麻しん-西太平洋地域

Disease outbreak news    2019年5月7日

世界的に、2016年から2017年の間に、報告された麻しん症例数は31%増加した一方で、WHOの西太平洋地域(WPR)においては、同じ期間に82%減少しました。しかしながら、西太平洋地域における報告症例数は2017年の11,118例から2018年には26,163例に増加しました。麻しんの再興はWHOのすべての地域で見られています。西太平洋の国と地域から2019年に通常とは異なる多くの症例数が報告されており、それらは、1)麻しんがすでに排除されたいくつかの国や地域から輸入関連のアウトブレイクとして、もしくは2)麻しんのアウトブレイクが進行しているフィリピンのような麻しん常在国から、報告されたものでした。西太平洋地域では、現在9ヶ国/地域(オーストラリア、ブルネイ、カンボジア、香港、日本、マカオ、ニュージーランド、韓国、及びシンガポール)が西太平洋地域の麻しん排除に関する認定委員会から、36ヶ月以上にわたり土着性のウイルスによる麻しん感染が阻止されているとの認定を受けています。

現在、太平洋の島嶼部の国と地域では、麻しん症例は報告されていません。西太平洋地域の多くの国と地域では、免疫状況の改善と国レベルの高い予防接種率の達成に向けて前進してきました。しかしながら、世界的な麻しんの再興と人の移動に伴って、西太平洋地域のいくつかの国と地域では、麻しん含有ワクチンのカバー率が、地方レベルの脆弱な人口集団において低いために、麻しんの流行に対して脆弱な状況のままにあります。

以下は、西太平洋地域における麻しんの現状に関する、広く利用可能な又は西太平洋地域加盟国により共有されている情報の要約情報です。

地域の状況

オーストラリア

2019年1月1日から4月12日までの間に、全国で97の麻しん症例が報告されました。報告症例数は過去4年間の同期間よりも増加しています。2019年の症例の大半はインドネシア、イスラエル、ミャンマー、フィリピン、スリランカ、タイ及びベトナムを含む麻しんのアウトブレイクもしくは症例が報告されている国からの輸入例でした。

中国

2018年には、3,940例の麻しん確定症例が国内で報告され、優勢な遺伝子型はH1でした。中国は2018年の報告例数において、フィリピンに次いで2番目に高い報告がなされましたが、人口規模に関連した、罹患率は人口100万対2.9と低くなっています。2019年の1月、2月及び3月にそれぞれ178例、156例及び267例の麻しん症例が国内で報告されました。

香港

香港は、2016年に麻しん排除を達成し、年間の報告麻しん症例数は過去2~3年間は低いレベルにとどまっています。2019年4月11日時点での国内麻しん症例数の累計は66です。2019年3月4日から、29症例の空港のクラスターが起きており、香港国際空港(HKIA)の従業員27人と地元航空会社の2人の乗務員からなります。30症例は明らかな疫学的関連は同定されていませんが、その多くには次の渡航歴があります:フィリピン(8例)、中国(9例、うち6例は深圳から)、日本(6例)、台湾(3例)、ヨーロッパ(1例)、カンボジア(1例)、タイ(1例)及びベトナム(1例)。来年(2020年)から、現行の6歳時の2回目接種に代わり、18ヶ月に達した小児は、ワクチンの2回目接種を受けることになります。

マカオ

2019年4月8日時点で、マカオでは32例の麻しん症例が報告されています。このうち、14例は輸入症例であり、残り(18例)は国内で感染を受けたもののいずれも輸入例との疫学的関連を有するものです。この18症例は2つの病院で10人のスタッフが感染した症例を含みます。

