伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型-アフリカ地域

Disease outbreak news:更新  2019年7月31日

WHOアフリカ地域および地中海東岸地域で発生した、伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)のアウトブレイクについての状況の更新が、下記の要約に記載されています。2016年9月以降、アフリカ大陸で野生型ポリオウイルスは検出されていません。

A-ナイジェリアとチャド湖(LCB)周辺領域

チャド湖周辺領域で、複数のcVDPV2によるアウトブレイクの拡大が続いています。周辺領域を構成する全ての国々(ニジェール、カメルーン、ナイジェリア)が、ヒト由来サンプルと環境サンプルのいずれかからアウトブレイクを報告しています。

ナイジェリアでは17の州が被害を受けました。州の内訳は、アダマワ(Adamawa)、バウチ(Bauchi)、ボルノ(Borno)、ゴンべ(Gombe)、ジガワ(Jigawa)、カドゥナ(Kaduna)、カノ(Kano)、カツィナ(Katsina)、クワーラ(Kwara)、ラゴス(Lagos)、ナイジャ(Niger)、オグン(Ogun)、オスン(Osun)、ソコト(Sokoto)、タラバ(Taraba)、ヨベ(Yobe)、ザムファラ(Zamfara)です。ほとんどの州において、分離されたウイルスは、2018年10月13日に報告されたジガワのアウトブレイクと遺伝学的に関連していました。しかしボルノとソコト州では種類の異なるcVDPV2が検出されました。2019年7月22日時点で、50の環境サンプルのcVDPV2陽性を認め、また、急性弛緩性麻痺(acute flaccid paralysis: 以下AFP)を呈した小児およびその地域における健康な接触者である小児23人の便検体からウイルスが分離されました。野生型ウイルスの直近の症例は、2016年8月にボルノ州で報告されています。

ニジェールでは、ジンデル地域(Zinder)にあるマガリア(Magaria)保健区域とタヌー(Tanout)保健区域で、2018年9月21日にcVDPV2のアウトブレイクが報告されました。10人のAFP症例の便検体からウイルスが分離され、接触者の中から11の新たな陽性サンプルも報告されました。その結果として2018年10月5日に、本アウトブレイクが国家及び国際的な脅威による公衆衛生上の緊急事態(a public health emergency of national and international threat)であると、保健省は宣言しました。2019年7月22日の時点で、マガリア、タヌー、ドゥンガス(Dungass)、ボッソ(Bosso)を起点として2018年7月にアウトブレイクが始まって以降、合計22人のcVDPV2が、同国で報告されました。これらはナイジェリアのボルノ州におけるアウトブレイクに関連していることが、ウイルスの遺伝子配列から示唆されました。

2019年5月16日、カメルーンのパスツールセンターは、同国最北部にあるマダ地域病院(Mada District Hospital)の敷地から2019年4月20日に採取した環境サンプルからcVDPV2を分離しました。また分離株の遺伝子配列から、ボルノ州で現在も続いているアウトブレイクと分離株の関連を確認しました。報告されたAFPの中でこの株に関連がある症例はありませんでした。

チャド湖周辺領域のアウトブレイクの延長として、2019年7月11日にガーナのタマレ(Tamale)大都市圏のコブリマグ(Koblimagu)の敷地から採取された環境サンプルからcVDPV2が分離されました。この株に関連のある、報告されたAFP症例はありませんでした。ウイルスの遺伝子配列により、ナイジェリアのクワーラ州におけるアウトブレイクに関連していることが示唆されました。

B-コンゴ民主共和国とアフリカ中部

コンゴ民主共和国

2018年1月から2019年7月5日までに、コンゴ民主共和国全域に渡る7つの州から合計31人のcVDPV2症例が報告されました。州の内訳はモンガラ(Mongala)(11)、上カタンガ(Haut Katanga)(4)、カサイ(Kasai)(4)、上ロマミ(Haut-Lomami)(5)、サンクル(Sankuru)(4)、タンガニーカ(Tanganyika)(2)、イトゥリ(Ituri)(1)です。直近の症例はカサイのカモニア(Kamonia)保健区域から報告され、2019年5月28日に症状が出現しました。2018年以降に報告された26例は、7つの州に被害を与えている7つの遺伝学的に異なるcVDPV2株に関連していて、カサイと上ロマミはそれぞれ異なる2つのcVDPV2株により被害を受けています。2019年4月8日と21日に麻痺が出現した2人のそれぞれのAFP症例から、カサイ州では2つの遺伝学的に関連がある新種のウイルスが分離されました。これらのウイルスはSabin 2型から6個のヌクレオチドがどちらも変異していました。別のアウトブレイクによる被害を受けていたので、カサイはすでに、アウトブレイクに対する一価経口ポリオワクチン2型(mOPV2)のキャンペーンに参加していました。


