ペストーマダガスカル

Disease outbreak news   2021年10月1日

2021年8月29日、マダガスカル保健省の公衆衛生・疫学監視・対応部門は、イタジー(Itasy)地域のアリヴォニマモ(Arivonimamo)保健地区から、Miandrandraの自治体で発生した地域住民の死亡が疑われる事例と、肺ペストの疑いのある事例15件に関する報告を受けました。症例はすべて、発熱、頭痛、衰弱、息切れ、胸痛、咳を呈していました。マダガスカルではペストが風土病となっており、周期的に発生していますが、すべての発生が懸念材料となっています。さらに、肺ペストは2005年の国際保健規則で届出対象疾患となっています。
 
翌8月30日までに、イタジー(Itasy)地域のアリヴォニマモ(Arivonimamo)地区から25件の肺ペストの疑い症例が保健当局に通知され、そのうち6名が死亡し(地域住民の死亡が3名、Miandrandra医療機関での死亡が3名)、そのうち19名が治療のためにMiandrandraの医療機関に入院しました。同日、計20検体(喀痰8、血液12)が採取され、マダガスカル・パスツール研究所で検査確認が行われました。
 
2021年9月15日現在、ペストの疑い症例が計20例、確定症例が計22例通知されています。症例の年齢中央値は36歳(範囲3~74歳)で、22症例が男性、20症例が女性です。報告された症例は、地理的には互いに接していない2つの地域、イタジー(Itasy)(アリヴォニマモ(Arivonimamo)地区内の3市町村)とオートマティアトラ(Haute Matsiatra)(アンバラボー(Ambalavao)地区内の1市町村)で発生しています。両地域はペストの流行地として知られており、2017年の大流行時にはアンバラボー(Ambalavao)を中心に大きな被害を受けました。
 
確定症例のうち、19人が肺ペスト、3人が腺ペストの臨床症状を呈しました。うち8人が死亡し(腺ペスト症例が2人、肺ペストが6人)、致死率は37%(8/22)でした。そのうち、男性4名、女性4名で、3名は市中感染として、5名は院内感染として発生しました。
 
全体として、1,064人の濃厚接触者が特定され、フォローアップされ、コトリモキサゾールまたはドキシサイクリンによる予防的投薬を受けました。症例が報告されているすべての保健地区で、地域社会での積極的な症例捜索が行われました。保健当局は、8月30日のマダガスカル・パスツール研究所と共同の初動調査の際にアリヴォニマモ(Arivonimamo )地区では動物サーベイランスも行いました。
予備的な結果として、原因菌であるエルシニア・ペスティスの保菌がネズミの1.3%に認められ、注意喚起の基準値である1%を超えていましたが、pulicidal指数(捕獲したネズミから集めたノミの総数を捕獲したネズミの総数で除したもの)は1.7で、警戒喚起の基準値である5以上は超えていませんでした。また、流行地域の一部であるヴァキナンカラトラ(Vakinakaratra)地域のファラシオ(Faratsiho)とアナラマンガ(Analamanga)地域のベサレティー(Besarety)でも分析を行った結果、 Pulicidal指数はそれぞれ3.1、3.2となりました。
 

公衆衛生上の取り組み

肺ペストの発生に対する介入は、地区および地域チームの監督のもと、コミュニティレベルの地域チームによって行われています。これらのチームは、中央レベルの保健省、マダガスカル・パスツール研究所、WHOを含む多くのパートナーの支援を受けています。今回のアウトブレイクの管理・制御のために取られた措置と実施された活動は以下の通りです。
 
診断と症例管理
・ 疑いのある症例からの検体の収集、迅速診断検査の実施、さらなる分析と確定診断のためにマダガスカル・パスツール研究所への検体の輸送
・ 医療機関で報告された症例の管理
・ ペスト症例の管理に関する医療従事者のトレーニング
 
調整
・ 症例が報告された地域におけるペスト対策委員会の活性化
 
疫学とサーベイランス
・ 積極的な症例の発見、濃厚接触者の積極的な探索、その後の薬剤投与での発症予防を実施(第一選択薬としてコトリモキサゾールを使用。スルホンアミド系薬剤禁忌症例の場合はドキシサイクリンを使用)
・ 地域社会でのサーベイランスと医療機関でのサーベイランスの強化
・ 動物モニタリング
 
