リフトバレー熱-スーダン共和国

Disease outbreak news 2019年11月14日

2019年10月10日に、スーダンの国際保健規則の担当窓口は、紅海州(Red Sea State)のエル・カネブ地方(El Qaneb)にあるアルバーアット地域(Arb’aat)とトワシャン・ビレッジ(Towashan Village)における、2人の死亡を含む47人のリフトバレー熱の疑い例についてWHOに通知しました。疑い例は高熱、頭痛、関節痛、嘔吐の症状を呈していました。出血の徴候もしくは症状が認められた患者はいませんでした。最初の患者は2019年9月19日に医療機関を訪れました。

2019年9月28日に、合計14の検体がハルツーム(Khartoum)にある国立公衆衛生研究所(the National Public Health Laboratory)に送られ、免疫グロブリンM(IgM)を用いた酵素免疫測定法(ELISA)と逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)による検査が行われ、5検体がリフトバレー熱に対して陽性でした。これらの検体はマラリアに対する検査も行い、陰性でした。

2019年10月13日に、合計10人のリフトバレー熱の疑い症例が、ナイル川州(River Nile State)にあるベルベル地方(Barbar)とアブー・ハマド地方(Abu Hamed)で記録されました。10人のリフトバレー熱の疑い症例のうち、5人の検体が検査され、4人がリフトバレー熱に対して陽性であることがわかりました。2019年9月19日から2019年11月11日までに、11人の関連死を含む293人のヒトのリフトバレー熱の疑い例が6つの州から報告されました。内訳は紅海(120)、ナイル川(168)、カッサラ(Kassala)(2)、白ナイル川(White Nile)(1)、ハルツーム(1)、ガダーレフ(Al Qadarif)(1)の各州です。最も影響を受けた年齢群は15歳から45歳で、全体の疑い例の83%を占めています。女性に対する男性の比率は2.6で、症例の大部分を農家(37.5%)が占めています。

これらのヒトのリフトバレー熱の疑い例や確定例が報告された地域では、ヤギの流産や死亡を伴っています。2019年9月25日から11月3日にかけて、紅海州の21頭のヤギがリフトバレー熱に対して陽性であると報告され、そのうち4頭が死亡しています。またナイル川州では3頭の死亡を含む16頭のヤギと、5頭の死亡を含む37頭の羊が、ハルツームにある中央獣医学研究所で行われたELISAでリフトバレー熱陽性が確定されました。

公衆衛生上の取り組み


紅海州
• リフトバレー熱特別委員会の開設。
• リフトバレー熱のガイドラインの印刷と配布。
• 影響を受けた地域での日々の報告のためのサーベイランスチームの配置と積極的な症例発見。
• 影響を受けた村落に医療を提供するための2カ所の医療センターおよび11床のベッドと検査機器、薬剤ほかの物資を備えた1カ所の診療所の設立。
• 世帯調査と殺虫剤の散布。アルバーアット地域では、合計452世帯が調査され、そのうち30世帯が、媒介能力のあるベクターの存在が認められました。ポートスーダン(Port Sudan)では、調査された1,225世帯のうち、29世帯が媒介能力のあるベクターの存在が認められ、殺虫剤の散布は1,949世帯で行われました。
• 動物資源省の獣疫部門(The Veterinary Epidemiology Department of the Ministry of Animal Resources)は、影響を受けた村落の4つの動物の飼育場でベクターコントロールを実施しました。

ナイル川
• 2019年10月12日に行われた州保健省とWHOによる合同調査。
• 州保健省とWHOによるリフトバレー熱に対する行動計画の始動。
• 総合的ベクター対策管理、サーベイランス、症例管理、迅速対応チームの始動。

WHOによるリスク評価

リフトバレー熱はスーダンで流行しています。ヒトに影響を与えた本疾患のアウトブレイクは1973年、1976年、2008年に過去3回記録されています。2008年のアウトブレイクの間に、合計747人の検査室確定例が報告され、その中の230人が死亡しています。

西コルドファン州(West Kordofan State)のアビエイ地域(Abyei)を含む、18の州のうち17の州で、2019年8月13日の豪雨に続いて起きた最近の洪水により、鉄砲水が起こりました。これらの洪水はベクターが個体数、分布、寿命を増大させることを助長しています。現在のリフトバレー熱のアウトブレイクは2019年9月19日から始まり、洪水による被害を受けた6つの州に影響を与えています。

国境内外からの制御できない動物集団の移動は新たな地域へ疾患を拡大させる可能性があります。

家畜の移動と貿易の制限、また感染した動物の高い死亡率と流産率のために、リフトバレー熱は深刻な経済的損失を引き起こしうるものです。

家畜の輸出が主要な国家の歳入源になっている国では、不安定な政治情勢と医療制度の弱体化という状況の中で、緊急の外部支援が現在のアウトブレイクに必要とされています。

 

WHOからのアドバイス

リフトバレー熱は蚊媒介性のウイルス性人畜共通感染症であり、主に動物が感染しますが、ヒトにも感染させる能力を持ちます。ヒトの感染の大部分は、感染した動物の血液または臓器への直接的または間接的な接触の結果として起こります。牧畜業者、農家、食肉処理場の労働者、獣医において感染のリスクが高くなります。

リフトバレー熱のリスクファクターの啓蒙と、蚊刺を予防するための対策とが、ヒトの感染と死亡を減少させる唯一の方法です。リスクを減少させるための公衆衛生上の発表は以下の事項に焦点を当てるべきです。

• 安全でない畜産と畜殺の手技の結果として起こる動物からヒトへの感染のリスクを減少させること。
• 手指衛生とグローブの着用、またはその他の個別の保護的装備の着用を、病気になった動物やその組織を取り扱う際や畜殺する際に実践すること。
• 生または低温殺菌されていないミルクまたは動物の組織の安全でない消費から生じる動物からヒトへの感染を減少させること。流行している地域では、全ての動物性食品は食べる前に十分に調理すること。
• ベクターコントロール活動(例えば蚊の繁殖地を減少させるための殺虫剤の噴霧や幼虫の殺虫剤の使用)、殺虫剤を染み込ませた蚊帳の使用、明るい色の衣服(長袖のシャツやズボン)の着用の実践を介して蚊刺のリスクを減少させること。
• 感染が起きた地域から感染が起きていない地域へのウイルスの拡大を減少させるために、家畜の移動を制限または禁止すること。
• リフトバレー熱のアウトブレイクの予防に動物の定期的な予防接種が推奨されています。アウトブレイク中の予防接種キャンペーンは、針によるウイルス拡散で伝播が激化する可能性があるため推奨されません。
• 動物の中でのリフトバレー熱のアウトブレイクはヒトの症例に先行するため、積極的な動物の健康のサーベイランスシステムの確立は、獣医と公共の保健機関に対して早期の警告をする上で必須となります。

WHOは本事象における現在利用可能な情報に基づいて、影響を受けた国へのいかなる渡航または貿易の制限を適応することも推奨しません。

リフトバレー熱のさらなる情報は、以下のリンクをご覧ください。 Introduction to Rift Valley Fever: Managing infectious hazards

 

出典

Rift Valley Fever – Republic of the Sudan
Disease outbreak news, 14 November 2019
https://www.who.int/csr/don/14-november-2019-rift-valley-fever-republic-of-the-sudan/en/

翻訳

WHO健康開発総合研究センター(WHO神戸センター)
https://extranet.who.int/kobe_centre/ja