2018年04月09日更新 麻しんの発生状況-アメリカ大陸(更新2)
2018年4月6日付で、汎米保健機構(PAHO)によって、麻しんの発生状況の情報が更新されました。昨年、ヨーロッパでの麻しん患者の報告が急増したことを踏まえて、(アメリカ大陸地域でも)人々を麻しんと風しんから防ぐために、各加盟国に調査活動の体制を強化し適正に対策を実施することと、アメリカ大陸地域においてこれらの病気が常在することの阻止に取り組むことが求められています。
アメリカ大陸における発生状況の概要
前回、2018年3月16日にPAHO / WHOから公表された麻疹の疫学情報の更新以降、アメリカ大陸ではアルゼンチン(1人)とエクアドル(1人)の2か国で新たに麻しん患者が確認されています。これで、2018年の初めから第14週までに、麻しん患者が確認された国の総数は11か国となりました。アルゼンチン(3人)、カナダ(45人)、アメリカ合衆国(120人)、ベネズエラ(727人)のアメリカ大陸4か国から(多くの)麻しん確定患者が報告され、このことが、2017年よりも多い患者数をもたらしています。
2018年の第1週から第14週までに、この地域で確認された麻しん患者は、アンティグア・バーブーダ(1人)、アルゼンチン(1人)、ブラジル(46人)、カナダ(4人)、コロンビア(5人)、エクアドル(1人)、アメリカ合衆国(41人)、グアテマラ(1人)、メキシコ(4人)、ペルー(2人)、ベネズエラ(279人)から報告されました*。
*各国での患者数の違いは、情報源の違いによるようです。
2018年における各国の発生状況の要約が届いています。
アンティグア・バーブーダとグアテマラから報告された患者は、いずれも感染輸入でした。アンティグア・バーブーダの患者は、英国から来ていた19歳の女性で、麻しんワクチンの接種歴はありませんでした。1月19日に発疹が発現しました。グアテマラの患者は、ドイツから来た17歳の女性で、ワクチンを2回接種していました。1月17日に、発疹が発現しました。これまでのところ、いずれの感染輸入患者に関連しても新たな患者はでていません。
カナダとアメリカ合衆国で確認された麻しん患者は、感染輸入またはその患者に関連しており、このうちの73%はワクチン接種を受けていませんでした。患者の割合が最も高い年齢層は、1歳未満および20~49歳の成人(29%)でした。同定された遺伝子型は、D8、D4、B3でした。患者20人は(入国)の前に訪れていた国、オーストラリア、インド、パキスタン、ウガンダ、英国のいずれかの国と(感染に)関係していました。
アルゼンチンでは、確認された麻しん患者は、8か月齢の女児でした。(この女児に)旅行歴はなく、ブエノスアイレスに住んでいました。女児は1歳未満であり、予防接種を受けていませんでした。3月25日に発疹が発現しました。この患者は、RT-PCR法検査によって、ブエノスアイレスにある中央検査施設で確認されました。現在、遺伝子型が調べられています。
接触者についての疫学調査と感染源の追跡が進められています。
次のような取り組みが行われました。
•接触者の確認と健康監視
•感染し易い人々へのワクチン接種
•(感染)リスクの情報の普及
ブラジルでは、疑い患者316人が報告され、麻しんの流行が続いています[Amazonas(アマゾナス)州で103人、Roraima(ロライマ)州で213人]。このうち、46人の患者(アマゾナス州で4人、ロライマ州で42人)が確定診断されました。2人が死亡していました。アマゾナス州では、Anori、Humaitá、Manaus、São Gabriel da Cachoeiraの各行政地区から、疑い患者が報告されました。確定診断患者4人は、Manausから報告されました。全員が、ブラジル人で、3人が女性でした。確定患者の1人は、最近になってワクチンを接種していました。残る3人はワクチン未接種もしくは接種の記録がありませんでした。発疹は、2018年2月15日から3月6日までの間に発現しました。オズワルド・クルズ財団・検査施設(厚生省管轄の生活環境および労働衛生センター)での分析では、患者4人はいずれも遺伝子型がD8であり、 この遺伝子型は、2017年にベネズエラで、2018年にロライマ州で同定された遺伝子型と同一でした。
