中東呼吸器症候群(MERS-CoV)-サウジアラビア王国(更新3)

2021年3月12日から7月31日までの間に、サウジアラビアの国際保健規則(IHR)担当窓口から、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)の新たな感染症例4例(うち関連死1例を含む)が報告されました。症例は、リヤド(Riyadh)2例、ハフル・アル・バティン(Hafar Albatin)1例、ターイフ(Taif)1例の3地域から報告されました。また、今回報告された死亡例は、前回報告された感染例(症例#7 2021年4月14日更新情報参照
 https://www.forth.go.jp/topics/20210326_00001.html)で、3月20日に死亡しました。2012年以降、サウジアラビアでは合計2,178例のMERS-CoV確定症例が報告され、810人が死亡しています。
 
2012年9月から2021年7月31日までの間に、国際保健規則IHR(2005)に基づき、WHOに報告されているMERS-CoV確定症例の世界全体の合計は2,578例で、このうち関連死は合計888例です。これらの症例の大部分はアラビア半島で発生していますが、この地域以外では、2015年5月に韓国で大規模なアウトブレイクが発生し、確定症例186例(韓国185例、中国1例)と死亡例38例が報告されました。死亡者数の合計には、感染が生じた加盟国へのフォローアップを通じて、WHOが現在までに把握している死亡例が含まれています。
 

WHOによるリスク評価

中東呼吸器症候群(MERS)は、ヒトとヒトコブラクダに感染する中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)によって引き起こされる、ウイルス性呼吸器感染症です。MERS-CoVに感染すると、重篤な疾患を引き起こし、高確率で死亡します。MERS患者の約35%が死亡しますが、これは実際の死亡率を過大評価している可能性があります。MERS-CoVの軽症例は既存のサーベイランスシステムでは見逃されている可能性がり、この疾患についての詳細が明らかではない現状において、検査で確認された確定例のみを対象に死亡率が算出されているためです。
 
ヒトは、MERS-CoVの自然宿主かつ人獣共通感染源であるヒトコブラクダとの直接的または間接的な接触により、MERS-CoVに感染します。MERS-CoVはヒト-ヒト感染を起こすことが証明されています。これまでのところ、確認された非持続的なヒト-ヒト感染は、親しい人間関係や医療現場において発生しています。医療現場以外では、ヒト-ヒト感染は限定的です。
 
今回の追加症例の報告により、全体的なリスク評価に変更はありません。WHOは、中東やヒトコブラクダ内でMERS-CoVが流行している他の国から、さらなる追加のMERS-CoV確定例が報告されると推測しています。また、ヒトコブラクダや動物性食品との接触(ラクダの生乳の摂取など)や医療現場でウイルスに暴露された可能性がある個人により、他国への感染例の輸出が続くと予測しています。
 
WHOは引き続き疫学的状況を監視し、入手可能な最新の情報に基づいてリスク評価を行っています。しかし、現在のCOVID-19パンデミックの状況下では、ほとんどの医療資源がCOVID-19の感染予防とコントロールに向けられているため、多くの国でMERS-CoVの検査能力に深刻な影響が出ています。サウジアラビア保健省は、MERS-CoV感染をより正確に検出するため、検査能力の向上に取り組んでいます。
 

WHOからのアドバイス

現在の状況と入手可能な情報に基づき、WHOは全ての加盟国に対して、MERS-CoV感染を含む急性呼吸器感染症に対するサーベイランスを継続し、あらゆる異常な兆候を注意深く確認することを再喚起しています。
 
医療施設におけるヒト-ヒト感染は、MERS-CoV感染の初期症状の認識の遅れ、疑い症例のトリアージの遅れ、感染予防管理(IPC)対策の実施の遅れと関連しています。したがって、医療施設におけるMERS-CoVのヒト-ヒト感染の可能性を防ぐためには、IPC対策が重要となります。医療従事者は、診断にかかわらず、すべての患者に対して常に標準予防策を一貫して適用する必要があります。急性呼吸器感染症の症状を有する患者の治療を行う場合は、標準予防策に飛沫予防策を追加し、MERS-CoV感染の疑い症例または確定症例の治療を行う場合は、接触予防策と眼の保護を追加し、エアロゾルを発生させる処置を行う際は、空気感染予防策を講じる必要があります。
 
MERS-CoVのヒト-ヒト感染は、早期発見、症例の管理、隔離、接触者の隔離に加え、適切な感染予防管理(IPC)対策と公衆衛生意識の向上によって防ぐことができます。
 
MERS-CoVは、糖尿病、腎不全、慢性肺疾患、免疫不全等の基礎的な慢性疾患を有する人々に対して、より重篤な病態を引き起こします。したがって、これらの基礎疾患を有する人々は、ウイルスが潜在的に伝播している農場、市場、家畜小屋等を訪れる際に、動物(特にヒトコブラクダ)との濃厚接触を避けるべきです。動物に触れる前後には必ず手を洗い、病気の動物との接触を避けるなど、一般的な衛生対策を遵守してください。
 
食品衛生の手技は、遵守する必要があります。ラクダの生乳や尿を飲むことは避け、適切に加熱調理されていないラクダの肉を食べることも避けるべきです。
 
WHOは、この事象に関して入国地点での特別なスクリーニングは勧告しておらず、現時点ではいかなる渡航や貿易の制限も推奨していません。
 

出典

Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV) - Saudi Arabia
Disease Outbreak News: Update 17 August 2021
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2021-DON333

翻訳協力:関西空港検疫所