淋菌感染症-英国

Disease outbreak news 2019年1月30日

2019年1月7日に、英国(the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)のIHR(国際保健規則)担当官(National Focal Point)は、英国で診断された広範囲薬剤耐性(XDR)淋菌(Neisseria gonorrhoeae)感染症の2症例についてWHOに通告しました。

最初の症例は、2018年10月に英国の性感染症外来(sexual health services)を受診した異性愛者の女性でした。患者は2018年9月にスペイン、バレアレス諸島Balearic Islandsのイビサ島Ibizaで英国籍の男性と行きずりの性的関係を結んだことを報告しました。患者はイビサ島での英国籍の男性との性的な接触から英国での性感染症外来の最初の受診までの間、抗生物質による治療を受けていませんでした。患者はセフトリアキソン500mgとアジスロマイシン1gという経験的治療を受けました。治療判定(TOC)を施行したところ、彼女は病原菌を排除できたことが明らかになりました。

2例目は、2018年11月に英国の性感染症外来を受診した異性愛者の女性でした。患者は2018年6月から9月までスペインのイビサ島に滞在していたことが明らかになっている男性と2018年11月に英国で行きずりの性的関係を結んだことを報告しました。患者はセフトリアキソン1gによる経験的な治療を受けました。治療判定を施行しましたが、病原菌は排除できませんでした。そこで患者はゲンタマイシン240mg(筋肉内)とアジスロマイシン2mg(経口)を投与されました。改善がみられなかったので、患者は3日間のエルタペネムの静脈内投与を受けました。その後治療判定を施行したところ、病原菌を排除できました。

この2つの分離株はセフトリアキソン(MIC 1.0 mg/L)に耐性を示していて、アジスロマイシン(MIC 0.5 mg/L)に中等度の感受性を持っていました。またこれらの分離株はセフィキシム、ペニシリン、シプロキサシンそしてテトラサイクリンにも耐性を示していましたが、スペクチノマイシンには感受性を示していました。これらのアジスロマイシンへの強い耐性を持っていた分離株は、英国で2018年3月に報告された症例や、オーストラリアで2018年4月に報告された2症例とも異なるものでした。

イングランド公衆衛生当局は調査と連絡を調整し、接触者の追跡を確かなものにし、感染拡大を封じ込めるためにインシデント管理チームを設置しました。スペインのイビサ島に旅行した英国人との性的接触との疫学的な関連が示唆されるため、英国は欧州連合EUの早期警告・対応システム(Early Warning and Response System:EWRS)を通してこれらの症例についてスペインに報告しました。

公衆衛生上の取り組み

イングランド公衆衛生当局は、現場対応、アウトブレイクの調査、接触者の追跡、サーベイランスやリスクコミュニケーションを行うインシデント管理チームの発足を含む、適切な公衆衛生的措置を迅速に開始しました。

スペインのバレアレス諸島とイビサ島の公衆衛生当局は、イビサ島に旅行した英国人の広域薬剤耐性淋菌XDR N. gonorrhoeaeへの感染についての公衆衛生上の警告を受けました。
イビサ島における性感染症(STI)の治療は、バレアレス諸島自治州公衆衛生当局によるサービスに含まれており、診断はイビサ島の主要公立病院の検査室で実施されます。現在のところ、イビサ島において英国で特徴づけられた耐性のパターンを示すN. gonorrhoeaeの分離株は同定されていません。

疫学的関連、感染源を確定し、また英国の症例と接触した性的パートナーを明らかにするためには、英国とスペインの両方でさらなる調査が必要です。英国の患者の性的パートナーの可能性のある人物に関する情報がイングランド公衆衛生当局によって公表されれば、さらなる公衆衛生上の制御対策が検討される予定です。

WHOのリスクアセスメント

今回は英国における4回目のXDR N. gonorrhoeae感染症の報告でした。これらの今回の症例はセフトリアキソンに耐性があり、アジスロマイシンに中等度の感受性がありました。これはWHOが推奨する淋病に対する併用療法(セフトリアキソン250mgとアジスロマイシン1g)をますます脅かすものになっています。

淋病症例の多数は無症候性であるため、耐性をもつ淋菌株の拡大の可能性があり、またそれはハイリスク集団において急速に拡がる可能性があります。今回の2症例については、スペインのイビサ島にいる英国人もしくはイビサ島に行ったことがある英国人との性的関係を結んだことに、疫学的な関連があり、この耐性淋菌株の潜在的な国際的拡大を示唆しています。適切な公衆衛生上の対策を実施する必要があり、感染の伝播を阻止しなければなりません。対策には抗生物質耐性(AMR)淋菌のサーベイランスの強化と時機を得た報告を確かなものにすることが含まれます。

接触者の追跡とコンドームの使用の促進を含む対策はイングランド公衆衛生当局によって行われており、これらの2症例による英国における潜在的なさらなる伝播に対するリスクは、現在は低いとみなされています。

WHOからのアドバイス

現在も続く多剤耐性淋菌感染症問題に持続する変化をもたらすため、2つの一部重複する目標を達成させなければなりません。その目標とはつまり、薬剤耐性の広範囲な制御と淋菌感染症の制御です。これらの両方が抗生物質耐性の世界的な制御の幅広い背景でのアプローチになるべきです。淋菌感染症に対して、公衆衛生上のアプローチは学んだ教訓に基づいたものでなければならず、また次の点を活動に含めなければなりません。

• 淋菌感染症の予防と制御に効果的なコンドームの使用、ハイリスク集団の性感染症のスクリーニングと効果的な性感染症症例の診断と適切な治療計画を提供する管理には、健康教育と行動変容のカウンセリングを通したパートナーの管理及び伝播と再感染の予防が含まれます。
• 効果的な薬剤の調整を含む、適切な抗生物質の使用。
• AMRサーベイランスの設置と強化には、時機を得た報告、特に淋菌感染症の負荷が大きい国々において、国家の淋病治療ガイドライン及び公衆衛生政策を報告することと、世界的に比較できる質的なデータを提供することが含まれます。
• 良好な品質管理体制で淋菌の培養と抗生物質の感受性試験を実施するために、地域単位と国家単位での検査室のネットワークを確立するためのキャパシティの構築。
• 淋病症例の経過観察と検出、治療不成功の一般的な症例の定義に基づいた治療不成功症例の管理とモニタリングのプロトコール、そして治療不成功の全身的なモニタリングの強化。
• 淋菌の診断に対する臨床現場即時検査(またはベッドサイド診断)の優先的審査体制と、抗生物質の管理をサポートするためのAMRの監視と検出に対する新たな分子細胞生物学的手法。
• 淋菌感染症に対する代替的で効果的な治療計画の同定と、それについての研究。

抗生物質耐性もしくは性感染症についての詳細は以下をご参照ください。

抗生物質耐性ファクトシート
性感染症(STI)ファクトシート

出典

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