麻しん-パレスチナ暫定自治区(occupied Palestinian territory)

Disease outbreak news 2020年1月10日

2019年1月1日から12月19日までに、2人の死亡者を含む、合計124人の麻しんの検査確定例が、ガザ地区から報告されました(症例致死率=1.6%)。確定例のうち、49例(40%)が入院し、12例は医療従事者の中から報告されたもので、75例(60%)が男性でした。ガザ地区の人口は199万人と見積もられています(パレスチナ中央統計局-2019)。

加えて、確定例のうち57例(46%)には予防接種歴がなく、そのうち生後6カ月から1歳までの乳児が28例(全体の23%)、30歳以上の年齢群が29例(全体の23%)でした。2009年から2018年までの、麻しん含有ワクチン2回接種(MCV2)に対する行政予防接種率の中央値は97%でした。

ガザ地区における予防接種への戦略には、生後12カ月と18カ月の時点での麻しん・流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)・風しん混合(measles, mumps and rubella ;MMR)ワクチンの接種が含まれています。

ガザ地区では、1986年に指標に基づいたサーベイランスを確立して以来、2000年に確定された1例を除けば、麻しん症例は報告されていませんでした。

公衆衛生上の取り組み

ガザ地区の保健省によって以下の対応策がとられています。
・発熱と発しんを伴う疑い例に対する、強化されたサーベイランスシステム
・予防医療統括部局(Central Preventive Medicine)による疑い例の早期告知の実施
・コミュニティにおけるMMRワクチンの2回接種による、高いレベルの免疫維持の継続。
・ガザ地区の保健当局は、麻しん患者の入院加療を行っている4つの公立病院の全ての医療従事者に対するMMRワクチン接種が始まっています。2019年12月13日において、推定900人の医療従事者が予防接種を受けました。

WHOの国事務所は、以下の対応活動によってガザ地区の保健省を支援しています。
・ガザ地区で最初に2人が確定された後に、麻しん免疫グロブリンM(IgM)に対する10のキット(9000回の検査分)を調達しました。
・医療従事者と一般の方向けの麻しん啓発資料を印刷し配布しました。
・麻しんの意識向上を図る症例定義と臨床管理についての会議が、2019年10月に100人の医療従事者を対象に開催されました。
・WHO東地中海地域事務局(EMRO)からの支援を受けているWHOの国事務所は、麻しん症状を伴う麻しん検査陰性例に対する、風しんのキットを提供しています。
・ガザ地区からラマッラー(Ramallah)委託検査施設への検体の輸送の支援
・全ての影響を受けやすい年齢群と医療従事者に対する補足的ワクチン接種活動(Supplementary Immunization activities;SIA)が、WHO東地中海地域事務所によって推奨されています。

WHOによるリスク評価

ガザ地区は2009年から2018年の間、97%という高い予防接種率を維持していて、罹患率は100,000人あたり4.5人と良好な報告をしていました。しかし2019年には社会経済学的な衰退、紛争、封鎖にともなって、ガザ地区では非常に多数の麻しん患者が発生している状況に直面している可能性があります。

WHOからのアドバイス

麻しんは全ての年齢において脆弱性を有する方に感染しうる高い伝播する能力を有するウイルス性疾患であり、安全で効果的な麻しん含有ワクチンが利用できるにもかかわらず、依然として世界規模で、若年の小児における死亡の主な原因となっています。麻しんは感染した人の鼻、口、喉からの飛沫を介して伝播します。通常、感染から10-12日後に出現する初期症状には高熱が含まれ、一般的に次の1つ又は複数の症状を伴います。鼻汁、結膜炎、咳嗽、口腔内の小白斑。数日後、皮疹が出現し、顔や上頸部に始まった発しんは徐々に下方へと拡大していきます。患者は皮疹が出現する4日前から、皮疹が出現してから4日後まで感染性を有します。ほとんどの人は2-3週以内に回復します。

WHOは本疾患の伝播を制御するべく、ガザ地区全体での強固なサーベイランスの継続を推奨しています。

予防接種は麻疹に対して最も効果的な予防法です。麻しんに対する特異的な治療法がない一方で、過去の投与の時期にかかわりなく、ビタミンAは全ての急性期の症例に投与されるべきです。

WHOは全加盟国に次の事項を行うよう勧めます

・免疫を確実なものにするための、麻しん含有ワクチン(MCV)の2回接種。9から12カ月までに初回接種、生後2年目に2回目の接種。2回接種する間の最小の間隔は1カ月未満にするべきではありません。
・全ての地区の麻しん予防接種率を高く保つこと(≧95%)。
・予防接種の証明書を持っていない、または麻しんへの免疫を獲得していない人や、医療従事者、観光事業に従事する人、輸送業に従事する人、国際渡航者といった、ウイルスへの感染や伝播のリスク下にある人へのワクチンの提供。
・公的な医療施設や個人の医療施設での、全ての麻しん疑い例の時期を得た検出のために、「発疹を伴う発熱」の症例に対して疫学的なサーベイランスを強化すること。
・麻しん疑い例から採取された血液検体が5日以内に検査室で適切に検査されることを確実なものにすること。
・合併症を早期に鑑別し、疾患の重症度を減少させるための包括的な治療を提供し、不必要な死亡をさけること。
・合併症と死亡率を減少させるために、麻しんと診断された全ての小児にビタミンAのサプリメントを投与すること(診断直後と翌日から、生後6カ月未満の小児には50,000IUの、生後6カ月から12カ月の小児には100,000IUの、生後12カ月から59カ月の小児には200, 000 IU のそれぞれ2回投与)。
・医療施設で罹患する感染を避けるために、医療従事者の予防接種を確実なものにすること。
・死亡率を軽減させるための症例管理、特に合併症のある症例に対する適切なキャパシティの確保。

さらなる情報は以下をご覧ください。 WHO Measles Global Situation Report 2019

出典

Measles – occupied Palestinian territory
Disease outbreak news, 10 January 2020
https://www.who.int/csr/don/10-january-2020-measles-opt/en/

翻訳

WHO健康開発総合研究センター(WHO神戸センター)
https://extranet.who.int/kobe_centre/ja