サル痘-シンガポール

Disease outbreak news   2019年5月16日

2019年5月9日、シンガポール保健省はWHOに対し、サル痘の検査による確定症例1例の発生を通知しました。患者は38歳のナイジェリア人の男性で、2019年4月28日にシンガポールに到着し、4月29日から30日までワークショップに参加していました。彼は、シンガポールへの旅行の前には、ナイジェリアのデルタ州(Delta State)で仕事をしており、2019年4月21日にナイジェリア、エボニー州(Ebonyi State)の村で行われた結婚式に参加していました。

患者は発熱、筋肉痛、悪寒及び皮膚の発疹が4月30日に現れました。彼は、5月1日から7日までのほとんどの時間、ホテルの自室にとどまっていたと報告しています。彼は、5月7日に救急車で公立病院に運ばれ、その日に国立感染症センター(National Centre for Infectious Diseases:NCID)に移されて隔離されました。皮膚病変のサンプルが5月8日に採取され、同日、国立公衆衛生検査所(National Public Health Laboratory)で行われた検査の結果は、サル痘ウイルス陽性でした。患者は現在、容態は安定しています。

公衆衛生上の取り組み

これまでの調査に基づいて、シンガポール当局は合計で23人の濃厚接触者について追跡し連絡をとっています。この中には、同じワークショップに参加した18人の参加者と講師、ワークショップ会場のスタッフ1名、患者との接触があったホテルスタッフ4名が含まれています。患者に対応した医療従事者は個人防護具を使用していました。保健省の調査と接触者追跡作業は現在継続中です。

 ワークショップ参加者の18人のうち1人は患者が診断される前にすでにシンガポールを離れていました。この接触者はナイジェリアの国民で、5月5日に空路にてナイジェリアに向かいました。国際保健規則IHRに基づくナイジェリアの連絡窓口に対して、必要に応じてフォローアップのための接触を行うために必要な詳細情報が提供されています。
ナイジェリア国内で患者が曝露された潜在的感染源や疫学的関連について、現在調査が行われています。

患者の濃厚接触者はさらなる評価のために国立感染症センターに紹介され、天然痘ワクチンによる曝露後予防が行われました。これは、疾患を予防し、あるいは症状の程度を軽くすることを可能にするもので、2019年5月15日時点で、14人がワクチン接種を受けています。予防的措置として、濃厚接触者は、自宅あるいは指定された政府の検疫施設に留まり、確定例の患者に曝露した日から21日間の健康監視が行われています。もしいずれかの人が発症すれば、国立感染症センターにおいて治療を受けることになります。これ以外のすべての接触者は、感染したリスクは低いですが、積極的サーベイランスの対象として、1日2回の健康状態の確認が行われることになります。

シンガポール保健省は2019年5月9日に報道発表を行い、現在の状況、国民へのアドバイス及び疾患が今後拡大する可能性に関わるリスクを最小にするための措置について、情報提供を行いました。

WHOによるリスク評価

サル痘は、森林型sylvaticの人獣共通感染症です。偶発的なヒトへの感染を伴い、中央及び西アフリカで散発的に発生しています。オルソポックスウイルス属に属するサル痘ウイルス(MPXV)により引き起こされます。自然治癒する疾患で、症状は通常14-21日の間に自然消退します。現在、サル痘に特異的なワクチンはありません。動物の自然宿主は、げっ歯類が含まれるようではありますが、分かっていません。狩猟や野生動物の肉を食すことを通じて、り患した生きた動物や死体に直接接触することが、ヒト感染の原因になると考えられています。

今回の事例は、シンガポールにおいて初めて診断されたサル痘感染です。患者は、2017年9月から国内の複数の州でサル痘のアウトブレイクが継続しているナイジェリアから到着した旅行者でした。

シンガポール当局は、最初の患者の隔離、接触調査、サーベイランス及びリスクコミュニケーションを含む必要な公衆衛生対策に迅速に着手していることから、シンガポール国内におけるさらなる拡大のリスクは小さいと考えられます。

WHOからのアドバイス

流行地域や流行国に向かう旅行者や居住者は、サル痘ウイルスを保有している可能性のある動物(げっ歯類、有袋類及び霊長類)には、病気にかかっている、死んでいるあるいは生きているいずれであれ接触を避けるべきです。石けんと水、あるいはアルコールベースの消毒液を使った手指衛生が重要視されるべきです。旅行中又は帰国時、どのような病気も、最近のすべての渡航歴と予防接種歴とともに、医療専門職に報告されるべきです。サル痘ウイルス感染には、特異的な治療法やワクチンはありません。

タイムリーな接触者追跡、サーベイランスの措置及び輸入感染症に関する医療従事者の認識を向上させることは、サル痘について、二次的感染を防ぎ、効果的に症例およびアウトブレイクを管理するために必要不可欠なことです。

疑い例か確定例かに関わらず、サル痘ウイルスに感染した患者の治療に当たる医療従事者は、標準的な、接触感染及び飛沫感染に関する予防策をとる必要があります。サル痘ウイルスの感染が疑われるヒトや動物から採取されたサンプルは、適切な機器を有する検査室において、訓練されたスタッフにより取り扱われる必要があります。

WHOは、現時点で入手可能な情報に基づいて、シンガポール又はナイジェリアとの渡航又は貿易に関して、いかなる制限も勧告することはありません。

出典

Monkeypox ― Singapore
Disease outbreak news  16 May 2019
https://www.who.int/csr/don/16-may-2019-monkeypox-singapore/en/