マールブルグ病ーギニア

Disease outbreak news   2021年9月17日

2021年9月16日、ギニア保健省は、ギニア南西部のンゼレコレ(Nzérékoré)州ゲケドゥ(Guéckédou)県におけるマールブルグ病流行の終息を宣言しました。この宣言はWHOの推奨通り、安全と患者の尊厳に十分配慮した葬儀と埋葬の42日後に発出されました。今回の報告は、ギニアにおいて初となるマールブルグ病の症例となりました。
2021年8月3日から、流行終息宣言までの間の確定例は1名のみです。男性患者の症状の出現は7月25日で、8月1日に患者は発熱・頭痛・倦怠感・腹痛と歯肉出血を主訴に居住する村の近郊の小さな医療機関を受診しました。マラリアの迅速診断検査は陰性で、患者は補液と対症療法による外来での支持療法を受けました。帰宅後状態は悪化し、同月2日に患者は死亡しました。その後、県保健所からゲケドゥ(Guéckédou)県の県保健局にアラートが出されました。調査チームは直ちに村に派遣されて詳細な調査を行い、死後の口腔スワブの検体を採取し、同日中にゲケドゥ(Guéckédou)市のウイルス性出血熱研究所に送付しました。8月3日、このサンプルは逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によりマールブルグウイルス陽性、エボラウイルスは陰性であることがが確認されました。亡くなった患者さんは、8月4日、赤十字社の支援のもと、安全かつ尊厳をもって埋葬されました。
 
8月5日、検体が首都コナクリ(Conakry)の国立研究所に提供され、リアルタイム PCR検査でマールブルグウイルス陽性が確認されました。8月9日にはセネガルのパスツール研究所ダカール支部で検査が実施され、マールブルグウイルス陽性とエボラウイルス陰性の検査結果が再確認されました。

公衆衛生上の取り組み

ギニア保健省は、国家および地区の緊急管理委員会の活動をスタートさせ、対応の調整と地域社会への働きかけを行いました。また、WHO、米国疾病予防管理センター(CDC)、国際医療活動同盟(ALIMA, The Alliance for International Medical Action)、赤十字社、ユニセフ、国際移住機関、その他のパートナーと協力して、医療施設やコミュニティレベルでの接触者追跡や積極的な症例探査の実施など、流行の抑制とさらなる拡大の防止に向けた対策を講じました。
 
今回の流行では、死亡した確定症例が1名(CFR=100%)、接触者173名確認され、そのうち14名は曝露による高リスク接触者でした。そのうち172名が21日間の追跡調査を受け、そのうち1人も症状が出ませんでした。高リスク接触者のうち1名は追跡調査ができませんでした。ゲケドゥ(Guéckédou)県のさまざまな入国地点で乗客を検査しましたが、アラートは発生しませんでした。
 
現在進行中の活動は以下の通りです。

・ Temessadou M´Boké地域、Baladou Pébal地域、クンドゥ(Koundou)の各地域でコウモリの捕獲とサンプリングを行い、マールブルグウイルスの生態へのコウモリの関与について理解を深める
・ クンドゥ(Koundou)県における血清サーベイランスプロトコルの開発
・ 国や施設レベルでの感染予防管理(IPC)プログラムを強化するための計画の策定と実施(IPC担当者の設置と指導、IPC/衛生委員会、医療従事者の継続的なトレーニング、個人防護具(PPE)などの消耗品の適切な調達と配布など)
・ パートナーと協力して、保健施設やコミュニティでの水・衛生対策の実施
・ ゲケドゥ(Guéckédou)県のコミュニティにおけるサーベイランス体制のトレーニングの支援
・ 健康上の緊急事態への備えと対応のための行動計画の一環としての、ゲケドゥ(Guéckédou)県におけるリスクコミュニケーション活動と地域社会動員活動

WHOによるリスク評価

マールブルグウイルス感染症(MVD)は、高い致死率(CFR24~90%)を伴う流行性疾患です。また、MVDは疾患の初期段階では、臨床症状の類似性から他の多くの熱帯熱性疾患との区別は非常に困難です。除外するべき鑑別診断は、エボラウイルス病(EVD)、マラリア、腸チフス、レプトスピラ症、リケッチア感染症、ペストなどがあります。MVDは、感染者や感染動物(猿やフルーツコウモリなど)の血液や体液、組織との直接的な接触で感染します。
 
現在感染源の特定に向けた調査が行われています。ギニアは、EVDやラッサ熱などのウイルス性出血性疾患の対応経験がありますが、MVDが報告されたのは今回が初めてでした。同国では、疾病の発生、COVID-19のパンデミックに加え、マラリア・黄熱病・麻疹・ラッサ熱・EVDなどの伝染病、医療関連感染症、高い急性栄養失調率、洪水などの周期的な自然災害、社会的政治的不安定などの脅威が繰り返されているため、医療システムが脆弱です。
 
