マールブルグ病ーギニア

Disease outbreak news   2021年8月9日

2021年8月6日、ギニア保健省は、同国南西部のンゼレコレ(Nzerekore)州ゲケドゥ(Gueckedou)県で、マールブルグ病の症例が確認されたことをWHOに報告しました。患者が確認された村は、シエラレオネとリベリアの国境付近に位置します。今回の報告は、ギニアおよび西アフリカにおいて初となるマールブルグ病の症例となります。
 
患者は男性で、7月25日に症状が出現しました。8月1日に発熱、頭痛、倦怠感、腹痛、歯肉出血などを主訴に、居住していた村の近郊の小さな医療施設を受診しました。その際、マラリアの迅速診断テストが施行されましたが陰性でした。患者は、補液、抗生剤治療、対症療法などを中心に支持療法を受けました。
 
8月2日、患者は発症地域のコミュニティ内で死亡したため、町村の保健施設からゲケドゥ(Gueckedou)県保健所にアラートが発出されました。このアラートを受け、直ちに国内の感染症対策関係者とWHOの専門家からなる調査チームが派遣され、詳細な現地調査が行われました。調査チームは、患者の遺体から口腔スワブの検体を採取し、同日中に検体をゲケドゥ県内にあるウイルス性出血熱の指定研究機関(レファレンスセンター)に発送しました。8月3日にリアルタイムPCR検査が行われ、マールブルグウイルスが陽性で、エボラウイルスは陰性であることが確認されました。8月5日、検体が首都コナクリ(Conakry)の国立研究所に提供され、リアルタイム PCR検査でマールブルグウイルス陽性が確認されました。8月9日にはセネガルのパスツール研究所ダカール支部で検査が実施され、マールブルグウイルス陽性とエボラウイルス陰性の検査結果が再確認されました。

公衆衛生上の取り組み

ギニア保健省は、WHO、米国疾病予防管理センター(CDC)、ALIMA(The Alliance for International Medical Action)、赤十字社、ユニセフ、国際移住機関、その他のパートナーと協力して、アウトブレイクを制御し、感染拡大を防ぐための対策を開始しています。現在、医療施設やコミュニティレベルでの感染者の積極的な探索と同時に、接触者の追跡が行われています。患者の家族3人と医療従事者1人が、濃厚接触者として特定され、健康状態が監視されています。
 
ギニアにおける直近のエボラウイルス病のアウトブレイクは、2021年6月19日に終息が宣言されました。エボラウイルス病のアウトブレイクを通じて、地域医療従事者のためのネットワークが、WHOの技術チームと共に設置されました。技術チームは、現在もエボラウイルス病アウトブレイク後の疾病サーベイランス計画の一環で国内に残っており、この技術チームが、マールブルグ病アウトブレイクに対する政府の対応をサポートしています。
 
ギニア保健省は、国および地域における緊急管理委員会を立ち上げ、下記の内容を含む対応を調整しています。:

● 公衆衛生学的な緊急対策を取り仕切るオペレーションセンターを立ち上げ、およびクンドゥ(Koundou)に対策班をサポートするための拠点基地の設置
● 発生源を特定するため、患者発生地域の周辺における綿密な疫学調査の実施(現在までに146人の接触者が特定され、8月8日の時点で145人が健康監視されています。)
● 地域及び医療施設における疑い症例の積極的な探索
● 患者が発生した村と、半径15キロ以内に位置する他の村に焦点を絞り、調査チームが派遣され、医療従事者との対策会議を開催
● 入国地点のサーベイランスが強化され、キエセネイエ(Kiesseneye)とノンゴア(Nongoa)2か所の健康管理地点が設置され、シエラレオネとリベリアにまたがる3か所の主要な入国地点が現在機能しており、他の入国地点も評価を実施
● ALIMA協力の下、現地の医療施設における症例管理能力の評価を実施
● 地域レベルでのリスクコミュニケーション活動の継続
● クンドゥ(Koundou)保健センターにおける感染予防管理(IPC)の活動および水と衛生(WASH)に関する会議の開催、Temessadou Mboket村のボランティアを対象とした安全で尊厳を守った埋葬法に関する説明会の開催

WHOによるリスク評価

マールブルグウイルス病(MVD)は、高い致死率(CFR 24~90%)を伴う高病原性の流行性疾患です。初期は臨床症状の類似性から、MVDと他の熱帯熱感染症との鑑別は非常に困難です。除外するべき鑑別診断は、エボラウイルス病、マラリア、腸チフス、レプトスピラ症、リケッチア感染症、ペストなどがあります。MVDは、感染者や感染動物(猿やフルーツコウモリなど)の血液や体液、組織との直接的な接触で感染します。
 
現在、マールブルグ病に対して、承認された特定の治療法や治療薬は存在しません。バイタルサインの管理、補液、電解質および酸塩基平衡のモニタリング、感染症や臓器不全の管理等の支持療法が、患者の帰転と生存を最適化するための重要な治療手段となります。モノクローナル抗体(Mabs)が現在開発中で、他の抗ウイルス薬(ガリデスビル、ファビピラビル、レムデシビルなど)も治験中ですが、現時点では明確な研究成果が得られておらず、さらなるエビデンスと研究が必要です。これらの治療薬は、無作為化比較試験の対象者のみに用いられるべきです。
 
8月7日時点で、診断が確定している症例は1例のみで、濃厚接触者4人は無症状です。現在、感染源の特定と他の接触者の確認に関する調査が行われています。
 
ギニアは、エボラウイルス病やラッサ熱などのウイルス性出血熱の流行を繰り返し管理してきた経験はありますが、MVDの報告は今回が初めてです。ギニアは、医療システムが脆弱で、度重なる感染症アウトブレイクやCOVID-19のパンデミックによってさらに悪化しています。EVD、COVID-19、ラッサ熱などの最近の流行に対する対応活動が、今回のMVDの早期発見と対策に貢献したものと考えられます。
 