日 本

2015年3月、WHO西太平洋事務局は、日本は麻しん排除を達成したと認定しました。しかしながら、2019年1月1日から4月3日までの間に日本では378の麻しん症例が報告されており、この10年間の同じ時期と比べて最も多い症例数を記録しています。56例(14.8%)は次の渡航歴が報告された人々の症例です:フィリピン(23例)、ベトナム(13例)、ミャンマー(5例)、香港 (3例)、モルディブ(2例)、スリランカ(1例)、ニュージーランド(1例)、マレーシア(1例)、韓国(1例)、ウクライナ(1例)、カンボジア(1例)、タイ(1例)、モルディブとスリランカの両国に旅行した2例、タイとラオスの両国に旅行した1例。2018年には全国で282症例が報告されました。2019年には、症例の65%は15歳から39歳の者であり、256例(68%)はワクチン接種歴不明の者でした。

マレーシア

保健省は、マレーシアの麻しん症例数は2013年の195例から2018年の1,934例へと指数関数的に増加しており、5年間の間にほぼ900%増加し、6例のいずれも予防接種を受けていない麻しん関連死亡を伴うことを報告しました。
予防接種を受けていない集団の麻しん症例数は、2013年の125例(69%)から2018年の1,467例(76%)へと増加しました。2016年から2018年までの間、WHOのデータはマレーシアの確定麻しん症例に係る罹患率が人口100万人当たり50から60の間となることを示しました。

ニュージーランド

2019年1月1日から4月10日までの間、3つの集団において72の麻しん症例が報告されました。カンタベリー地方は、39例の最も多くの感染症例を有し、次いでオークランド地方の16症例、ワイカト(Waikato)地方の12症例、ベイ・オブ・プレンティ(Bay of Plenty)地方の3症例及びサウスランド(Southland)地方の2症例となっています。カンタベリー地方の症例で分離されたウイルスの遺伝子型はB3 であり、フィリピンからの最近の株と類似していました。ワイカト地方の型分類されたクラスターは、旅行関連症例と2018年11月に報告された症例と関連していました。ベイ・オブ・プレンティ地方の2症例は、フィリピンから帰国した旅行者に関連し、他の1症例は日本とシンガポールに滞在したものでした。症例の多くは10歳から29歳の青少年期に発生したものでした。2018年には、全国で合計30の症例が報告されました。ニュージーランドでは、2016年の全国の予防接種率は、麻しん含有ワクチンについて1回接種92%、2回接種89%であり、麻しん排除を2017年に達成しました。

フィリピン

フィリピンは、2017年の終わりから麻しん症例の増加を経験しました。2019年2月には、保健省は5つの地域における麻しんのアウトブレイクを公式に宣言しました:マニラ首都圏(National Capital Region (NCR)、メトロマニラ)、ⅣA、Ⅲ、Ⅵ及びⅦの各地域。一方で、麻しん症例はすべての地域から報告されました。全国で、2019年1月1日から3月30日までの間に381の死亡報告例(致死率CFR =1.5%)を含む25,956の麻しん症例が報告されており、これは2018年の同じ期間に比べて378%の増加でした。2019年1月1日から3月30日までにマニラ首都圏では104例の死亡症例(CFR= 2%)を含む5,586症例という最も多くの症例数を記録し、続いてⅣA地域の104死亡症例(CFR= 2%)を含む5,281症例でした。麻しん症例の多くは、ワクチン接種を受けていない人々(59%)と5歳未満(53%)でした。フィリピンは、過去数年にわたり低い予防接種率が続いており、2008年には80%を超えていましたが2017年には70%を下回っています。
WHOの推計によれば、260万人のフィリピン人の5歳未満の子どもは麻しんへの防御をされておらず、このうち80%は17地域のうちの7地域から来ています。慢性的な低い予防接種率とワクチン接種への抵抗は今回のアウトブレイクの根本的な原因であると広く理解されています。

韓 国

2018年12月17日から2019年4月22日までの間、150の麻しん症例が報告されており、これには輸入症例に関連した8つの集団が含まれます。最近の海外旅行に伴う確定事例における訪問国は次の国々です:ベトナム(16例)、フィリピン(10例)、タイ(2例)、ウクライナ (2例)、ヨーロッパ(1例)、台湾(1例)、マダガスカル(1例)、カンボジア(1例)、ウズベキスタン(1例)及びキルギスタン(1例)。

