コンゴ民主共和国におけるエボラウイルス病に関する国際保健規則(2005)緊急委員会の会合に関する声明

WHO Statement  2019年6月14日

コンゴ民主共和国におけるエボラウイルス病(EVD)に関して、国際保健規則(IHR)(2005)に基づきWHO事務局長が招集した緊急委員会の会議が、2019年6月14日12:00~17:00ジュネーブ時間(CET)に行われました。
(註:本文はあくまで参考情報です。詳細な内容については原文をお確かめください。)

現況と討議

緊急委員会は、現在進行しているアウトブレイクについて、深い懸念を表明しました。状況は、いくつかの前向きな疫学的傾向が特にビュトンボとカトワという流行の中心地においてみられているにもかかわらず、マバラコのような他の地区で拡大や再燃がみられており、再び地域の受容と治安をめぐる問題が起きていることを示しています。加えて、十分な資金と人的資源がないことによって、対応の継続が妨げられています。

ウガンダでの症例発生は、予測されないものではありませんでした。迅速な対応と初期の封じ込めは、近隣諸国における事前準備が重要であることを証明するものです。緊急委員会は、コンゴ民主共和国とウガンダが、情報を共有し相互に協力して対応を行っていることを賞賛しています。

同時に、ウガンダ国内への症例の輸出は、今回のコンゴ民主共和国におけるアウトブレイクが続く限り、地域外に拡散するリスクは低いままであるが、近隣諸国に拡大するリスクがあることを認識させるものです。

緊急委員会はまた、極めて困難で緊張する状況下で対応を続けているすべての関係者の英雄的な努力を称賛したいとしています。

緊急委員会は、PHEIC(Public Health Emergency of International Concern: 公衆衛生上の緊急事態)を宣言することが、対応作業にどのような影響を及ぼし、ありうる予期せぬ結果をもたらすのか、それらにどのように対処できるか、ということに関して広範囲に議論しました。緊急委員会は、ウガンダの今回の事案は疾患の国際的な拡散の要件に当たるものと認めながら、異なる複数の見解を表明しました。

結論と助言

緊急委員会の見解は、今回のアウトブレイクはコンゴ民主共和国及び地域における健康危機ではあるが、IHRが定めるPHEICの3つの基準すべてを満たすものではないというものです。今回のアウトブレイクは異常な出来事で国際的な拡散のリスクを伴うものですが、現在進められている対応が、IHR(2005)に基づく公式の暫定的勧告(Temporary Recommendations)が発出されれば強化されるというものではありません。

緊急委員会は、次の公衆衛生上の助言を行います。各国や対応に当たるパートナーが留意して取り組むよう強く求めます。
・リスク状態にある各国は、ウガンダが行ったように、外国からの輸出例を早期に検知し対処するための事前準備を進めること。
・コンゴ民主共和国の国境地点でのスクリーニングを継続し、その質を維持し改善させること。
・人口の移動と、疾患の拡散リスクを予測する社会学的パターンを地図に表すこと。
・優先権のあるすべての国々は、研究的医薬品及びワクチンの承認手続きを事前準備活動における優先課題として進める必要があること。
・アウトブレイクを抑えるための効果を最大にする最適化したワクチン戦略は、予防接種に関するWHOの戦略的専門家助言グループ(SAGE)が推奨するように、迅速に導入されるべきであること。
・緊急委員会は、WHOと影響を受けた各国がこのアウトブレイクの対応に必要な資金と資源を受けていないことについて、深く落胆しました。国際社会は、コンゴ民主共和国と近隣諸国の事前対応準備と実際の対応への支援と資金提供を強化しなければなりません。
・社会の認識、関与及び参加を強化することを継続しなければならないこと。地域社会の関与活動は大変大きな進展をしてきました。しかしながら、国境近くの地域では、移動を特にしやすいので、地域社会の関与は、最もリスクの高い集団を決めて、よりターゲットを絞った形で行われることが必要です。

・治安上の脅威を減少させ、治安のリスクを緩和し、公衆衛生活動を実施できるための環境を作り出すための、国連とそのパートナーによる、より組織化された手段の導入は、疾患管理のための取り組みを加速するために不可欠な基盤であるとして、緊急委員会は歓迎し、支持しています。

・緊急委員会は、国際間の渡航又は貿易についていかなる制限を適用することにも反対であるというこれまでの助言について、強く強調します。
・緊急委員会は、空港又は他の港における入国時のスクリーニングは必要ではないと考えています。

緊急委員会は、WHO事務局長に対して、状況を注意深く監視することを継続し、必要な場合には緊急委員会を再度開催するように助言します。

会議の議事

緊急委員会の委員とアドバイザーはテレビ会議にて参集しました。

議長であるロバート・シュテフェン博士が会議に参加できないため、代わってプレーベン・エビッツランド博士が議事を進めました。

事務局長は、コンゴ民主共和国から電話で緊急委員会を迎えました。

WHOの法務、コンプライアンス、リスク管理及び倫理の各部門の代表者らは、緊急委員会の委員に対して、IHRの求める必要条件とPHEICの基準とともに、委員の役割と責任について説明を行いました。PHEICとは、国を超えた国際的な拡散を通じて他国に公衆衛生上のリスクを与え組織的な国際的対応を必要とする異常事態です。緊急委員会の役割は、PHEICに関する判断の最終決定者である事務局長に対して助言を提供することです。緊急委員会は、必要に応じて助言又は暫定的勧告を行います。

