黄熱-ナイジェリア

Disease outbreak news 2019年10月8日

2019年8月29日に、ナイジェリアのバウチ州(Bauchi)にあるアルカレリ地方自治体(Alkaleri Local Government Area)のヤンカリ狩猟保護区(Yankari game reserve)への渡航歴がある黄熱の疑い例が、カノ州(Kano)から報告されました。

2019年8月29日から9月22日までに、ナイジェリアは、バウチ州にあるアルカレリ地方自治体のヤンカリ狩猟保護区を感染源とする黄熱のアウトブレイクを報告しました。ナイジェリア疾病予防センターによると、4つの州で231人の疑い例が報告されました。州の内訳はバウチ(110)、ボルノ(Borno)(109)、ゴンべ(Gombe)(10)、カノ(2)です。このうち、13症例がIgM検査で推定陽性、24症例が国立研究所でのリアルタイムPCR検査で陽性でした。リアルタイムPCRによる確定例24人のうち(20例がバウチ州から、3例がゴンべ州から、1例がカノ州から)、6人の死亡が報告されました。それらはすべてバウチ州のアルカレリ地方自治体からのもので、結果として確定症例の致死率は25%となりました。231人の黄熱が疑われる症例の予防接種歴は明らかでなく、地域の基準検査機関であるダカール・パスツール研究施設からのフォローアップ検査の結果はまだ得られていません。

2017年9月にナイジェリアでアウトブレイクが始まって以降、この地域と関係がある症例が報告されたことは今回が初めてです。今回のアウトブレイクは、症例が広範囲に地理的に分布しており、そのほとんどが、ヤンカリ狩猟保護区(黄熱ウイルスの伝播が極めて起こりやすい生態系{媒介生物、病原体保有動物の観点から}を持つ地域)の中か近くでの渡航、仕事又は居住をしているといった点で独特な面があります。

2019年1月1日から8月31日までのナイジェリアの疫学的概要(バウチ州の症例は含まれていません)

2017年9月15日に、クワーラ州(Kwara)の黄熱と確定された1例を、国際保健規則(2005)に従って、ナイジェリア疾病予防センターはWHOに公式に通知して以来、同国は広い地理的領域に渡る連続的な黄熱のアウトブレイクに対応し続けています。

2019年1月1日から8月31日までに、合計2,254人の黄熱疑い例が535の地方自治体で報告されました。連邦首都区を含む全ての州は、少なくとも1人の黄熱疑い例を報告しました。2,197人の疑い例のサンプルが集められ、ナイジェリアの検査機関によれば74人が検査で推定陽性で、29人が黄熱感染について未確定でした。合計103人(74人の推定陽性と29人の未確定)のサンプルは黄熱基準検査機関であるダカール・パスツール研究施設に確定的な検査のために送られ、そのうち29が検査陽性でした。さらに8の追加症例が国立基準研究所(National Reference Laboratory)(7)、ラゴス大学附属病院(Lagos University Teaching Hospital)(1)を含むナイジェリアの検査機関で確認されました。これらの37人の確定例は以下の州からのものでした。エド(Edo)(13)、エボニ(Ebonyi)(8)、オンド(Ondo)(4)、カツィナ(Katsina)(3)、ケッビ(Kebbi)(2)、アナンブラ(Anambra)(1)、クロスリバー(Cross River)(1)、イモ(Imo)(1)、オスン(Osun)(1)、オヨ(Oyo)(1)、カノ(1)、ソコト(Sokoto)(1)。44人の死亡が、カツィナ(14)、エド(1)、アダマワ(Adamawa)(1)、エボニ(28)の各州から記録されていて、全体の致死率は疑い例のうちの2%でした。

公衆衛生上の取り組み

アウトブレイクへの対応活動は、ナイジェリア疾病予防センターによって運営されている複数機関からなる国家黄熱応急対策拠点施設(EOC: emergency operation centre)によって調整されています。2019年9月5日にナショナルインシデントマネジメントシステム(IMS:Incident Management System)が、対応活動を調整するために発動されました。ナイジェリア疾病予防センター(NCDC)と国家プライマリヘルスケア開発庁(NPHCDA:National Primary Health Care development Agency)を含む迅速対応チーム(RRT:A national rapid response team )がバウチ州とその他の影響を受けた州に配備され、症例の検知、症例の管理とリスクコミュニケーションといったアウトブレイクへの対応活動を支援しています。州は、パートナーによる支援を受けて、アルカレリ地方自治体で迅速な対応の黄熱予防接種のキャンペーンに成功し、407,708人に予防接種を行いました。現在は影響を受けた州に隣接した地方自治体で同様のキャンペーンを実施することを計画しており、国際調整グループ(ICG)が迅速に地域に対応した予防接種をするように提案したことが反映されています。

定期的な黄熱の予防接種は、2004年にナイジェリアの拡大予防接種計画(Expanded Programme on Immunization;EPI)に導入されましたが、今回のアウトブレイクの影響を受けた地域の全体の集団免疫は、依然として閾値より低い状態が続いています。

ワクチンと予防接種のためのグローバルアライアンス(GAVI)とパートナーが支援している4年間(2018-2021年)の黄熱集団予防接種キャンペーン(Preventive Mass Vaccination Campaign;PMVC)計画が、国内のすべての州を対象に実施されつつあります。2025年までに、黄熱のリスク集団を守るためのPMVC活動が、ナイジェリアの全ての州でなされる見込みです。