公衆衛生上の取り組み

WHOは、加盟国やパートナーとともに次のことを行っています。
・麻しん症例を早期に検知し、ケースマネジメントを通じて、避けうる死亡を防ぎます。
・進行中の麻しんのアウトブレイクについて、調査を行い、対応を導き、資金を動員します。
・リスクコミュニケーションの計画を立案し、地域社会を動員します。
・アウトブレイクへの備えを強固にします。
・全体の免疫を強化し、通常の予防接種率を改善します。
・集団免疫を強化するための予防的な追加接種キャンペーンの立案と実施を行います。
・検査を伴う麻しんサーベイランスを強化します。
・麻しん排除のための国の行動計画を進めます。
・麻しん及び風しんの排除認定委員会を通じて、麻しん排除に向けた進展状況の監視と達成の認定を行います。
・麻しん及び風しんのアウトブレイクに対する準備と対応のための地域ガイダンスを作成します。 

WHOによるリスク評価

麻しんは、感染性の高いウイルス疾患であり、安全で効果的なワクチンが入手可能な疾患であるにもかかわらず世界的に若い子どもたちの主要な罹患と死亡の原因であり続けています。世界的に、すべての地域で麻しん症例の報告数は増加傾向にあり、かつて麻しん排除状態を達成した国々におけるアウトブレイクを伴っています。さらには、いくつかの国々では国レベルでは高い予防接種率となっているにもかかわらず常在性の麻しんの再興が起きています。このことは、地方や地域のレベルで予防接種率にばらつきがあるとき、もしくは部分集団ごとの集団免疫にギャップがあるとき、麻しんウイルスが広がるというリスクを反映したものです。
ワクチン接種を受けるには小さすぎる乳児が麻しんの最も高いリスク状態にあります。しかしながら、乳児や、他の医学的に麻しんワクチン接種に禁忌となる人々は、予防接種率が高い(>95%)とき、集団免疫を通じて守ることができます。乳児や、保健医療サービスへのアクセスに乏しい集団、ビタミンA欠乏症を含む栄養不良などのような合併疾患のある者は、感染に対して脆弱であり、感染後に重篤となる高いリスクがあります。
 変化する予防接種率と検知及び対応の能力のもとで、持続する感染のリスクは残っており、世界的にさらに感染が拡大する可能性も継続中です。特に麻しんの影響を受けている国々との間における移動など、旅行者や海外労働者の定期的な移動の影響を受けている国々は麻しん侵入のリスク状態にあります。地方や地域レベルにおける予防接種率が低い(<95%)国々もまたアウトブレイクに対して脆弱です。
最近のアウトブレイクは、次のことによって強まります:1)定期の接種計画のギャップによる低い予防接種率、2)部分的集団における低い予防接種率、3)国内外における人々の移動、4)ワクチン接種に対する抵抗。

WHOからのアドバイス

麻しんは、暴露から初期症状の発症までの平均時間がおよそ10から12日間、暴露から発疹の発症まで平均14日(7日から21日間)という長い潜伏期間を有していますが、このことは、感染した旅行者が、症状の現れる前に国を超えた旅行は終わってしまうことを意味しています。麻しん患者は、発疹の発症前のおよそ3日前から発疹消退の4日後までの間、感染性を有する可能性があります。

 すべての地域における進行中の麻しんのアウトブレイクにおいては、WHO西太平洋事務局は、加盟国に対し、すでに公表されている次のWHOのガイダンスを参照し適用することを求めています。これは麻しんのアウトブレイクに対する準備と対応を強化するために特化した勧告を提供するものであり、急性の発疹と発熱のある症例において効果的にサーベイランスと調査を行うための詳細な手順を含み、麻しんの輸入症例に関する迅速な検知と封じ込めを可能にするものです。

「WPRO 麻しん排除フィールドガイド」(2013)1 [pp. 25-33, 38-52]; 及び「西太平洋地域における麻しん及び風しん排除のための地域の戦略と行動計画」(2018)2 [pp. 72-76].