緊急委員会のメンバーは、秘密保持に係る義務と、利益相反となり得る個人的、経済的又は専門的な関わりについて公開する責任を有することについて説明がなされ、各メンバーは調査により利益相反のないことが確認されました。

議長は、会議のアジェンダを確認し、説明者を紹介しました。コンゴ民主共和国から保健省の代表、ウガンダから国立感染症疾患管理委員会(NCDCC: National Communicable Disease Control Commission)の代表がそれぞれプレゼンテーションを行いました。

コンゴ民主共和国の状況について、現在の疫学的状況及び対応戦略について、地域社会の関与の改善のために変更されたことも含め、議論されました。対応中の職員の負傷や死亡にまで至る継続的で深刻な安全に関わる事件が、対応を進める上での深刻な障害になっています。2018年8月以降、アウトブレイクには4つの波がありましたが、直近月には症例数の減少がみられています。連絡の取れていない接触者の積極的な追跡が進められています。アウトブレイクを進行させる要因としては、人口の移動、伝統的祈祷者による健康を求める行動、医療施設における不十分な感染予防と管理、治安の問題及び政治的指導者の関与の欠如などが挙げられます。

ウガンダのNCDCCの代表者は、直近の事例と、接触者及び接触者調査について報告しました。彼らは、彼らの行った対応活動について緊急委員会に最新の状況を説明しました。これには、WHOへの報告、政治の関与、2018年8月以降に実施された事前対応活動についての内容が含まれています。国のタスクフォースが活動を開始し、迅速対応チームが展開されました。医学管理はブウェラのエボラ治療ユニットにて提供可能です。スクリーニングが正規の入国地点において行われています。リングワクチン接種(包囲接種)が6月15日に開始される予定です。

WHOのアフリカ地域事務局の代表者は、地域における事前準備活動について、特に、ブルンジ、ルワンダ、南スーダン及びウガンダの状況を発表しました。国境における協力活動の不十分さや持続的な事前準備活動に対する資金面の欠如と同様、現在ある課題について、特に地区又は州単位の問題について説明がなされました。

国際移住機関(IOM)の代表者は、入国地点における、国境の事前準備活動として、予防、発見及び管理の手法について緊急委員会に状況を報告しました。

国連のエボラ緊急対応調整官は、治安面の状況と、アウトブレイク対応を支援する動的で軽快な環境を作るための取り組みについて報告しました。対応においては頻繁に混乱が見られ、それらは発生数の増加を示唆しています。公衆衛生対応の強化と国際的支援の調整のため、国連の広域支援が必要とされています。地域へのアクセスと地域社会の受容は増加し、いくつかのエリアでは症例数が減少しています。いくつかの地域における攻撃の増加は引き続き報告されています。

WHO事務局は、現在の状況を報告し、現在のエボラアウトブレイクへの対応と近隣諸国における事前準備活動の詳細について説明しました。コンゴ民主共和国に関するリスク評価は、国レベル及び地域レベルにおいて引き続き非常に高いですが、世界的には低い状況にあります。ウガンダに関するリスク評価は、国レベルでは中程度(moderate)ですが、地域及び世界レベルでは低い状況にあります。しかしながら、ウガンダの事案における高リスクについては、迅速なコミュニケーションと、国をまたいだ当局間の調整によって、緩和されています。入国地点における発見と引き続く対応活動、ウガンダにおける事前の対応準備活動が行われています。コンゴ民主共和国とウガンダの高いレベルでの協力と情報の透明性は、賞賛されるものでした。この5週間で症例発生数は全体では減少してきていますが、伝播は相当な程度で続いており、特にいくつかのホットスポットで続いています。感染予防管理(IPC)、安全な葬儀及び人口移動についても接触者追跡の詳細とともに検討されました。作戦の拡大が検討され、対応と事前準備活動のための資金について、深刻な必要性が強調されました。利用可能な資源は、必要な資源の3分の1よりも少ない状況です。2019年7月までの対応に必要な資金は9800万米ドルであるのに対して、現在、5400万米ドルの資金が不足しています。

上記の助言、影響を受けた各国により作成された報告書ならびに現在得られる情報に基づき、事務局長は、コンゴ民主共和国におけるエボラアウトブレイクはPHEICには当たらないとの緊急委員会の評価を受け入れました。緊急委員会の助言に照らし、WHOは、いかなる渡航又は貿易の制限を行わないよう勧告します。事務局長は緊急委員会のメンバーとアドバイザーに対して謝意を表明しました。

出典