髄膜炎 - コンゴ民主共和国

Disease outbreak news   2021年9月20日

 2021年7月初旬、コンゴ民主共和国(DRC)北東部に位置する ツォポ(Tshopo)州保健局に疫病発生の疑いがあるとのアラートが報告されました。最初のアラートは、発熱・頭痛・首のこりなどの症状を呈し、時に血の混じった下痢症状のある患者における死亡例が増加したことに端を発します。血液と便の検体が採取され、エボラウイルス病・赤痢・サルモネラ症の検査が実施されました。8月19日、キンシャサ(Kinshasa)にある国立生物医学研究所(INRB)の研究所では、これらの検査は陰性でした。
 
髄膜炎が疑われたため、9月16日の時点で、脳脊髄液(CSF)合計37検体がキサンガニ(Kisangani)の大学病院の研究所からキンシャサ(Kinshasa)のINRB研究所に送られました。このうち7検体は、9月1日にキンシャサ(Kinshasa)からパリのパスツール研究所に送られ、9月6日に逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)により髄膜炎菌であることが確認されました。9月6日から13日にかけて、これらのサンプルに対して追加検査(血清型別法)が行われ、パリのパスツール研究所のラボでは血清群Wと同定されました。残りの30検体についても、パリのパスツール研究所に送られる予定です。
 
抗菌薬感受性試験の結果、この菌株はセフトリアキソンに感受性があることが判明しました。遡及的な予備調査によると、このアウトブレイクは、ツォポ(Tshopo)州の州都キサンガニ(Kisangani)の北部にあるバナリア(Banalia)保健区域 の2つの鉱山地帯で6月初旬に始まったことが示唆されました。このアウトブレイクは現在も継続しており、症例の報告が続いています。
 
2021年9月18日現在、バナリア(Banalia)保健区域では、髄膜炎の確定症例12例を含む合計608例の疑い例と161例の死亡例(致死率26%)が報告されています。これらの症例のうち、68%(416/608症例)が15歳以上です。さらに、バナリア(Banalia)にある20の保健地区のうち16の各保健地区で、髄膜炎の疑いのある症例が少なくとも1件以上報告されています。
 

公衆衛生上の取り組み

コンゴ民主共和国の保健当局は、WHOと連携して流行への対応を支援しています。 対応策は以下の通りです。
 
・地元の健康危機管理委員会は、州レベルおよびバナリア(Banalia)保健地区での流行への対応を調整するための定例会議を実施
・髄膜炎の血清群W型に対して有効な抗原を含むワクチンによる、髄膜炎に対する予防接種キャンペーンを計画
・疫学的な関連性を判断するため、コミュニティレベルでの詳細な調査を継続
・採掘場や地域コミュニティでの接触者や疑い症例を積極的に探索
・コミュニティにおけるサーベイランスの強化
・被災地での症例管理・検体採取・感染予防や管理(IPC)対策を支援するため、移動診療所を準備
・国際調整グループ(ICG)によるセフトリアキソン5000回分の追加供給で抗生物質の在庫を強化
・リスクコミュニケーション活動の実施

WHOによるリスク評価

2015年以降、コンゴ民主共和国(DRC)では髄膜炎の疑いのある症例が多く報告されています。同国の一部はアフリカの髄膜炎ベルト[1]に属しており、細菌性髄膜炎が流行しているほか、毎年6000~1万件の疑似症例が報告されています。しかし、毎年、検査などで確認される症例はごく一部(0~2%)にすぎません。
 
2021年1月1日から8月1日までにコンゴ民主共和国(DRC)から報告された疑いのある症例は累計3,842件で、そのうち189人が死亡しており、致死率は5%でした。
 
アフリカの髄膜炎ベルトに位置するツォポ(Tshopo)州では、直近では2009年11月に髄膜炎の地域的流行が報告され、214の症例と18の死亡症例が発生しています(致死率8%)。2016年5月、同州では髄膜炎血清群A型の予防接種キャンペーンが実施され、1歳から29歳までの約170万人がワクチンを接種しました。それ以降、同州では統合的疾病サーベイランスの一環として受動的サーベイランスが実施されています。
 
髄膜炎菌性髄膜炎は、未治療の場合最大50%の高い致死率と重篤な後遺症(10%以上)が発生する疾病です。今回の流行では、すでに608人が感染し、161人が死亡しています。細菌性髄膜炎の感染力と致死率の高さから、今後も症例数と死亡数ともに増加が予想されます。
 
保健地区内において可能な、多くの地域へのアクセスに加えて、物流面での課題が、適切な対応の実施をさらに妨げています。
 
また、コンゴ民主共和国内ではCOVID-19パンデミックへの対応が行われており、保健システムや疾病監視能力に影響が出ているほか、国内で発生している他の疫病の存在も、髄膜炎の発生に対応するためのリソースを制限する要因となっています。
 
国レベルでは、流行地と国内の他地域との間で人々が移動しているため、流行が他の保健区域やチョポ(Tschopo)州の州都であるキサンガニ(Kisangani)市に広がる危険性が高いです。
 
地域レベルでは、中央アフリカ共和国とツォポ(Tshopo)州の住民が国境を越えて移動していること、バナリア(Banalia)では100以上の採掘場があり、近隣の州や中央アフリカ共和国の人々が仕事のために出入りしていることなどから、リスクは中程度と評価されています。一方で、COVID-19に対する国境を越えた対策により渡航は制限されており、症状のあるケースの検出を強化する側面もあります。
 
世界レベルでのリスクは低いと評価されています。

WHOからのアドバイス

現在の流行に効果的に対処するためには、国の対応能力を強化し、診断のために必要な手段を提供する必要があります。十分なロジスティックス、医療従事者への症例識別と報告に関する適切なトレーニングに加え、流行の影響下にある保健地区において髄膜炎の感染を防ぐための対策、どのような症状に注意すべきか、いつ医療機関を受診すべきかについて、地域住民の意識を高めるためのリスクコミュニケーションの実施が必要です。また、地域社会全体でのサーベイランスと髄膜炎を検出する検査能力を強化することも重要です。
 
さらに、リスクの高い人々を対象とした髄膜炎血清群W型ワクチンの迅速な接種キャンペーンを計画し、実施する必要があります。
 
当局は、セフトリアキソンを用いた臨床管理を強化し、患者と家族に心理社会的ケアを提供し、感染中および感染後の後遺症を有する患者の経過観察も行う必要があります。
 
WHOは、今回の流行に関する情報に基づく限り、コンゴ民主共和国への渡航および貿易を制限することは推奨していません。
 
[1] サハラ以南のアフリカで、髄膜炎の発生率が非常に高い地域。セネガルからエチオピアまでの地域を指す。

出典

Meningitis - Democratic Republic of the Congo
Disease outbreak news 20 September 2021
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/meningitis---democratic-republic-of-the-congo