ロライマ州では、確定患者42人のうちの34人がベネズエラ人、8人がブラジル人でした。患者のうちの31人がBoa Vista行政地区から、11人がPacaraima行政地区から報告されました。ベネズエラ人患者のうち、16人は民族ワラレオ族の人々でした。Boa Vista行政地区では、ベネズエラ人の子ども2人の死亡が報告されました。確定患者の年齢は3か月から33歳までで、25人が男性でした。患者のうちの9人は、ワクチンを接種していました(強化されたワクチン接種活動中に6人、それまでに3人)。4人が入院となりました。オズワルド・クルズ財団・検査施設で行われた分析では、確定診断された患者の遺伝子型はすべて同じD8で、これは2017年にベネズエラで同定されたものと同一でした。
次のような取り組みが行われています。
•ロライマ州とアマゾナス州では、ベネズエラからの移民を含む6か月から49歳までの人を対象に、予防接種キャンペーンを行っています。
•疫学調査の強化と、医療施設での患者の発見とこれまでの患者の見直し、接触者の追跡および健康状態の監視を行っています。
•検査のネットワーク体制を強化しています。
•感染リスクについての情報の普及に取り組んでいます。
•患者管理についての医療従事者の研修を行っています。
患者数は、最近、増加傾向を示しており、流行が拡大しています。まだ、患者194人の検査結果が待たれている状況であり、今後も数週間は注意深くみていく必要があります。
コロンビアでは、ベネズエラから来た子どもたちにおいて、5人の麻しん確認患者が報告されました。4人はカラカスから、1人はミランダ州から報告されました。確定患者の年齢幅は10か月から2才まででした。このうちの3人は男児でした。発疹の発現は、2018年3月8日から30日までの間に報告されました。いずれの患者も感染力のある状態でコロンビアに入り、いずれの者も入院しました。死亡者は報告されていません。
これらの患者は、Arjona[Bolívar(ボリーバル]県)、Cúcuta[Norte de Santander(ノルテ・デ・サンタンデール) 県]、Medellin[Antioquia(アンティオキア) 県]、Santa Rosa de Cabal[Risaralda(リサラルダ) 県]の行政地区、およびCartagena(カルタヘナ)地区から報告されました。確認検査は、国立衛生研究施設で、血清中の麻しんIgM抗体の確認、および咽頭スワブ検体と尿検体からのRT-PCR法検査によって行われました。患者の遺伝子型の分析が進められています。
次のような取り組みが行われました。
•接触者の確認と経過の観察。これまでのところ、いずれの接触者も症状はありません。
•医療施設や地域社会での精力的な患者の発見。
•ワクチン接種率の迅速な調査。
•感染し易い人への予防接種の実施。
•感染リスクについての情報の普及。
•麻疹と風疹の調査活動の強化
エクアドルでは、ワクチン接種歴のない5歳のベネズエラ人男児で麻しんの確定患者が報告されました。この男児の発疹は3月28日に発現しました。潜伏期間中に、カラカス(ベネズエラ)からキト(エクアドル)へと陸路で移動しており、3月27日にコロンビアの国境の街Rumichacaにある国際橋を通ってエクアドルに入りました。彼は、その翌日に、発熱、咳、結膜炎を発症しました。キトにある国立中央検査施設(INSPI、Quito)で、麻しんIgM抗体が確認されました。
次のような取り組みが行われました。
•医療施設での精力的な患者の発見とこれまでの患者の見直し、接触者の追跡および健康状態の監視を通じた疫学調査の強化。
•感染し易い人への予防接種の実施。
•患者管理についての医療従事者の研修
•感染リスクについての情報の普及
メキシコでは、感染輸入もしくはそれに関連して、検査で確認された麻しん患者が4人報告されました。感染の発端となる患者は、Baja California(バハ・カリフォルニア)州Tijuanaに住む38歳の女性でした。女性は、国際旅行中に発見された確定患者と接触機会がありました。この他の患者3人はメキシコ・シティで確認されました。第7週から第10週までの間に発疹が発現しました。これらの患者は、39歳の女性、彼女の子ども(1歳)、子どもの介護者(48歳)でした。最初に確認された患者から同定された遺伝子型はB3でした。
ペルーでは、国外に旅行したことのないペルー人2人で、検査確認された麻しん患者が報告されました。いずれの患者も男性で、46歳と16歳でした。2018年2月24日と28日に発疹が現れました。確定患者の感染源となる可能性のある患者もしくは輸入感染に関連した患者は特定されていません。
