エボラウイルス病-コンゴ民主共和国

Disease outbreak news   2021年10月10日

2021年10月8日、コンゴ民主共和国(DRC)の保健省は、北キブ(North Kivu)州のベニ(Beni)保健区域内にあるブチリ(Butsili)保健区域で、新たにエボラウイルス病(EVD)の確定例が検査機関より報告されたと発表しました。今年初め、エボラウイルス病の大流行が北キブ(Norht Kivu)州を襲い、2021年5月3日には終息宣言が出されていました。
 
症例は3歳の男児で、10月初旬に身体の衰弱、食欲不振、腹痛、呼吸困難、暗色便、吐しゃ物に血が混じるなどの症状が現れました。この男児は10月6日に死亡しています。
 
2021年10月7日、ベニ(Beni)にある国立生物医学研究所(National Institute of Biomedical Research: INRB)の検査施設内で検体の分子分析が行われています。その後、10月8日にゴマ(Goma)のロドルフ・メリュー(Rodolphe Mérieux) INRB研究所に送られ、同日、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によりエボラウイルス病(EVD)が確定しました。
 
これは、本症例の近隣住民であった3名の死亡者(子供2名とその父親)のクラスターに続くものです。これら3人の患者は、9月14日、19日、29日にエボラウイルス病と一致する症状を発症して死亡しましたが、ウイルス検査を実施していませんでした。
 
これらの症例のうち最初の患者となる女児は、2021年9月5日から7日にかけてブチリ(Butsili)保健区域で発熱、身体の衰弱、頭痛のために地元の保健所に運ばれています。彼女の状態は改善し、自宅に戻りましたが、9月12日に下痢と嘔吐で同じ医療機関に再入院し、迅速診断テスト(RDT)でマラリアの陽性反応が出ました。そして、9月14日に死亡しました。
 
子どもの父親は、9月10日に症状が現れました。9月14日に別の医療機関を受診し、その後ベニ(Beni)の病院に入院しました。9月19日に死亡しました。
 
9月27日、子どもの妹にも同様の症状が現れました。地元の保健センターに連れて行かれた後、別の保健施設に紹介されています。迅速診断テストでマラリアの陽性反応が出て、重症のマラリアの治療を受けた後、彼女は9月29日に死亡しました。
 
ベニ(Beni)保健区域は、9月30日にこれら3人の死亡について報告を受けました。ベニ(Beni)保健区域とWHOのメンバーで構成される合同調査チームが派遣され、さらなる調査と接触者のリストアップを行いました。COVID-19の検査のために2つの検体が採取されましたが、エボラウイルス病検査のための検体は採取されませんでした。 安全で尊厳のある埋葬は行われませんでした。 重度のマラリア、エボラウイルス病、はしか、髄膜炎が原因の可能性として遡及的に挙げられました。
 
ブチリ(Butsili) 保健区域は、2018年から2020年にかけて国内で発生したエボラ出血熱r流行の中心地の1つであるベニ(Beni)市に近く、疑い症例と確定症例を合わせて736例が報告されています。また、今年初めに新たなエボラ出血熱の発生を経験したブテンボ(Butembo)市から約50km離れています。大規模なアウトブレイクの後に散発的な症例が発生することは珍しくありませんが、今回の症例がこれまでのアウトブレイクと関連しているかどうかを判断するのは時期尚早です。ベニ(Beni)市は、隣国のウガンダやルワンダにつながる商業の中心地です。
 

公衆衛生上の取り組み

現在の対応は、北キブ(North Kivu)州の保健当局が主導しています。保健省は、WHOやパートナーの支援を受けて、最新の症例を調査しています。以前の北キブ(North Kivu)での流行時には、WHOは地元の検査技師、接触者追跡者、予防接種チームの能力向上を支援し、地域グループに働きかけてエボラウイルス病への認識を高め、対応介入やエボラ生存者のケアプログラムの確立に関与しました。
 
また、WHOのスタッフの中には、性的搾取や虐待の防止に焦点を当てた者もいます。 さらに、WHOは、派遣前の必須トレーニングの実施と今後の派遣前の再教育トレーニング、警告や苦情の報告ルート、苦情の迅速な調査、モニタリングを確実に実施します。
 
