ハンタウイルス病 - パナマ共和国

Disease outbreak news 2019年1月4日

パナマ保健省は、汎米保健機構/世界保健機関(Pan American Health Organization / World Health Organization(PAHO / WHO))に、パナマ共和国西部ロスサントス(Los Santos)州におけるハンタウイルス感染の症例の増加を報告しました。 2018年1月1日から12月22日の間に、全国レベルで合計103人の確定されたハンタウイルスの感染例が報告され、そのうち99人がロスサントス州で報告されました。ロスサントス州では、51人が肺症候を伴わないハンタウイルス熱1(HF)として分類され、4人の死亡を含む48人がハンタウイルス肺症候群2(HPS)として分類されました。
●51人のハンタウイルス熱症例のうち、41%が女性、55%が20-59歳の間、76%が2018年6月から2018年11月の間に発生しました。
●48人のハンタウイルス肺症候群症例のうち、56%が女性、67%が20-59歳の間で、症例の半分以上が2018年2月(17%)および2018年6月から2018年9月の間(42%)に発生しました。
●ハンタウイルス肺症候群の症例では4人の死亡が報告されました(女性2人、男性2人、すべて60歳以上)。

症例は血清学およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって確認されました3。ウイルス遺伝子の塩基配列決定により、このアウトブレイクに関連したウイルスの種類はチョクロ(Choclo)ウイルスであると決定されました。それは1999年にパナマ共和国西部で最初に分離されました。

1999年以来、ハンタウイルスの症例がパナマ共和国で報告されています(図1)。過去5年間で、ロスサントス、エレーラ、ベラグアス、コクレの各地域で感染が記録されています。2018年の間に、ロスサントス(99件、図2)、エレーラ(2件)、コクレ(1件)、およびベラグアス(1件)の各地域で症例が報告されています(図3)。ハンタウイルスの宿主動物は森林に住むげっ歯類であり、人々がげっ歯類の棲息地に立ち入ると感染が起こる可能性があるため、現在のパナマ共和国のハンタウイルス感染の増加は、州レベルでの監視と検査能力の強化によるものだけでなく、げっ歯類の個体数の増加と分布の変化に関連している可能性があります。げっ歯類の個体数に影響を与える環境的および生態学的要因は、病気の傾向に季節的な影響を及ぼし得るものです。

図1.パナマ共和国における1999-2018年の肺症候を伴わないハンタウイルス熱およびハンタウイルス肺症候群症例の分布(11月現在)。


出典:パナマ保健省により提供され、PAHO / WHOにより複製

図2. 2018年1月から12月までのパナマ共和国ロスサントス州における疫学週別の確定されたハンタウイルス症例の分布。


出典:パナマ保健省により提供され、PAHO / WHOにより複製

図3. 2018年1月から11月までの、確定されたハンタウイルス感染症例の地理的分布。


出典:パナマ保健省により提供され、PAHO / WHOにより複製

公衆衛生上の取り組み

現在実施されている公衆衛生上の取り組みには、次のものがあります。
●症例管理を含む症例の調査と監視
●強化されたサーベイランスと積極的な症例発見
●げっ歯類の防除と軽減対策
●感染に影響を受けている地域における意識の向上とヘルスプロモーション

WHOのリスク評価

ハンタウイルス肺症候群は人獣共通のウイルス性呼吸器疾患です。病原体は、ハンタウイルス属ブニヤウイルス科に属します。感染は主にエアロゾルの吸入、あるいは感染したげっ歯類の排泄物(糞)または唾液との接触によって起こります。ヒトのハンタウイルス感染症の症例は通常、ウイルスの宿主であるげっ歯類が発見される可能性がある農村地域(森林、畑、農場など)で発生します。感染した人は頭痛、めまい、悪寒、発熱、筋肉痛を経験することがあります。彼らはまた、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などの胃腸(GI)症状を経験し、その後に突然の呼吸困難や低血圧が発症することがあります。ハンタウイルス肺症候群の症状は通常、初回暴露後2~4週間で発生しますが、早ければ暴露後1週間から遅ければ8週間程度で症状が現れることがあります。致死率は50%に達することがあります。

アメリカ大陸では、ハンタウイルス肺症候群の症例がいくつかの国で報告されています。2019年1月には、ワールドユースデー(World Youth Day)4がパナマ共和国で開催されます。この大規模集会は主にパナマシティで行われますが、他の州ではサイドイベントが行われます5。1月中のハンタウイルスの季節的増加は以前には記録されていませんが、症例の増加は農村環境における屋外および農業活動に関連しています。それにもかかわらず、ワールドユースデー(World Youth Day)への参加者は彼らの感染の危険性を減らすために適切な予防措置をとる方法に関する勧告と指導を提供されるべきです。保健職員と一般市民のための健康啓発キャンペーンが今後数週間の間予定されています。主催者および公衆衛生当局は、旅行および観光部門と協力して、教育用資料および適切な掲示を戦略的な場所および入境地点(空港、公共交通機関、旅行代理店など)に配置する必要があります。飛行機、船舶、公共ラジオにおける公共サービスによるアナウンスなど、代替メディアも検討する必要があります。

