サル痘ー英国と北アイルランド(更新1)

Disease outbreak news   2021年7月8日

021年6月15日、英国で、新たに3人目のサル痘患者が確認されました。(以前の患者2人については、6月28日付けの海外感染症発生情報をご参照ください: https://www.forth.go.jp/topics/20210628.html)この患者は、6月13日に水疱性の発疹が出現しました。翌日14日に診断を確定するために病変部の検体が採取され、15日にポリメラーゼ連鎖反応 (PCR)検査 でオルソポックスウイルスが確認されました。
 この患者は、前回に報告された2人の患者の家族です。3人とも感染症専門病院に入院しました。現在は、全員が完治して退院しています。
 
 

公衆衛生上の取り組み

英国の保健当局は、濃厚接触者30人を特定し、全員が最終接触日から21日間の健康監視を終了しました。家族以外の感染は確認されていません。
 これらの患者3人を担当していた感染症専門病院の医療従事者は、ワクチン接種を完了しています。
 患者3人の居住地であったナイジェリアの国際保健規則窓口(IHR)に情報が共有され、潜在的な感染源と暴露源に関するさらなる情報収集が行われています。積極的疫学調査では、初発症例についてそれ以外の患者は確認されませんでした。動物衛生の専門家も協力し、潜在的な感染源についてのさらなる疫学調査が行われています。
 

WHOによるリスク評価

サル痘は、中央アフリカと西アフリカの森林地帯で散発的に発生する偶発的なヒト感染症を伴う野生動物由来の人獣共通感染症です。原因ウイルスは、オルソポックスウイルス属のサル痘ウイルスです。接触や呼気中の大きな飛沫を介した飛沫曝露によって感染します。潜伏期間は、通常6日から13日ですが、5日から21日のケースも報告されています。多くは自己限定的であり、通常14~21日以内に症状は自然に消失します。症状には軽度のものと重度のものがあり、病変は強いかゆみや痛みを伴うことがあります。軽度の症例は報告されないこともあり、人から人へ感染する危険性があります。ウイルスの保有動物は不明ですが、げっ歯類の可能性が示唆されています。狩猟で生きた動物や死んだ動物と接触したり、野生動物の肉やブッシュミートを食べたりすることが、リスク因子として知られています。
 
サル痘ウイルスには、西アフリカ型とコンゴ型の2つのクレードがあり、西アフリカ型は重篤な症状を引き起こすこともありますが、通常は軽症で自己限定的です。西アフリカ型の致死率は約1%と報告されていますが、コンゴ型は病原性が高く、10%程度と報告されています。
 
これまでに英国では、計7例しか報告されていません。ナイジェリアから輸入例となる今年の3例、2018年9月の2例、2019年12月の1例、2018年にイギリスの医療従事者が汚染されたベッドリネンとの接触で院内感染した1例が報告されています。
 
前述のとおり、3例目の症例は、以前に確認された2例の濃厚接触者で同一家族でした。また、3例ともすでに完治しています。今回の患者に関連した新たな濃厚接触者は確認されておらず、特定されている濃厚接触者30人は、接触後に英国外へ渡航していません。したがって、新たに患者1名が確認されましたが、英国における公衆衛生上のリスクは変わりなく、さらに感染が拡大する可能性は低いと考えます。ナイジェリアでの曝露の可能性やさらなる拡大のリスクについては、現在評価中です。
 
ナイジェリアにおけるサル痘の過去のアウトブレイクについての詳細は、6月28日付けの海外感染症発生情報をご参照ください。

WHOからのアドバイス

旅行中や帰国後に体調を崩した場合は、直近の渡航歴や予防接種歴などの情報を含めて、専門医に報告してください。ナイジェリアなどの流行国の居住者や旅行者は、サル痘ウイルスを保有している可能性がある動物(げっ歯類、有袋類、霊長類)の病体や死骸、あるいは生きている動物との接触を避け、野生の狩猟動物肉(ブッシュミート)を食べたり扱ったりするのを控える必要があります。石鹸と水、またはアルコールベースの消毒剤を使った手指衛生の重要性を強調する必要があります。
 
サル痘の患者は、感染性がある期間中、つまり発疹の段階で隔離し、接触者も隔離して観察する必要があります。タイムリーな接触者の追跡、サーベイランス対策、医療従事者の輸入される可能性がある新興感染症に対する意識向上は、二次症例の予防とサル痘アウトブレイクの効果的な管理に不可欠な要素です。
 
サル痘の疑いがあるまたは確定診断された患者を治療する医療従事者は、接触感染と飛沫感染の標準的な感染予防策を実施する必要があります。サル痘ウイルス感染が疑われる人や動物から採取した検体は、適切な設備の整った研究所において、訓練を受けたスタッフが取り扱うべきです。

WHOは、現時点で入手している情報に基づき、英国やナイジェリアへの渡航や貿易を制限する必要性はないと判断しています

出典