10月9日現在、合計148名の接触者が確認され、対応チームがフォローアップを行っています。

WHOによるリスク評価

入手した情報によると、疑い症例3名と確定症例1名は、感染予防・管理対策(IPC)が適切ではないと思われる複数の医療施設に入院したとされており、感染拡大のリスクが高まっています。また、彼らは安全で尊厳のある埋葬方法に従わずに埋葬されました。さらに、前述のように、これらの症例は人口密度の高いベニ(Beni)市の中にある保健地区で発生しています。そのため、他の保健地区にエボラウイルス病が拡散する危険性があります。
 
WHOは状況に注目しており、より多くの情報が得られ次第、リスク評価を更新します。
 
この地域を含むコンゴ民主共和国(DRC)で動物が体内にエボラウイルス病のウイルスを保有できる(病原体保有動物がいる)と考えると、今回の再流行は予想外ではありません。動物を宿主とした感染やエボラウイルス病生存者の体液への暴露による再感染のリスクは排除できません。また、大規模な流行の後に散発的な症例が発生することも珍しくありません。
 
エボラウイルス病の再流行はコンゴ民主共和国における公衆衛生上の大きな問題であり、大流行への準備と対応のための国の能力には差があります。貧困、地域社会の不信、医療システムの脆弱性、政情不安などの環境的・社会経済的要因が重なり、コンゴ民主共和国におけるエボラウイルス病の発生速度が加速しています。
 
また、COVID-19が同時に発生していることも、限られた資源を有効活用する上での妨げとなっています。COVID-19の最初の確定症例は、2020年3月14日にコンゴ民主共和国で報告されました。2021年10月5日の時点で、コンゴ民主共和国ではCOVID-19の確定症例57,197人、死亡者1,087人が報告されています。
 
WHOは、アクセスとセキュリティ、疫学的サーベイランスの面で継続している課題が、COVID-19の出現に加え、コレラ、髄膜炎、麻疹の発生と相まって、エボラウイルス病症例の再発を迅速に検出して対応する国の能力を危うくする可能性があると考えています。

WHOからのアドバイス

WHOは、人へのEVD感染を減らすための効果的な方法として、以下のようなリスク軽減策をアドバイスしています。
 
・ 感染したフルーツコウモリやサル・類人猿との接触やその生肉の摂取による野生動物から人への感染リスクを低減すること。動物は、手袋やその他の適切な防護服を用いて取り扱うべきである。動物製品(血液や肉)は十分に加熱してから摂取すること。
・ エボラウイルス病の症状のある人との直接または密接な接触、特に体液との接触による人から人への感染のリスクを低減すること。病気の患者の世話をする際には、適切な個人防護具(PPE)を着用すること。病院で患者を見舞った後や、体液に触れたり接触したりした後は、定期的な手洗いを行うこと。
・ 性的接触による感染の可能性の低減するため、現在行われている研究のさらなる分析と、WHOのエボラウイルス病対策に関する諮問グループによる検討に基づき、WHOは、えボラウイルスの男性生存者に対して、症状が出てから12カ月間、または精液中のエボラウイルスが2回陰性になるまで、安全な性交渉を行うことを推奨しています。体液との接触は避け、石鹸と水による手洗いを推奨しています。WHOは、性別を問わず、血液検査でエボラウイルスが陰性となった回復期患者の隔離を推奨していません。
・ エボラウイルス病患者の早期発見、隔離、治療のための医療従事者のトレーニングと再トレーニングを継続するとともに、安全で尊厳ある埋葬と感染予防および制御のための環状的なアプローチ(IPCリングアプローチ)に関する再トレーニングを行う。
・ 病気の患者の管理や除染のための個人防護ぐ(PPE)やIPC用品を確保する。
・ エボラ出血熱患者の管理に備えた感染予防及び制御 (IPC)対策(洗濯、廃棄物管理、PPEの供給、トリアージ・スクリーニング能力など)の遵守状況について、医療施設の評価(「スコアカード」を用いて)を実施し、ギャップがあれば対処するための行動計画を策定・実施することで施設への支援を継続する。
・ 確定症例患者の接触者、接触者の接触者、最前線で働く人たちへの包囲接種(ring vaccination)を準備する。
・ 地域社会と連携し、安全で尊厳ある埋葬方法を強化する。
 
現在のリスク評価と過去のエボラウイルス病の発生に関する状況に基づき、WHOはコンゴ民主共和国への渡航と貿易を制限しないよう勧告しています。

出典

Disease outbreak news Ebola virus disease – Democratic Republic of the Congo
Disease outbreak news 10 October 2021
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/ebola-virus-disease-democratic-republic-of-the-congo_1