サル痘ー米国

Disease outbreak news   2021年7月27日

2021年7月17日、米国(USA)の国際保健規則(IHR)担当窓口は、テキサス州ダラスでサル痘のヒト輸入症例が確認されたことを、汎米保健機構(PAHO:WHOアメリカ地域事務局)に通知しました。報告された男性患者は、6月25日に米国からナイジェリアのラゴス(Lagos)州に渡航し、さらに6月29日から7月3日までオヨ(Oyo)州のイバダン(Ibadan)に滞在しました。6月30日に発熱、嘔吐、軽度の咳嗽などが出現し、7月7日に有痛性の発疹を性器に認めました。この患者は、7月8日にラゴスを出発し、9日に米国に戻りました。翌日10日に顔面の発疹が出現し、13日に地元の病院を受診し、発熱が認められたため直ちに隔離されました。
 
皮膚病変の検体が採取され、7月14日にダラス郡で行われた逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)検査の結果、オルソポックスウイルスが確認されました。皮膚検体は翌日15日に、米国疾病予防管理センター(US CDC)のポックスウイルス・狂犬病分室で実施されたRT-PCR検査で、サル痘ウイルスの西アフリカ型に陽性反応を示しました。この患者は、現在入院隔離されています。
 
現時点では、輸入症例の感染源は不明です。サル痘は人獣共通感染症と考えられていますが、野生動物のリザーバーは特定されていません。2003年に米国でサル痘のアウトブレイクが発生した際は、接触歴が追跡調査され、サル痘ウイルスに感染したアフリカのげっ歯類と一緒に飼育されていたプレーリードッグ(ガーナから輸入)との接触が原因とされました。野生動物との接触(生きた動物、食用の肉、その他の製品を含む)は、流行国では潜在的なリスクファクターとして知られています。また、感染者との長時間の接触は、ヒト-ヒト感染を引き起こす可能性があります。
 
ナイジェリアでは、2017年から2019年にかけてアウトブレイクが発生し、2021年も患者の報告が続いています。また、1970年以降、ナイジェリア以外のアフリカ中西部の9か国で、アウトブレイクが報告されています。2020年には、コンゴ民主共和国で6,200例以上の疑い例が報告されました。カメルーンや中央アフリカ共和国など他の国々でも、ヒト-ヒト感染による散発的なアウトブレイクが発生しています。
 
米国への旅行者からサル痘患者が発見されたのは、今回が初めてであり、2003年のアウトブレイク以来、米国で報告された初めての症例です。ナイジェリアからの旅行者におけるサル痘患者は、1978年以降で過去に7例報告されています。最も早く記録された旅行関連の症例は、オヨ州で感染しベナンで確認されました。2018年以降は、イスラエル(2018年)、シンガポール(2019年)、英国(2018年2例、2019年1例、2021年1例)といった非流行国において、旅行者を介した患者6例が報告されています。ナイジェリアのラゴス州とオヨ州では、患者の散発的な報告が続いています。さらに、南スーダンでは、コンゴ民主共和国から輸入されたと推測される症例が報告されています。

公衆衛生上の取り組み

患者の隔離や治療等を含む公衆衛生上の措置は、すでに実施されています。CDCと州・地域の保健当局は、感染期間中に患者と接触した可能性がある地域住民や医療従事者の健康監視を行っています。CDCは、航空会社および州・地域の保健当局と協力して、ナイジェリアから米国内への移動中に患者と共通の座席を使用した乗客に連絡を取っています。
 
これららの航空機に搭乗していた乗客は、COVID-19パンデミックのため、マスク着用が義務づけられていました。そのため、フライト中に呼吸器系の飛沫を介した他の乗客への感染リスクは低いと考えられますが、トイレなどの共用部分が汚染された可能性があります。患者の治療を担当した医療従事者は、適切な個人用防護具を着用していました。一部の接触者に対しては、患者との直近の接触から14日以内にワクチンを接種することが推奨されています。7月25日現在、米国内では200人以上の接触者の健康監視が行われていますが、いずれもサル痘様症状を発症していない状況です。
 
ナイジェリアでは、2017年以降のサル痘の再流行に対して、サーベイランスと公衆衛生上の措置が全国的に行われています。本事例に関連するアウトブレイク調査は、ラゴス州とオヨ州に焦点を当てており、調査には公衆衛生と動物衛生の専門家が参加し、潜在的な曝露源の特定と接触者の健康監視が行われています。