特に、WPRのすべての国々は、―国内の状況もしくは、麻しん排除を達成したか否か、現在進行中のアウトブレイクに直面しているか否かに関わらず―緊急に次の行動をとるべきです。

1 麻しん症例を迅速に検知し、確定し、迅速な公衆衛生上の対応につなげることを確実なものにするため、急性 の発疹と発熱についてのサーベイランスを強化すること。
 ・すべての急性発疹と発熱症例について、臨床的疑い例かどうかにかかわらず、過去21日以内に患者が海外旅行をしたかどうか、海外旅行者との接触があったかどうかについて特に注意深くし、ワクチン予防可能疾患(VPD)サーベイランスシステムに通知するよう、臨床医に対するメッセージを強化すること。
 ・報告、検体採取、症例確定と遺伝子型決定のための迅速検査及び症例確定のための疫学的リンケージに関するプロトコールと手順を更新し、関係者の間で促進されるよう確実なものとすること。
 ・サーベイランスデータの分析とフィードバックが医療施設及び地方の公衆衛生行政に対して定期的かつ適時に行われること(国内と地域レベルにおける疑い症例数の更新)。
2 不測の事態に備えた資源としての人的資源、ワクチンの在庫及び運営資金についての目録を整備し、麻しん症例が検知された際の迅速な調査と予防接種を支援できるよう利用可能にしておくこと。
3 調整とリーダーシップに係る構造、迅速対応チームの発動機構、地域、地方及び国レベルの間での情報伝達系統を明確にしておくこと。
4 予防接種スケジュール(適用可能な場合に、「ゼロドース」を月齢6ヶ月以降の乳児に提供する基準を含む)、麻しん発生国に渡航する旅行者の予防接種に関するガイドライン、症例対応プロトコール、医療施設において麻しんが広がることを防ぐための感染予防制御手順について、最新のものとし、臨床医に伝達すること。
5 麻しんのリスクと、どのように予防可能かについて広く国民に最新の状況を伝達すること。(WHOの「The Tailoring Immunization Programmes(TIP)」 3(WHOヨーロッパ地域事務局が、ワクチンで予防可能な疾患について、乳児及び小児の予防接種率を上げることを目的として策定した対策強化のためのガイドライン) )は、現地の事情と変化する状況に対応して実施する場合の小児ワクチンの接種の増加についてのいくつかの有用な戦略を与えています。

WHOは、麻しんに関して強制的なワクチン接種、旅行の制限や国境検査を行うような勧告は行っていません。自国民の集団において麻しんから個人と社会を守るため、免疫の獲得を如何に確実なものとするかについての最もよい方法を決定するのは各国の責任です。麻しんについての空港や港における標示は、麻しんが疑われた場合の医療を探す方法を含め、地域社会における麻しんに対する理解認識を挙げるために有用なものです。他の旅行者から、又は麻しんが現在拡大している世界の多くの国々において、麻しんウイルスに曝露する高いリスクがあることから、海外旅行を計画する人々は、麻しんに対するワクチン接種を受けた状態を確実なものにすべきです。

現在の世界的な麻しんの再興は、アウトブレイクのリスクを減弱させ、持続する常在性の麻しん感染を防ぐ十分な集団免疫を達成するために、各国が「麻しん排除フィールドガイド」及び「地域の戦略と行動計画」に詳細が記された戦略、行動及び手順を適用する方向に対応の焦点を改めるための緊急のシグナルです。

(註1)Measles Elimination Field Guide(WPR,2013)
(註2)Regonal Strategy And Plan of Action for Measles and Rubella Elimination in the Western Pacific(WPR,2018)
(註3)The Giide to Tailoring Immunization Programmes(Euro,2013)

出典

Measles ― Western Pacific Region
Disease outbreak news - update  7 May 2019
https://www.who.int/csr/don/07-may-2019-measles-western-pacific-region/en/