中東呼吸器症候群(MERS-CoV)-アラブ首長国連邦(更新)

Disease outbreak news:Update 2021年3月17日

アラブ首長国連邦において、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)感染の新たな症例が報告されました。症例は、39歳の男性で、ラクダ農場の経営者です。1月18日に発熱と咳を発症し、かかりつけ医院を数回受診しましたが、改善しませんでした。症状が悪化し、1月24日に胸部X線検査で肺炎と診断されました。1月26日にかかりつけ医院で入院し、1月28日に政府系列の病院に転院しました。1月31日に鼻咽頭の検体が採取され、2月1日にアブダビ(Abu Dhabi)のシーク・ハリファ(Shiekh Khalifa)医学研究所で、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)の検査が実施され、MERS-CoVの陽性反応が確認されました。基礎疾患はありません。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検査を複数回実施しましたが、結果は陰性でした。また、過去の感染歴や暴露歴は確認されていません。発症前の14日間に、自身の農場でヒトコブラクダとの濃厚接触歴はありますが、同期間中の海外渡航歴はなく、症状出現前の14日以内に、自身の経営する農場でヒトコブラクダと濃厚接触していました。同期間に海外渡航歴はありません。現在、症状は安定しています。
 
2013年7月に、アラブ首長国連邦における最初の症例が報告されました。その後、同92人の症例(前述の症例を含む)が報告されており、このうち12人が死亡しています。全世界でみると、2012年から2021年2月2日までに、WHOに報告されたMERS-CoV 感染の検査室確定症例数は2,567人で、関連する死亡例は882人でした。症例の大多数は、サウジアラビア王国から報告されています。全世界の症例数は、国際保健規則(IHR2005)に基づいて、WHOに報告された検査室確定症例数を反映しています。死亡例は、症例が確認された加盟国における追跡調査を通して、WHOが現在までに把握している死亡者数が含まれています。
 
現在、アラブ首長国連邦では、COVID-19パンデミックの状況下においても、重症急性呼吸器症候群(SARI)の定義を満たす全ての症例に対して、検査を実施することが義務付けられています。

公衆衛生上の取り組み

この症例の身元が把握された時点で、発生報告、積極的疫学調査、接触者の追跡が開始されました。調査には、家族との接触や医療施設の職員を含む、全ての濃厚接触者スクリーニングが実施されました。全ての接触者について、症例と接触した最後の日から14日間、呼吸器症状または消化器症状について毎日、健康監視されました。全員が14日間の健康監視を終了し、新たな症例は報告されませんでした。さらに、症例の近親者全員にMERS-CoVの検査が実施され、現時点で判明している結果は全て陰性です。
 また、獣医療当局に通知され、動物の調査が進行中です。
 

WHOによるリスク評価

MERS-CoVに感染すると、高い致死率につながる重篤な疾患を引き起こす可能性があります。ヒトは、ヒトコブラクダとの直接的または間接的な接触をすることによってMERS-CoVに感染します。MERS-CoVは、ヒト-ヒト間における感染能力は限定的です。これまでのところ、観察された非持続的なヒトからヒトへの感染は、主に医療施設で発生しています。
 
この新たな症例の報告は、WHOによるMERS-CoVの全体的なリスク評価を変えるものではありません。しかし、現在のCOVID-19のパンデミックにより、ほとんどの資源がSARS-CoV-2 の検査へ提供されているため、MERS-CoVの検査能力は、多くの国々で深刻な影響を受けています。WHOは、MERS-CoV感染の新たな症例について、中東から報告されると予測しています。また、ヒトコブラクダ、動物性食品(例えば未加工のラクダのミルクの消費)もしくはヒト(例えば医療施設内や家庭内での接触)との接触で感染した可能性がある個人により、他国への感染例の流出が続くと予測しています。
 
WHOは、引き続き疫学的状況を監視し、入手可能な最新の情報に基づいてリスク評価を行います。
 

WHOからのアドバイス

現在の状況と入手可能な情報に基づき、WHOは全ての加盟国に対して、急性呼吸器感染症に対するサーベイランスを継続し、異常な状況が確認された場合は慎重に検討することを奨励しています。
 
感染予防と管理(IPC)対策は、医療施設でのMERS-CoVの拡大を防ぐために重要です。他の呼吸器感染症と同様に、MERS-CoVの初期症状は非特異的であるため、MERS-CoV感染症の患者を早期に特定することは、必ずしも可能ではありません。したがって、医療従事者は、診断名に関係なく、全ての患者に対して、常に一貫した標準予防策を適用する必要があります。急性呼吸器感染症の症状のある患者に治療を行う場合は、標準予防策に飛沫感染予防策を追加する必要があり、 MERS-CoV感染の疑い例または確定例に治療を行う場合は、接触感染予防策と眼の保護策を追加する必要があります。エアロゾルを発生させる処置を行う場合は、空気感染予防策を講じる必要があります。
 
MERS-CoVのヒトからヒトへの感染は、早期発見、症例管理および隔離に加えて、適切な感染予防と管理対策を講じるこことで、予防することができます。
 
MERS-CoVは、糖尿病、腎不全、慢性肺疾患、免疫不全がある人々に対して、より重篤な疾患を引き起こします。したがって、これらの人々は、ウイルスが潜在的に伝播していることが知られている農場、市場、家畜小屋などを訪れる際は、動物、特にヒトコブラクダとの濃厚接触を避けるべきです。一般的な衛生対策、例えば、動物に触れる前後に必ず手洗いを行い、病気の動物との接触を避けるなど、一般的な衛生対策を徹底する必要があります。
 
食品衛生対策も徹底が必要です。ラクダの生乳や尿を飲むことは避けるべきであり、適切に加熱調理されていないラクダ肉を食べることも避けるべきです。
 
WHOは、今回の事象に関して、入国地での特別なスクリーニングは推奨しておらず、現地点では、いかなる渡航や貿易の制限も推奨していません。
 

出典

Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV) - United Arab Emirates
Disease Outbreak News: Update 17 March 2021
 https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2021-DON314