今年の段階的な予防キャンペーンは、ボルノ州での重点的な活動とともに、アナンブラ州、エキティ州(Ekiti)、カツィナ州、リバーズ州(Rivers)を対象とします。バウチ州は段階的なPMVCがまだ行われておらず、次の段階に向けた計画をするべく、疫学的状況の動向を考察するために再評価を受けています。

WHOによるリスク評価

黄熱は急性ウイルス性出血性疾患で、感染した蚊によって伝播されます。急速に拡大し深刻な公衆衛生上の影響を引き起こす可能性があります。特異的な治療はありませんが、単回投与の黄熱ワクチンを使用する事で予防可能で、これにより終生免疫が得られます。脱水、呼吸器不全、発熱への対症療法が必要で、抗菌薬は関連した細菌感染の治療に推奨されます。

ボルノ、カノ、ゴンべを含む3つの州の症例と関連するバウチ州の黄熱のアウトブレイクが、国の基準検査機関によって最近、確認されたことは、ナイジェリアの懸念すべき現状を示しています。

バウチ州とその他3つの州におけるアウトブレイクの規模を考慮すると、国家レベルでのリスクは、現在も進行している現地での伝播と拡大の潜在性のために高いと評価されています。考えられる要因には、予防接種率が低いこと、アエデス属(ヤブカ;Aedes species)を含む媒介能力の高いベクターが存在しうること、新たな自治体に拡大する可能性があること、国内で最も人気のある観光地であるアルカレリの狩猟保護区にアウトブレイクが関連していることが挙げられます。

現在、影響を受けた州から隣の地域や近隣諸国に人が移動しうるため、中等度の地域レベルのリスクがあります。世界レベルではのリスクは低いです。

ナイジェリアは、伝播型ワクチン由来ポリオウイルス、麻しん、コレラ、ラッサ熱のアウトブレイク、および同国北東部の人道危機など、いくつかの同時発生している公衆衛生上の緊急事態に直面しています。WHOは疫学的状況のモニターを継続し、最新の入手可能な情報に基づいてリスクの動向を再評価していきます。

WHOからのアドバイス

ナイジェリアは黄熱の排除への戦略(the Eliminate Yellow Fever Epidemic)の優先度が高い国です。予防接種は黄熱の予防と制御のための主たる介入となります。強化サーベイランスを介した黄熱の早期発見と調査は黄熱のアウトブレイクのリスクを制御するために重要です。蚊刺しの予防(防虫剤、長袖の着用)は黄熱の伝播のリスクを制限するための追加の手段となります。都市部では、標的を絞ったベクター駆除対策も感染を防ぐのに役立ちます。WHOとパートナーは、現在のアウトブレイクを制御するためにこれらの介入の実施について支援を継続していきます。

持続的もしくは断続的な黄熱ウイルス伝播のエビデンスがあり、WHOはナイジェリアに行く生後9カ月以上の年齢の全ての国際渡航者に対して黄熱の予防接種を推奨しています。これは採取産業に従事する短期労働者や外国人労働者にとって特に重要です。ナイジェリアは1歳以上の同国に到着した渡航者に対して黄熱予防接種の証明書も要求しています。(原文ママ)

WHOによって承認されている黄熱ワクチンは安全で効果が高く、終生免疫が獲得できます。国際渡航の状況を踏まえて、国際保健規則(IHR2005)付録第7を改訂しており、黄熱に対する予防接種に関連する国際的な証明書の有効期間を変更するとともに、黄熱の感染に対する予防接種によって得られる保護を10年間から予防接種を受けた人(渡航者)の生涯とするよう変更しました。その結果として2016年7月11日の時点で、従来もしくは現在の証明書の両方に対して、国際証明書が発行された日付によらず、黄熱ワクチンの再接種又は追加接種は、締約国への入国条件として国際渡航者には要求できません。

2019年7月1日に、WHOは黄熱のリスクがある地域と、国際渡航者の予防接種に該当する推奨事項を更新しました。リスクのある国のリストと黄熱の予防接種の改訂された推奨事項はWHOのウェブサイト(国際渡航と健康;International travel and health)で得ることができます。

WHOは、リスクや予防接種を含む予防措置についての十分な情報を渡航者に提供し続けるために必要なあらゆる措置を講じるよう加盟国に推奨しています。渡航者はまた、黄熱の症状と兆候について知り、疾患の兆候が現れた場合は迅速に医学的なアドバイスを受けるように知らされるべきです。ナイジェリアに帰国する旅行者のうち、高レベルのウイルス血症の潜在性をともなって感染している可能性がある旅行者は、媒介可能なベクターが存在する地域において黄熱の伝播が地域に根付いてしまうリスクとなりえます。

WHOは今回のアウトブレイクにおける入手可能な情報に基づき、ナイジェリアへの渡航と貿易についていかなる制限も推奨しません。

黄熱に関する更なる情報は以下をご覧ください。

出典

Yellow fever – Nigeria
Disease Outbreak News: 8 October 2019
https://www.who.int/csr/don/08-october-2019-yellow-fever-nigeria/en/

翻訳

WHO健康開発総合研究センター
https://extranet.who.int/kobe_centre/ja