中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV) - サウジアラビア王国

Disease Outbreak News: Update 2019年4月24日

2019年2月14日から3月31日までの間、サウジアラビアの国際保健規則(National IHR )の担当窓口は、ワディアドダワシル(Wadi Aldwasir)でのアウトブレイクに関連した4人の死亡を含む中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)感染の22症例を新たに報告しました。 22人のうち、2人の医療従事者を含めた19人がワディアドダワシル市から報告されました。このアウトブレイクに疫学的に関連している残りの3例は、アシール地域のハミ-ス・ムシャイト(Khamees Mushait)市にある病院の医療従事者でした。

2019年1月にこのアウトブレイクが始まって以来、ワディアドダワシル市では合計61人のMERS-CoV患者が致死率13.1%(8/61)で報告されています。報告された症例の年齢の中央値は46歳でした(範囲16-85歳)。 61人のうち、65%(n = 46)が男性で、23%(n = 14)が医療従事者でした。 61人の感染源を調査したところ、37人が医療関連感染、14人がヒトコブラクダとの接触から感染していると推定された一次感染症例、残りの10人は医療現場以外の密接な接触で発生しました。以前に報告されたように1)、このアウトブレイク中に病院で2つのヒトからヒトへの感染伝播増幅が発生しました(救急医療部門で1つの増幅事象、CCU(心臓集中治療室)で1つの増幅事象;図1)。

図1.2019年にアウトブレイクしたリヤド地域のワディアドダワシル市に関連したMERS-CoV感染症の検査室確定症例の伝播連鎖(n = 61)


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以下のリンクは、報告された22の症例の詳細を提供しています。
MERS-CoV cases reported from 14 February through 31 March 2019
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2012年から2019年3月31日まで、世界中から国際保健規則の下で、検査室で確定された中東呼吸器症候群(MERS)症例の総数2,399人と827人の関連死亡者数が、世界保健機関(WHO)に報告されました。WHOに報告された関連死は、感染報告のあった加盟国のフォローアップを通じて確認されました。
 

公衆衛生上の取り組み

以前に報告されたように、サウジアラビア保健省(MoH)はワディアルダワシルでのMERSのアウトブレイクの本格的な影響を受けたすべての病院で確定患者のすべての家庭内接触者や医療従事者の接触者の特定を含む調査を実施し完了しました。

2019年3月31日現在、260の家庭内接触者と120の医療従事者の接触者を含む合計380の接触者が確認されています。 WHOおよびMERSの国内ガイドラインに従って、確認されたすべての接触者が最後の暴露日から14日間監視されました。二次的な症例はすべてWHOに報告されています。

現在、リストに記載されている接触者はすべて、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によって少なくとも1回MERS-CoV感染について検査されており、既知の患者の多くの接触者が繰り返し検査されています。 MERS-CoV感染のすべての二次症例はWHOに報告されています。ワディアルダワシルによる最後の症例は2019年3月12日に報告されました。

院内感染が起きた医療施設内では、救急治療室および集中治療室のすべての医療従事者を対象とした感染管理対策に関する集中的かつ強制的な実地訓練を含む、感染予防および管理対策が強化されています。消毒は病院Aの緊急治療室およびICUで実施されており、これは完全に機動していて、感染管理活動を支援するために応援スタッフが動員されました。リヤド地域のすべての医療施設で呼吸トリアージが実施されています。

保健省のメディア部門は、ラクダの所有者とラクダ関連の活動に特に焦点を当てて、ワディアルダワシル市を対象とした啓発キャンペーンを開始しました。

農業省はワディアルダワシル市でヒトコブラクダを検査しており、最初の結果で市内のPCR陽性のヒトコブラクダが何頭か同定されています。陽性のラクダは市場から排除され、ラクダ市場への出入りは制限されています。確定したヒトの患者が所有するラクダは、検査結果にかかわらず隔離されました。利用可能なヒトおよびヒトコブラクダ標本の全ゲノム配列決定が実施されています。農業省によるラクダの検査の結果は、世界動物衛生機関(OIE)に報告されています。