ギニア保健省は今回の事例に迅速に反応し、流行を制御するための対応策を早期に打ち出しました。ギニアと隣国のシエラレオネ、リベリアとの間では、国境を越えた人口移動や混ざり合ったコミュニティにより、国境を越えた感染拡大のリスクが高まりました。シエラレオネとリベリアの保健当局は、ギニアとの入国地点で危機管理計画を発動し、公衆衛生対策を開始しました。
 
感染症の発生した村は、シエラレオネとの国境に位置する遠隔地の森林地帯にあり、両国間の主要な国際国境通過点から約9km離れています。被災地が国際国境に近いこと、被災地とシエラレオネの間で国境を越えた移動があること、コウモリの群れと人間の間でウイルスが感染する可能性があることから、国境を越えた感染拡大のリスクが高まっていました。
 
また、ゲケドゥ(Guéckédou)県はリベリアのフォヤ(Foya)地区やシエラレオネのカイラフン(Kailahun)地区と密接な関係にあることから国家レベル・地域レベルでも感染拡大リスクは高い状況で、今回の流行では、国際的な支援団体の援助を受けて、迅速かつ協調的な対応が必要でした。一方、世界レベルでの感染拡大リスクは低いと評価されました。

WHOからのアドバイス

マールブルグウイルスのヒトからヒトへの感染は、主に感染者の血液や体液との直接的な接触に関連していますが、適切な感染予防策が実施されていない場合には、医療の提供に伴うマールブルグウイルスの感染が報告されています。
 
マールブルグウイルス感染が疑われる、または陽性が確認された患者をケアする医療従事者は、血液および/または体液への曝露や、汚染された可能性のある環境への無防備な接触を避けるために、標準的な感染予防管理(IPC)を適用する必要があります。感染予防管理には以下のものがあります。
・ 疑いのある症例の早期発見(スクリーニング、トリアージ)と隔離
・ 適切な隔離能力(インフラや人材を含む)
・ 医療従事者の手指衛生対策(石けんや水、またはアルコール系手指消毒剤など)
・ 医療従事者への適切で利用しやすい個人用防護具(PPE)の準備
・ 安全な感染症対策(針の単回使用が重要)
・ 医療機器の除染・滅菌のための手順とリソースの確保
・ 感染性廃棄物の適切な管理

IPCスコアカードを用いて被災地の医療施設の感染予防管理を評価した結果、スコアは最適ではなく、新興・再興感染症に対する将来的な備えを支援・強化するためには、感染予防管理の最低要件の実施に加えて、医療現場での感染予防管理実施のための継続的な支援監督・指導が必要であることが明らかになりました。
 
コミュニティベースのサーベイランスを含む、統合的な疾病サーベイランスおよび対応活動は、被災したすべての保健区域において引き続き強化されなければいけません。
 
マールブルグ病の危険因子と、ウイルスへの曝露を減らすために個人ができる防護策についての認識を高めることが、人への感染と死亡を減らすための重要な対策です。主な公衆衛生コミュニケーションメッセージは以下の通りです。
・ 感染した患者との直接の接触、特に体液との接触によって生じる、地域社会でのヒトからヒトへの感染のリスクを低減すること
・ マールブルグ病に感染しているの患者との密接な身体的接触を避けること
・ 自宅で発病した疑いのある患者は、自宅で管理するのではなく、治療と隔離のために直ちに医療施設に移すべきである。この移送の間、医療従事者は適切なPPEを着用すること
・ 入院中の親族を見舞った後は、定期的に手洗いを行うこと
・ マールブルグの影響を受けたコミュニティは、さらなる感染やコミュニティへの偏見を避けるために、病気そのものの性質についても、住民に十分な情報を提供し、治療センターへの早期の受診を促し、死者の安全な埋葬を含むその他の必要な流行の封じ込め策を講じるよう努力すべきこと。マールブルグ病で死亡した人は、速やかに安全に埋葬しなければなりません。

フルーツコウモリ、サル、類人猿との接触など、野生動物から人への感染のリスクを減らすためには以下を守ります。
・ 野生動物の取り扱いには、手袋やその他の適切な防護服を使用する
・ 動物性食品(血液や肉など)は、食べる前に十分に加熱し、生肉の摂取を避けること
・ フルーツコウモリの生息する鉱山や洞窟での作業や研究活動、観光の際には、手袋やマスクなどの適切な防護服を着用すること

出典

Marburg virus disease – Guinea
Disease Outbreak News 17 September 2021
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/marburg-virus-disease---guinea