ギニア保健省は今回の事例に迅速に反応し、アウトブレイクをコントロールするための対応策を早期に打ち出しました。感染症が発生した村は、シエラレオネとリベリアの国境近くに位置する、遠隔の森林地帯に位置します。ギニア、シエラレオネおよびリベリアの国境間の人の移動や混ざり合ったコミュニティは、国境を越えた感染拡大のリスクとなるため、保健省は事前対策として関係者、健康管理責任者らと共に状況の精査を行い、シエラリオネのコノ(Kono)地区とカイラウン(Kailahun)地区に対してアラートを発信しました。シエラリオネとリベリアの保健省は、予防のための対策を開始し、ギニアの入国地点で公衆衛生対策を行っています。ただし、コウモリの群れとヒトとの間で感染する可能性があり、国境を越えた感染症拡大のリスクが残されています。
 
これらの要因は、国家間レベルでの感染拡大の高いリスクを示しており、国際的な支援団体の援助を仰ぎ、迅速かつ協調した対応が必要です。ゲケドゥ(Gueckedou)県がリベリアとシエラレオネに近接しているため、保健省はすでに活動を行っていますが、地域レベルでの感染拡大リスクは依然高い状況です。世界レベルでの感染拡大のリスクは低いです。

WHOからのアドバイス

マールブルグ病のヒト-ヒト感染は、主に感染者の血液や体液との接触に関連しています。医療に関係する感染は、適切な感染予防策が行われていない事例で報告されています。
 
医療従事者は、想定される診断に関わらず、患者に接する際は、常に標準予防策を講じる必要があります。これには、消毒、呼吸器衛生と咳嗽時のエチケット、個人防護具(PPE)の着用、安全な注射/採血手技、清掃と消毒、適切なベッドシーツの交換およびゴミの取り扱い、再利用可能な医療器具の除染などが含まれます。
 
他に、医療行為による感染を予防するために重要となる感染予防管理(IPC)は、早期発見(スクリーニングとトリアージ)、疑い症例の隔離とモニタリング、治療を担当した医療従事者の調査、マールブルグ病症例の院内でのサーベイランス、および地域レベルでの安全と尊厳を守った埋葬などが含まれます。
 
疑い症例や確定症例を担当する医療従事者は、患者の体液や汚染物との接触を防ぐために、注意深く感染予防策を行う必要があります。これには、PPE(顔面保護(フェイスシールド、医療用マスク、ゴーグル)、清潔で非滅菌の長袖ガウン、手袋)の着用が含まれます。医療施設で利用できるPPEの常備、適切な着脱エリアの設置、感染予防管理(IPC)/水衛生(WASH)に関する物品、およびそれらの適切な利用方法の訓練がさらに重要です。
 
研究所の従業員も感染リスクを伴います。ヒトや動物からマールブルグ病の調査のため採取された検体は、訓練された職員が取り扱い、適切な設備の整った研究室で処理されるべきです。
 
接触者の追跡や感染者を探索するためのサーベイランス活動は、全ての関連する保健区域(ヘルスゾーン)内で強化されるべきです。そのため、近隣諸国は国境沿いのコミュニティや医療機関におけるウイルス性出血熱(VHF)のサーベイランス機能を強化し、アラートの報告や予防措置の周知をコミュニティ内で図ることが推奨されます。
 
リスクコミュニケーションとコミュニティ参加(RCCE)が、アウトブレイクコントロールを成功させるための鍵となります。マールブルグ病感染のリスクファクターとウイルスへの接触を減らすための個人予防策を周知することが、感染者や死者を減らすために重要です。感染発生地域に伝えるべき、公衆衛生上の鍵となるリスク伝達のための通知は、以下のとおりです。
● 感染した患者との直接的または濃厚な接触、特にその体液との接触から生じる地域社会での感染リスクを低減する方法。マールブルグ病患者との密接な物理的接触は避けるべきである。感染した疑いがある患者は、自宅で管理するのではなく、治療と隔離のために直ちに医療施設に移すべきである。移す際には、適切な個人保護具を着用するべきである。病気の人を訪問した後は、定期的に手指の衛生管理を行うべきである。
● マールブルグ病が発生した地域の長や医療従事者は、住民が十分な情報を得られるように努力しなければならない。これは、さらなる感染拡大や感染による人権侵害を避け、治療センターへの早期受診を促すために、感染症の知識共有、遺体の安全な埋葬などを含む種々の感染症対応策についてコミュニティに伝通することを意味します。マールブルグ病による死者は、迅速かつ安全に埋葬されなければならない。
● フルーツコウモリ、サル、類人猿などの野生動物から、ヒトへの感染リスクを低減するために、以下のアドバイスが伝達されるべきです。
 ・野生動物を扱う際は、定期的に手指消毒を行い、可能であれば手袋や防護服を着用すること。
 ・動物の調理(血液や肉)の際は完全に加熱処理し、生食を避けること。
 ・仕事や研究活動、観光でフルーツコウモリが生息する炭鉱や洞窟に入る際は、マスクと手袋を着用すること。

現時点におけるリスク評価と前回のエボラウイルス病アウトブレイクのエビデンスに基づき、WHOは、ギニアへの渡航および貿易を制限する必要がないことを助言しています。
 

出典

Marburg virus disease - Guinea
Disease outbreak news  9 August 2021
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news
 

翻訳協力:関西空港検疫所