WHOのリスク評価

MERS-CoVによる感染は高い罹患率と死亡率をもたらす重篤な疾患を引き起こす可能性があります。ヒトは直接的または間接的な感染したヒトコブラクダとの無防備な接触を通して、MERS-CoVに感染します。MERS-CoVはヒトとの間で感染伝播する能力が実証されています。これまでに観察された非持続性のヒトからヒトへの感染は主に医療施設で発生しています。

これらの新たな症例の報告はWHOによるMERS-CoVの全体的なリスク評価を変えるものではありません。WHOはMERS-CoV感染の新たな症例は中東から報告されると予測しています。また感染したヒトコブラクダ、動物性食品(例えば未加工のラクダのミルクの消費)もしくは患者(例えば医療施設における)への曝露によって感染したかもしれない個人によって、他国への感染例の流出が続くと予測しています。
WHOは疫学的状況の監視を続け、最新の入手可能な情報に基づいてリスク評価を実施します。終了した疫学調査の結果、ならびに入手可能なヒトコブラクダおよびヒト標本の全ゲノム配列決定は、ワディ・アルドワシルのアウトブレイクで発生した人畜共通感染症およびヒトからヒトへの感染をさらに評価するために保健省職員によって利用されています。

WHOからのアドバイス

現在の状況と入手可能な情報に基づいて、WHOはすべての加盟国に対し、急性呼吸器感染症に対するサーベイランスを継続し、あらゆる異常なパターンを注意深く見直すことを奨励しています。

感染予防と管理(IPC)対策は、医療施設でのMERS-CoVの拡大を防ぐために重要です。他の呼吸器感染症と同様に、MERSの初期症状は非特異的であるため、MERS-CoV感染症の患者を早期に特定することは必ずしも可能ではありません。したがって、医療従事者は、診断に関係なく、常にすべての患者に対して一貫した標準予防策を適用する必要があります。急性呼吸器感染症の症状のある患者に治療を行う場合は、飛沫感染予防策を標準予防策に追加する必要があります。 MERSの可能性のあるまたは確認された症例を治療するときには、接触感染予防策および眼の保護具を追加する必要があります。エアロゾルを発生させうる手技を行う際は、空気感染予防策を講じる必要があります。

早期の特定、症例の管理および隔離は、適切な感染予防および管理対策とともに、MERS-CoVのヒトからヒトへの感染は予防が可能です。

MERS-CoV感染が確認された全ての感染者のうち約20%が中等度もしくは無症候性として報告されているため、WHOは、症状の有無にかかわらず、実施が可能であるならば、MERS-CoVに感染した患者の全ての接触者に対して、包括的な同定、フォローアップ、そして検査を実施することを推奨します。伝播における無症候性のMERS-CoV感染の役割ははっきりと理解されていません。しかしながら、無症候性のMERS-CoV感染者から他者へ伝播したという報告がなされています。

MERSは糖尿病、腎不全、慢性肺疾患や免疫不全のような慢性病状のある人々に、より重篤な疾患を引き起こします。したがってこれらの人々はウイルスが潜在的に伝播しているということが知られている農場、市場、または家畜小屋などを訪れる際に、ヒトコブラクダとの濃厚接触を避けるべきです。一般的な衛生対策、例えば、動物に触れる前後には必ず手を洗うこと、病気の動物との接触を避けることなどは徹底すべきです。食品衛生の手技は監視が必要です。ラクダの生ミルクや尿を飲むことは避けるべきであり、適切に加熱調理されていないラクダ肉を食べることも控えるべきです。

WHOはこの事象に関して、国境地点での特別なスクリーニングを勧告しておらず、現時点ではいかなる渡航や貿易の制限も推奨していません。

1)中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV) - サウジアラビア王国 - 2019年2月26日

出典

Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV) ―The Kingdom of Saudi Arabia
Disease Outbreak News: Update  24 April 2019
https://www.who.int/csr/don/24-April-2019-mers-saudi-arabia/en/