2018年03月30日更新 リステリア症の発生状況- 南アフリカ共和国(更新)
南アフリカ共和国でリステリア症の感染発生が続いており、WHOは、2018年3月28日の緊急速報(Disease outbreak news)で警戒を怠らないことを呼びかけています。
情報の詳細
南アフリカ共和国では、2017年以降、重篤な食品由来の感染症であるリステリア症の発生が続いています。2017年1月1日以降、2018年3月14日までに、検査による確定診断患者978人が、全ての州から国立感染症研究所(NICD)に報告されました。このうち多くの患者は3つの州から報告されました。Gauteng (ハウテン)州で581人(59%)、Western Cape(西ケープ)州で118人(12%)、KwaZulu-Natal(クワズール・ナタール)州で70人(7%)でした。残る患者は、国内の他州からでした。患者674人は病態の転帰が明らかにされました。このうち183人(27%)が死亡していました。この死亡率は、世界における他のリステリア症発生時の記録と一致しています。患者のほとんどは、新生児、妊婦、高齢者、免疫不全の患者などの重い病気をもつ人など、(感染)リスクの高い人たちでした。今回の感染発生において、患者の42%は妊娠時や分娩時に感染した新生児でした。
大部分の患者から分離された全ゲノム(遺伝子)配列が決定されました。これらの分離株の91%は、リステリア菌ST6(Listeria monocytogenes Sequence ST6)に属していました。同じST6の遺伝子配列(の菌株)は、「ポーニー(polony)」と呼ばれ、広く消費されている即席用の食肉製品からも確認されました。(また)関連する製品を製造する業者の加工環境からも同じ菌株が見つかりました。保健省は、2018年3月4日に、この製品が感染の発生源と考えられることを発表しました。
食品加工会社と3つの小売業者は、アフリカ地域の15か国※に(製品を)輸出しています。これら全ての国は、関係する製品の回収を通達しました。南アフリカ共和国の他の食品製造会社からの環境サンプルでも、リステリア菌に対して陽性(の検体)はありました。しかし、この流行とは異なる菌株でした。これらの企業にも食品の回収が通達されました。これらの製品の一部は、アフリカ地域の15か国うちの一部に輸出されています。
現在の南アフリカ共和国で感染発生が報告されているうちの9%の患者が、多くの感染が発生している菌株ST6とは異なるリステリア菌株に感染していました。これは、複数の感染が(同時に)発生している可能性があることを示唆しています。これらの患者の感染源を特定するために包括的な調査が行われる必要があります。
※アンゴラ、ボツワナ、コンゴ民主共和国、ガーナ、レソト、マダガスカル、マラウイ、モーリシャス、モザンビーク、ナミビア、ナイジェリア、スワジランド、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエ
公衆衛生上の取り組み
政府は、調査と対策への取り組みを主導するために、複数の官公庁にまたがる全国規模の対策室を立ち上げました。
・南アフリカ共和国・保健省大臣は、2018年3月4日に、この感染の発生源を公表するために記者会見を行いました。
・感染源の特定に続いて、各国政府当局は、安全性のための回収の通知の発行だけでなく、応諾の通知、関連する輸出製品への対策、並びに感染し易い人たちへのリスク情報の伝達など、さらなる感染(の発生)と関連する死亡を抑え込むための対策を行っています。
・南アフリカ開発共同体(SADC)に属する保健省大臣たちは、情報を共有し、リステリア症に対する備えを進め、対策を強化するために、2018年3月15日にヨハネスブルグで会合を開きました。保健省大臣たちは、国際保健規則(IHR)に基づき、国際旅行および貿易に向けた健康対策への追加措置についての権利と義務を確認しました。
・リステリア症は、2017年12月以降、南アフリカ共和国では通報すべき病態とされています。
・国によるリスク情報の伝達・普及への活動が、WHOの「食品をより安全に保つ5つの鍵」に基づいて、2017年12月に開始されました。
WHOのリスク評価