上ロマミ州のマロンバ・ヌウル保健区域で、2019年2月10日と2019年6月3日に麻痺が出現した2人のAFP症例から遺伝学的に関連があるcVDPV2が分離されました。これらの関連があるウイルスはSabin 2型から8個と11個のヌクレオチドの変異があり、新たなcVDPV2の出現を意味しています。上ロマミ州はすでに別のcVDPV2株による被害を受けていて、mOPV2によるアウトブレイクへの対応キャンペーンに参加し、直近のmOPV2接種ラウンドは1月に実施されていました。2019年にサンクル州(Sankuru)は初めてのcVDPV2による被害を受けました。2019年4月21日と5月6日に麻痺が出現した2人のAFP症例から遺伝学的に関連があるcVDPV2がそれぞれ分離されました。これらの関連のあるウイルスは、最も似ているSabin 2型から6個と8個のヌクレオチドの変異があり、同国で流行しているその他のcVDPV2と関連がなく、新種が出現したことを示唆しています。サンクル州は同国中央部に位置し、これまでにアウトブレイクに対するmOPV2によるキャンペーンに参加していません。しかし隣接しているカサイ州では、mOPV2による対応が継続して実施されています。

アンゴラ

アンゴラでは、2019年にLuanda Norteとウィラ州(Huila)から2つの遺伝学的に別のアウトブレイクとみなされるcVDPV2が検出されました。

2018年3月22日に麻痺が出現した1人のAFP症例から最初の症例となるcVDPV2が分離され、ウイルスはSabin 2型から10個のヌクレオチドの変異がありました。症例はコンゴ民主共和国に隣接するルンダ・ノルテ州(Lunda Norte)から第23週目(2019年6月9日の週の終わり)に報告されました。

国境を越えた人々の移動、不完全な地域の免疫、サーベイランスギャップを考慮すると、ルンダ・ノルテ州は、分離されたcVDPV2のさらなる伝播に対するリスクが高いとみなされます。同州における緊急の予防的なアウトブレイクへの対応が十分に実施されていることが重要です。それとは別に、ウィラ州において最初に発見された麻痺症例から第二の遺伝学的に異なるcVDPV2が分離されましたが、症例が発見され、治療を求めてフアンボに渡航したあとのことでした。同じウイルスもその地域の健康な接触者から分離されています。


中央アフリカ共和国

中央アフリカ共和国では、複数の遺伝学的に異なるVDPV2sが出現し、1種類のcVDPV2が確認されました。第4保健行政区(Region sanitaire 4)であるバンバリ地区(Bambari)では、2019年5月4日に麻痺が出現したAFP患者、また地域の健康な接触者からVDPV2が分離されました。分離されたウイルスはSabin 2型から10個のヌクレオチドが変異していて、同区域の他の場所で伝播しているVDPV2sとして知られているものではなく、新種の出現であることを示唆しています。

加えて、ポリオウイルス2型は、症例との密接な接触者である健康な5人の中からさらに分離され、これらのウイルスの最終的な塩基配列は決定待ちの状態です。それとは別に、5月6日に麻痺が出現した、RS7地方の新たなAFP症例からSabin 2型から6個のヌクレオチドが変化したVDPV2が分離されましたが、これは第4保健行政区で確認されたVDPV2との関連はありませんでした。なお、中央アフリカ共和国における2018年の不活性化ポリオウイルスワクチンの予防接種率は同国の47%でした。

C-アフリカの角

アフリカの角におけるcVDPV2のアウトブレイクは、エチオピアのソマリ州で発見されました。2019年5月20日に麻痺が出現したAFP症例からウイルスが分離されました。遺伝子配列によって、ソマリアで報告された症例とともに2018年のアフリカの角で発見された、現在も続くcVDPV2のアウトブレイクへの、分離されたウイルス株の関連が確認され、ケニアの環境サンプルからも同様に確認されました。

現在、ソマリアは2019年内に3人のcVDPV2症例を報告しています。

2018年のアフリカの角におけるcVDPVsの検出以降、ケニア、ソマリアの保健省とともにエチオピアは、地域の公衆衛生上の緊急事態であるとしてアウトブレイクを宣言し、地域のアウトブレイクへの対応に参加しました。

アフリカの角全域に渡る、特にソマリア、ケニア、エチオピア間での国境を越えた人口の移動、また完全でない地域の免疫、サーベイランスギャップを考慮すると、アフリカの角は今回のcVDPV2のさらなる伝播のリスクは高いとみなされます。

公衆衛生上の対応

A-ナイジェリアとチャド湖(LCB)周辺領域

• アウトブレイクの拡大を阻止するための様々な活動の観察を行う緊急アウトブレイク対応センター (emergency operation centre) が稼動し、全ての国において調整が改善されました。

• 被害を受けた地域における5歳未満の小児を対象として、次の3カ月を通して、LCB周辺諸国で、複数の同時進行するmOPV2予防接種キャンペーンが計画されています。