現在の疫学的データと公衆衛生の対応に基づいて、WHOのリスク評価は、この事象に関してハンタウイルス肺症候群が国際的に広がるという重大なリスクはないというものです。

WHOからのアドバイス

PAHO/WHOは、加盟国が、ハンタウイルスによって引き起こされる感染の予防と制圧のために、検出、調査、報告、および症例管理の努力を続けることを勧告します。

早期発見とタイムリーな医療が臨床転帰を改善することができるので、彼らの旅行履歴を報告するよう助言されているハンタウイルス感染症の影響を受けている地域から帰る旅行者に特別の注意が払われるべきです。

病気の初期段階での治療には、必要に応じて解熱薬と鎮痛薬を含めるべきです。状況によっては、病原体を確認できない間は、患者は薬効範囲の広い抗生物質(ハンタウイルスには無効)を投与されるべきです。ハンタウイルス肺症候群の急速な進展を考えると、臨床管理は患者の血行動態モニタリング、輸液管理、換気補助に焦点を当てるべきです。重症例は直ちに集中治療室(ICUs)に転送されるべきです。

健康啓発キャンペーンは、病気の発見とタイムリーな治療を向上させ、人々のげっ歯類との接触を減らすことによって、その発生を防ぐことを目的とするべきです。予防措置は、職業的およびエコツーリズムに関連した危険をカバーするべきです。ほとんどの通常の観光活動はげっ歯類やその排泄物に旅行者をさらす危険性をほとんど、または全く与えませんが、キャンプやハイキングなどの野外活動に従事する人々は潜在的な感染性物質への可能な露出を減らすための予防策をとるべきです。

ハンタウイルス肺症候群サーベイランスは包括的な全国サーベイランスシステムの一部であるべきであり、臨床的、実験室的および環境的要素を含まなければなりません。WHOは、げっ歯類の個体数を減らすことを目的として、統合された環境管理の実施を推奨しています。ワールドユースデー(World Youth Day)のイベントを通して、症候サーベイランスは、大規模集会参加者の間でのインフルエンザ様および消化管症状の増加を公共当局に警告するかもしれません。

現時点では、WHOは、現在のハンタウイルスの流行について入手可能な情報に基づいて、パナマ共和国への旅行および/または取引に対するいかなる制限を推奨していません。

参照

Pan American Health Organization / World Health Organization
(PAHO/WHO). Epidemiological Alert Hantavirus Pulmonary Syndrome
(HPS). 17 October 2013.
https://www.paho.org/hq/dmdocuments/2013/17-October-2013-Hantavirus-Epi-Alert.pdf?ua=1
Hantavirus in the Americas: Guidelines for diagnosis, treatment,prevention and control.
http://www1.paho.org/english/ad/dpc/cd/hantavirus-americas.htm
Hantavirus information: Centers for Disease Control and Prevention
(CDC)
https://www.cdc.gov/hantavirus/

注釈

1.ハンタウイルス熱(HF):発熱、筋肉痛、頭痛、消化器症状、脱力感を示す症例。この症例定義は、ウイルスに潜在的にさらされている患者を検出するための疫学的サーベイランス目的に使用されます。 出典:パナマ共和国ハンタウイルス病管理ガイド、ゴルガス記念研究所(Gorgas Memorial Institute)、パナマ保健省。

2.ハンタウイルス肺症候群(HPS):軽度、中等度、または重度に分類される心肺症状を呈する症例。 出典:パナマ共和国ハンタウイルス病管理ガイド、ゴルガス記念研究所(Gorgas Memorial Institute)、パナマ保健省。

3.国レベルレファレンス検査室、ゴルガス記念研究所(http://www.gorgas.gob.pa/

4.ワールドユースデー(World Youth Day)パナマ2019。(http://worldyouthday.com/panama-2019

5.過去5回のワールドユースデーのイベント(2016年ポーランドのクラクフ、2013年ブラジルのリオデジャネイロ、2011年スペインのマドリード、2008年オーストラリアのシドニー、2005年ドイツのケルン)での参加者は、オーストラリアで50万人、ブラジルで3700万人(https://bit.ly/2EVxs77)でした。

6.https://www.romereports.com/2014/07/22/la-jmj-rio-2013-cumple-un-ano/

出典

Hantavirus disease -Republic of Panama
Disease outbreak news  4 January 2019
https://www.who.int/csr/don/04-January-2019-hantavirus-panama/en/