黄熱 - ナイジェリア

Disease outbreak news   2021年10月1日

2017年9月以降、ナイジェリアの複数の州で黄熱病患者が報告されています。2021年1月1日から8月31日までに、36の州と連邦首都圏(FCT)の367の地方自治区(LGA)で、合計1,312人の疑いのある症例が報告されました。
 
合計45の血液検体がダカールのパスツール研究所(IPD)に送られ、31検体がプラーク減少中和試験(PRNT)で陽性となりました。このPRNT陽性の31例のうち、12例に黄熱ワクチンの接種歴がありました。ワクチン接種を受けていない残りのPRNT陽性例19名のうち、2名の死亡が報告されました(致死率:11%)。この19人のPRNT陽性者は、エヌグ(Enugu)州(7例)、アナンブラ(Anambra)州(3例)、ベヌエ(Benue)州(3例)、デルタ(Delta)州(2例)、オヨ(Oyo)州(2例)、ナイジャ(Niger)州(1例)、オスン(Osun)州(1例)から報告されました。PRNT陽性の症例については、現在調査中です。
 
ナイジェリアでは、黄熱病に対する住民の免疫力に格差があることが明らかになっています。 WHO-UNICEFの2020年の推計によると、2020年の黄熱の国内予防接種率は54%で、流行を防ぐのに必要な値である80%を下回っています。PRNT陽性例を報告している9つの州では、定期的な予防接種率が2018年から2020年の間に低下し、2020年には80%を下回っていました。 これらの州には、アナンブラ(Anambra)、ベヌエ(Benue)、デルタ(Delta)、エヌグ(Enugu)、イモ(Imo)、ナイジャ(Niger)、オンド(Ondo)、オスン(Osun)、オヨ(Oyo)が含まれます。また、アナンブラ(Anambra)、デルタ(Delta)、エヌグ(Enugu)、イモ(Imo)、オスン(Osun)、オヨ(Oyo) の6つの州で予防接種率が50%を下回ったと報告されています。
 
2019年から2020年にかけて、9つの州のうち6つの州(すべてLGA=地方自治区)で予防的な集団予防接種キャンペーンが実施されました。接種率は、デルタ(Delta)州とオンド(Ondo)州では高い(90%以上)が、アナンブラ(Anambra)州、ベヌエ(Benue)州、ナイジャ(Niger)州、オスン(Osun)州、オヨ(Oyo)州では低い(80%未満)と報告されました。さらに、エヌグ(Enugu)州では、2020年に17の地方自治区のうち9つで対処的な集団予防接種キャンペーンを実施しました。一方イモ(Imo)州においては近年、集団予防接種活動は行われていません。
 
さらに、黄熱病のサーベイランスは最適ではありません。疑い症例のすべてが記録されておらず、推定陽性症例は必ずしも調査されておらず、確定症例の調査や確定検査の結果も遅れています。さらに、検査結果の解析や症例の確認に重要な予防接種の状況が、調査の一環として報告されないこともあります。
 

公衆衛生上の取り組み

黄熱病の対応活動は、ナイジェリア疾病対策センター(NCDC)が複数機関の黄熱病技術作業部会(Yellow Fever Technical Working Group)を通じて調整しています。現在の対応は以下の通りです。
 
・ 全州に黄熱病への備えと対応のガイドラインを配布
・ ナイジェリア大学エヌグ教育病院(University of Nigeria Teaching Hospital Enugu)とベニン大学ベニンシティ教育病院(University of Benin Teaching Hospital Benin City)で、南東と南南の地政学的ゾーンを対象とした黄熱IgM検査をそれぞれ開始
・ 黄熱病に関する情報・教育・コミュニケーションのための資料を増刷し、配布
・ 黄熱病の識別・管理・記録・報告に関する医療従事者のトレーニングのための黄熱トレーニングマニュアルの作成を継続
・ 黄熱病関連のサインを検出するため、ソーシャル・メディアや従来のメディア等を日常的かつ継続的に監視
・ 対応活動の指針とするために、全国のサーベイランスデータを毎週監視・分析
・ リアルタイムな報告をかのうとするために、影響を受けたすべての州における監視・発生対応管理システム(SORMAS)の効果的な使用をモニター
・ 第4四半期、2021年11月にアビア(Abia)州、エボニ(Ebonyi)州、イモ(Imo)州、タラバ(Taraba)州、ボルノ(Borno)州の一部の区や地方自治区で実施される黄熱病予防の集団予防接種キャンペーンの計画会議において、国立プライマリーヘルスケア開発機構を支援
・ 影響を受けた州から国立検査機関へのサンプル収集と輸送の調整、およびすべての検査機関での黄熱病サンプルの定期的な検査の実施。さらに、すべての検査施設で試薬や消耗品を確保
・ 各州の疫学者らと連携して、毎週最新情報を提供する予定
 

