ニパウイルス感染症 - インド

Disease outbreak news   2021年9月24日

2021年9月4日、インド・ケララ(Kerala)州保健局は、インド・ケララ (Kerala) 州コジコード(Kozhikode)地区でニパウイルス病の単独症例を報告しました。ニパウイルス病は比較的致死率が高く、 WHO の東南アジア地域および西太平洋地域において公衆衛生上重要な新たな人獣共通感染症です。インドでは今回が5回目の発生となります。
 
8月29日、12歳の男児が微熱を発症し、家族に連れられて地元の医療施設で治療を受けました。8月31日、病状が悪化したため、複数の病院へ転院を繰り返しました。9月1日、患者の状態はさらに悪化し続けたため、家族はコジコード(Kozhikode) の別の病院への転院を希望しました。
 
9月3日、血漿・血清・脳脊髄液の検体がインドのプネ(Pune)にある国立ウイルス研究所に送られました。9月4日、血漿・脳脊髄液・血清中のニパウイルスの存在がリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)で確認され、血漿中のIgM抗体がELISA血清検査で確認されました。9月5日、患者は死亡し、同日、コジコード(Kozhikode)で安全な埋葬と火葬が行われました。
 
9月6日時点で、疫学調査により、医療従事者や近親者などの接触者が特定され、隔離されました。

公衆衛生上の取り組み

以下の公衆衛生上の対応が実施されました。
 
・ケララ(Kerala) 州政府は、対応策を計画・実行するために、保健省の上級職員による会議を開催
・地区中核委員会が結成され、すべての関係者に向けて、地区におけるニパウイルス感染症に対する行動計画を発表
・インド国立疾病管理センターから学際的なチームがケララ (Kerala) 州に派遣され、技術支援を行う。積極的に症例を見つけるなどの公衆衛生上の緊急措置を、家族や病院や村、また、特に地形が似ているコジコード (Kozhikode) 地区の南東に位置するマラップラム(Malappuram)地区で実施
・市民に対して、ニパウイルス感染症の感染と予防策に関するリスクコミュニケーションメッセージを通知
・ケララ(Kerala) 州当局は、ケララ (Kerala) 州に接するカルナタカ(Karnataka)州のマイソール(Mysuru)・マンガルール(Mangaluru)・チャーマラージャナガラ(Chamarajanagar)・コダグ(Kodagu)の各地区にアラートを発令
 

WHOによるリスク評価

ニパウイルス感染症は、WHOの東南アジアおよび西太平洋地域において公衆衛生上重要な新興の人獣共通感染症であり、この地域には、ウイルスの自然宿主であるオオコウモリ属フルーツコウモリ(Pteropus fruit bats)が広く生息しています。1998年にマレーシアで初めて流行が発生し、その後の流行もすべてがアジア地域(インド、バングラデシュ、マレーシア、シンガポール)で発生しています。感染経路は、感染した動物との直接的な接触、汚染された食品の摂取、感染者との濃厚接触などです。これまでの流行は、冬から春にかけての季節的なパターンがあり、コウモリの繁殖期やコウモリによるウイルス排出の増加、果物の収穫期などのいくつかの要因と関連しています。致死率は40~100%です。
 
インドでは、2001年にシリグリ(Siliguri)町で最初のニパウイルス感染症の発生が報告され、その後、2007年にナディア(Nadia)地区で2回目の発生が報告されました。両地区はいずれも西ベンガル(West Bengal)州にあります。2018年にはコジコード(Kozhikode) 地区で、2019年にはコチ(Kochi)地区での発生が報告されており、いずれもケララ州での発生となっています。ケララ州での2018年の発生源は、オオコウモリ(Pteropus spp.)だと推定されています。
 
今回の症例は、2018年に前回の発生が報告されたケララ州の農村地域で報告されました。インドは過去にもニパウイルス感染症の発生と事態の収束を経験しており、症例の特定・ラボでの検査・症例の管理・接触者の追跡・リスクコミュニケーションなどのアウトブレイクコントロール活動を実施する能力を実証済みです。今回の事象は単独の症例であり、リスクは国レベル、地域レベルで共に低いと考えられます。
 

WHOからのアドバイス

ニパウイルス感染症には、認可されたワクチンや治療法はありませんが、治療のための実験的なモノクローナル抗体が開発されており、コンパッショネート使用(人道的使用)が認められています。症例管理は、患者への支持療法に重点を置くべきです。重度の呼吸器系および神経系の合併症を持つ患者には、集中的な支持療法が推奨されます。
 
イヌ、ネコ、ヤギ、ヒツジ、ウマなど数種の家畜の間でもニパウイルス感染症の発生が確認されています。ニパウイルス感染症は、流行地域でコウモリや病気の動物との接触を避ける、コウモリが部分的に食べた果物の摂取を避ける、生のナツメヤシの樹液/ヤシ酒(toddy)/ジュースの飲用を避けることで予防することができます。ニパウイルスに感染したオオコウモリの尿や唾液で汚染された生のナツメヤシの果実やその果実や使った製品である樹液/ヤシ酒(toddy)/ジュースなどを介した感染や国際的な感染伝播のリスクは、食べる前に製品をよく洗い、皮をむくことで防ぐことができます。
 
医療現場では、スタッフは院内感染を防ぐために、患者のケアをする際に標準的な感染予防・管理策を一貫して実施する必要があります。ニパウイルス感染症の疑いのある患者をケアする医療従事者は、直ちに地域や国の専門機関に連絡して指導を受け、検査を実施してください。
 
ニパウイルス感染症が確認された症例および疑いのある症例に対しては、安全かつ尊厳の守られた埋葬を行う必要があります。
 
WHOは、今回の事態に関連する現在の情報に基づいて、インドへの旅行および貿易のいかなる制限も行わないよう助言しています。

出典

Nipah virus disease – India
Disease Outbreak News 24 September 2021
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/nipah-virus-disease---india