麻しんの世界的な状況

Disease outbreak news 2019年11月27日

世界中の多くの国で麻しんのアウトブレイクが発生しています。2019年において187の加盟国が公式の月次報告を行っており、2019年11月5日時点で440,263件の確定患者がWHOに報告されています。

図1:2019年11月8日時点の月別およびWHO地域別の麻しん症例分布(2015-2019)のデータ

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データソース:IVBデータベース-これはサーベイランスデータであるため、先月はデータが不完全である可能性があります。

以下に示す情報は、加盟国がWHOと共有している情報に基づいて、最新の世界の麻しんの流行状況をとりまとめたものです。これは動向でありデータは常に更新されつづけることに留意してください。 以下のデータは、WHOが入手できる最新の情報に基づいています。

アフリカ地域

地域のいくつかの国で、麻しんのアウトブレイクが報告されています。マダガスカルとナイジェリアではアウトブレイクが続いています。新たな患者の発生率は減少しているものの、患者はまだ毎週報告されています。2019年11月17日現在、コンゴ民主共和国では5,110人の関連死亡を伴う250,270人の疑い患者が報告されており、前週と比較して8,000人以上の患者が増加しています。すべての州で感染がみられていることから、全国的な集団発生対応ワクチン接種キャンペーンが段階的に進められており、年末までに完了する必要があります。11月13日現在、ギニアでは麻しんの疑い患者が4,690件あり、そのうち1,091件が確定されました。アウトブレイク対応予防接種活動が進められています。2019年11月17日時点で、チャドは94%の地区で25,596人の疑い患者を報告していました。アウトブレイク対応予防接種が計画されています。

東地中海地域

2019年1月1日から11月17日の期間に、レバノンでは1,060件の麻しんの確定患者が報告されました(詳細については、2019年10月22日に発表されたレバノンの麻しんに関するDisease outbreak news を参照してください)。2019年11月8日現在、現状の重大なアウトブレイクとして、イエメン確定例5,847人、スーダン確定例3,659人、ソマリア2,795人、パキスタン確定例1,978人、チュニジア1,367人、イラク1,222人の麻しん患者が発生しています。

欧州地域

ヨーロッパの多くの国では2019年に大規模なアウトブレイクが発生しました。2019年1月1日から11月5日までの間に、ウクライナでは56,802件が報告され、おってカザフスタンで10,126件、ジョージアでは3,904件、ロシア連邦で3,521件、トルコで2,666件、キルギスタンで2,228例の麻しんが報告されました。これらのアウトブレイクの一部(ジョージア、ロシア連邦、トルコなど)は終息しています。

アメリカ大陸地域

2019年1月1日から11月9日までの間に、ブラジルでは11,887件の麻しんの確定患者が報告され、この大部分はサンパウロ(Sao Paulo)のものでした。予防接種が進められています。

同時期にベネズエラでは麻しん520例が報告されたものの、過去の14週間には新しい例は報告されていません。コロンビアでは、ベネズエラで伝播した可能性が高い215人の患者が報告されています。米国では、ニューヨーク州での大規模な2つの持続的アウトブレイクがありましたが、終息したと宣言されています。しかしながら、米国内の他の州において小規模なアウトブレイクがいまだに起きています。

東南アジア地域

2019年1月1日から11月18日までの間に、バングラデシュでは、4,181件の麻しんの確定患者が報告されています。現在発生しているアウトブレイクの多くは、コックスバザール(Cox’s Bazaar)のロヒンギャ難民キャンプに集中しており、予防接種の取り組みが継続しています。ミャンマーでは5,286件の患者がありましたが、2次にわたるアウトブレイク対応予防接種ののち、アウトブレイクは終息していくものとみられます。9~65か月の子どもを対象にした全国的な予防接種キャンペーンが進行中です。また、現在進行する伝播を止めるために、これまで未接種であった大人にも予防接種を行う必要があります。

同じ時期に、タイでは4,852人の患者が報告されており、1~12歳の子どもを対象とした予防接種キャンペーンが進行中です。しかしながら、1984年から2000年生まれの麻しんに感染しやすい集団、さらには、工業地域における季節労働者、旅行やツアーを運営する会社やその他の組織に関わる人々らに対する予防接種キャンペーンが行われる必要があります。

西太平洋地域

2019年の早い時期にフィリピンとベトナムでアウトブレイクしたことにより、この地域での患者数が増加しましたが、新しい患者は減少しつつあります。2019年11月20日時点でのアウトブレイクは、2,084件の確定患者を伴うニュージーランドのものがあります。そのうち80%がオークランド地域におけるものです。カンボジアではすべての州において発生しており、490人の患者がいます。