予防のための措置
・ 感染者の家庭の消毒:感染者の家庭に消毒剤としてHTH(次亜塩素酸カルシウム)溶液を噴霧する
・ 媒介生物コントロールとリザーバー対策
 
コミュニティへの参加と対話
・ 流行地でのペスト予防対策、どのような症状に注意すべきか、いつ医療機関を受診すべきかについて住民の意識改革を実施

WHOによるリスク評価

ペストはマダガスカルの風土病で、毎年、腺ペストと肺ペストの症例がともに報告されています。ペストは一般的に9月から4月までが流行時期です。症例は通常、標高700メートル以上の中央高地で報告され、現在はイタジー(Itasy)とオートマティアトラ(Haute Matsiatra)の地域で発生しています。毎年、公衆衛生省に報告されるペストの症例数は200~400件で、主に腺ペストが主流です。
 
2017年には肺ペストが流行しましたが、その規模の大きさと国内の主要都市に影響を与えた都市型の特徴は珍しいものでした。
 
この形のペストは非常に重篤で、迅速に治療しないとほとんどの場合、致命的です。感染者が排出する飛沫を吸い込むか、未治療の腺ペストの結果、細菌が肺に波及することで発症します。
 
マダガスカルは、ペストの発生に対応してきた長い歴史があります。ペストの予防と制御のための国家戦略など、いくつかの予防・対応計画をすでに採用しています。しかし残念なことに、マダガスカルの財政能力の低さが、十分な準備・対応戦略の確立を妨げています。COVID-19のような他の疫病の存在や、国の南部で進行中の人道的な栄養・食糧危機は、医療システムに負担をかけ、他の危機に対処する国の能力を低下させています。流行地は地理的に首都に近く、住民の移動によって都市部や他の地域に病気が広がるリスクが高まっています。
 
このように、国レベルでのリスクは高いと考えられますが、地域や世界レベルでは、ペストが他国に輸出された歴史が知られていないため、このリスクは低いと考えられます。さらに、マダガスカルは島国であるため、こうした対応策の実施は症例の輸出を防ぐ上で特に効果的です。

WHOからのアドバイス

WHOはペストの発生管理のために、以下の行動を推奨しています。
 
感染源を見つけて排除する:人の症例が報告されている地域で、最も可能性の高い感染源を特定する。一般的には、小動物が大量に死亡した地域が集まっている場所を探す。感染を防ぎ、対抗するための適切な手順を導入する。媒介生物とげっ歯類の駆除。げっ歯類の駆除は、効果的な消毒方法が実施された後に行うべきです。
 
医療従事者の保護:医療従事者に情報を提供し、感染予防と対策のためのトレーニングを行う。肺ペストの患者と直接接触する人は、強力な保護手段(個人用保護具)を使用し、感染した患者への暴露が続く限り、少なくとも7日間、抗菌薬による予防を行うべきです。
 
迅速で適切な治療を確保する:患者に適切な抗菌薬治療が行われているか、該当地域に十分な抗菌薬の在庫があるかを確認する。
 
肺ペスト患者を隔離する:肺ペスト患者は、臨床状態が許す限り、マスクを着用するべきです。
 
監視と保護:肺ペスト患者の濃厚接触者を特定して監視し、7日間予防的投与を行う。汚染の状況にもよりますが、腺ペスト患者と同居している家族も、感染したノミに噛まれた可能性が高いので、抗菌薬の予防投与をする必要があります。
 
感染を予防・管理するための適切な手順で、臨床形態に応じて必要な検体(血液、膿汁、喀痰)を採取し、分析のためにできるだけ早く検査所に輸送する。この手順が抗菌薬治療開始の遅延原因になってはならない。
 
尊厳のある安全な埋葬を行う:ペストで死亡した人は、病気の形態にかかわらず、伝染の危険性がある。遺体の処理は、この作業の訓練を受けた者のみが行うべきである。
 

出典

Disease outbreak news Plague - Madagascar
Disease outbreak news 01 October 2021
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/plague---madagascar