カルバペネム耐性緑膿菌感染症-メキシコ

Disease outbreak news 2019年3月5日

2019年2月12日に汎米保健機構/世界保健機関(PAHO/WHO)は、メキシコのティフアナ(Tijuana)において施行された侵襲的処置の後に、薬剤耐性緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)によって引き起こされた手術部位感染に関する報告を受けました。2月11日現在で、確定例16人と疑い例4人の、計20人が米国の9つの州で確認されています。

米国疾病管理予防センター(the United States Centers for Disease Control and Prevention (US CDC))の症例定義により、確定例はVIM型メタロβラクタマーゼ 産生カルバペネム耐性緑膿菌(VIM-CRPA)で、陽性検体の採取前月にメキシコで侵襲的処置を受けた患者から分離されました。疑い症例は、耐性検査(mechanism testing)ができない、もしくはこれから検査を行うカルバペネム耐性緑膿菌で、検体採取の前月にメキシコで侵襲的処置を受けた患者から分離されました。

合計20人の症例のうち、2人は遡って報告され、検体採取が2015年と2017年であると把握されています。一方残りの18人の検体採取は2018年9月5日から2019年1月24日の間です。症例は全てメキシコのティフアナの医療施設で医療を受けた渡航者でした。全症例のうち15人が、グランド・ビュー病院(Grand View Hospital)で主に減量のための手術を受けていること、全症例のうち半数は、メキシコでの外科的処置をコーディネートする、米国に拠点を置く同じメディカルツーリズムの旅行代理店を利用していたことが報告されました。紹介された患者のほとんどは米国とカナダ出身でしたが、このメディカルツーリズムの旅行代理店は、報告によれば2018年8月1日から別の国々からもグランド・ビュー病院へ患者を紹介していました。

合計13人がメキシコでの侵襲的処置に続くVIM-CRPA感染症に関連した合併症のために米国で入院し、そのほとんどが手術部位の感染でした。血流感染と複数の合併症を伴った1人の患者は死亡しました。性別と年齢の情報が得られた17人のうち、14人(82%)が女性、年齢の範囲は29-62歳でした。

グランド・ビュー病院の現地調査では、適切な処理がされていない再使用機器が見つかり、少ないながら患者間での血液感染の潜在的なリスクを示しました。

2019年1月9日、米国疾病予防管理センターはメキシコのティフアナにあるグランド・ビュー病院での手術に関連した薬剤耐性緑膿菌感染症の症例に関する渡航の通知(Travel Notice)を公表しました。またVIM-CRPA拡大の終息が確認されるまで、同病院で米国居住者は手術(肥満もしくはその他の)を受けないことが推奨されました。2019年1月22日、米国疾病予防管理センターは、2018年8月1日以降にグランド・ビュー病院で手術を受けた人たちは、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、そしてヒト免疫不全ウイルス(HIV)を含む血液媒介病原体の検査について医療提供者と相談するよう推奨する通知を公表しました。

2019年2月13日、カナダ公衆衛生庁(the Public Health Agency of Canada (PHAC))もまた、メキシコのティフアナで外科的処置を受けた後に薬剤耐性菌に曝露した可能性があるカナダの渡航者に関する公衆衛生上の通知(Public Health Notice)を公表しました。さらに、メキシコのティフアナにあるグランド・ビュー病院で処置を受けたカナダの渡航者は、HIV、B型肝炎ウイルス、そしてC型肝炎ウイルスといった血液感染のリスクがあります。これらの健康上のリスクに曝露している可能性を考慮し、カナダ公衆衛生庁は、グランド・ビュー病院もしくは他のティフアナの医療施設で手術を受けた患者や、発熱、発赤、外科的切開部位の膿汁もしくは腫脹といった感染徴候を示している患者は速やかに診察を受けるよう推奨しています。患者はメキシコへの渡航と、カナダ国外で受けた医療もしくは手術について医療提供者に伝えるべきです。

WHOのリスク評価

メキシコでの侵襲的処置(例えば手術、内視鏡検査)に続いて起きた薬剤耐性緑膿菌感染症に罹患した米国の人々はティフアナの異なる医療施設で処置を受けていることが報告されています。そのうちの1つであるグランド・ビュー病院は現在進行中のVIM産生緑膿菌のアウトブレイクに関係しています。この医療施設で処置を受けた人たちはVIM産生緑膿菌感染症に罹患、もしくは今後進行する可能性があります。特に医療現場では、自国に戻る患者によって、薬剤耐性緑膿菌が拡大するリスクがあります。米国を拠点としたメディカルツーリズムの一旅行代理店が、2018年8月1日以来様々な国々からグランド・ビュー病院へ患者を紹介したことを報告していますが、別の国々から来た人々も影響を受けている可能性があります。

WHOは疫学的状況の監視と最新の入手可能な情報に基づき、リスク評価の見直しを継続する予定です。

WHOからのアドバイス

WHOは、今回のアウトブレイクに関連する潜在的症例を適切な時期に発見できるよう、然るべき公衆衛生機関と臨床医にアウトブレイク情報の共有を働きかけています。WHOは医療施設において多剤耐性菌の広がりを予防するために、“医療施設におけるカルバペネム耐性の腸内細菌(Enterobacteriaceae)、アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii )、そして緑膿菌の予防と制御のためのガイドライン(Guidelines for the prevention and control of carbapenem-resistant Enterobacteriaceae, Acinetobacter baumannii and Pseudomonas aeruginosa in health care facilities)”に記載されている、感染予防と制御策の実施を推奨しています。ガイドラインは以下のリンクから入手できます。

Guidelines for the prevention and control of carbapenem-resistant Enterobacteriaceae, Acinetobacter baumannii and Pseudomonas aeruginosa in health care facilities

南北アメリカ大陸を含め、薬剤耐性は世界的に増加しているため、WHOは加盟国に対し、耐性を持った微生物の早期発見の取り組みの強化、薬剤耐性の拡大を抑えるための予防と制御活動の実施について働きかけています。サーベイランスは薬剤耐性の予防と管理の重要な構成要素で、カルバペネム耐性菌感染症の発見を助け、感染予防・制御策と抗生物質の管理に重要な情報を提供するため、検査室のキャパシティとともに強化されるべきです。治療方針は、実施可能であれば薬剤感受性試験と、経験的治療が行われるときはその地域の薬剤耐性の疫学の両方に基づくべきです。薬剤耐性のパターンの動的変化に伴って推奨される治療は進化していくため、臨床医は常に情報更新をしなければなりません。
 
WHOはこの事象に対する入手可能な情報に基づき、メキシコへのいかなる一般的渡航もしくは貿易の制限を推奨しません。
 
詳細は以下をご覧ください。

PAHO/WHO. Antimicrobial Resistance.
PAHO/WHO. Infection Prevention and Control.
U.S. Centers for Disease Control and Prevention. US-CDC. Travel Notices: Drug-Resistant Infections in Mexico, Alert – Level 2, Practice Enhanced Precautions. Updated 28 January 2019
PHAC. Public Health Notice – Information for Canadians who have received or are considering medical procedures in Mexico. 13 February 2019.
US-CDC. Pseudomonas aeruginosa in Healthcare Settings. Updated 9 March 2018.
The burden of health care-associated infection worldwide.
Report on the Burden of Endemic Health Care-Associated Infection Worldwide. 2011.
 

出典

Carbapenem-resistant Pseudomonas aeruginosa infection – Mexico
Disease outbreak news  5 March 2019
https://www.who.int/csr/don/5-march-2019-carbapenem-resistant-p-aeruginosa-mex/en/

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