HIV症例-パキスタン

Disease outbreak news  2019年7月3日

2019年4月25日にラルカナ(Larkana)地区の地方行政機関は、パキスタンのシンド(Sindh)州、ラルカナ地区のラトデロ・タルカ(Ratodero Taluka)の小児の間で、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)症例が急増していることを、メディア報道によって注意喚起しました。スクリーニング検査を行うキャンプが、まずタルカの主要な病院に設置されました。その後、スクリーニング検査は選出された地方保健センター(Rural Health Centers ;RHCs)と基礎保健所(Basic Health Units ;BHUs)を含む他の医療施設へと拡大されました。当初使用されていたHIV迅速検査キットは、事前に承認を受けたWHOの検査キットと交換されました。

2019年4月25日から6月28日までに、合計30,192人がHIVのスクリーニングを受け、そのうち876人が陽性でした。陽性症例のうち82%(719/876人)は15歳未満でした。スクリーニングの中で複数のリスクファクターが確認されました。リスクファクターには、医療現場での安全でない静脈注射、安全でない分娩、血液バンクでの安全でない手技、感染制御プログラム実施の不徹底、病院の廃棄物の不適切な収集・保管・分別・廃棄が含まれています。

今回は2003年以降、ラルカナ地区において報告されている4回目のHIVのアウトブレイクです。2003年の最初のアウトブレイクは注射薬物使用者(PWID)の間で、2回目は2016年の小児病院における12人の小児の患者間で、また3回目は同じ2016年に透析部において206人の患者間で起こりました。

今回のアウトブレイク以前には、ラルカナ地区には抗レトロウイルス療法(ART)を行うクリニックは1つだけしかなく、成人だけを対象としていしました(2019年5月までに2,568人の登録症例)。

公衆衛生上の取り組み

今回のアウトブレイクへの対応は州の保健省(DOH)とシンド州エイズ管理プログラム(SACP)が指揮しています。対応は国際連合のパートナー、パキスタン現地疫学調査・検査訓練プログラム(FELTP)、アーガ・ハーン大学、その他のパートナーによって支援されています。小児に対して新しくHIV/AIDS学科治療センターがシャイク・ザイド小児病院(Shaikh Zaid Children Hospital)に設立されました。無認可の検査室、血液バンク、クリニックは閉鎖されています。

中央政府の保健省(MOH)とWHOによって指揮され、その他の国際連合のパートナー及び学術機関によって支援されている任務が、6月前半を通して遂行されました。この任務の目的は、HIVの感染源及び感染の連鎖、リスクが高い地域、HIVの診断・ケア・治療における格差を特定することです。

WHOによるリスク評価

パキスタンは1987年(※1)以降、警戒すべき水準で新たなHIV感染が増加しているWHO東地中海地域の国の1つです。パキスタンの現在のHIVの流行は集中的流行と定義されています。全体の有病率は成人の人口においては未だ1%未満ですが、HIV感染者の最新の推定数(2017年)は150,000(※2)人でした。2018年には、21,000人の新たな感染者が記録されました。

今回のアウトブレイクに関して、ラルカナ地区の疾患拡大における全体のリスクは、以下の理由のために高いといえます。

• 今回のアウトブレイクの範囲と規模を確定するための十分な情報が利用できないこと。
• 小児間での症例数(ほとんどが5歳未満の年齢群)。
• 症例がHIVに曝露した日付と期間が未知であること。
• 全ての考え得る曝露の原因に関する情報の不足。
• 適切な抗レトロウイルス薬(anti-retroviral drug:ARV)の不足により、治療の選択肢が不十分であること。
• 同じ地理的領域においてHIVアウトブレイクが過去に複数回起こったこと

さらなる疫学調査は、アウトブレイクの規模の確定、また今回のアウトブレイクが急性で確認症例間の流行に留まるものなのか、それともさらに大規模な流行の氷山の一角(確認症例は偶然に診断されただけ)で、より長期間持続する事態なのかを判断するのに役立つでしょう。

HIV感染は、母子感染、汚染された注射器やその他の外科用器具を介した汚染された血液との接触、輸血、感染者との性的接触など特定の経路に限られているため、地域レベルと国家レベルでのリスクは非常に低いと見なされています。状況は厳重に監視されていて、リスクは予備調査の結果に準じて再評価される予定です。

WHOによるアドバイス

今回のアウトブレイクは、主に医療施設における脆弱性の減少と感染予防を目的とした影響力の大きい介入の重要性を強調しています。介入では、ハイリスク群における性感染、注射薬物の使用を介した感染、母子感染の予防も考慮されます。
WHOは生後18カ月以上においては、HIV感染の確定診断のために3種類以上の分析が必要であると推奨しています。しかしHIVに感染した母親から産まれた生後18か月未満の幼児は核酸増幅検査(NAT)※3による診断を受けるべきです。
WHOはHIVの診断を受けた人々を抗レトロウイルス療法に迅速につなげることの重要性を強調します。検査は診断のエラーを除去するために繰り返し行うべき(二回目の検査が陰性の場合も※4)であり、診断後はいかなる遅れもないように抗レトロウイルス療法を開始すべきです。
さらなる情報は下記をご参照ください。

Global Health Sector Strategy on HIV 2016-2021, World Health Organization,2016
Consolidated Guidelines on HIV Prevention, Diagnosis, Treatment and Care for Key Populations – 2016 Update
Updated recommendations on first-line and second-line antiretroviral regimens and post-exposure prophylaxis and recommendations on early infant diagnosis of HIV. Interim guideline
WHO Consolidated guidelines on the use of antiretroviral drugs for treating and preventing HIV infection Recommendations for a public health approach-Second edition
WHO Consolidated guidelines on HIV testing services, July 2015
WHO Consolidated guidelines on the use of antiretroviral drugs for treating and preventing HIV infection, second edition 2016 ]

※1 Report on the global HIV/AIDS epidemic-June 1998
※2 UNAIDS Pakistan country profile
※3 WHO Consolidated guidelines on HIV testing services, July 2015
※4 WHO Consolidated guidelines on the use of antiretroviral drugs for treating and preventing HIV infection, second edition 2016
 

出典

HIV cases–Pakistan
Disease Outbreak News: 3 July 2019
https://www.who.int/csr/don/03-july-2019-hiv-cases-pakistan/en/

翻訳

WHO健康開発総合研究センター
https://extranet.who.int/kobe_centre/ja