• 被害を受けたコミュニティにおける症例の後ろ向き調査に加え、症例を早期に確認し、報告するために、医療施設での担当窓口を設立するキャパシティごとに、それぞれの国でAFPに対する積極的なサーベイランスが強化されています。

B-コンゴ民主共和国と中央アフリカ共和国
コンゴ民主共和国の保健省と地域保健機関は詳細な調査に着手しているところで、世界ポリオ根絶イニシアティブ(Global Polio Eradication Initiative;GPEI)のパートナーは必要に応じてサポートをしています。

• WHOとGPEIのパートナーは、コンゴ民主共和国の政府が、ルーチンの予防接種として同国全域でポリオの予防接種活動を実施するため、またcVDPVのアウトブレイクに対する徹底的な症例の調査、サーベイランスの強化を実施するための支援を継続しています。AFP症例の積極的な探索を含むポリオに対する強化されたサーベイランスおよび環境サーベイランスが、野生型とワクチン由来ポリオウイルスの潜在的な症例を確認するために実施されています。コミュニティでは、祈祷所や診療所などを優先的に訪問し、注意喚起を強化しています。サーベイランス、症例定義、AFP症例の積極的な探索に関する状況説明と注意喚起が、臨床医、ワクチン接種医、コミュニティの代表者に対して行われています。検出された全ての症例の現地調査は義務として実施されていて、それに続いて適切な対応活動が必要に応じて計画されます。

• mOPV2による2つの緊急のアウトブレイクへの対応キャンペーンはルンダノルテ州で計画され、全ての潜在的な国境を越えた伝播を防止するために、コンゴ民主共和国に隣接する地域のキャンペーンと時期を合わせています。

• 中央アフリカ共和国の保健省と地域保健機関は詳細な調査に着手していて、GPEIのパートナーは要求に応じたサポートを提供しています。全体の疫学的、ウイルス学的現地調査は進行していて、その中には分離されたウイルスの原因と発生源の確認が含まれています。積極的なサーベイランスは強化されています。地域的な人々の免疫レベルが分析されています。アウトブレイクへの対応は計画されているところです。

C-アフリカの角

• エチオピアとソマリアの保健省と地域保健機関は詳細な調査に着手していて、GPEIのパートナーは要求に応じたサポートを提供しています。全体の疫学的、ウイルス学的現地調査は進行しています。積極的なサーベイランスは強化されています。地域の人々の免疫レベルは分析されています。アウトブレイクへの対応が計画されています。

WHOによるリスク評価

WHOは集団の不十分な免疫、継続している人口の移動、ポリオウイルス2型への粘膜免疫のギャップのために、アフリカから世界的にcVDPV2が拡大・出現するリスクが高いと評価します。

cVDPV2sが検出されたことは、あらゆるポリオウイルスの流行のリスクと影響を最小化するために、全ての地域でルーチンの予防接種率を高く維持することの重要性を示しています。これらのアウトブレイクはまた、あらゆる低レベルのウイルス伝播が引き起こすリスクも示しています。堅固なアウトブレイクへの対応が迅速に流行を止めるために必要とされていて、その対応は将来的に同様のアウトブレイクを予防するための、被害を受けた地域における十分な予防接種率を確かなものにします。疫学的状況とアウトブレイクへの対応策の実施についての評価をWHOは継続します。

WHOからのアドバイス

全ての国々、特にポリオの影響を受けた国や地域へ頻繁に渡航、接触する国では、あらゆる新種のウイルスの輸入を迅速に検出するために、また迅速な対応を促進するために、AFP症例のサーベイランスを強化することが重要です。国、領域、地域はまた、あらゆる新種のポリオウイルスの導入の影響を最小化するために地区単位で均一に高いルーチンの予防接種率を維持することが重要です。

WHOの国際旅行と保健(International Travel and Health)は、ポリオの影響を受けている地域へのすべての旅行者に完全なワクチン接種を推奨します。感染した地域の居住者(4週以上滞在した訪問者を含む)は、旅行前の4週間から12カ月以内にOPVまたは不活性化ポリオワクチンの追加投与を受けるべきです。

国際保健規則(IHR2005)に基づいて開催された緊急委員会(Emergency Committee convened under the International Health Regulations (2005))の助言の通りに、ポリオウイルスの国際的な拡大を制限するための努力は、依然として国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern;PHEIC)です。ポリオウイルスによる被害を受けている国々は暫定的な推奨の対象となります。PHEICの下で発行された暫定的な推奨に従うために、ポリオウイルスに感染した国は、アウトブレイクを国家公衆衛生上の緊急事態として宣言すべきで、全ての国際旅行者の予防接種を検討するべきです。

出典

Circulating vaccine-derived poliovirus type 2 – African Region
Disease Outbreak News: 31 July 2019
https://www.who.int/csr/don/31-july-2019-polio-africa-region/en/

翻訳

WHO健康開発総合研究センター
https://extranet.who.int/kobe_centre/ja