鳥インフルエンザA(H5N1)のヒト感染例報告ーインド

2021年7月21日、インドの国際保健規則(IHR)担当窓口は、インド北部のハリヤナ(Haryana)州において、鳥インフルエンザA(H5N1)のヒト感染例1名が確認されたことをWHOに報告しました。今回の報告が、インドにおける初めての鳥インフルエンザA(H5N1)ヒト感染例となります。
 
患者は18歳以下の男性で、2021年6月に何らかの基礎疾患を診断されて治療中でした。入院して免疫抑制療法を開始した直後の6月12日に発熱、咳、上気道症状が出現し、呼吸困難になりました。症状は急速に悪化し、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に進行して人工呼吸管理となり、7月12日に死亡しました。この少年は、ハリヤナ州で食肉処理場を営む家族と同居していました。初期調査によると、患者が居住していた村の近郊にある家禽農場からは、家禽の病気や死亡の報告はありませんでした。現時点で感染源は不明であり、患者と同様の症状を発症している家族も確認されていません。
 
7月7日および11日、インド医療科学研究所の病院において、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応 (RT-PCR)検査が行われ、A型インフルエンザウイルスとB型インフルエンザウイルスに陽性であることが確認されました。SARS-CoV-2や他の呼吸器ウイルスについては陰性でした。7月13日、WHOのインフルエンザに関する基準研究所である国立ウイルス研究所に検体が送付され、亜型の判定が行われました。同研究所でRT-PCR検査が実施され、季節性インフルエンザウイルス(A型およびB型)と鳥インフルエンザウイルスのサブタイプ(H5、H7、H9、H10)について解析されました。7月15日、検体は鳥インフルエンザA(H5N1) とインフルエンザBウイルスのビクトリア系統に陽性と判定されました。現在、全ゲノム配列の決定とウイルス分離が行われています。

公衆衛生上の取り組み

国および地方の保健当局は、以下のような感染状況のモニタリング、感染予防、感染管理の措置を行っています。
・ ハリヤナ州を支援する総合的な迅速対応チーム(公衆衛生と動物衛生の担当者で構成)を編成して詳細な疫学的調査を行い、この症例に関する感染源を特定すること。
・ 患者の居住地から半径10km以内の発熱症例のモニタリング強化(医療従事者
による発熱サーベイランスのための戸別訪問調査)を含むサーベイランスの強化
・ 患者の住居および周辺環境の消毒
・ 地域内の全ての医療機関を対象にして、鳥インフルエンザ疑似症患者の保健当局への報告を指示
・ 患者が入院した医療機関の医療従事者を含む接触者の追跡と健康管理
・ 国民の意識を高めるための個人防護策を含めたリスクコミュニケーション活動の実施
・ 畜産部門による動物サーベイランスの実施

WHOのリスク評価

現時点で得られている情報や初期の現地調査において、感染を疑う追加の患者は確認されておらず、ヒト-ヒト感染の可能性は低いと考えられます。鳥インフルエンザA(H5)ウイルスについては、インドの家禽集団からこのウイルスの亜型が時々検出されていることから、散発的な患者の報告が示唆されます。さらなる疫学的、ウイルス学的情報が得られた場合は、必要に応じてリスクアセスメントの見直しを行います。
 
インドでは、2006年2月にマハラシュトラ(Maharashtra)州の養鶏場で鳥インフルエンザA(H5N1)が初めて報告されて以来、毎年、養鶏場での発生が報告されています。2021年1月と2月には、ハリヤナ州のパンチュクラ(Panchkula)地区で、鳥インフルエンザA(H5N8)の発生が報告され、同地区の家禽に深刻な影響を与えました。そのアウトブレイクでは、養鶏場4か所の鳥から採取したサンプルに鳥インフルエンザA(H5N8)の陽性反応が検出されました。
 
感染が拡大している地域から感染者が海外に渡航した場合、渡航中または到着後に他国で感染が検出される可能性があります。このような事態が発生したとしても、このウイルスは容易にヒト-ヒト感染する能力を獲得していないため、地域レベルで感染が拡大する可能性は非常に低いと考えられます。

WHOからのアドバイス

今回の患者の発見は、インフルエンザの公衆衛生対策およびサーベイランスに関するWHOの現行の勧告を変更するものではありません。鳥インフルエンザがヒトに感染する主な危険因子は、感染した家禽(生死は問わない)や野生動物に直接的または間接的に触れること、および生きた鳥の市場等の汚染された環境に触れることとされています。その他のリスク要因としては、特に家庭内において、感染した家禽の屠殺、羽毛除去、死骸の取り扱い、家禽の食用準備等が挙げられます。
 
一般の方は、生きている動物の市場や農場、生きている家禽等のリスクが高い環境や、家禽や鳥の排泄物で汚染されている可能性があるものとの接触を避けてください。石鹸と水の頻繁な手洗い、もしくはアルコールベースの手指消毒剤を使用した手指衛生が推奨されます。
 
また、調理環境を清潔に保つ、生ものと調理済みのものを分ける、食品を十分に調理するなど、食品衛生上の適切な習慣を守る必要があります。インフルエンザA(H5)やインフルエンザA(H7N9)、その他の鳥インフルエンザウイルスが、適切に調理された鶏肉を介して人に感染することを示唆する証拠はありません。また、卵や卵製品の摂取によって鳥インフルエンザに感染したことを示す疫学的証拠もありません。しかし、家禽類の感染が発生している地域で生産された卵は、生や部分的に加熱した状態(黄身が水様)で食べてはいけません。
 
エアロゾルを発生させる処置を行う医療従事者は、空気感染予防策を行う必要があります。標準的な接触予防策と飛沫予防策を実施し、適切な個人用保護具を準備した上で、流行時にはそれらを使用すべきです。
 
インフルエンザウイルスは常に進化しているため、WHOは、人や動物の健康に影響を及ぼす可能性がある、ウイルス学的、疫学的、臨床的な変化を検出するためのグローバルサーベイランスの重要性を引き続き強調しています。
 
鳥インフルエンザやその亜型を含む、パンデミックの可能性がある新型インフルエンザウイルスによるヒトへの感染が確認された、または疑われた場合には、動物への曝露歴、旅行歴、接触者の追跡などについて、(確認のための検査結果を待つ期間も含めて)徹底的な疫学調査を行うべきである。疫学調査では、新型ウイルスのヒトからヒトへの感染を示唆するような、呼吸器系の異常な事象を早期に発見する必要があります。さらに、症例が発生したタイミングと場所から採取した臨床検体を検査し、さらなる特性評価のためにWHO協力センターに送付する必要があります
 
新型インフルエンザ亜型による全てのヒト感染例は、国際保健規則IHR(2005)に基づき届出が必要であり、IHR(2005)の加盟国は、パンデミックを引き起こす可能性があるA型インフルエンザウイルスによる最近のヒト感染例が検査室で確認された場合、直ちにWHOに報告することが義務づけられています。この報告に病気の証拠は求められません。WHOは、旅行者に対して特別な対策を推奨しておらず、現在得られている情報に基づき、今回の事象に関連して旅行や貿易の制限を適用しないよう助言しています。
 

出典

Human infection with avian influenza A(H5N1) - India
Disease Outbreak News: Update 16 August 2021
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/human-infection-with-avian-influenza-a(h5n1)---india

翻訳協力:関西空港検疫所