この感染の発生は、世界的に、確認されたリステリア症の中でも最大規模になります。リステリア症は長い潜伏期間(1~3週間および最大70日間)をとる潜在力をもつために、食品の回収の効果がみられる前に、さらに患者が発生することが予想されます。
この感染の発生源の特定に引き続き、WHOは、現在、関連する製品の輸出が他国でもリステリア症患者をもたらしている可能性があることを懸念しています。特定された15か国それぞれに輸出されている関連製品すべてに関する詳細な情報は、WHOおよび国際食品安全機関ネットワーク(INFOSAN)事務局と共有されることが必要です。このことは、これらの製品の効率的な回収を促がすことに役立ちます。
最近、ナミビアで、リステリア症患者の確認が報告されました。この患者とその他の(感染の)可能性のある患者が適正に調査され、関係する食品の源流が特定されることが重要です。分離したリステリア菌株については、南アフリカ共和国での発生との関連性を探り、特定するために、遺伝子配列を決定する必要があります。これらの中には、リステリア症患者を検出するために確立された調査体制や検査診断体制が整備されていない国もあります。そのような場合、WHOが、アフリカ16か国(西アフリカ2か国とSADC 14か国)に備えと対策に向けた支援を、いつでも提供できるようにしています。
感染の発生に関する(それぞれの)国民の関心の高まりは、さまざまな社会的なメディアの在り方の中でのメディアからの報道や議論によって反映されます。
WHOからのアドバイス
各国は、将来に同様の事態(が発生すること)を防止し、これらの国の人々に向けて安全な食品の供給を確保するために、国による食品安全および疾病の監視体制を強化することが必要です。さらに、サルモネラ菌(Salmonella species)、カンピロバクター(Campylobacter jejuni)、大腸菌(Escherichia coli)、リステリア菌(Listeria monocytogenes)などの一般的な食品由来の病原菌に注意を払い、もしも未だにリステリア症を届出の感染症に指定していないならば、指定を進め、新しく2017年11月に公表された「WHOマニュアル食物由来の感染症への監視と対策の強化」を上手く活用し、「リステリア症についてのWHOファクトシート」を参照すること、各国には促しています。さらに「詳細な情報」のセクションで、これらの資料をみることができます。
担当当局には、(感染)リスクの伝達・普及を強化することなど、リステリア症の予防と管理に関する公衆衛生上のアドバイスを積極的に提供し、国民の懸念に対処し、感染の発生への対策を推進することが奨められています。
WHOは、現在、南アフリカ共和国政府によって示された食肉加工製品の回収以外については、この感染の発生に関して旅行や貿易の制限を勧めてはいません。
WHOは、それぞれの国の政府が主体となって国民の健康を守るための対策を講じることを望んでいると理解しています。その一方で、IHR加盟国は、科学的な原則に基づかず、過剰対応とみられるような国際旅行や貿易への著しい妨げとなる対策は行わないことの責務も負っています。実際、そのような対策はIHRの精神と目的に反するものであり、公衆衛生上の目的を妨げる可能性があります。
現在、15か国のうち12か国で、関連する食肉加工製品が回収され、輸入が禁止されていますが、このうち3か国では、他の食品の輸入も禁止されています。WHOは、この感染の発生とIHRに基づく要件への準拠の関連で、各国が取っている旅行および貿易への対策を、引き続き監視しています。
旅行者に向けては、調理不十分な食べ物を避け、数時間常温で保管されている食べ物を避けるとともに、食べ物を準備し食べるときには石鹸と水で徹底的に手洗いするなど、適正な食品の衛生習慣を実践することを勧めています。
出典
WHO.Disease outbreak news, Emergencies preparedness, response.28 March 2018
Listeriosis- South Africa
http://www.who.int/csr/don/28-march-2018-listeriosis-south-africa/en/