黄熱-マリ

Disease outbreak news :更新  2019年12月26日

2019年11月3日から12月8日まで、マリの全国サーベイランスシステムを通じて、2人の死亡を含む3人の黄熱の検査確定例(致死率=67%)が確認されました。最初の患者は、クリコロ州のカティ圏の村落の15歳の女性でした。2番目と3番目の患者はコートジボワール出身の17歳と25歳の男性でシカソ州のBouguimi圏に住んでいました。ダカール・パスツール研究所(IPD:Institute Pasteur Dakar)において、2019年12月3日に、免疫グロブリンM(IgM)および逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)検査によって3人の患者すべてが黄熱に対して陽性でした。最初の患者は黄熱の予防接種を受けておらず、カティ圏から外への旅行歴はありませんでした。他の2人の患者の予防接種の状況は不明でした。

さらに、Bouguimi圏から9人の疑い例と3人の高度疑い例が報告され、高度疑い例には3人の死亡例が含まれていました。

疑い例、高度疑い例及び確定例の年齢は1歳から33歳であり、男女の比率は2:1です。報告された症状のなかでは、発熱、黄疸、嘔吐が最も多い症状でした。Bouguimi保健区域の8つの保健地域で感染が広がっており、マナコロ(4例)とマフェ(3例)で最も多く報告されています。1つの疑い例は検査の結果を待っています。

2019年12月5日、マリ政府はシカソとクリコロの2つの州における黄熱のアウトブレイクを公式に宣言しました。

公衆衛生上の取り組み

・シカソ、クリコロ州及び蔓延している圏の地域において起きているアウトブレイクに対して、公衆衛生対応を調整するための緊急事態管理センター(EOC:Emergency Operations Centre )が設置されています。くわえてバマコ市においてもEOCが立ち上がり活動をしています。
・学際的な即応チームが派遣され、シカソ及びクリコロ州において蔓延している地域での調査を実施しました。詳細な昆虫調査を実施する計画が進行中です。
・疫学的サーベイランスが強化されました。蔓延している両方の圏における積極的な症例の検出を含みます。
・特定の事項を含んだ包括的な対応計画が策定されています。特定の事項には、黄熱の大規模ワクチン接種キャンペーンの実施に向けた、国際調整グループ(ICG: International Coordination Group)への要望の準備を含んでいます。
・利害関係者を巻き込んだ、リスクコミュニケーション能力の確保。予防策を含む黄熱(兆候、症状、ワクチン)に関する広報啓発活動。
・2019年12月3日に、リスクを明確化し介入・計画を策定するために、共同調査チーム(WHOマリ事務所と保健省による)が立ち上がりました。現地の調査によると、カティ圏では予防接種率は80%未満、マナコロ圏では88%未満であることが示されています。

WHOによるリスク評価

マリの南部地域の集団免疫は、2008年の大規模予防集団予防接種キャンペーン(580万人が防御された)と2002年から全国で実施されている小児の定期予防接種の成果を享受していますが、2018年の黄熱定期予防接種の全国カバー率は67%であると推定され、非砂漠地域(近年蔓延していたクリコロ及びSissako州を含む)では80%近くであると推定されます。これは集団免疫閾値を下回っており、国内に免疫が弱いすきまがあることを示している可能性があります。クリコロ州のカティ圏は、人口200万人以上の都市バマコに隣接しており、シカソ地方のBouguimi圏はコートジボワールと国境を接しています。

マリ国内及び国境を越える高い人口移動は、全国的および地域的な伝播のリスクを高めており、集団免疫を弱めた可能性があります。ウイルスの地理的な分布と、最適には達していないワクチン接種率、脆弱性を有する集団の存在は、感染拡大の可能性をもたらします。さらに、長引く人道的危機とともに流行しやすい感染症(麻しん、デング熱)がアウトブレイクしていることは、限られたリソースを競合することになり、対処活動に影響を与えるかもしれません。

入手可能な情報に基づいて、WHOは、全体的なリスクを、国レベルで高く、地域レベルで中程度、世界レベルで低いと評価しています。

WHOからのアドバイス

黄熱は、感染した蚊によって伝播する急性ウイルス性出血性疾患であり、深刻な公衆衛生への影響を伴い、急速に広がる可能性があります。特定の治療法はありませんが、生涯免疫を提供する黄熱ワクチンの単回投与を使用して病気を予防できます。脱水症、呼吸不全、発熱を治療するための支持療法と、関連する細菌感染症に対する抗菌薬治療が推奨されます。

マリは、黄熱の排除への戦略において優先度の高い国です。予防接種は黄熱の予防と制御のための最重要な方策です。都心部では、標的を絞ったベクター対策も伝播を遮断するのに有用です。WHOとパートナーは、現在のアウトブレイクを制御するために必要な介入を実施するために、引き続き現地の当局を支援します。

WHOは、マリのサハラ砂漠の南の地域に行く、国際的な旅行者のうち9ヶ月以上のすべての人々に黄熱に対する予防接種を推奨しています。6ヶ月未満の子どもには禁忌であり、感染のリスクが非常に高い可能性がある流行中を除いて6~8ヶ月の子どもには推奨されません。黄熱ワクチンのその他の禁忌は、卵に対する重度の過敏症と重度の免疫不全です。60歳以上の人に黄熱の予防接種を行う前には、注意することをお勧めします。

WHOは、旅程がサハラ砂漠内の地域に限定されている旅行者には予防接種を推奨していません。流行地域に渡航することを避けられない、または延期できない場合は、妊婦又は授乳中の女性に予防接種が推奨されます。マリは入国条件として、1歳以上のすべての旅行者に黄熱予防接種証明書を要求しています。

WHOが推奨する黄熱ワクチンは、安全で非常に効果的であり、感染に対して生涯にわたる保護を提供します。国際保健規則(IHR2005 第3版)に従って、黄熱に対する予防接種の国際証明書の有効性は、WHO承認ワクチンを接種された人の生涯に及びます。既存または新規の証明書の両方に関して、国際予防接種証明書が最初に発行された日付に関係なく、WHO加盟国の入国条件として、渡航者にワクチンの再接種又は追加接種を要求することはできません。

2019年7月1日に、WHOは黄熱の伝播の危険にさらされている地域と、海外旅行者の予防接種に対応する勧告を更新しました。危険にさらされている国のリスト、および黄熱に対する予防接種の改訂された推奨事項は、WHOのWebサイト{International travel and health(ITH)}で入手できます。

WHOは、加盟国に対し、リスク及び予防接種といった予防策について、渡航者に十分な情報を提供するよう、必要なすべての活動をとるように奨励しています。渡航者は黄熱の兆候や症状を認識できるようにされるべきであり、病気の兆候が現れた場合には速やかに医学的助言を求めるよう説明されているべきです。マリに帰国する旅行者のうち、高レベルの血中ウイルスに感染している可能性のある者は、伝播する能力を持つベクターがいる地域で、黄熱の伝播の地域の循環を構築してしまう可能性があります。

WHOは、このアウトブレイクで入手可能な情報に基づいて、マリへの旅行または貿易に関するいかなる制限をも推奨していません。

出典

Yellow fever ― Mali
Disease outbreak news   26 December 2019
https://www.who.int/csr/don/26-december-2019-yellow-fever-mali/en/