WHOによるリスク評価

サル痘は、中央アフリカと西アフリカの森林地帯で散発的に発生する、偶発的なヒト感染を伴う人獣共通感染症です。原因ウイルスは、オルソポックスウイルス科に属するサル痘ウイルス(MPXV)です。ゲノム解析の結果、サル痘にはコンゴ盆地型と西アフリカ型の2つの系統群(クレード)が存在することが判明しており、この2つの地域におけるヒトへの病原性や致死率の違いと一致しています。どちらの系統群も、接触や呼気中の大きな飛沫を介した飛沫暴露、あるいは寝具などを介して感染し、ヒトでは致命的な症状を呈します。
 
潜伏期間は通常6日から13日ですが、5日から21日のケースも報告されています。多くは自己限定的であり、通常14~21日以内に症状は自然に消失します。症状には軽度のものと重度のものがあり、病変部は痛みやかゆみを伴うこともあります。西アフリカ型のサル痘ウイルス感染症は一般的には軽症ですが、一部の人では重症化することもあります。西アフリカ型の致死率は約1%と報告されていますが、コンゴ盆地型の致死率は病原性が高く、10%程度と報告されています。免疫不全が重症化のリスク要因となっており、小児もリスクが高く、妊娠中のサル痘感染は、先天性サル痘や死産などの合併症を引き起こす可能性があります。
 
症状が軽度の場合は発見に至らないこともあるため、ヒトからヒトへの感染リスクがあります。地理的に、西アフリカと中央アフリカの一部に限られる風土病であるため、旅行者や接触者の感染に対する免疫力は、ほとんどないと考えられます。
 
サル痘ワクチンが承認されており、従来の天然痘ワクチンでも予防効果はありますが、これらのワクチンは広く普及しておらず、世界中の40~50歳以下の人々は、以前の天然痘ワクチン接種プログラムによる予防効果の恩恵を受けていません。 天然痘の予防接種が中止されたことによる免疫力の低下が、サル痘への罹患率の上昇につながっていると示唆されます。
 
ウイルスの保有動物は不明ですが、小型の哺乳類が考えられます。狩猟での生きた動物や死んだ動物との接触、野生動物の肉やブッシュミートの摂取が、ヒトへの感染の原因と考えられています。

WHOからのアドバイス

旅行中や帰国後に体調を崩した場合は、直近の渡航歴や予防接種歴などの情報を含めて、専門医に報告してください。ナイジェリアなどの流行国の居住者や旅行者は、サル痘ウイルスを保有している可能性がある動物(げっ歯類、有袋類、霊長類)の病体や死骸、あるいは生きている動物との接触を避け、野生の狩猟動物肉(ブッシュミート)を食べたり扱ったりするのを控える必要があります。石鹸と水、またはアルコールベースの消毒剤を使った手指衛生の重要性を強調する必要があります。
 
サル痘患者には、症状に応じた最適な治療が必要であり、支持療法と併せて、基礎疾患や合併症の治療を行うべきです。状況により、天然痘に対して承認されている特定の抗ウイルス治療が、人道的または緊急的に使用されることがあります。
 
患者は、感染期間中である発疹期の直前および発疹期を含め、すべての病変が痂皮化して脱落するまで隔離する必要があります。サル痘の発生を効果的に管理し、二次感染を防ぐためには、タイムリーな接触者の追跡、サーベイランス対策、医療従事者の新興感染症に対する意識向上が不可欠です。
 
疑い患者または確定患者の治療を担当する医療従事者は、接触感染と飛沫感染の標準的な感染予防策を実施する必要があります。担当者には、患者の治療環境、寝具、タオル、または患者の所有物に暴露する可能性がある清掃員や洗濯員など、全ての作業者が含まれます。サル痘ウイルス感染が疑われるヒトや動物から採取した検体は、適切な設備が整った研究所において、訓練を受けたスタッフが取り扱うべきです。
 
WHOは、現時点で入手している情報に基づき、米国やナイジェリアへの渡航や貿易を制限することを推奨していません。

出典

Monkeypox - United States of America
Disease outbreak news  27 July 2021
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/monkeypox---the-united-states-of-america

翻訳協力:関西空港検疫所