2018年03月22日更新 2030年の結核の終息に向けて-WHOヨーロッパ地域

3月24日は、世界結核デーです。その日に向けて、世界各地で盛んに結核についての議論が行われています。ここではWHOヨーロッパ地域事務局から発表された記事を取り上げます。

記事の内容

ヨーロッパ疾病対策センター(ECDC)とWHOヨーロッパ地域事務局は、本日公表された新しい報告書の中で、WHOヨーロッパ地域事務局管内では、毎年平均4.3%の割合で新規の結核患者数が減ってきていることを示しました。この減少率は、世界で最速です。しかし、結核の終息に向けた戦略と持続的な発展目標の中で画かれている2030年までの結核の流行の終息という目標を達成させるには、この減少率では不十分です。世界結核デーに向けて、新しい報告書が発表されました。今年はこの中で、世界のリーダーたちにはっきりと結核の終息に向けた取り組みの加速を呼びかけています。

「結核の終息に向けて(今のまま)歩むだけでは不十分です。このままでは、あまりにも多くの人々にとって、その達成は手遅れとなってしまいます。私たちは、今すぐに、個々人への利益と社会への還元のために、飛躍的な投資を行う必要があります。WHOヨーロッパ地域での結核対策の行動計画2016-2020では、思い切った取り組みを行えば、この地域の5年間で患者300万人のいのちを救い、480億米ドルを節約できることが示されています。」「現在も結核に苦しんでいる人々の生活を変え、いのちを救い、子供たちに結核のない明日の世界を作り上げるためには、すべてのレベルで政治からの貢献の姿勢を刷新する必要があります。」と、WHOヨーロッパ地域事務局長Zsuzsanna Jakab博士は述べています。

(また)欧州・保健衛生・食の安全総局(European Commissioner for Health and Food Safety)の局長Vytenis Andriukaitis博士は、持続可能な発展への2030年に向けた課題を引用し、「欧州・保健衛生・食の安全総局は、各加盟国が2030年までに結核を終息させるという目標の達成を全面的に支援することを約束します。私は、ヨーロッパのリーダーたちに対して、研究に必要となる資金を動員し、すべての人が予防と治療への保健医療(サービス)を利用できる環境を確保し、(その)普及を促すための社会的条件の整備に取り組むことを促していきます。」と、述べました。

(さらに)ヨーロッパ疾病対策センター事務局長Andrea Ammon博士も、次のように述べています。「発生率の低い状況でも結核について注意深さを保っておくことは、特に、人々の移動性の増加や多剤耐性結核の観点からみると、この空気感染する病気には再興する可能性があり、重要です。」。また、「国境を超えた多剤耐性結核の発生を調査すること、例えば、全て遺伝子配列の解析などを調査することを支援する新しい制度は、欧州連合/欧州経済圏(EU / EEA)において感染を抑制させる鍵となっています。」とも、つけ加えました。

ヨーロッパ地域での多剤耐性結核(MDR-TB)の問題

検出率が低いことと多剤耐性結核への不適切な治療法が、ヨーロッパの流行の大きな要因となっています
(取り組みが)進展しているにもかかわらず、結核、特に、多剤耐性の結核は、WHOヨーロッパ地域における公衆衛生上の大きな懸念事項として留まっています。結核の監視・調査からの最新のデータでは、WHOヨーロッパ地域での多剤耐性結核の4人に1人は発見されていないことが示されています。多剤耐性結核患者の診断は、2011年の33%から2016年には73%に上昇しました。しかし、ヨーロッパの結核対策の計画で定義されている地域目標85%を下回っています。

多剤耐性結核の患者の治療は、もうひとつの課題です。治療の成功率2013年の46%から2016年には55%に上昇していますが、2020年の目標75%に達するにはまだまだ不十分です。

さらに、広範な薬物に耐性をもつ結核(XDR-TB;超多剤耐性結核)の拡がりが、WHOヨーロッパ地域での結核の終結には、さらなる脅威となっています。薬剤感受性検査を迅速に実施し、調査活動を向上させたことで、2016年にはWHOヨーロッパ地域で超多剤耐性の結核5000人が確認されました。しかし、超多剤耐性結核の患者では、平均で3人に1人しか治癒しませんでした。

EU / EEAにおける多剤耐性結核

欧州連合/欧州経済圏(EU / EEA)では、届けられた多剤耐性結核患者の割合は、2012年以降、人口10万人当たり0.3で変化していません。しかし、多剤耐性結核患者のうちの超多剤耐性結核患者の割合は、同じ時期に13.9%から20.6%に増加しました。多剤耐性結核と超多剤耐性結核の治療成功率は低いままです。

この脅威に対応するために、ヨーロッパ疾病対策センターは、EU / EEAにおける結核菌の検出と調査(力)を向上させるための全遺伝子配列の決定技術(WGS)の使用に関するパイロット・プロジェクト2017を開始しました。このプロジェクトでは、多剤耐性結核菌株の調査と感染の追跡時に全遺伝子配列の決定技術(WGS)を共通の基準で確立させることになります。また、すべてのEU / EEA諸国のうち、全遺伝子配列の決定技術(WGS)を持たない国でも、WGSに対して頑強な経験を持つ施設と多剤耐性結核菌株とをつなぎ合わせることができれば、その技術を利用することが可能になります。

2030年までに結核と終息させるという公約

2018年は、「結核に対してすべて(のことを行う);All Against Tuberculosis」とするベルリン宣言の10周年記念となります。世界には今年9月の国連総会で、初めて結核を議題として上げることに備えて、結核の撲滅に向けた歩みをさらに加速させた公約を行うべき差し迫った必要性があります。

これには、現在ある既存の技術と迅速診断の技術の活用、新しい方法(開発)に向けた研究の強化、新しい薬剤とより短期間の治療レジメンの評価をさらに規模を拡大して行うための規制制度の作成と実施、(社会の全体アプローチによる)社会の市民活動、患者、地域社会の力など、あらゆる領域の力を結集した協力体制を必要とします。

結核に感染したすべての人が、早期の発見、治療の成功、人々の生活を中心する支援のために、質の高い保健医療サービスを利用できる環境を整備し、協力体制の強化と人的・物的資源への配分を強化することが不可欠となります。

出典

EURO.Media Centre. 19 March 2018
WHO Europe/ECDC joint press release: 4% annual decrease too slow to end TB by 2030 - call for Europe's commitment to increase investment to end TB
http://www.euro.who.int/en/media-centre/sections/press-releases/2018/who-europeecdc-joint-press-release-4-annual-decrease-too-slow-to-end-tb-by-2030-call-for-europes-commitment-to-increase-investment-to-end-tb