ベネズエラでは、感染の発端となる患者が2017年第26週に確認されて以降2018年第12週までに、死亡者2人を含めた確定患者が1,006人(検査確認757人、疫学関連による判定249人)確認されました。患者が最も多かったのは、2017年第38週から第40週までと、2018年第8週から第11週まででした。
確定診断患者のうち、67%がBolívar(ボリバル)州(累積発症率が最も高い州)で発生していました。患者は、Apure(アプレ)、Anzoátegui(アンソアテギ )、Delta Amacuro(デルタアマクロ)、the Capital District(首都地区)、Miranda(ミランダ)、Monagas(モナガス)、Vargas(バルガス)の各州からも報告されました。最も発生の多い年齢層は、5歳未満の子どもで、次いで6歳~15歳の子どもでした。このウイルスの他の地域への地理的な拡がりは、鉱業と商業活動を取り巻く公式・非公式の経済活動により住民が高い移動性をもつことなど、他の要因で説明できます。
対策の一環として、国の緊急対策計画では、(大陸)地域レベルの緊急対策チームと行政地区レベルの対策チームの活用、ワクチン接種の戦略と活動の実施、疫学調査、接触者の追跡と監視、医療者個々人への研修、国レベルでの制度上の支援などが、このウイルスの伝播を遮断するために組み込まれました。政府は、ウイルスの伝播を遮断するために、大人も子どももワクチンの接種率が上がるように、3種混合ワクチン(麻しん、風しん、水痘)と2種混合ワクチン(麻しん、風しん)の600万回分を供給してきました。
他の地域における発生状況の概要
2016年11月から2017年12月にかけて、ヨーロッパ地域での麻しんの疫学的な発生状況に関連し、2017年における患者数は、2016年に報告された患者数と比べて4倍となりました。2017年には、21,315人で麻しんへの感染が発生し、35人が死亡しました。これに対して、2016年は歴史上で患者数が最も少なく5,273人でした。これらの患者の72%は、イタリア、ルーマニア、ウクライナの3か国から報告されました。
この他の大陸では、2016年から2017年にかけて、中国、エチオピア、インド、インドネシア、ラオス、モンゴル、フィリピン、ナイジェリア、スリランカ、スーダン、タイ、ベトナムなどで、麻しんの流行が報告されました。
各国の担当当局へのアドバイス
汎米保健機構/世界保健機関(PAHO / WHO)は、他の地域からの麻しん患者の感染輸入が絶え間なく報告され、アメリカ大陸でも流行が続いているため、各加盟国に次のことを要請しています。
•すべての行政組織が、麻しん、流行性耳下腺炎、風疹を含むMMRワクチンの1回目と2回目の接種率を、均等に95%で維持できるようにワクチン接種に取り組むこと。4月22日に始まるアメリカ大陸のワクチン接種・週間はワクチンの接種率を向上させ、各国国内での接種率の均等化を確立させる上での機会のひとつとなります。
•医療従事者、観光や交通機関(ホテル、仕出し業者、空港、タクシー運転手など)で働く人々、国際旅行者など、感染リスクの高い人のうちワクチン接種の証明または麻疹および風疹に対する免疫を有さない人には、ワクチンを接種すること。
•大陸の各国は、患者の感染輸入を制御するために、MR(麻しん・風しん)ワクチンとその注射器の準備を維持すること。
•麻しんの疫学調査を強化し、公立と民間の医療施設での麻しんの疑い患者を素早く発見することで、検体が採取された日から5日以内に確実に検査施設に届けるようにすること。
•感染伝播の常在の再構築を防ぐための緊急対策チームを立ち上げ、感染輸入された患者に迅速に対応すること。緊急対策チームが立ち上げられ、国と現地レベルで主導していく際には、すべてのレベル(国、地方行政、現地レベル)で恒久性と流動性をもった情報伝達の経路を恒久的に維持し、これらを確実に実施することが必要となります。
•それぞれの国の予防接種スケジュールに基づいて、ワクチン接種サービスの利用しやすい環境を整備するために、各国で、海外からの人々の流れ(外国人の到着)と国内での人の流れ(さまざまな人の移動)を把握すること。
出典
PAHO.Epidemiological Update. 6 April 2018
Measles
http://www.paho.org/hq/index.php?option=com_content&view=article&id=14231%3A6-april-2018-measles-epidemiological-update&catid=2103%3Arecent-epidemiological-alerts-updates&Itemid=42346&lang=en