2019年1月1日から11月23日まで、トンガ(310件)、フィジー(10件)4、アメリカ領サモア(2件)といった太平洋諸島の複数の国でアウトブレイクが起きています。11月26日の時点で、サモア保健省は合計2,437人の患者と32人の関連死亡を確認し、さかのぼって24時間以内に243人の新しい患者を報告しています。これらの島々は、予防接種キャンペーンを含むアウトブレイク対応活動と緩和策を実施しています。
 

公衆衛生上の取り組み

WHOとパートナーは、以下の活動について加盟国への支援を調整します。
・麻しんのアウトブレイクへの対応に対する準備の強化
・ワクチンに対する国民の信頼の強化
・サーベイランス、リスク評価、アウトブレイク調査の強化
・麻しんの患者への臨床管理の改善
・アウトブレイク対応予防接種活動の実施
・アウトブレイク対応活動の評価

WHOは、感染発生国への支援を調整するために、麻しんアウトブレイクIMS (Incident Management Support)システムを確立してきました。

WHOによるリスク評価

麻しんは、すべての年齢層にわたり感受性のある人々に感染しうる伝播する力が非常に強いウイルス性疾患です。安全で効果的なワクチンが利用できるのにもかかわらず、世界的に幼児の主要な死因であり続けています。感染者の鼻、口、または喉からの飛沫を介して伝播します。通常、感染してから10~12日目に初期症状が現れ、高熱のほかに、通常、鼻水、結膜炎、咳、口の中の小さな白い斑点を伴います。数日後、顔面と首の上部から皮疹が発生し、徐々に下方に広がります。患者は発疹の出現した日の4日前から4日後まで人に感染させることができます。ほとんどの人は2~3週間以内に回復します。

定期的な予防接種を実施されているものの、ワクチン接種率が十分でなく、集団免疫の格差があるので、麻しんは世界中に流布し続けています。集団免疫が95%に満たない地域(コミュニティ)ではアウトブレイクのリスクを抱えています。アウトブレイクしたときの対応がタイムリーかつ包括的に進められないと、脆弱な人々のより小さな地域(コミュニティ)にウイルスが侵入し、流行国の内外に広がる可能性があります。

公衆衛生への影響は、進行中のアウトブレイクが制御され、定期的な予防接種率が高く(95%以上)維持され、住民の免疫格差が解消するまで、続きます。世界中のどこにでも麻しんが巡り続ける限り、侵入を避けることを保証できる国はありません。しかしながら、各国において、主として定期予防接種プログラムによって、また必要時には免疫のない人々に接種するための補助的な予防接種によって、高いワクチン接種率を達成することができ、それによって、国民を保護できます。

WHOからのアドバイス

予防接種は、麻しんに対する最も効果的な予防策です。免疫を確保するために、麻しんを含むワクチンの2回の投与が推奨されます。

麻しんに対する特別な抗ウイルス治療はありませんが、麻しんに感染したすべての子どもには、ビタミンAの迅速な提供がWHOによって推奨されています。麻しんの合併症を迅速に認識して治療し、死亡率と疾患の重症度を減らすことが重要です。

WHOは、すべての加盟国に対し、以下を行うことを要請します。
・すべての地域で、麻しんを含むワクチンの2回接種を行って、麻しんワクチンの接種率を高く(95%以上)維持すること。
・ワクチンの接種または麻しん免疫の保有が証明されない個人に対して、予防接種を提供すること。また、医療関係者、観光および輸送の労働者、外国人旅行者などの、ウイルスが感染や伝播するリスクがある人々に対して、予防接種を提供すること。
・公的及び民間の医療施設で麻しんが疑われるすべての患者を適時に検出するために、「発疹を伴う発熱」の症例に対する疫学的サーベイランスを強化すること。
・麻しんの疑いがある症例から採取した血液検体を、5日以内に検査施設で適切に検査すること。
・すべての国は、地域固有の感染伝播が確立し、あるいは再確立することを防ぐため、麻しんが外国から侵入したときに迅速に対応する必要があること。
・合併症を早期に認識するとともに、疾患の重症度を軽減し防ぎえる死亡を回避するための包括的な治療を提供すること。
・麻しんと診断されたすべての子どもに合併症と死亡率を減らすために補充的にビタミンAを投与すること。(6ヶ月未満の子どもには50,000単位の2回投与、6~12ヶ月の子どもには100,000単位、12~59か月の子どもには200,000単位を、診断直後および翌日に投与)
・保健医療の現場で感染が広がることを防ぐために、保健医療従事者への予防接種を徹底すること。

出典

Measles - Global situation
Disease outbreak news  27 November 2019
https://www.who.int/csr/don/26-november-2019-measles-global_situation/en/