右されました。これらが合わさった力は、このプログラムの持続の可能性に対して最大の機会を提供することとなりました。」と、WHOエジプト事務所の代表John Jabbour博士は語りました。

これには、他の官公省庁との間で、企画、物流管理、調整、協力関係を必要とするとともに、医療従事者や地域活動員の対応能力の構築を必要としました。

当初、エジプトは、いくつかの課題に挑まねばなりませんでした。これには、国家計画のための資金調達、人的・物的資源が限られた環境下での機能障害や風貌の変形に対する優先順位付け、実施のための費用の決定などがありました。一方、水頭症の手術など、障害を管理する計画の費用も強化しなければなりませんでした。

WHO 50.97(が採択された)後、WHOは、公衆衛生上の問題としてリンパ系フィラリア症を撲滅するための取り組みを加速させることを各国に要請し、国レベルでのリンパ系フィラリア症の撲滅プログラム(NLFEP)を開始させました。そこでは、次のことが行われています。

・DECとアルベンダゾールを大規模に投与する薬物療法によって、リンパ系フィラリア症の感染伝播を遮断すること。
・感染率の制御と障害の予防を通じて、感染者の苦痛を軽減すること。

途方もない努力を積み重ねて、2013年まで大規模な住民への治療を実施してきたことにより、感染が閾値を下回るまでに低下したことがいくつもの巡回地域での調査で検証されました。

2014年から2017年までに実施された最終評価では、感染伝播と感染者の罹患率の制御の両方に焦点が当てられ、エジプトが公衆衛生上の問題として撲滅を達成したことの基準を満たしたことを確認しました。

「私たちの最終的な目的は、貧困削減に優しく、費用対効果の高い公衆衛生上の介入を採ることによって、この病気を撲滅させることでした。」「私たちの政府は、住血吸虫症、トラコーマ、土壌伝播蠕虫感染症、ハンセン病、リーシュマニア症、デング熱など、この他の顧みられない熱帯病をも打ち負かすことを決意しています。」と、エジプト保健・人口省常在疾患の担当次官Ayat Haggag博士は述べています。

エジプトにおけるリンパ系フィラリア症

リンパ系フィラリア症(象皮病としても知られる)を克服するためのエジプトの闘いは、おそらく、公衆衛生上の歴史の中で、最も古いことのひとつです。20世紀初めの現地活動にまで遡ります。その臨床症状はファラオ像や芸術作品にも記され、初期のアラビア文学にも記載されています。その原因である寄生虫Wuchereria bancrofti(バンクロフト糸状虫)は、(それより早く)1874年に初めて記録されました。

この病気の脅威は、20世紀の大規模な調査によって認識されました。この病気は、農村部、特にリンパ浮腫や陰嚢水腫(四肢や性器の膨れ)などの臨床症状の発現が日常的にみられたナイル川東部のデルタ地域の農村部に常在する風土病であることが明らかにされました。

これまでの感染制御の試み

エジプトでのこの病気の制御活動は、最初は、媒介する蚊(Culex pipiens)の駆除とジエチルカルバマジン(略語DEC)による選択的な治療を拠り所に、1960年代初めに始まりました。

新しい治療、治療へのさらに明るい見通し

WHOは、2017年11月に、リンパ系フィラリア症の撲滅を世界的に加速させるために3剤併用療法IDA(Ivermectin、DEC、Albendazoleの組み合わせ)を推奨しました。

この推奨(薬剤)は、4か国(ハイチ、インド、インドネシア、パプアニューギニア)で実施された大規模なランダム化地域集団試験の結果を受けており、IDAが大規模な住民への薬物療法で使用された2剤レジメンと同じくらい安全であることが分かっています。

リンパ系フィラリア症とは?

リンパフィラリア症は、リンパ系組織に寄生虫(糸状虫)が寄生する感染によって引き起こされます。この感染症は、リンパ系組織に障害を起こし、身体の一部に異常な膨隆をもたらし、激しい疼痛や重度の障害、社会的な偏見などを引き起こします。

幼虫段階の寄生虫(microfilaria)は、血液中を循環し、蚊によって人から人へと運ばれます。

感染の後、病気が発現する迄には時間がかかります。(その間に)リンパ系組織が変化し、身体の一部が異常に膨隆し、感染者に重度の障害や社会的偏見を引き起こします。

世界52か国で約8億5,600万人がリンパ系フィラリア症に脅かされており、感染の拡大をくい止めるための予防的な治療を必要とします。定期的な住民への大規模な薬物治療は、血流中の寄生虫(microfilaria)の密度を低下させ、寄生虫が蚊によって拡がることを防ぎます。

大規模な住民への薬物療法(MDA)は、4~6年間、毎年実施されると、感染リスクのある全ての住民を効率よく網羅して、感染伝播のサイクルを遮断することができます。

また、数少ない環境では、感染伝播のサイクルを遮断するために、エチルカルバマジン(DEC)で補強された食塩が使用されることがあります。

リンパ系フィラリア症を引き起こす寄生虫は、主にCulex、Mansonia、Anopheles(ハマダラカ)、Aedes(ヤブカ)の4種類の蚊によって伝播されます。

出典

WHO.News, Neglected tropical diseases. 12 March 2018
Egypt:first country in Eastern Mediterranean region to eliminate lymphatic filariasis
http://www.who.int/neglected_diseases/news/Egypt_first_EMRO_country_eliminate_LF/en/