WHOによるリスク評価

ナイジェリアは黄熱病の高リスク国であり、世界的な黄熱病流行の撲滅戦略(Eliminate Yellow Fever Epidemics=EYE)の優先度の高い国として認識されています。ナイジェリアでは2017年9月に黄熱病が再流行し、地理的に広い範囲でアウトブレイクが発生しています。感染を防ぐためには、ワクチン接種とベクターコントロール(媒介害虫駆除)戦略の組み合わせが最も重要な手段となります。ナイジェリアでは黄熱病が流行しており、ほとんどの州や国全体としても予防接種の普及率が低いため、感染拡大のリスクが高くなっています。昆虫学的な調査では、国内のいくつかの州で媒介害虫であるネッタイシマカ(Aedes aegypti)とAedes africanus(ヤブカの一種)の存在が確認されています。
 
定期予防接種率が低いことに加えて、流行時対応の集団予防接種活動が十分に行われていないことから、影響を受けやすい集団におけるリスクが継続しており、公衆衛生に深刻な影響を与える可能性があります。
 
このリスクに対処するため、同国は、黄熱病流行の撲滅戦略 (EYE)とグローバルパートナーを通じた支援により、生後9カ月から44歳までのすべての対象者を対象とした予防的集団予防接種キャンペーンを完了させるための複数年計画に取り組んでいます。2017年以降、連邦首都圏(FCT)を含む36州のうち、合計22州がこれらのキャンペーンを完了しています。国と州の公衆衛生当局は現在、いくつかの同時多発的なアウトブレイク(COVID-19パンデミック、ラッサ熱、広範囲にわたるコレラの流行)に対応しており、利用可能な限られたリソース、特に調査や対応活動を行うための人的リソースに負担がかかっています。さらに、COVID-19対策が最近緩和されたことで、人口の移動が活発になり、黄熱病が都市部に広がる潜在的なリスクが高まっている可能性があります。

WHOからのアドバイス

黄熱病は、感染した蚊によって媒介される急性ウイルス性出血性疾患で、急速に広まり、公衆衛生に深刻な影響を与える可能性があります。この病気は、1回の黄熱ワクチンの接種で予防でき、生涯にわたって免疫を得ることができます。特効薬はありませんが、脱水、呼吸不全、発熱に対する支持療法と、関連する細菌感染に対する抗菌薬の投与は、死亡率を低下させることができるため推奨されます。蚊に刺されて他の人に感染するリスクを抑えるため、ウイルス血症を示す患者は日中は蚊帳の中で過ごす必要があります。
 
ナイジェリアの予防接種拡大計画では、2004年に黄熱ワクチンが定期接種に導入されました。しかし、黄熱ワクチンの接種率が低いため、国内のほとんどの地域で集団免疫が得られる接種率(80%以上)を下回っています。ナイジェリアでは2018年にEYE戦略が開始されましたが、国や自治体レベルでの接種率は低いままです。ナイジェリアでは黄熱病の予防キャンペーンが6段階で実施されています。2024年までにこれらの予防接種キャンペーンを加速させ、全国で完了させることが目標とされています。
 
ナイジェリアでは黄熱病が流行しているため、EYE戦略の優先国となっています。段階的なワクチン接種キャンペーンは、2024年までに国全体をカバーするようスピード感を持って計画されています。ワクチン接種は、黄熱病の予防と制御のための主要な手段です。都市の中心部では、対象となるベクターコントロール(媒介害虫駆除)対策も感染を阻止するのに有効です。WHOとパートナー組織は、現在のアウトブレイクを抑制するために、地元当局がこれらの介入策を実施することを引き続き支援していきます。
 
WHOは、ナイジェリアに入国する生後9ヶ月以上の旅行者全員に、黄熱病の予防接種を推奨しています。ナイジェリアでは、入国の条件として、生後9ヶ月以上のすべての旅行者に黄熱病の予防接種証明書を要求しています。
 
WHOが推奨する黄熱病ワクチンは、安全で非常に有効性が高く、生涯にわたって感染を防ぐことができます。国際保健規則(IHR 2005年)によると、黄熱病の国際予防接種証明書の有効期限は、WHOが承認したワクチンを接種した人の生涯に渡って有効となっています。海外からの旅行者に対して、入国条件として承認された黄熱ワクチンの追加接種を求めることはできません。
 
WHOは加盟国に対し、旅行者に黄熱病のリスクとワクチン接種を含む予防策を十分に知らせるために必要なあらゆる措置をとることを奨励しています。また、旅行者には黄熱病の症状や兆候を知ってもらい、兆候が見られた場合には速やかに医師の診察を受けるように指導しておくべきです。ウイルス血症を呈している帰国者は、黄熱病の媒介蚊が存在する地域において、黄熱病の感染サイクルを作り出してしまうリスクがあります。
 
黄熱病感染のリスクがある地域と、海外旅行者へのワクチン接種に関する関連勧告は、2020年7月1日にWHOによって更新され、WHO International Travel and Healthのウェブサイトで公開されています。
 
WHOは、今回のアウトブレイクに関する情報に基づいて、ナイジェリアへの旅行や貿易のいかなる制限も推奨していません。
 

出典

Yellow Fever – Nigeria
Disease Outbreak News: 1 October 2021
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/yellow-fever-nigeria